しかし、現在の海外営業の現場は少し変わってきています。
AIによる翻訳や同時通訳ツールの進化により、以前よりも言語の壁は低くなりました。オンライン商談も一般的になり、日本にいながら海外企業と直接商談できる時代になっています。
一方で、海外営業が簡単になったわけではありません。
むしろ、海外企業も世界中の企業と簡単につながれるようになったことで、競争はさらに激しくなっています。
海外顧客企業には、すでに長年取引している既存サプライヤーや、経験豊富な競合企業が存在します。
そのため、
「英語ができる」
「資料を翻訳した」
「オンライン商談ができる」
だけでは、新しい取引先として選ばれることは容易ではありません。
海外営業では、限られた商談機会の中で、自社の価値をどのように伝え、「なぜ既存の競合企業ではなく海外にある自社と取引すべきなのか」を明確に示すことが重要になります。
海外営業とは、単なる「英語を使った営業」ではありません。
世界中の競合企業と比較されながら、新しい市場を切り開いていく挑戦なのです。
このページでは、中小企業が海外営業を進める際に知っておきたい考え方や、実際の現場で求められる視点について解説します。


中小企業の海外営業は、なぜ難しいのか
海外営業の求人を見てみると、数多くの募集があることに驚くかもしれません。それだけ、多くの企業が海外市場へ販路を広げたいと考えているということです。
しかし、中小企業が海外営業人材を採用し、育成し、成果を出すことは簡単ではありません。
特に、はじめて海外展開に取り組む企業の場合、既存顧客へのルート営業ではなく、ゼロから市場を開拓する「新規開拓営業」が中心になります。
つまり、誰も自社を知らない市場で、最初の顧客を見つけなければならないのです。
さらに、海外企業には、すでに長年取引している既存サプライヤーや、経験豊富な競合企業が存在します。
価格、提案力、レスポンス、デリバリー体制、業界知識など、多くの場合、競合企業は一枚も二枚も上手であることも少なくありません。
近年では、AIによる翻訳や同時通訳ツールの進化により、英語の壁そのものは以前より低くなりました。
しかし、だからといって海外営業が簡単になったわけではありません。
むしろ、世界中の企業が同じようにAIを活用できるようになったことで、企業間の競争はさらに激しくなっています。
AIは、英語の翻訳や、目の前の商談に対する回答案を作ることは得意です。
一方で、
- この問い合わせの背景にはどのような課題があるのか
- 今回の案件の先に、どのような展開可能性があるのか
- 競合から切り替える際に、相手は何を不安に思うのか
- 今ここで何を議論しておけば、半年後の受注につながるのか
といった、複数の可能性を見据えながら仮説を立てることは、依然として人間に求められる重要な役割です。
そのため海外営業では、
- 競合企業から切り替える際のリスクを理解し、一つずつ解消できることを示す
- 一つの問い合わせから、複数の用途や将来的な展開可能性まで想定し、相手以上に事業全体を俯瞰して考え、提案する
- 価格や一部の機能だけではなく、技術力、対応力、安定供給、将来性なども含め、「総合的に見て最も合理的な選択肢」であることを示す
ことが求められます。
つまり、海外営業とは単なる「英語を使った営業」ではありません。
経営、技術、マーケティング、事業戦略などを総合的に理解しながら、自社ならではの強みを見つけ、新しい市場を切り開いていく仕事なのです。
AIによって英語の壁は本当に低くなりました。
しかしその一方で、企業の本質的な営業力や事業構想力は、これまで以上に問われる時代になっているとも言えるでしょう。
海外営業は未経験でもできるのか
もちろん未経験でも、海外の新規開拓に取り組むことは可能です。
ただし、以前よりも「英語ができること」そのものの価値は変わってきています。
近年では、AI翻訳や同時通訳ツールの進化により、海外企業とのコミュニケーションのハードルは大きく下がりました。
実際に、英語が得意でなくても、海外企業とオンライン商談を行うこと自体は珍しいことではなくなっています。
しかし、それでも受注が簡単になったわけではありません。
むしろ、英語という差が小さくなったことで、
「何を提案するのか」
「どのような仮説を持って商談に臨むのか」
「相手の質問の背景をどこまで理解できるのか」
といった、本来の営業力が、海外企業との最初の接点から高いレベルで求められるようになっています。
初回商談では、まだ相手企業の事情や判断基準を十分に把握できていないことも少なくありません。しかし、それを言い訳にすることはできません。
事前に相手企業について十分に調査し、商談の流れや必要な資料をできる限り準備しておくことは必須です。
一方で、準備した通りに進まないことが多いのも、海外企業とのオンライン商談の特徴です。
想定していた議論から突然話題が変わることもあれば、その場で新しい課題や条件が提示されることもあります。
そのような状況でも、限られた情報から相手の意図を読み取り、その場で再び仮説を組み立て、次の提案につながる質問や回答を返す必要があります。
海外営業で重要なのは、
- 国内営業以上の入念な事前準備
- その準備が通用しなかった場合のプランB
- 分からない状況でも、相手の反応を見ながら最適な落としどころを探る力
です。
さらに、たとえその場で受注につながらなくても、次回商談につながる情報や課題を引き出し、「次につながる爪痕を残すこと」が重要になります。
国内営業でも、見込み顧客を探し、相手の課題を聞き、提案し、断られた理由を考えながら次の営業へ活かしていきます。海外営業でも、この基本は同じです。
違うのは、国や文化、商習慣、市場環境が異なるうえ、初対面の短時間の商談の中で、
「この会社は本当に国際ビジネスができる会社なのか」
を見極められてしまうことです。
このような状況で成果を出すことは、海外営業未経験者にとっては決して簡単ではありません。
そのため、海外営業経験者に商談へ同席してもらう、展示会で実際の商談を数多く経験するなど、実践知を一つでも多く積み上げていくことが重要になります。
海外営業で成果を出しやすい順番をあえて挙げるなら、
- 英語が話せる営業経験者
- 英語が話せない営業経験者
- 英語が話せる営業未経験者
になるでしょう。
もちろん英語力は重要です。しかし、AIによって、海外営業向けの提案資料や商談スクリプトも簡単に作れる時代になりました。
それでも、人間に求められる営業力や判断力は、むしろ以前より高くなっています。
海外企業が、新しい海外企業との取引を検討する理由は一つです。
「今より良い提案をしてくれる企業かもしれない」
という期待があるからです。
そのためには、
- 相手の質問の背景を理解すること
- まだ顕在化していない課題を想像すること
- 将来的な展開まで見据えて提案すること
が求められます。
AIは優れた補助ツールですが、このような仮説構築や事業全体を見据えた提案力については、依然として人間の営業力が大きく影響します。
つまり、海外営業は未経験でも始めることはできます。
しかし、成果を出すためには、英語力だけではなく、相手企業の期待を上回る提案を行うための営業力を、実践を通じて1つずつ磨いていくことが重要なのです。
下記は、パコロアが日本経済産業新聞へ寄稿した「初めてのエイゴ営業 7つのコツ」は2015年に執筆した記事です。
現在ではAI翻訳やオンライン商談が普及し、海外営業の環境は大きく変化しました。
一方で、
- 相手に好印象を持ってもらうこと
- 短時間で信頼を得ること
- 自社の強みを分かりやすく伝えること
といった基本的な考え方は、現在でも変わりません。
海外営業の原点として、ぜひこちらもご覧ください。
海外営業は、営業担当者一人だけで完結する仕事ではありません。
海外進出に必要となる知識や能力については、こちらで詳しく解説しています。
>海外進出に必要な能力を身につけよう
海外営業では「自社の説明」より「相手の意思決定」を意識する
海外営業では、自社の技術力や歴史を説明することよりも、
「取引先を変えることで、相手にどのようなメリットがあるのか」
を伝えることが重要です。
海外企業には、すでに長年取引している既存サプライヤーや競合企業が存在しており、『なぜ今の取引先から切り替えるべきなのか』を常に判断しているためです。
そのため、
「品質が良い」
「技術力が高い」
「日本製である」
だけでは、新しい取引先として選ばれる理由にはまずなりません。
海外営業では、
・コスト削減できるのか
・品質が安定するのか
・新しい市場を開拓できるのか
・顧客の課題を解決できるのか
・競合製品と比較して何が違うのか
といった、「相手にとっての価値」を明確に伝えながら、相手企業が社内で稟議しやすい材料を具体的に提供できることが求められています。
また、海外向けのプレゼンテーションでは、日本語資料をそのまま翻訳するのではなく、海外企業が意思決定しやすい構成へ作り変えることも重要です。
一般的には、
結論 → 理由 → 根拠データ → 相手へのメリット → 次のアクション
の流れが理解されやすいでしょう。
更に、プレゼンテーションでは、自社について上手に説明すること以上に、
相手から本音や課題を引き出すこと
が重要になります。
なぜなら、相手企業が抱えている課題や、現在のサプライヤーへの不満、今後の事業方針が分からなければ、次回以降の提案精度を高めることができないためです。
そのため、海外企業へのプレゼンテーションでは、話す力と同じくらい、
「相手に話してもらう力」
が重要なのです。
英語プレゼンで最も重要なのは「質疑応答」
海外営業では、プレゼンテーションそのものよりも、その後の質疑応答の方が重要になることも少なくありません。
実際、5分程度プレゼンをした後、30分~1時間近く質疑応答が続くことも珍しくありません。
そのため、長時間一方的に説明するプレゼンは避け、相手から質問を引き出すことを意識しましょう。
また、質問を受けた際は、次のような流れで回答すると論点が明確になります。
- 謝辞(質問への感謝)
- 結論
- 理由
- 必要に応じて補足
- 再結論
例えば、
ご質問ありがとうございます。
結論から申し上げると、現時点では○○です。
理由は△△だからです。
一方で、最近は××という考え方も注目されています。
とても鋭いご質問をありがとうございます。
程度の短い回答でも十分です。
海外営業では、すべての質問にその場で完璧に答えることよりも、
「この会社は、こちらの課題を理解しようとしている」
と思ってもらうことの方が重要です。
分からないことは正直に伝え、その代わり、
・なぜその質問が出てきたのか
・その背景にはどのような課題があるのか
を理解しようとする姿勢を示すことで、商談が次につながることも少なくありません。
海外営業は、オンラインを前提に設計する時代になっている
現在では、海外営業の多くがオンラインを前提に進められるようになっています。
以前のように、海外へ何度も渡航しなければ商談が進まないというケースは少なくなり、
・初回面談
・会社紹介
・技術打ち合わせ
・見積説明
・契約前の調整
など、多くのプロセスがオンラインで完結することも珍しくありません。
一方で、オンライン商談が一般化したことで、新たな課題も生まれています。
それは、
「オンライン商談をどう進めるか」よりも、そもそもその場にたどり着くことが難しくなったことです。
海外企業にとって、オンライン商談を設定すること自体のハードルは下がりました。
そのため、多くの企業が世界中からアプローチできるようになった一方で、
「なぜこの会社と話す必要があるのか」を事前に判断されるようになっています。
つまり現在の海外営業では、Webサイト、展示会、紹介、SNS、ホワイトペーパーなどを通じて、商談前の段階で一定の信頼を獲得しておくことがこれまで以上に重要になっています。
オンライン商談は、海外営業のスタート地点ではありません。
むしろ、
相手が自社に興味を持ち、話を聞く価値があると判断した後に訪れる、一つの重要な後工程での初接点
と言えるでしょう。
そのため、「どのように商談するか」だけではなく、
「どのように商談の機会そのものを作るか」
まで含めて海外営業を設計する必要があります。
海外営業は「本番一発勝負」になることもある
海外営業の現場では、日本国内の営業とは異なる難しさを感じることがあります。
例えば、
- 初回面談から価格、納期、独占契約について質問される
- 限られた時間の中で、「この会社と次も話す価値があるか」を判断される
- Webサイトや展示会で事前に情報収集できない初情報が飛び交う
といったことは、決して珍しくありません。
特に中小企業の場合、限られた回数の商談で成果を出す必要があるため、一回一回が真剣勝負になります。
そのため、海外営業では、事前準備と仮説構築が非常に重要です。
一方で、こうした経験を積み重ねることで、国内営業だけでは得られない視点や判断力が身につくことも事実です。
全世界の営業担当者が同じスタートラインに立つ今、日本の中小企業にも十分チャンスがあります。
海外営業の現場で試行錯誤を繰り返しながら、自社ならではの戦い方を見つけていきましょう。
オンライン商談で信頼を築く具体的な進め方については、以下の記事でも詳しく解説しています
なるほど……。
だからこそ、海外営業は難しいのですね。
英語だけの問題ではなく、
・どのように商談機会を作るのか
・限られた商談で何を確認するのか
・その経験をどう次につなげるのか
まで含めて考える必要があるのだと分かりました。
自社に合った進め方を見つけていくことが大切なのですね。
その通りです。
海外営業では、最初から完璧な戦略や答えを持っている企業はほとんどありません。
むしろ、仮説を立てて行動し、相手の反応を見ながら修正を繰り返していくことで、少しずつ自社に合った海外営業の進め方が見えてきます。
一方で、海外営業は一回一回の商談機会が非常に貴重であり、試行錯誤にも時間とコストがかかります。
そのため、
「まず何から始めるべきか」
「この商談で何を確認すべきか」
「次にどのようなアクションを取るべきか」
を経験者と一緒に整理しながら進めることで、海外展開のスピードを高められることも少なくありません。
自社だけで海外営業を進めることに不安がある場合は、パコロアの海外進出伴走支援サービスもぜひご活用ください。
→ 海外進出、どうやったら本当に実現できるのか?個別に答えが知りたい経営者の方へ(海外進出プロのご案内)
(海外営業をすべて外注するのではなく、社内で判断しながら進められる体制を作っていく、ということですね!)
(はい。パコロアでは、そのためのOJT型伴走支援を行っています。)
→社内だけでは海外事業を進められない企業に、どのような伴走支援を行っているのかはこちら
海外向けに売りたい。でも、社内だけでは事業化できない。【判断整理ガイド④】
さて、「海外営業」まで進んできたことで、海外進出ロードマップの「輸出編」はいったん一区切りとなります。
しかし、海外進出には輸出だけではなく、
・現地法人の設立
・駐在員事務所の開設
・海外工場や店舗の展開
など、「海外投資」という選択肢もあります。
海外拠点の立ち上げや、より本格的な海外市場調査(F/S調査)については、次のステップ「海外投資をする」で引き続き解説していますので、ぜひ続けてご覧ください。