「庭師の技が、世界を魅了する時代が来た」
日本の造園技術、特に“日本庭園”が今、世界で静かなブームを巻き起こしています。
美意識の高さ、自然との調和、そして空間づくりの繊細さ――これらは欧米や中東、東南アジアの富裕層や建築家の間で評価が高まりつつあるのです。
一方で、日本国内では人材不足や需要の先細りという課題を抱える造園業界。
そんな中、「海外進出」はただの夢ではなく、リアルな選択肢になり始めています。
本記事では、「造園 × 海外進出」をテーマに、狙うべき国や市場調査の視点、現地パートナーとの連携、法規制の基礎、そして”関西の造園会社が中東でチャンスをつかんだら?”というケーススタディまで。
あなたの“最初の一歩”を、ここから一緒に考えていきましょう。
なぜ今「造園業の海外進出」が注目されているのか?
日本の造園技術、とりわけ“日本庭園”の美しさと哲学は、今、世界で改めて注目を集めています。
静けさ、余白、美的バランスを大切にする日本の造園文化は、忙しくストレスの多い社会を生きる人々にとって「癒し」や「自己との対話」の空間として求められつつあります。
海外で高まる日本文化・日本庭園の需要
欧米・中東・アジア圏の高級ホテルや富裕層向け住宅プロジェクトでは、和の要素を取り入れた“ヒーリング空間”がトレンドになっています。
日本庭園の繊細な構成や「四季の移ろい」を感じる演出は、他国にはないユニークな価値として評価されており、文化的な魅力としての導入ニーズが拡大中です。
ESG・環境配慮との親和性が評価されている
さらに、グローバルで重視されるESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsの流れとも、日本の造園技術は相性が良いのが特徴です。
例えば、自然素材の活用、水や植物を活かしたパッシブデザイン、ローカルな環境に合わせた植栽計画などが「持続可能な空間づくり」として注目されています。
人材・資材が国内で先細る中、海外が“攻めどき”になる理由
一方、日本国内では少子高齢化による人材不足や、資材費の高騰などで、地域内需要だけでの成長に限界を感じている企業も多いはずです。
そうした背景の中、海外展開は「攻め」の戦略として選択肢に上がってきています。
特に、海外ではまだ競合が少なく、“今動くことでポジションを取れる”状況が続いている市場も存在します。
どの国を狙う?現地需要と市場調査のポイント
日本の造園技術を活かす海外市場を探すには、
「現地の需要が伸びているか」「日本庭園が受け入れられやすいか」
という2つの視点が重要です。
思い込みではなく、数字やトレンドに基づいた市場調査が成功の鍵になります。
海外造園市場の“伸びているエリア”とは?
世界全体で見ると、造園サービス市場は年々拡大傾向にあります。
なかでもアジア・パシフィック地域の造園サービス市場は年率5%超で成長中。
都市開発が進む東南アジア(例:シンガポール・ベトナム)では、高級住宅や商業施設の造園需要が高まりつつあり、これは和庭園技術をもつ日本企業にとって大きなチャンスと言えます。
加えて、北米(カナダ・アメリカ西海岸)や中東(ドバイなど)でも日本文化への関心が高まり、庭園を文化的・芸術的資産として捉える富裕層も増えています。
特に“癒し”や“サステナビリティ”をコンセプトにした屋外・半屋内の空間づくりは、日本の技術がそのままフィットするケースもあります。
現地気候・文化・宗教観と日本庭園の相性
例えば、ドバイのような超乾燥地域では、緑を保つための技術や設計工夫(水やり・日除け・耐乾性のある植栽選びなど)がプロジェクトの成否を左右します。
一方で、日本庭園の“静けさ”や“禅”の思想は、都市生活の喧騒から離れたい層にとっては魅力的に映ることも。
また、イスラム圏では宗教的な造園観(立ち入り制限のある区域など)や、“偶像的な装飾”が避けられる文化背景もあるため、文化的な相性と調整の柔軟性が求められます。
しかし一方で、こうした地域では日本庭園の持つ「自然を抽象化した美しさ」がむしろ高く評価されるケースも。
宗教や文化を尊重し、それに寄り添う形での提案が、現地で受け入れられる第一歩となります。
競合状況と自社が活かせる強みの見つけ方
市場が伸びている国ほど、ローカル業者や欧米のランドスケープ企業との競合は必至です。
日本企業としての強み――たとえば「職人の繊細な手仕事」「空間設計における奥ゆかしさ」「苔や水など自然素材の演出」などをどう訴求できるかが、差別化のポイントになります。
競合調査は、現地の造園業者のWebサイト、過去の展示会出展者リスト、SNSでの施工事例の確認などでも可能です。
パートナー候補企業の目星をつけるためにも、この段階から情報収集は始めておきましょう。
パートナー探しがカギ!信頼関係の築き方と注意点
海外進出において、現地とのパートナーシップは成功の“心臓部”。
特に造園業のように、職人技・文化的表現・空間演出が密接に関わる業種では、現地の理解者・協力者の存在が不可欠です。
現地企業・自治体・職人との連携実務
まず、自治体・開発会社・建築設計事務所など、プロジェクトの“入口”となる組織とつながることが第一歩です。
近年では、都市開発案件の一環として「景観・ガーデンスペース」に注目が集まっており、現地自治体や都市開発法人から造園技術に関心が寄せられるケースも増えています。
また、施工段階では、現地の造園業者・庭師・園芸職人とどう協働するかが大きな課題に。
設計意図や品質基準をどれだけ共有できるかが成否を分けます。
「言語の壁」「商習慣の違い」を乗り越える交渉術
日本の「察する文化」は、海外ではまず通じません。
曖昧な指示、口頭ベースのやり取りは誤解を生みやすく、トラブルの元に。
そこで重要なのが、図面やビジュアル資料を使った明確なコミュニケーションと、“お互いのやり方の違い”を前提にした交渉の姿勢です。
特に価格交渉や納期調整は、最初から相手の常識に合わせすぎないことがコツ。
対等な関係性を保つための「譲らない一線」を持ちましょう。
信頼される日本企業になるには?
パートナーシップは“契約で結ぶもの”であると同時に、“人として信頼できるかどうか”でもあります。
時間を守る、約束を守る、情報を丁寧に開示する、現地の文化や慣習をリスペクトする――こうした姿勢が積み重なって、日本企業への信頼と評判を築いていきます。
特に造園という「空間づくり」は、目に見えないこだわりが結果に表れる分野。
技術だけでなく、姿勢や誠実さも評価される武器です。
なお、仕事の進め方の違いによるトラブルは、決して珍しいことではありません。
たとえば2025年の大阪・関西万博では、海外パビリオン建設をめぐって日本の施工業者への支払い遅延・契約の曖昧さが問題視されました。
どちらか一方が悪いというよりも、契約文化やリスク感覚の違いを十分に理解しないままプロジェクトが進んでしまったことが、結果的に摩擦を生んだ──という見方ができます。
造園業でも同様で、日本国内の“いつものやり方”をそのまま海外に持ち込んでしまうと、相手には意図が伝わらず、それでも進めなければならない状況の中で、「なんとなく伝わった範囲」で施工が進み、結果的にどちらの希望も叶わない──そんなリスクがあるのです。
だからこそ、「相手は違う文化圏の企業」という前提を忘れず、何がどう違うのかを理解し、歩み寄る姿勢が必要です。
特に、海外企業との取引経験がない中小企業にとっては、「何が分かっていないのか」をまず知ること、そしてそれを補ってくれる支援を得ることが、海外進出の第一歩になります。
海外進出で注意すべき法規制とリスク管理
「造園」はアートや技術の分野である一方、実際のビジネス展開では“法律”と“契約”が成功のカギを握ります。
せっかく素晴らしいデザインや技術があっても、法規制の理解が不十分だと、現地での施工や取引でトラブルが発生してしまいます。
国別の労働法・環境法・建設許可などの基礎知識を押さえる
たとえばドバイやアメリカなどでは、建設にあたって各種の許可・認証が必要とされており、現地の建築基準や法令を把握した上での進行が求められます。
また、現地の労働時間、休日、最低賃金、保険制度などの労務基準も日本とは大きく異なり、これらを知らずに作業を依頼すると、法令違反になるリスクも。
さらに、最近では環境への配慮が義務付けられる場面も多く、省水型の設計、在来種の利用、排水管理などが審査項目に含まれる国も増えています。
契約、輸出入、知財保護のポイント
造園に関わる部材や資材を海外に輸出・輸入する際には、通関手続きや検疫の規制にも注意が必要です。
特に植物・木材は検疫対象となり、輸出前に栽培地検査や消毒、輸入国の許可取得など多くの段階を踏む必要があります。
たとえば中東などでは、植木・木の苗の輸入条件が日本資料で明確にされていないケースも多いため、事前に“現地の検疫・許可条件”を確認することが不可欠です。
また、図面や施工ノウハウといった知的財産が現地で流用・模倣されるリスクも。
海外では「口約束は無効」と捉えられることが多いため、契約書による明文化と、できれば現地の弁護士による確認を入れるのがベストです。
トラブルを防ぐための「現地専門家」活用術
すべての法規制や商習慣を自力でカバーするのは現実的ではありません。
そこで有効なのが、現地でのビジネス経験が豊富な専門家(弁護士、コンサルタントなど)の活用です。
信頼できる専門家を通じて、“最初の設計段階”から適法・実現可能な計画を立てることが、後のトラブル回避につながります。
また、進出初期の小さな疑問でも、気軽に相談できる相手を持つことが、企業としての安心材料になります。
ケーススタディ|関西の造園会社が“中東”で日本庭園をつくったら?
もし、社員15名ほどの関西の造園会社が、海外進出に初挑戦するとしたら――。
ここでは、仮想ストーリーを通じて、どんな壁にぶつかり、どんな学びがあったのかを見ていきましょう。
自治体→展示会→MOU締結へとつなげた“動線”
きっかけは、地元自治体からの一本の連絡。
「海外の造園展示会があるけど、出展してみない?」という提案でした。
二代目社長は、海外展開に興味はありつつも、具体的な行動には踏み切れていなかったため、まずは様子を見るつもりで現地展示会に出展。
その展示会でアブダビの施工会社と接点が生まれ、話はトントン拍子に進展。
数ヶ月後にはMOU(基本合意書)を交わし、日本側は設計監修、現地企業は施工を担う体制がスタートしました。
しかしここに、のちのトラブルの種が潜んでいました。
課題は「暑さ」「水」「労務」の3つ
ドバイ側は「指示さえもらえれば施工は自社でできる」と自信を見せていましたが、造園に対する基礎的な考え方や用語の違いから、図面の意図がうまく伝わらない場面が多発。
現地の職人たちにとっては、石や苔、水を“抽象的に美しく配置する”という日本庭園の発想そのものが新鮮すぎたのです。
加えて、現地の夏は40~50度の酷暑。
高温に耐える植栽、屋内との融合設計、過酷な環境下でも機能する自動散水システム……と、仕様は次々と“日本仕様”からの見直しを迫られます。
さらに、水資源が貴重な土地柄、「池を張る」「水を流す」といった要素には厳しい目も。
デザインの要所にあった“日本庭園らしさ”をいくつか削る判断も必要になり、社長は「自社の強みを活かせる現場なのか」と悩みます。
現地の労働規制、文化的な配慮、日本からの輸送コスト、税関手続き――。
見積もり時点では想定しきれなかったコストも膨らみ、納期にも遅れが発生。
結果、この初回プロジェクトは赤字での着地となってしまいました。
それでも、踏み出した一歩が次へつながる
ただ、完成した中庭を見たクライアントからは、
「これはとても美しい」「静けさが心地いい」
と高い評価を獲得。
他のホテルやヴィラからも「同じような空間を」と問い合わせが入りました。
2回目以降のプロジェクトでは、初回の経験をもとに大幅な見直しを実施。
・原価計算の再設計
・現地施工会社との役割分担の明確化
・実現可能なデザインへの調整
・工期・スケジュールの現実的な再構成
こうして「海外向けの提案」をゼロから組み直し、今では海外案件を“新しい柱”として育てている最中です。
「世界で日本庭園を広めたい」と思ったときに最初にすべきこと
「うちの会社でも、海外に挑戦できるのだろうか?」
そんな問いから始まるのが、すべての第一歩です。
今回紹介した仮想ストーリーのように、最初のきっかけは、展示会の視察や地元自治体の声がけなど、意外なところにあります。
JETROや中小機構といった支援機関も、情報収集や補助金の相談先として強い味方になります。
ただし、造園業の海外進出は「文化を輸出する」という視点を持つことがとても大切です。
単に日本でやってきた仕事をそのまま輸出するのではなく、現地の人々の価値観・生活様式・気候条件に寄り添いながら、日本ならではの美意識をどう表現できるか?――それが成功の鍵になります。
そして、実際に海外展開に踏み出す企業には、たった一つの共通点があります。
それは、「まずは小さく動いてみる」こと。
・海外展示会の視察に行ってみる
・海外の施工会社と話してみる
・自社の実績を英語でまとめてみる
その小さな一歩が、半年後・1年後の海外案件につながるかもしれません。
あなたの技術や感性が、世界のどこかの庭で“静かな感動”を生む日が来るかもしれません。
いま動く準備、はじめてみませんか?
「まずは話を聞いてみたい」という方へ
造園業にも理解のある海外進出支援の専門家が、貴社の現状やお悩みに合わせて、実現可能な一歩を一緒に考えます。
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