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海外投資をする

海外拠点を立ち上げる(現地で投資をする)理由はありますか

公開日時:2020年08月21日

更新日時:2025年07月03日

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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企業が海外拠点を立ち上げるケースには、取引の拡大や製造体制の見直しなど、形態や目的に応じた複数の流れがあります。

特に東南アジアや欧米などでは、現地企業との取引関係を深めることで、

コスト削減だけでなく新たな製品の販路を得ることができる例も増えています。

現地進出には時間や費用がかかる一方で、高度なマネジメントや準備を行い、状況に応じた柔軟な判断ができる人材の配置が成功の鍵となります。
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海外拠点を立ち上げる4つの理由

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国内でのみ事業を行ってきた中小企業が、海外で拠点を立ち上げる時の4つの理由は下記の4つです。

  • 1. 既存顧客からの進出要望
  • 2. コストメリット
  • 3. 新しい顧客開拓
  • 4. 新しい事業展開

この4つは、実際に多くの企業が直面するケースをもとにした代表的な形態です。

1 既存顧客からの要望による海外進出

取引先が海外展開する際、現地での対応を求められることがあります。
このようなケースでは、拠点設立が“必要に迫られて行う”ものとなり、準備の時間が限られることも少なくありません。

2 製造コスト削減を狙った進出

「人件費が安い」という理由だけで海外進出を行う例は依然として存在します。
ただし、実際には物流費や管理費など、かかるコストは多岐に渡り、全体で見れば国内と大差がない状況も出てきています。

3 新しい顧客の開拓

自社の製品やサービスをグローバル市場で展開し、ローカル企業との新たな取引を得ることを目的とするケースです。
この形態は、製品を現地ニーズに適合させる柔軟な対応が求められます。

4 現地発の新規事業展開

市場や業界構造が異なる地域で、新しい形のビジネスモデルを試みる企業も増えています。
現地パートナーとの共同開発や流通網の構築など、長期視点での準備と人材配置が成功の鍵になります。

なるほど。

既存顧客である現地日系企業から請われて進出したものの、ローカル企業との競争激化は避けられず、

その後、現地の環境に適応するのに苦労した、色々スムーズにはいかない、と聞きましたが、こういうことなんですね。

近年は、

  • 1.既存顧客からの進出要望
  • 2.コストメリット

よりも、

  • 3.新しい顧客開拓
  • 4.新しい事業展開

を理由とする現地法人の立ち上げ、生産開始の割合が増えています。

それは、海外進出したものの、

  • 人件費が安くても、それ以外の費用が掛かったり
  • 頼みの日系企業の発注量がかなり少なかったり

等の課題があるから、です。

背景には、

  • 海外での人件費が高騰し、海外現地生産によるコストメリットが減少していること
  • 海外ローカル企業(現地競合企業)の生産技術向上もあり、日系企業からの受注がさほど見込めないこと

などがあり、

近年は、最初から現地ローカル企業向けにビジネス展開する覚悟で進出する企業が増えています。

イメージと違った・・、難易度がとても高そうです。

生産拠点の設立、販売拠点設立、新規事業展開など、

いずれを選択するにしても、

入念な海外進出事業計画と、マネジメントができて経験豊富なその会社のエース級の人材配置が必要です。

そうですね。

世界の各地域で次なる成長を目指すわけですから、高度な人材活用は必須なのでしょうね。

ところで海外拠点設立には、様々なリスクや課題が発生するのではと思っています。

海外拠点を立ち上げる際のリスクや課題について教えて下さい。

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海外拠点を立ち上げる時のリスク

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海外拠点を立ち上げる際には、現地での製造や取引を行う形態に応じて、様々なリスクが発生します。

以下は、代表的な4つのケースごとの状況とその影響です。

コストの上昇

製品を現地で製造する流れを選んだとしても、次のような問題が発生することがあります。

  • 現地での設備や資材調達に予想以上の費用がかかる
  • 優秀な人材(ローカルスタッフ)の確保に時間とコストがかかる
  • 為替変動や輸送費の上昇により、製品単価が上がってしまう

結果として、事前に立てた事業計画の再調整を余儀なくされるケースもあります。

売上の伸び悩み

期待したほど取引が伸びないケースも多く、特に以下のような例が見られます。

  • 日系企業からの発注が少ない、もしくは一時的で終わる
  • リピートオーダーに結びつかず、販売の流れが安定しない
  • 現地の競合企業に顧客を奪われてしまう

海外進出後に売上が得られない状況が続くと、撤退や縮小を余儀なくされる可能性もあります。

組織内コミュニケーション不全

現地拠点では、言語や文化、評価制度の違いから、組織内での意思疎通がうまくいかないケースがあります。
以下は、実際に起こりうる5つの代表的な例です。

  • ①市場のニーズ変更への未対応 
    ローカル社員からの情報が本社に上がらず、現地市場の変化にタイムリーに対応できない。
  • ②流通のルール変更への未対応 
    流通業者や取引形態に関する現地ルールの変更を把握できず、物流や販売に支障をきたす。
  • ③マーケットからの低評価 
    情報共有不足により製品やサービスが現地ニーズからズレ、競合製品に劣ると評価される。
  • ④優秀なローカル社員や通訳の離職 
    本社の評価基準がローカル文化に合わないことで、現地スタッフのモチベーションが低下し、退職につながる。
  • ⑤社内不正とその発見の遅れ 
    ローカル現場で起きた問題が本社に報告されず、不正の発見が遅れることで重大な損失を招くリスクもある。

こうした状況は、結果的に製品やサービスへの信頼低下につながるケースもあります。

政権交代、法令や外資規制の変更

国によっては、法制度や政治状況が大きく変わることがあります。

  • 投資形態や外資規制が変更される
  • ビジネスモデルの再構築が必要になる
  • 労務管理の不備による罰金・訴訟リスクが発生する

このような外部要因への準備を怠ると、経営に深刻な打撃を与える可能性があります。

(こんなに・・・。)

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海外拠点を立ち上げる時の課題の解決方法

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海外拠点の立ち上げには、コスト・組織運営・法制度といった多くの課題が伴います。

成功のためには、事前に「どのようなケースが起こり得るか」を把握し、適切な準備と対策を行うことが重要です。

以下は、よくある課題とその対処方法の例です。

1. 情報共有と意思決定の仕組みを構築する

ローカル社員からの情報が上層部に正しく届く仕組みがなければ、現地の状況や市場の変化を正しく判断できません。

現地責任者を介した「定期報告の流れ」や、デジタルツールを活用した社内連携の強化が不可欠です。

2. 評価制度を現地文化に合わせてカスタマイズする

人事評価のミスマッチによる離職や不正の発生は、信頼構築や事業の安定に大きく影響します。

ローカル文化や労働慣習を理解した上で、現地向けに調整された評価制度を導入することが重要です。

3. 法規制・投資環境の変化に対応できる体制を整える

進出国では、政権交代や法律の改定によって、取引形態や投資条件が急に変わることもあります。

現地で信頼できる法務・労務の専門家との連携を持ち、最新情報を得ながら柔軟に事業を見直す準備を行いましょう。

4. 製品設計とサービスを現地仕様にローカライズする

進出先の市場では、既存の製品やサービスがそのまま受け入れられるとは限りません。

現地ユーザーのニーズや取引慣行を踏まえた製品の改良、販売戦略の調整が得策です。

5. 現地の人材を「パートナー」として育成する

拠点の成功には、現地の人材を信頼し、継続的に育てていく覚悟が欠かせません。

教育制度やキャリア形成の支援を行い、「行いながら育てる」姿勢で強い組織を築いていきましょう。

・・・分かりました。

ところで。

海外拠点を設立する場合、

東南アジアや欧米への進出が過去5年増加傾向とお聞きしましたが、

具体的な国名を教えてください。

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近年海外投資が増えている国々

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ここ数年、日本企業による海外投資は着実に増加しており、特に東南アジアと欧米が注目されています。

各地域によって求められる製品や取引の形態、製造拠点の位置づけなどが異なるため、それぞれの状況に応じた戦略設計が重要です。

東南アジア

インド、タイ、ベトナム、そして、ミャンマー、カンボジア、スリランカ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、台湾、韓国、中国、香港、バングラディシュなどへの投資が増えています。

中でもタイ、ベトナム、インドネシアなど東南アジア諸国では、以下のような理由で投資が活発になっています。

  • 人件費の安さに加え、製造インフラの整備が進んでおり、中小企業でも拠点設立の流れが加速しています。
  • 輸出型のビジネスモデルに適しており、日本国内で製造していた製品を現地で作り、周辺国へ流通させる取引形態も一般的です。
  • 成長市場ゆえに競争も激しいですが、「現地ローカル企業との共同案件」など新しいケースが増えており、収益モデルの多様化も期待できます。

また、ASEAN全体の関税撤廃の流れを受け、製造コストや物流費の最適化も進めやすくなっています。

欧米

アメリカ、メキシコ、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、オランダ、オーストラリア、あるいは、トルコ、チェコ、ポーランド、ルーマニアなどへの投資が増えています。

欧米地域は「販売・サービス拠点」としての性格が強く、以下のような例が増えています。

  • 高価格帯製品の輸出に伴う現地法人設立
  • BtoB向けのアフターサービスや技術サポートの拠点構築
  • 医療・IT・環境関連など、付加価値の高い分野における投資と取引が活発

人件費は高めでも、知的財産の保護や法制度の安定性から、「ブランドを守りながら展開する」ケースに向いています。

特に近年は、現地のスタートアップ企業と提携して新事業を行う流れも出てきており、進出の形態が多様化しています。

日本の企業が海外進出して現地で拠点を設立する際、何から始めたらいいですか?

まずは海外展開事業計画書(投資編)を策定します。

そして机上のリサーチだけでは、分からないところや確信の持てない部分がいくつも出てきますので、

それらを海外現地に行って、海外の関係各社に会い、実際に話を聞きながら、不明点を解消していきます。

海外現地でF/S(feasibility study)調査を行う、ということですね。

そうです!

海外での事業可能性調査=F/S調査を、自社だけで行うと、判断材料の集め方が甘くなりがちですので、

是非、専門家帯同のもと、自信をもって意思決定できる適切なF/S調査を実施することが大切です。

>4B-1海外現地でF/S調査はしましたか

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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PaccloaQ

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