海外進出の際、日本の常識は世界の非常識とも言われています。
日本というきわめて特殊な国で生まれ育ってビジネスをしていると、稀、非常識、特殊を感じる機会はほとんど無いかもしれません。
が、まずは「自覚すること」。
これが異文化適応のスタートとなります。
はじめに
海外の多くの国では性悪説が多勢で日本のような性善説はごく稀です。
海外進出の成功を左右する、異文化適応力、はこのロードマップの中でも群を抜いて習得が難しい部類に入るでしょう。
例えば異文化について知識や経験がないと、海外進出を進めていても下記のように、頭の中に?マークが増え、理解に苦しみ、無力感に苛まされるようになっていきます。
- 最初は上手くいっていた交渉の雲行きがだんだん怪しくなってきたが、価格、納期、仕様が理由ではないと言われた、だったら一体何なんだろう?
- 問題ない、出来る、と言ったから契約したのに、なぜ言い訳ばかりで一向にプロジェクトが前に進まないのか、おまけに見積書にない追加費用まで請求された、冗談だろう?
- ワンダフル、グレイトと絶賛していたのにだんだん返信が遅れるようになった、こちらから連絡しても返事も来なくなった、どうしたのだろう?
- 支払いの督促をしたら担当者が辞めていた、問い合わせるとそのような商品の注文記録がない、支払う必要もないと言われた、大きな会社だから信用したのにどうすべきだろう?
実際の海外進出において、無意識にしても、日本での商習慣や暗黙知を基準として判断を続けると、頭の中の?は増える一方になってしまうかもしれません。
異文化適応力って何ですか?
異文化適応力とは、国によって、地域によって、様々な価値観があり、考え方や行動様式が異なることを正しく理解し、対応できる力のことです。
海外進出の局面においてこの異文化適応力の有無は、英語力同等、あるいはそれ以上に重要になります。
なぜなら、進出国別の文化の違いを理解し、自社の事業展開を吟味し、あらかじめ策を講じ、優位に方向付けできる異文化適応力があればこそ、異国間取引においての不測の事態にも迅速な次善策が打ち出せるためです。
国によって異なる価値観の例には下記などがあります。
異文化間で異なる価値感の例 仕事、お金、自己実現について
- 上司であっても反対意見があれば率直に伝える/上司の指示はほぼ絶対である
- 自分の仕事が終われば帰宅する/周りの人が残っていれば一人だけ先に帰宅できない
- 体調不良なら出勤しない、効率が悪いため休む/急な病欠は申し訳なく、体調不良でも出勤する
- 自分は自分、周りは特に気にしない/周りに迷惑をかけると評価が下がる、ことを自分が気にする
- 幹部候補として高額研修を受けても他に好条件があれば迷わず退職する/幹部候補として教育を受けさせてもらっている以上貢献もせず短期間では転職しづらい
- 給与額は従業員間でつつぬけで不満があれば会社にも堂々と問う/会社に個人が待遇改善の直談判などしづらい、揉めるくらいなら転職する
- 勤務中に社内で物やお金がなくなることはままある/白昼、社内での盗難などレア
- 仕事は100%自分のため、お金のため/仕事は自己実現と生活のため、が、実際には自己実現度は低く貯金もままならず冷静に考えると会社のためかもしれない
- 過労死するまで働くなど全く考えられない/終わりなき仕事が続くなか、過労死についても明日は我が身と感じることもある
異文化間の異なる価値観の例 宗教、愛、家族について
- 宗教、家族より大事なものはこの世にない/宗教はよく分からない、家族は大切だが朝早く夜遅いため食事の時間は別々で会話も少ない
- 愛が無ければ躊躇なく離婚する/愛が冷めたあとも子供がいる限り家族というシステムは有効だが、DVや借金、依存症などがあれば離婚になるかもしれない
- 親類縁者が困窮していれば土地家屋現金などあるものは与え生活全般の面倒を無期限でみる/親類縁者であればこそ困窮は伝えない、出来るだけ人に迷惑をかけないようにしている
- 子供の誕生日のために仕事や会社を休む/子供の誕生日は土日にまとめて祝う、会社を休む場合も子供の誕生日とは言えない
- 会社のデスクに家族の写真を飾る、会社に飼い犬を連れてくる(IT系)/会社にプライベートは積極的には持ち込まない
様々な価値観がある中で、自分と異なる文化背景を持つ相手であっても、共に問題解決できる企業や人材は異文化適応能力が高いと言えます。
問題が起こることは避けられなくても、問題解決のたびに異文化間の不信、不満、不便を減らせるならば、それは非常に高い異文化適応力を持っている、と言えるでしょう。
英語が話せることと異文化適応できることは違うのですか?
英語が話せてもビジネス上の異文化適応ができない理由
英語が話せるイコール異文化に適応できている、とは限りませんが、英語力があれば異文化適応の半分強の能力はすでに身についていると言えます。
なぜなら日本にしかない習慣や表現を英語に翻訳しなければならない場面で(その逆もしかり)、常にそれに一番近いものは何か?を考えて置き換える作業、あるいは置き換えられるものは無いと判断する作業を、経験しているためです。
例えば、いつもお世話になっております、や今後ともよろしくお願い申し上げます、は英語圏では日常使いませんが、しいて言うならば、I hope things are going wellや、 Thank you for your business や Thank you for your continued cooperation などがあるでしょう。(直訳しても日本語の通りにならないところがポイントです)
一方で、ビジネス英語が話せてもそれだけでは海外進出の際、異文化適応力が万全と言えないのはなぜでしょうか。
よく言われることですが、英語は単なるツールであって目的そのものではないためです。みなさまの目的はビジネスです。そしてビジネスとは突き詰めると落としどころの探り合いです。
英語で相手の話す内容が理解できたとしても、相手のビジネス上の手の内が自然に見えてくるわけでは無いのです。
たとえ英語が出来ても手のひらだけではなく脳みそまで汗をかくようなビジネス経験を積まない限り、海外企業を相手に、商談中、落としどころを正確に見積もることは難しいでしょう。
異文化適応力を高める方法は何ですか?
海外進出の際、異文化適応の一助となるものには、
(1)相手の行動背景を知る
(2)相手の行動を予知したコミュニケーションをとる
の2つがあります。
異文化適応の方法① 行動背景を知る
行動背景を知るには、お金のかかる順に、
- 現地で学ぶ
- 現地で働く
- 現地に住む
- 現地の人と仕事をする
- 現地に行く
- 現地の友人をつくる
- 現地全般についての本を読む
- 現地のTV番組を見る
- 現地についてインターネット検索する
があります。
異文化適応の方法② 行動を予知したコミュニケ―ションをとる
行動を予知したコミュニケーションが取れるようになるには、効果の高い順に下記があります。
- 強制的に海外現地パーソンと現地の同じ環境で同じ視点を共有して働き結果を出す
- 異文化適応できている日本人とビジネス目的でその現場、現地に行き行動を共にする。しかしその人には先回りした異文化適応行動の代行は頼まず、解説だけ依頼する。
- 海外現地で、ざっくばらんにミスコミュニケーションの悩みについて自身の見解を現地パーソンに説明し反応をみてみる(ただしビジネスの場合、相手を選ぶ必要あり)
いわゆる海外留学や海外駐在が、異文化適応の近道になるのは、相手の環境や常識に合わせなければ学業や仕事が成り立たないという強制装置が働くためです。ここで相手から見える景色を無理やりにでも見ることで多くの新しい視点が培われます。
ただし後述する、異文化適応に時間がかかるタイプの人は、せっかくの機会であっても活かすことなく、異文化に適応しないまま、そのことにも気がつかないまま、帰国していることもあるでしょう。
人の思考や性格は数年の留学生経験や環境変化だけで自然に変われるものではなく、意志の力が加わることで変えられることもある、という注釈つき難題なのかもしれません。
異文化適応が割とスムースに進む人と、時間がかかる人の特徴については、下記などがあります。
異文化適応が割とスムースに進む人の特徴 10個
- 自分がまぁまぁ好き
- 努力が評価されなくても気にしない
- 学んで新しい知識が増えるのは喜び
- 公平の精神が好き
- 好奇心と探求心は強いほう
- 変化は受け入れる
- 執着が少ない
- 人と自分を意味なく比較しない
- 人をスペックで判断しない
- プライドがそこまで高くない
異文化適応に時間がかかる人の特徴 10個
- 条件付きで自分が好き (他人からの評価が良い部分は好き)
- 努力が評価されないとへこむ
- 何かを学んでも自分のやり方はそう変わらない
- 公平を認めると立場的に損な気がする
- リスクが大きいなら現状維持でよい
- 状況が読めないのは困る、予定が未定は更に困る
- 頑固だと人から言われたことがある
- 人の幸せを認めると微妙に落ち込む
- 履歴書なしで正しい人物評価は難しい
- 意見を否定されるとイラッとする
少し解説いたします。
自分が好きな人は、自分と他人を単純比較することに価値を感じません。先入観や偏見を脇に置ける耐性があります。自分とは異なる人への受容、寛容、共感を発揮し、思い込みを排除した状態で、他人にフェアな関心を持つことに異論はありません。
高学歴だから、いい会社に就職できたから、という理由付きの自分好きからくる自信とは異なり、ただ自分であることだけで自信が持てる人は、理解できないグレーゾーンにもとくに過剰反応はしません。
否定するのではなく、え、それってどういうこと?とまずは受け止め、自分のやり方でも相手のやり方でもない方法で、じゃあどうしようか?を共に考える選択肢が持てます。必要な話をしてゴールを迎えようとします。努力が評価されなくても今回は残念、で終われます。
一方で条件付きの自分好きや、努力の対価や評価を外に求める人は、今の自分の能力で理解できないことや人から”異見”されることをあまり心地よく思いません。否定されている気分になり自信が揺らぎイライラしてきます。
そこで状況を好転させようと自分の視点や解釈を更に濃縮して話を進めようとします。自分への攻撃を早めに摘み取って正しく理解させねばならない、ここに別の理屈を持ち込まれてはあとがたいへん、と間違った不安を抱え込んでしまうからです。これでは相手のやり方をフェアに検討する機会は失われてしまいます。
あるいはこんなことも有るでしょう。
自分と相手には異文化間の考え方と感じ方の大きな違いがあることは明白にも関わらず、そこには全く触れず、関心も持たず、表面上は機嫌よく様子を合わせ、ニコニコしながら、しかし進め方はあくまで100%日本側のやり方でと押し切るなどです。
これでは案件が進んで込み入った話になればなるほど、理解し合えていない部分が悪目立ちし、調整の難易度はハネ上がるばかりとなるでしょう。最終的に成果を出すことは出来ず、結局何だったのかも分からないまま、あとは先方のせいにして、海外はやっぱりリスクが高いよね、となるでしょう。
異文化適応力とは「自分とは異なる正しさ」も尊重できる力
異文化 ー それはただの違いです。
世界中の人々がただ自分が正しいと思ったことをしているだけなのです。正しいことが日本側とは真逆なこともありますが、ビジネスを前に進めるために、落としどころを一緒に探る姿勢があれば、それ以上でもそれ以下でもない、ただの違いと分かってきます。
異文化に適応できる人は人の話をよく聞きます。そして言わなくてはいけないことはタイミングを見計らって明確に伝えます。その最中も相手のことをしっかり見ています。それは自分のやり方を押し付けるということではなく、より良いゴールのために、更なる理解のために、という視点で聞き、話します。
異文化適応は日本人にとっては難易度が高く、奥が深いテーマですが、オセロの黒が全部白にひっくり返るが如く、突然クリアに分かり合える瞬間、
坂道を登り切った後に高台から地平線を見渡すようにすーと理解が進む瞬間、が、たまにですが、確実にあります。
これは実践者のみが味わえる海外進出の醍醐味です。
是非その瞬間を楽しみに、自分に自信をもって異文化適応を実践して参りましょう。
突然クリアに分かり合える瞬間かー、楽しみです。
なんとしても、その景色を見てみたいです!
きっと見ることができますよ。
能力開発を続けながらぜひ楽しみにしておいて下さい。
次はいよいよ、海外進出における、戦略の構築と実施というステージに上がって参ります。
売るための仕組みづくりですね!
その通りです!
ここで培った視点は国内事業にも新しい発見をもたらします。
海外市場向けの戦略を、具体的に構築して参りましょう!