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「戦略があっても勝てない国がある」ニトリの海外進出と“次の一手”に学ぶ

公開 2025年10月21日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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World map with red location pins and Japanese text reading 'Nitori's Overseas Expansion

ニトリ。

国内で知らない人はいない家具・インテリア業界の巨人ですが、実は海外進出では、誰もが想像するような“圧勝”をしてきたわけではありません。

戦略も、資金力も、ブランド力もあった。

にもかかわらず、「思うように売れなかった国」が確かに存在します。

つまり、どれだけ準備しても、勝てない市場があるのです。

これは、今まさに海外展開に取り組んでいる、あるいは一度挑んで苦戦した経験のある中小企業にとって、他人事ではない現実です。

本記事では、ニトリの海外展開の歴史をひもときながら、

「なぜニトリほどの企業でもつまずいたのか」
「それでもなぜ成長軌道に乗せられたのか」

を整理していきます。

その過程で見えてくるのは、海外進出における“戦略だけでは足りない”部分と、“あきらめなかった企業だけが持つ視点”。

あなたの会社が「もう一度、本気で海外を狙いたい」と思ったとき、この記事が“次の一手”のヒントになることを願っています。

ニトリの海外展開、“誰もがうまくいくわけじゃない”現実

ニトリの海外進出が本格化したのは、2007年の台湾出店からです。

その後、中国、マレーシア、韓国、さらにベトナムなどへと展開を広げ、2024年時点では海外店舗数が100を超えています。
(出典:ニトリホールディングス公式IR資料

しかし、すべてが順風満帆だったわけではありません。

中国本土では複数の店舗を閉鎖し、台湾でも立地戦略の見直しが行われたほか、欧米市場では撤退を決断しています。

実際に2013年、アメリカ・カリフォルニア州にて「Aki-Home(アキホーム)」という独自ブランドで現地展開を開始しましたが、2023年までに全店舗を閉店。

進出して約10年で、北米市場からの撤退という形になってしまったのです。(出典:WWDジャパン ニトリが米国撤退

ニトリの海外進出の現状と背景

ニトリが米国から撤退した背景には、単なる売上不振では語れない、“戦略と市場構造の根本的なズレ”があります。

同社の強みは、国内で培ってきたSPA(製造小売)モデル。

「安くて、品質が良くて、暮らしにちょうどいい」商品を、効率的なサプライチェーンで届けるしくみは、所得上昇中のアジア中間層にとって、コストパフォーマンスの高い選択肢として確かな強みを発揮しています。

しかし、アメリカではこの強みが通用しませんでした。

すでにIKEAやTargetなどが、似た価格帯の商品を大量に提供しており、「安くてそこそこ良い」は当たり前の水準。

加えて、アメリカの住宅事情では大型ソファや重厚感のある家具が一般的であり、ニトリの標準サイズ・素材・デザインは「軽くて小さい=安っぽい」と映り、しかも「誰向けなのか」が曖昧という印象を与えてしまったのです。

さらに、「Aki-Home」という新ブランドは認知も低く、プロモーション展開も限られていたため、ターゲットであるミドルクラスのファミリー層にリーチできないまま、現地の競合に埋もれていきました。

つまり、大枠の戦略があっても、“誰に・何を・どう届けるか”の具体設計が甘ければ、勝てない。

この現実を、ニトリは痛感することになったのです。

では、なぜアジアでは今も勝てているのか?

同じ戦略がアジアでは武器として機能していることから見えてくるのが、「選ばれる理由」の違いです。

たとえば自動車であれば、「信頼性」や「耐久性」といった機能が選ばれる基準になります。

アメリカでトヨタが成功したのは、数十年かけて「壊れにくくて安全」という実績を積み上げたから。

インドでスズキがシェアを握っているのも、「価格に対する安心感」が現地で評価されているからです。

しかし家具・インテリアは、「感性」「文化」「空間との相性」で選ばれる、より情緒的なジャンル。

欧米では中間層以下の家庭でも、大きな住空間に合わせたサイズや、重厚感ある素材を使った“見栄えのいい”家具に慣れ親しんでおり、「価格が安くても見た目がチープでない」という基準で選ばれています。

そこに登場したのが、日本基準の“コンパクトで軽量”な家具。

その結果、たとえ価格が安くても「そのまま安く見える」という評価にとどまり、「お、ねだん以上」には到底届かなかったのです。

見直したのは「戦略」ではなく、「市場の選び方」

この厳しい現実を前に、ニトリは柔軟に方針を切り替えます。

あらためて東アジア・東南アジア市場へとフォーカスし直したのです。

この地域では、価格と品質のバランスがまだまだ大きな差別化要因となっており、住宅事情や生活様式も日本と比較的近く、ローカライズのコストも抑えられる。

だからこそニトリは、「強みを変える」のではなく、「その強みが通用する市場を、通用する順番で選び直す」ことで、再び勝ち筋を描こうとしているのです。

これは中小企業にとっても重要な示唆です。

商品力や提供価値を根本から変える前に、その強みが「どこなら一番伝わるのか」を見直すこと。

その目線の変化が、海外展開成功への第一歩になるかもしれません。

ニトリが示した「戦略の限界」──通用しなかった国から学ぶべきこと

ニトリは一貫して、練られた戦略に基づいて海外展開を進めてきました。

SPA(製造小売)モデルによる高効率な商品供給、段階的な出店によるリスク回避、現地法人との提携による柔軟な対応──。

どれも正しい手順であり、国内外での実績も十分にありました。

しかし、その「正しい戦略」であっても、市場によっては通用しない。

それが、ニトリが実体験として私たちに示している“海外戦略の限界”です。

欧米だけでなく、“アジアなら通用する”という前提ですら揺らぎ始めています。

実際、中国市場ではニトリは2023年から2024年にかけて閉店が相次ぎ、大規模な再編が進行中です。

背景には、住宅バブルの崩壊や若年層の失業増、消費の冷え込みといった経済全体の急ブレーキがあり、家具のような耐久消費財は真っ先に買い控えの対象となっているのです。

つまり、戦略が誤っていたのではなく、“適用する国”と“そのタイミング”を間違えると、どんな優れた戦略でも通用しない局面がある──これこそが、今ニトリが直面しているリアルです。

さらに、同じアジア市場であっても、国ごとの差異は拡大しています。

たとえば、タイとベトナムでは住宅事情・消費スタイル・ブランドへの期待値が異なり、かつてのように「東南アジアまとめて攻略」という単純な発想はもはや通用しません。

ここで必要なのは、単に「戦略を持つこと」ではありません。

  • どの国に、どのタイミングで出るべきか
  • どの程度のローカライズが必要なのか
  • 同じ戦略をどこまで再設計できるか

こうした“適用の順番”と“粒度”の見極めが、成否を分ける鍵になっています。

そして、もう一つ問われるのは

「リソースの再配分を伴う仕切り直しを、経営者がどれだけ迅速に指示・実行できるか」。

戦略を変える決断ができても、大きな方針転換ほど二の足を踏みがちです。

しかし、勝てる仮説を確かめるには、失敗を恐れず一歩を踏み出す“行動の再起動”が不可欠です。

これは、ニトリのような大企業だけに限りません。

中小企業にとっても、

  • 「強みが確実に活きる市場から、順番に選ぶ」
  • 「難易度の高い市場は、別ブランド・別モデルでじっくり育てる」
  • 「方向転換に迷ったら、“現地の顧客行動”を唯一の判断材料にする」

という選択眼こそが、限られた経営資源を活かす最短ルートなのです。

成功の裏にあるリスク管理と意思決定のスピード

どれだけ戦略を練っても、海外進出は“想定外”の連続です。

特にニトリのようにSPAモデルでグローバルに展開する企業にとって、リスクへの備えと即時の意思決定力は、競争優位そのものとも言える要素です。

想定外だった物流の乱れと対応力

2020年以降、パンデミックによる世界的な物流混乱が、あらゆる業界に大きな打撃を与えました。

家具は特にサイズが大きく、倉庫や在庫管理の負担が重いため、輸送の遅延=販売機会損失に直結します。

しかしニトリは、コロナ前から中国・ベトナム・マレーシアなどを起点とした「アジア内で完結する物流網」の構築に取り組んでおり、輸出依存の国内専業メーカーとは異なる柔軟性を持っていました。

アジア域内での調達・製造・配送を一気通貫で管理できたことで、国境をまたぐ供給網の混乱下でも、現地店舗の欠品を最小限に抑えることができたのです。(出典:財界ONLINE 34期連続の増収増益・ニトリHD

法規制・為替変動への対応と「撤退」という判断

市場の魅力だけでは進出先は選べません。

特に中国では都市別の法規制や外資企業への締め付けが強まり、事業継続に不透明さが増していました。

さらに、アメリカ市場からの撤退も、その典型的な判断事例です。

一度出たからには粘るのではなく、「今、リソースを振り替えるべきか?」という問いを常に持ち、実際に“手を引く”決断ができるかどうか。

この撤退力は、中小企業にとっても極めて重要な視点です。

中小企業こそ備えるべき、「最悪シナリオ」と即応力

海外進出において、事前のリスクシナリオを描けている企業は、実は多くありません。

進出国の政治的・経済的リスク、為替変動、サプライチェーンの崩れ、現地スタッフの離職など、リスクは多岐にわたります。

ニトリですら完璧ではなかった。

それでも、彼らには常に「想定外が起きたらどう動くか」の指針がありました。

中小企業にとってもこれは同じで、

「進出前に撤退ラインを引く」
「想定外でも意思決定は素早く」

という2つの視点を持つことが、事業の命運を分けるのです。

CSRとブランド戦略の両立が“選ばれる理由”

海外で選ばれるためには、価格や商品力だけでなく、「信頼できる企業かどうか」が強く問われます。

ニトリもまた、環境配慮や地域密着型の活動を通じて、現地での信頼獲得に力を入れてきました。

ただし、それは大企業だからこそできた取り組みなのでしょうか?

答えは「いいえ」です。

実は、ニトリの取り組みからは、中小企業でも現実的に活かせる“ブランド構築のヒント”が見えてきます。

「CSR=コスト」ではなく「信頼づくりの種まき」

中小企業にとってCSRと聞くと、「寄付?」「地域イベント協賛?」「そこまで手が回らない」と思うかもしれません。

しかし、ニトリのやっていることの本質は、“現地での信頼づくり”です。

・現地の人を採用し、育成する
・文化や宗教に配慮した店づくりをする
・顧客の声を取り入れて商品やサービスを改善する

これらは、特別な予算がなくても「本気で現地に向き合う」姿勢さえあれば、どんな規模の企業でも実行可能なことです。

ニトリのように「選ばれる企業」になるための実践ヒント

たとえば、以下のような取り組みは、100人規模の企業でも今日から実行できます。

・【社内でできること】
 出張ベースで現地のリアルな生活や文化を調査し、製品企画に反映する。
 製品・パッケージ・説明書などに多言語や現地視点を取り入れる。

・【社外でできること】
 現地パートナーとの定期ミーティングで、単なる取引関係以上の信頼を築く。
 1件1件の顧客フィードバックをデータ化し、現地での“改善ストーリー”を発信する。

こうした「信頼づくりの積み重ね」が、最終的には中小企業にとっての“ブランディング”になり、価格競争からの脱却にもつながります。

「売る」だけで終わらせない。だからこそ、次に選ばれる

ニトリがCSRをブランド戦略の一部として重視しているのは、「一度売る」ではなく「何度も選ばれる企業になる」ためです。

そのために重要な視点が、「買ってもらう」と同時に、「どう現地市場に貢献できるか」を最初から意識しておくことです。

当然ながら環境規制対応に関してはもはや、「やるかどうか」ではなく、「どうやるか」で進めることが重要です。

これらを意識する企業は、規模の大小問わず、売上だけでなく、現地との長期的な関係性を築くことができます。

「CSR=コスト」ではなく、「信頼=資産」に変えていく。

そのために必要なのは、大きな資金ではなく、小さな行動の積み重ねです。

中小企業こそ「ニトリ流」から学べる、現場主義と再構築力

実はニトリ自身もまだ“完成された海外展開モデル”を持っているわけではありません。

前述の通り、中国市場では2023年以降、急速に複数店舗の閉店が続いています。

ニトリは今まさに、“海外戦略の軌道修正の真っただ中”にあります。

だからこそ、現場での気づきを即座に経営判断に反映させる仕組みを強化し、組織ごと修正できる体制を整えようとしているのです。

この動きは、海外進出をやり直したいと考える中小企業にとって、極めて現実的かつ再現性のある参考事例になるのではないでしょうか。

やり直す企業が最初に見直すべきは、組織体制と“現場の目線”

ニトリが再構築を実現できた理由のひとつが、本社主導だけでなく“現場の声”を戦略に反映していたことです。

中小企業でも次のようなステップで応用が可能です。

  1. 【小さく始めて大きく育てる】
     現地の販路を広げる前に、パイロット出店や少数の顧客とのテストマーケティングを実施し、データと感覚を蓄積する。
  2. 【現地パートナーと戦略的に組む】
     「言語対応してくれる業者」ではなく、「市場攻略を一緒に考えられる存在」としてのパートナーを選ぶ。
  3. 【現場情報を経営判断に組み込む】
     展示会の感触、現地スタッフの声、返品理由など、意思決定の材料を“現場情報”に置き換える。

こうした取り組みの積み重ねが、最終的に“海外で勝てる体制”を作っていくのです。

再構築は“勇気ある経営判断”でしか始まらない

海外展開に一度失敗した企業は、「もうやめよう」となるか、「もう一度やり直そう」となるかの分岐点に立たされます。

ニトリのように「次の一手」を持つ企業は、どんな状況でも 「見直し、修正、再挑戦」 を繰り返しながら、成長戦略を実行し続けています。

重要なのは、「撤退=失敗」と捉えるのではなく、「撤退=再設計のための投資」と考える姿勢です。

海外進出において完璧な初期設計などありません。

うまくいかなかったからこそ、次に強くなれる。

その道筋を、ニトリはすでに証明しています。

本気でやる企業だけに伝えたい、パコロアの伴走支援

――情報だけでは、企業は変わらない

ここまで読んで、「うちも海外進出に本気で取り組みたい」「もう一度、再挑戦したい」と感じた企業は、すでに“第一歩”を踏み出しています。

しかし、その次にくるのが、

「でも何から手をつければいいのか分からない」
「一度やったけどうまくいかなかったから慎重になっている」

といった“行動の壁”です。

情報や知識があるのに進まないのは、その“整理”と“実行”が結びついていないからです。

パコロアは、海外進出の「事業戦略・組織設計・実行体制」までを伴走支援するコンサルティング会社です。

私たちは単なる情報提供ではなく、「やる」と決めた企業が、実際にやり切ることができる体制と仕組みづくりを支援しています。

  • すでに他社に依頼してうまくいかなかった
  • 自分たちでやってみたけれど壁にぶつかった
  • 比較検討の段階だが、最終的な決め手が欲しい

こうした企業にこそ、パコロアは向いています。

私たちの支援スタンスは、どんな企業にも“やさしい顔”をすることではありません。

本気で海外に出たい企業の「責任ある意思決定」を支えるために、正しい問いを投げかけ、時に立ち止まらせる役割も担っています。

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小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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PaccloaQ

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