そう考えたとき、多くの企業はまず販路開拓や営業活動を思い浮かべます。
しかし、どれだけ良い商品を作り、展示会で評価され、商談が成立したとしても、それだけでは海外で販売できるとは限りません。
なぜなら、海外には国ごとに異なる輸出入規制や製品規格が存在するからです。
実際には、
「商談は成立したのに出荷できなかった」
「日本からは輸出できたのに現地で輸入できなかった」
というトラブルも珍しくありません。
海外進出では、「売れるかどうか」だけでなく、
「そもそも売ることができるのか」を確認する必要があります。
ここでは、海外進出で知っておきたい輸出入規制の基本と、代表的な制度、想定されるトラブルや費用について確認していきましょう。


規制を知らないと商品は売れない
海外向けのWebサイトを作り、展示会で大きな反響を得て、商談も成立した。
しかし、輸出入規制を確認していなかったため、商品を出荷できなかった――。
そんな話は決して珍しくありません。
多くの国では、安全保障、製品安全、環境規制、化学物質管理などについて、それぞれ独自の制度や規制を設けています。
これらを事前に確認していないと、商品の輸出や輸入ができなくなることがあります。
特に問題となるのは、規制への非対応が商品の完成後や出荷直前に発覚するケースです。
その場合、追加試験や書類作成、認証取得が必要となり、数か月単位で販売計画が遅れることもあります。
さらに、商品が現地へ到着した後に問題が発覚すると、返品や廃棄、信用失墜、契約解除につながる可能性もあります。
「知らなかった」では済まされない。ーーそれが海外の輸出入規制です。
ただし、ここで一つ理解しておきたいことがあります。
海外の規制には、大きく分けて二つあります。
一つは、日本から輸出できるかどうかという「輸出規制」です。
もう一つは、相手国で輸入・流通・販売できるかどうかという「輸入規制・流通規制」です。
例えば、日本側の輸出規制をクリアしていても、相手国の安全基準や環境規制を満たしていなければ、その国では販売できません。
つまり、
「輸出できること」
と
「現地で売れること」
は別問題なのです。
海外進出では、
「売れるかどうか」
だけでなく、
「その国で販売できるのか」
という視点も重要になります。
どれほど優れた商品でも、現地の規制や制度に適合していなければ市場に出すことはできません。
海外展開では、そもそも「自社の事業がその国で成立するのか」という前提から確認しておかないと、規制以前の段階で進めなくなるケースもあります。
→ 海外進出は実現可能ですか
輸出入の規制準拠の実務
日本から製品を輸出する場合、まず確認すべきなのは日本側の輸出規制です。
代表的なものとして、
などがあります。
日本からの輸出規制の詳細はこちらも参考になります。
→ わかりやすい!安全保障貿易管理
これらは日本から輸出できるかどうかを判断するための制度です。
一方で、相手国へ輸出する場合は、その国で流通・販売するための規制や規格への対応も必要になります。
こちらは国や地域、製品によって求められる内容が大きく異なります。
代表的なものとして、以下のような制度があります。
CEマーキング(安全基準制度)
CEマーキングは、製品がEUの安全・健康・環境保護に関する基準へ適合していることを示す制度です。
EU加盟国をはじめ、スイス、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、トルコなどで流通する製品に関係します。
主に機械、電気電子機器、医療機器、おもちゃなど、多くの工業製品が対象となります。
CEマーキングが必要な製品をEU市場で販売する場合、適用される指令や規則を特定し、必要な試験や技術文書の作成を行わなければなりません。
また、製品によっては第三者認証機関による評価が必要になる場合もあります。
CEマーキングは単なるラベルではなく、
「この製品はEU市場で販売するための条件を満たしています」
という製造者の宣言でもあります。
そのため、販売開始直前ではなく、製品開発や海外展開の計画段階から確認しておくことが重要です。
WEEE、RoHS、REACH、他(環境規制)
欧州では、製品の安全性だけでなく、環境や化学物質に関する規制も重視されています。
代表的なものとして、WEEE(ウィー)、RoHS(ローズ)、REACH(リーチ)などがあります。
主にEU加盟国を中心に適用されますが、中国や米国などでも類似制度が存在します。
それぞれの概要は次の通りです。
- WEEE(廃電気電子機器指令)
電気電子機器の回収・リサイクルを求める制度 - RoHS(特定有害物質使用制限指令)
鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質の使用を制限する制度 - REACH(化学物質規則)
製品に含まれる化学物質の管理や情報提供を求める制度
これらの規制は、完成品メーカーだけでなく、部品メーカーや材料メーカーにも影響します。
そのため、
「自社は部品しか作っていないから関係ない」
と思っていた企業が、取引先から突然証明書類の提出を求められることも少なくありません。
また、規制への対応にはサプライヤーからの情報収集や試験データの確認が必要になる場合もあります。
製品開発後に対応しようとすると大きな手戻りが発生するため、海外展開を検討する段階から確認しておくことが重要です。
EAC認証(ユーラシア経済連合技術規則『TR EAEU』)
EAC認証は、ユーラシア経済連合(EAEU)で流通する製品に求められる認証制度です。
対象国は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスの5か国です。
機械設備、電気製品、産業機器など、多くの工業製品が対象となります。
以前は各国ごとに認証制度が存在していましたが、現在は共通の技術規則(TR EAEU)に基づいて審査が行われています。
製品によっては試験や技術文書の提出が必要となり、現地代理人の選定が求められる場合もあります。
そのため、
「ロシア向けだからロシアの規制だけ確認すればよい」
というわけではなく、EAEU全体の制度として確認する必要があります。
対象国への輸出を検討する際は、早い段階で適用規則の有無を確認しておきましょう。
Gマーク
Gマーク(Gulf Conformity Mark)は、中東のGCC加盟国で求められる製品適合制度です。
対象国は、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、クウェート、オマーン、カタールの6か国です。
主に玩具や一部の電気製品などが対象となり、製品によっては試験や認証手続きが必要になります。
欧州のCEマーキングと似た役割を持ちますが、適用される制度や要求事項は異なります。
そのため、
「CEマーキングを取得しているから中東でもそのまま販売できる」
とは限りません。
また、近年は中東各国で製品安全や消費者保護に関する制度整備が進んでおり、以前よりも規制対応の重要性が高まっています。
中東市場への輸出を検討する場合は、対象製品にGマークが必要かどうかを事前に確認しておきましょう。
国家規格例
海外では、国際規格だけでなく、各国独自の国家規格が存在する場合があります。
代表的なものとして、
- ANSI(アンシ:アメリカ)
- BS(ビーエス:イギリス)
- DIN(ディン:ドイツ)
- NF(エヌエフ:フランス)
- CSA(シーエスエー:カナダ)
- GB(ジービー:中国)
- TCVN(ティーシーブイエヌ:ベトナム)
- TIS(ティーアイエス:タイ)
- PSB(ピーエスビー:シンガポール)
- JIS(ジス:日本)
などがあります。
これらは製品によって法的な義務となる場合もあれば、市場での信頼性や取引条件として求められる場合もあります。
例えば、
「法規制ではないので販売はできる」
ものの、
「その国の顧客や取引先が規格適合を求めるため、事実上対応が必要」
というケースも少なくありません。
また、同じ製品であっても国によって求められる試験項目や評価方法が異なることがあります。
そのため、
「日本や欧州で販売できているから他国でも問題ない」
とは限りません。
対象国への輸出を検討する際は、その国独自の規格や業界慣行についても事前に確認しておくことが重要です。
FDA関連
米国へ医療機器、化粧品、食品などを輸出する場合は、FDA(エフディーエー:米国食品医薬品局)への対応が必要になることがあります。
対象製品や販売方法によって求められる内容は異なりますが、代表的なものとして、
- 施設登録
- 事前通告
- 代理人の選任
- 届出や承認申請
- 必要書類の提出
- 製品基準への適合確認
- 事前通告
などがあります。
また、FDA対応は単なる書類提出ではなく、製品カテゴリーの判定や必要手続きの確認が重要です。
「日本で問題なく販売できているから米国でも販売できる」
とは限りません。
実際には、想定していたよりも時間や費用がかかることも多く、準備不足のまま進めると販売計画そのものに影響する場合があります。
なお、各国にはFDAに相当する制度や監督機関があります。
例えばタイであればThai FDA(タイFDA)、韓国であればMFDS(韓国食品医薬品安全処)などがあり、それぞれ独自の規制や申請手続きが存在します。
対象国への輸出を検討する際は、その国の監督機関や必要手続きを早めに確認しておくことが重要です。
規格と規制は似ているようで異なる
海外展開では、「規格」と「規制」が混同されることがあります。
しかし実際には、求められる対応が異なります。
規格とは、
「その製品が一定の技術基準や性能基準を満たしているか」
を確認する仕組みです。
例えばCEマーキングや各国の国家規格では、
- 試験の実施
- 試験データの取得
- 技術文書の作成
- 適合証明書の作成
などが求められます。
一方で規制とは、
「その国で流通・販売するための行政上の手続きや制度」
です。
例えばFDA関連では、
- 施設登録
- 事前通告
- 届出
- 申請
- 現地代理人の選定
などが必要になります。
イメージとしては、
規格が「製品そのものの合格証」であるのに対し、
規制は「その国で販売するための入場許可証」のようなものです。
どちらか一方だけでは足りません。
製品が規格へ適合していても、必要な登録や届出が終わっていなければ販売できません。
逆に、行政手続きを終えていても、製品が技術基準を満たしていなければ市場へ流通させることはできません。
規制対応は個別対応になりがちですが、進出前に全体像を整理しておくことで、どこに時間とコストがかかるのかを見極めやすくなります。
→ 海外進出の相談前にやるべき準備7選|支援機関・コンサルを動かすチェックリスト
ええっと、今お話し頂いているのは、
関税や貿易統計品目の話でしょうか。
輸出入には関税がかかってきますよ、という・・・。
おしいですが、関税の話ではありません。
(関税の話はこちらをどうぞ 関税とは?その基本を理解する)
輸出する場合(その国にとっては輸入する場合)、その商品が現地の流通規制や制度に適合していなければ、その国で販売できません、という話です。
ちなみに、輸出の際、「輸出税」のような関税はかかりません、我が国の場合・・
関税は、あくまで「相手国に荷物が到着して、輸入されるとき」に、「輸入関税」としてその国のルールでかかるものになります。
。。。
輸出入規制は机上で確認するだけでなく、現地で実際に流通できるかどうかまで検証しておかないと、想定外のトラブルにつながります。
→ 海外進出前にF/S現地調査はしましたか
規制を知らないと何が起きるのか
規制対応で最も多いトラブルは、
「規制の存在を知らなかった」
または
「確認したつもりだったが正しく理解できていなかった」
というケースです。
例えば、
- 商談成立後に必要な認証が未取得と判明した
- 出荷直前になって追加試験が必要と分かった
- 日本からは輸出できたが、現地で輸入許可が下りなかった
- 現地代理人の選定や登録手続きに数か月かかった
- 製品が税関で止まり、納期に間に合わなかった
といったトラブルは珍しくありません。
特に海外では、
「出荷できる」
ことと
「販売できる」
ことが別問題です。
そのため、日本側では問題なく進んでいた案件でも、現地到着後に規制対応の不足が発覚し、大きな損失につながることがあります。
場合によっては、
- 返品
- 廃棄
- 契約解除
- 販売停止
などに発展することもあります。
また、規制に準拠していなくても、同じ製品を長年輸出し続けており、表面上は問題なく取引が続いているケースもあります。
しかし、それは「規制に適合している」ことを意味するわけではありません。
例えば欧州では、安全基準を満たしていない製品が市場で発見された場合、欧州委員会の安全情報システム(RAPEX)で警告が公表されることがあります。
一度警告対象となると、その製品は欧州域内での流通が難しくなるだけでなく、取引先や顧客からの信頼にも大きな影響を与えます。
問題が表面化してから対応するのではなく、事前に規制への適合を確認し、必要な準備を進めておくことが重要です。
CEマーキングについて詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。
規制対応にはどのくらいの費用がかかるのか
規制対応にかかる費用は、対象国や製品、求められる制度によって大きく異なります。
また、日本側の輸出規制への対応と、海外側の輸入規制への対応では必要な作業も異なります。
そのため、自社の商品がどの制度の対象になるのかを早い段階で確認することが重要です。
日本側の輸出規制への対応
日本側の輸出規制に関する確認や書類作成は、経済産業省や各種支援機関の公開情報を参考に、自社で対応できる場合もあります。
特に安全保障貿易管理に関する該非判定やSDS(安全データシート)の準備は、多くの企業が最初に確認する項目です。
ただし、製品や技術によっては正確な専門家の知識が必要になる場合もあります。
海外側の輸入規制への対応
海外側の規制へ対応する場合は、試験、認証、技術文書作成などの費用が発生することがあります。
例えば、
- 製品試験費用:10万〜50万円
- 技術文書作成(英語):10万〜30万円
- 認証機関への申請費用:10万〜100万円超(国や品目により変動)
などが目安となります。
また、
- 現地代理人の選定
- 登録手続き
- 翻訳
- 追加試験
などが必要になる場合は、さらに費用や期間が増えることもあります。
特に初心者にとっては、
「どの制度に該当するのか」
「どの試験が必要なのか」
「どの認証機関へ相談すれば良いのか」
の判断が難しいため、第三者認証機関や専門家へ早めに相談する方が結果的に効率的なことも少なくありません。
規制対応はコストではありますが、販売停止や回収、契約解除といったリスクを避けるための投資でもあります。
海外進出の事業計画を立てる際は、規制対応費用もあらかじめ見込んでおくことが重要です。
第三者認証機関について詳しく知りたい方は、以下もあわせてご確認ください。(パコロア代表による中小機構への寄稿記事です。)
・どの機関に依頼できるのかを確認する
→ 第三者認証機関のリスト
・そもそも何を依頼できるのかを理解する
→ 第三者認証機関が何ができるかのリスト
規制対応は、海外進出の準備の中でも見落とされやすい項目です。
しかし、実際には「売れるかどうか」と同じくらい、「売れる状態にできるかどうか」が重要になります。
規制対応はリスクの一部であり、契約・文化・運用体制なども含めて全体で管理していく必要があります。
→ 海外進出のリスク管理は考えていますか
あぶなかった・・・輸入規制に準拠しないと、現地では売ることもできないなんて・・・
そうなんです。
中小企業にとってここは高い障壁となっています。
じっくり検討が必要です。
次のステップとしては、海外進出に向けて必要な能力を身につける、というものがあります。
必要な能力を身につける??(うぅ・・まだ続くんですか・・・)
海外進出に必要な能力は、一朝一夕には身につきません。
努力あるのみです。
トホホ・・・
海外進出に向けて必要な能力を身につけていきましょう!
>02 海外進出に必要な能力を開発する