×
BLOGBLOG

サービス業の海外進出は本当に成功する?中小企業がまず押さえるべき戦略と落とし穴

公開 2025年11月26日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

著者プロフィールを見る

Hospitality professionals in a modern reception area reviewing information on a tablet, symbolizing strategies for service industry businesses to succeed in international expansion and avoid failures

サービス業の海外進出は、製造業以上にハードルが高いと言われます。

理由は二つあります。

ひとつは、国や地域によって文化・価値観・顧客が「良い」と感じる基準、そしてスタッフの教育方法まで大きく異なること。

もうひとつは、サービスが“形のない価値”であるため、日本国内で通用した提供方法や品質が、そのまま海外でも評価されるとは限らないことです。

一方で、サービス業には製造業にはない強みがあります。

スピード感のある展開、日本の高品質サービスへの評価の高さなど、うまく進めれば中小企業でも十分成功できます。

実際に、日本国内と変わらない品質を海外で再現しながら事業を安定化させている中小企業も増えています。

ただし、成功している企業には共通点があります。

それは、海外に進出する“前”に、きちんとした準備と戦略の設計ができていたことです。

日本式のやり方をそのまま持ち込むのではなく、現地の顧客行動を理解し、ローカライズし、スタッフの育成方法まで丁寧に組み立てている企業ほど成果を出しています。

本記事では、サービス業が海外で成果を出すために必要なポイントを、実例とケーススタディを交えながら整理していきます。

市場調査、人材マネジメント、DXの活用、現地パートナーとの連携など、今日から取り組める具体的なステップも紹介します。

これから海外展開を検討しているサービス業の経営者や責任者の方にとって、「成功できるかどうか」を判断する材料になり、次の一歩に進むための道筋が見える内容になっています。

準備が整えば、サービス業の海外進出は決して特別なものではありません。中小企業でも十分に実現可能です。

サービス業が海外進出で成果を出しやすい理由

サービス業は製造業と比べて「不確実性が高い」と言われる一方で、海外で成果を出している中小企業も少なくありません。

その背景には、サービス業ならではの強みがあり、海外市場との相性が良い側面があるためです。

ここでは、特に重要となる三つのポイントを整理します。

1. 日本のサービス品質は海外で高く評価されやすい

日本のサービスは、海外で「丁寧・正確・安心」といった価値で評価されることが多く、特に接客・飲食・美容・教育・ITサービスなど幅広い業種で武器になります。

日本国内では当たり前に行っている細かな気配りや、品質に対するこだわりは、海外では“付加価値そのもの”として受け止められることが多く、差別化ポイントもつくりやすいと言えます。

ただし、ここで誤解してはいけないのは「日本式をそのまま持ち込めば成功する」のではないという点です。

重要なのは、日本の強みをそのまま押しつけるのではなく、現地の顧客が価値を感じる部分に絞って再構成すること。

この「日本の強み × ローカライズ」の掛け合わせが、成功企業に共通する特徴です。

2. 独自性・差別化ポイントをつくりやすい

サービス業は、提供プロセス・教育方法・ブランドストーリー・顧客体験のつくり方など、企業独自の要素を数多く盛り込みやすい分野です。

海外に出る際は、この独自性がそのまま“競争優位の設計図”になります。

たとえば飲食であれば調理工程の標準化、美容なら技術の伝え方、教育ならカリキュラム設計、ITサービスならサポート体制など、

独自のノウハウや価値提供方法を持つ企業ほど海外での立ち上がりが早い傾向があります。

さらに、サービス業は「体験価値」を中心に差別化を図ることが出来るため、模倣されにくいのも特徴です。

海外展開が軌道に乗ると、競合との差が短期間で広がることも珍しくありません。

3. 顧客の反応をすぐに把握でき、改善サイクルを回しやすい

サービス業は顧客との距離が近いため、現地市場での反応をすぐに把握できる点も大きなメリットです。

提供したサービスに対する満足度、違和感、期待値など、リアルなフィードバックがその場で得られるため、日本から遠い市場であっても改善のスピードを落とさずに運営できます。

また、海外進出で難しいと言われる“文化の違いへの適応”も、顧客の声を定期的に集め、サービス内容や説明の仕方を調整することで着実に乗り越えられます。

成功している企業ほど、提供開始後の最初の3〜6か月で改善サイクルを集中的に回し、現地仕様のサービスモデルを完成させています。

サービス業には「海外向きではない」というイメージを持つ方もいますが、実際には、本項で紹介した三つの強みを理解し、適切に活かすことで、大きな成果につながる可能性があります。

海外展開を検討する際は、まず自社がどの強みを活用できるかを整理するところから始めてみてください。

サービス業の海外進出が難しいと言われる本当の理由

サービス業は「海外と相性が良い面」がある一方で、実際には事業が立ち上がらず撤退に追い込まれるケースも少なくありません。

理由は、日本国内とは前提が大きく異なり、気づきにくい落とし穴が存在するためです。

ここでは、特に中小企業が直面しやすい課題を整理します。

1. 文化や価値観、サービスへの期待水準が大きく違う

サービスは「体験」が中心であるため、文化的な背景が強く影響します。

たとえば、接客の丁寧さ、待ち時間の許容度、説明の細かさ、スタッフの表情や声のトーンまで、国ごとに求められる基準が違います。

日本では高く評価されるやり方でも、海外では「やりすぎ」「遅い」「形式的」と受け止められることもあります。

つまり、日本の標準はそのまま海外の標準にはならず、現地の価値観を前提にサービス設計をやり直す必要があります。

2. スタッフ育成・品質管理が想定以上に難しい

サービス業の品質は“人”によって左右されます。

しかし、人材育成の方法や働き方の価値観は国や地域によって大きく異なります。

例えば下記が日本とかなり違うため、日本式の指導や評価体系ではうまく機能しないことがあります。

  • 指示の出し方
  • マニュアルの受け止め方
  • 自主性の発揮度合い
  • 接客に対する考え方
  • 時間の感覚

成功企業は、現地スタッフが理解しやすい教育方法を採用し、評価制度や役割分担を現地仕様に調整しています。

逆にここが設計されていないと、サービス品質が安定せず、クレームにつながります。

3. 日本の“当たり前”が通用せず、再現性がつくりにくい

サービス業で失敗が起きやすい理由のひとつが、 「日本と同じ店・同じサービスを再現しようとすること」 です。

実際には、次のような要素は国ごとに変わります。

  • 顧客が利用する目的
  • 求められるスピード感
  • 価格に対する期待値
  • メニュー・サービス内容
  • 集客に使うチャネル
  • 説明の仕方
  • 接客に求められる距離感

この「再現性の難しさ」を理解しないまま進出すると、現場が混乱し、計画通りの売上が出なくなるケースが多く見られます。

4. コミュニケーションの取り方に差があり、意図が伝わりにくい

サービス業はスタッフと顧客の距離が近いため、コミュニケーションの質が成果を左右します。

しかし、日本語では自然に伝わるニュアンスでも、英語や現地語になると正確に伝わらないことがあります。

例えば下記などは「自然とできていること」かもしれませんが、同じことを海外で再現するには、言語だけでなく、文化的な理解が欠かせません。

  • 丁寧さの基準
  • 断り方
  • 謝罪の伝え方
  • 説明量の適切さ
  • 相手の意図をくみ取る行為

ここの理解が不足すると、サービス体験の質にばらつきが生まれます。

5. 過度な日本式を押し出しすぎると、コストと運営負担が増える

サービス業は“丁寧すぎる”ことでコストが増えることがあります。

例えば下記などです。

  • 過剰な説明や接客
  • 日本基準の細かすぎるマニュアル
  • 高すぎる品質維持コスト
  • 不要に複雑なプロセス

日本では価値になる部分でも、海外では評価されにくいケースがあり、労力の割に売上が伸びず、運営負担だけが増えてしまいます。

成功企業は「現地が求める品質に絞る」ことで、コストと価値のバランスを最適化しています。

サービス業の海外展開が難しいと言われる背景には、これらの“見えにくい差”がありますが、あらかじめ整理しておくことで、大きなトラブルを避けながら進出準備を進めることができます。

成功企業が必ずやっている5つの準備ステップ

サービス業で海外展開を成功させている企業には、共通する“準備の型”があります。

多くの中小企業は、この準備を曖昧なまま進めてしまうため、現地で想定外の課題に直面します。

逆に、事前に押さえるべき5つのステップを丁寧に進めた企業ほど、サービス品質の安定や顧客獲得のスピードが大きく変わっていきます。

ここでは、成功企業が例外なく取り組んでいる5つの準備ステップを整理します。

1. 市場調査と現地の前提条件の把握

海外では“生活の常識”や“サービスへの期待値”が大きく異なります。

そのため、最初のステップは 日本との違いをきちんと把握すること です。

  • 顧客が何を価値と感じるのか
  • どの価格帯に反応が高いのか
  • 接客スピード・説明量の適切さ
  • 現地ならではの禁止事項や文化的配慮
  • 同業他社はどのように運営しているか

これらを掴まないまま進出すると、後からサービスの作り直しが必要になり、時間と費用が大幅に増えてしまいます。

成功企業ほど、デスク調査だけでなく、現地視察や現地企業ヒアリングを組み合わせ、早い段階で“成功の型”を見つけています。

2. 日本仕様をそのまま持ち込まず、サービス内容を現地向けに再設計する

サービス業が海外で成果を出すためには、現地顧客が受け取りやすい形に調整する作業 が欠かせません。

  • メニュー構成・プラン内容
  • 説明の方法とボリューム
  • 価格帯の見直し
  • サービス提供の流れ(注文〜提供まで)
  • 顧客導線(予約方法・支払い方法など)
  • サービス提供の“スピード感”

これらを現地の習慣に合わせて調整するだけで、初期の成果が大きく変わります。

成功している企業ほど、日本では当たり前のやり方をそのまま使おうとせず、現地向けにシンプルに組み直しています。

3. スタッフ教育・評価制度・品質管理の仕組みをつくる

サービス業は“人を通じて価値が提供される”ため、育成・評価・サービス基準の制度設計 が海外展開の成否を決めます。

成功企業は、教育手法そのものよりも、以下のような 「仕組み」 を整えています。

● 教育方針と基準を明確にする

  • 何をどのレベルまで習得すれば“一人前”なのか
  • 必要なスキル・知識・判断の範囲を具体化
  • サービス品質を構成する要素(スピード、丁寧さ、説明量など)の基準値を定義

基準が曖昧なまま現地スタッフを育成しようとすると、“評価する側・される側”の理解が一致せず、品質が安定しません。

● 役割と責任をはっきり言語化する

  • 誰が接客・説明・判断を担うのか
  • クレーム対応の権限はどこまであるのか
  • 店舗・拠点の運営で、現地と日本の役割分担をどう定めるのか

この役割分担の明確化は、現場の迷いを大幅に減らし、スタッフの動きがスムーズになります。

● 評価制度を現地文化に合わせて調整する

評価制度は「日本型」をそのまま輸入すると、文化に合わず機能しない場合があります。

成功企業は、

  • 何を評価対象にするか
  • どの行動を“良い働き”と見なすか
  • 昇給・昇格の判断基準
    を現地の価値観に合わせて再設計しています。

評価基準が腑に落ちると、スタッフの納得感や安心感が増し、結果としてサービス品質が安定します。

● 品質管理のチェック体制を仕組み化する

  • どのタイミングで品質をチェックするか
  • 誰が確認するか
  • 問題が起きた場合の改善フロー
  • 顧客フィードバックをどう反映するか

こうした運営の“型”があることで、現地拠点は日々の改善を回しやすくなり、日本側は状況を把握しやすくなります。

4. コミュニケーションの取り方を現地仕様に変える

サービス業の海外展開では、言語以上に重要なのが “伝え方の再設計” です。

  • 説明の長さ
  • 丁寧さの度合い
  • 断り方
  • 注意事項の伝え方
  • クレーム対応の基準

これらが国ごとに異なるため、日本のやり方をそのまま当てはめると誤解やトラブルが起きやすくなります。

成功企業は、現地での会話例・想定問答集・決まり文句を整備し、スタッフ全員が迷わず動ける仕組みを作っています。

ここまで準備しておくと、サービス体験の質が安定します。

5. コストと価値のバランスを最適化する(過剰な日本式を避ける)

最後のステップが コストバランスの設計 です。

日本式の丁寧さは海外で評価される一方で、「やりすぎると利益が残らない」ケースが多く見られます。

  • 日本基準の品質を維持しようとして工数が増える
  • 過剰な説明・接客で回転率が低下
  • 現地の人件費と見合わないオペレーション
  • マニュアルが細かすぎて現地スタッフに浸透しない

成功企業は、
「どこまで日本基準にこだわるか」「どこは現地仕様で簡略化するか」を見極め、コストと価値のバランスを最適化しています。

この調整ができると、過度な負担を避けながら、長期的に利益を確保できる仕組みが作れます。

これら5つのステップは、サービス業の海外展開に共通する“成功の型”です。

進出前にここまで整理できている企業は、立ち上げ期間の混乱が少なく、現地での改善サイクルもスムーズに回ります。

中小企業がDX活用し海外進出のコストとリスクを下げる方法

海外へ進出する際、サービス業にとって大きな課題となるのが「情報の不足」と「現場管理の難しさ」です。

特に中小企業の場合、現地に駐在員を置かずに進めるケースもままあり、現地の状況を正確につかめないまま意思決定が行われることがあります。

そこで活用したいのが、業務の可視化や情報収集を効率化するデジタルツールです。

DXと聞くと難しく感じる方もいますが、実際は「中小企業こそ使うべき簡易ツール」が揃っています。

ここでは、初期費用を抑えつつ現地運営を安定させるために、成功企業がよく活用している実践的な方法を整理します。

1. 市場調査をデジタルで進め、現地理解を効率化する

海外展開の初期段階で最も時間がかかるのが、市場調査です。

ただ、近年は SNS の検索、現地の口コミサイト、デジタル広告のテスト配信など、オンラインだけで現地の反応が把握できる方法が増えています。

  • SNS で顧客層の価値観を把握
  • Google 広告でターゲット層のクリック率を確認
  • 現地レビューサイトで競合の強みを分析
  • AI を活用した英語圏の情報収集

現地渡航前でも、こうしたツールにより「仮説を持って現地へ行く」状態がつくれます。

これだけで調査期間が大幅に短縮され、ムダな検討が減ります。

2. 予約・問い合わせ・CRMをデジタル化し、顧客対応の負担を減らす

サービス業の海外展開では、予約管理や問い合わせ対応が初期の負担になりがちです。

そこで活用したいのが、クラウド型の予約システムやCRMツールです。

  • 予約受付の自動化
  • 顧客情報の一元管理
  • 問い合わせの自動返信
  • レビュー収集の自動化

これらを整えるだけで、現地スタッフの負荷を下げながら、対応品質を一定に保てます。

3. オペレーションの標準化を動画・マニュアルで共有する

現地スタッフの教育は、DXの効果が最も出やすい分野です。

動画・写真付きマニュアル・e-learning を使えば、日本にいなくても同じ内容を伝えられます。

特に以下のような場面で力を発揮します。

  • 調理・施術・接客など“動作で覚える仕事”
  • 新人教育
  • クレーム対応の手順共有
  • 役割分担の説明

教育内容をデジタル化しておくと、教える人によるばらつきがなくなり、現地のサービス品質が安定します。

4. 現地店舗の見える化でリスクを下げる

クラウド型ツールを使えば、日本にいながらでも現地店舗の状況を把握できます。

  • 売上や予約数のリアルタイム確認
  • 在庫管理
  • スタッフの勤務状況
  • お客様のレビュー把握
  • 進捗や課題の共有

駐在員を複数は置けない中小企業にとって、この“見える化”は大きな安心につながります。

中小企業の海外進出におけるDX活用は、「最先端技術を使う」ことではなく、サービス品質の安定と、現地運営の効率化を実現するために、使うべき場所に絞って導入することがポイントです。

ここまで整えておくと、スタッフ教育と改善サイクルが大きく加速し、海外事業の立ち上がりが格段にスムーズになります。

現地人材の採用・育成・マネジメント:成功企業の共通点

サービス業の海外展開では、現地スタッフが顧客と接するため、考え方の違いやコミュニケーションの齟齬がサービス品質に直接影響します。

ここでは、仕組みづくりではなく、“人としてどのように関わると現地のスタッフが力を発揮しやすいか” に絞って整理します。

1. 「日本と同じ人材像」という前提をいったん手放す

海外では、働き方・役割意識・上司との距離感などが日本と大きく異なります。

そのため、日本企業で理想とされる人物像(几帳面・謙虚・先読み・空気を読む等)をそのまま当てはめると、採用も育成も難しくなります。

成功している企業は“現地で成果を出しやすいタイプはどんな人か”を最初に定義しています。

例:

  • 指示を待つより、すぐ動くタイプが合う場合
  • 自分の意見をはっきり言える方が信頼されやすい場合
  • 「まずやってみる」姿勢が評価される文化の場合

このように、日本の基準ではなく、現地で評価される行動 を基準に人材像を再設定することが重要です。

2. 指示・説明は“背景・理由”を添えて伝える

日本の現場では「言われたことを正確に再現する」文化がありますが、多くの国では「なぜそれをするのか」が理解できないと行動が定着しないという特徴があります。

(例)良くない伝え方:
「これは必ずこの手順でお願いします」

(例)伝わりやすい伝え方:
「この手順にする理由は、○○のリスクを避けるためです。だからこの順番が大切です」

背景や理由が分かると、スタッフは自信を持って動けるようになります。

また、注意・指摘をするときも、“個人への指摘”ではなく“行動の改善点”として伝えると受け止められやすくなります。

3. YESが同意ではなく、“会話を前に進めるためのサイン”の場合がある

海外では、相手の話を遮らずに聞くために「YES」「OK」「I got it」を使う文化があります。

これは「理解した」「賛成した」という意味とは限らないため、日本側が誤解すると後で大きなズレにつながります。

成功企業は、次の工夫をしています。

  • 重要な指示は文章でも共有
  • 「理解した部分」と「不明点」の確認をセットで行う
  • 話の最後に簡単な要点を言い合う(ミニ議事録の口頭版)

この積み重ねで意思疎通の精度が上がります。

4. 期待と評価を“はっきり言語化する”ことで、スタッフが動きやすくなる

海外では、「察する」「空気を読む」文化は一般的ではありません。

そのため、スタッフが求められている行動が曖昧だと、自信が持てず業務が停滞します。

成功企業は:

  • やってほしい行動を短く明確に伝える
  • 良い動きはすぐに言葉で認める
  • 評価基準を明確に説明する

こうした“言葉での理解”を大切にしています。

また、注意点を伝える際は、「あなたはダメ」ではなく「行動としてこう変えると良い」と具体的な方向性を提示すると、スタッフが前向きに受け取りやすくなります。

5. 信頼関係は“最初の3か月”で決まる

多くの海外スタッフは、自分を大切に扱ってくれるかどうかで、長く働くかを判断します。

最初の3か月で、以下ができている企業は定着率が高いです。

  • 相談しやすい雰囲気をつくる
  • 質問を歓迎し、否定しない
  • 困ったときに助けてくれる存在である
  • 仕事の意図を丁寧に説明する
  • 目標を一緒に確認する

逆に、この期間に「言い方がきつい」「全体像が分からない」「相談しにくい」と感じると、突然辞めるケースも起こります。

初期の接し方が、その後のチームの動きやサービス品質に直結します。

現地スタッフの採用・育成・マネジメントは、特別なテクニックや理論が必要なのではなく、文化・考え方・価値観の違いを理解し、相手が安心して働ける環境をつくることが出発点になります。

海外市場で信頼を勝ち取るCSR・ブランディングの実践方法

サービス業の海外展開では、「どれだけ良いサービスを提供しているか」以上に、現地での信頼獲得が事業の継続に大きく影響します。

特に中小企業の場合、ブランドの認知度が低いため、サービスの魅力だけでは競合と差がつきにくいことがあります。

そこで活用したいのが、CSR(社会的責任)と地域に根ざしたブランディングです。

CSRというと難しく聞こえますが、海外市場では“小さな誠意の積み重ね”が企業の信頼を大きく育てます。

ここでは、サービス業でも無理なく取り組める実践方法を整理します。

1. 地域コミュニティへの貢献を明確にする

多くの国では、企業が地域社会にどのように関わっているかを重視します。

特にサービス業は地域との接点が多いため、小さな取り組みでも信頼につながりやすいです。

  • 地元イベントへの参加
  • 教育機関への協力
  • 清掃活動やボランティア参加
  • 店舗周辺の安全対策の協力

大げさな活動である必要はなく、「地域に必要とされる存在であること」を丁寧に示すことが重要です。

2. スタッフの働きやすさを重視する姿勢を見せる

海外では「従業員を大切にする企業かどうか」がブランド力に直結します。

特にサービス業は現場スタッフとの距離が近いため、以下の点を整えておくと信頼が深まります。

  • 安全な労働環境づくり
  • 明確な評価制度
  • キャリアパスの提示
  • 相談しやすい職場づくり

こうした「人を大切にする姿勢」は顧客にも自然と伝わり、サービス体験の印象にも大きく影響します。

3. 自社の価値観やストーリーを現地仕様で伝える

ブランドは“見た目”だけではなく、その企業が大切にする価値観をどう伝えるかで形成されます。

中小企業でも、以下のような工夫で存在感を出せます。

  • なぜ海外でサービスを展開するのか
  • どのような価値を届けたいのか
  • 現地チームとどう協力しているのか

これらを現地の言葉で、簡潔に、わかりやすく伝えるだけで、ブランドへの距離感がぐっと縮まります。

4. お客様への姿勢を可視化する

サービス業では、顧客目線を形にして示すことがブランド構築につながります。

  • 満足度調査の実施と改善内容の公開
  • クレームへの対応方針の明確化
  • どのように迅速な対応を行っているかを発信

これらの取り組みは、「この会社は誠実に運営している」というメッセージそのものになります。

CSRやブランドづくりは、規模の大小ではなく、“どう地域と誠実に向き合っているか” を伝えることがポイントです。

中小企業でも実践できる取り組みを積み重ねることで、海外市場での信頼は着実に育っていきます。

サービス業別ケーススタディ

サービス業の海外展開は業種によって特徴が異なりますが、成功する企業には共通する考え方があります。

ここでは、実際にパコロアが支援した教育サービスのケースと、他業種の仮想ケーススタディを組み合わせながら、「課題→打ち手→展開方法」の流れで整理します。

教育サービス(実例)

【Bear Child Education Academy の米国進出:完全リモート運営でも事業を継続できた理由】

Bear Child Education Academy は、パコロアが中小機構アドバイザーとして支援した企業様で、2018年にF/Sを開始し、2019年にテキサス州に拠点を設立。

同年に塾を開校し、翌年からのパンデミックを乗り越えて現在も事業を継続しています。

課題

  • 企業としても担当役員としても海外進出は未経験
  • 文化・学習習慣の違いにより、日本式の教育モデルをそのまま適用できない
  • 現地保護者とのコミュニケーションスタイルが大きく異なる
  • 教材と指導方法の「現地化」が必要

打ち手

  • 現地の教育観・保護者ニーズを踏まえたカリキュラム再設計
  • レッスン品質を維持するため、動画教材・指導マニュアルをデジタル化
  • 現地スタッフの採用に際して、経験だけでなく「保護者との関係構築力」を重視
  • 保護者への説明は、現地文化に合わせたシンプルで明確な伝え方に変更

展開方法(成功のポイント)

  • リモート運営でも“見える化”された仕組みをつくり、サービス品質を安定化
  • 現地ニーズに基づくメニュー設計で、競合塾との差別化に成功
  • コミュニケーションツールを活用し、保護者との信頼関係を継続的に構築
  • 大きな初期投資を行わず、教育サービス特有の柔軟性を活かして立ち上げを実現

教育サービスは顧客との距離が近い分、日本と海外の価値観の違いが直接現れますが、Bear Child Education Academy はその違いを踏まえて再構築を進めたことで、コロナ期も事業継続に成功しました。

飲食(ケーススタディ)

現地の“標準感覚”に合わせた運営モデルづくりが鍵。

課題

  • 日本式の丁寧な接客や調理工程が現地スタッフに負担に
  • 価格設定が高く、顧客が価値を感じにくい
  • 待ち時間に対する考え方が日本と異なる

打ち手

  • メニューを現地仕様に再構成し、価格帯を調整
  • 動画マニュアルで調理と提供のスピードを標準化
  • レジ周りの導線・注文方法を現地の感覚に合わせる

展開方法

  • コストと価値のバランスを調整し、シンプルな運営で安定化
  • 現地レビュー評価を活用してサービス改善を継続

美容(ケーススタディ)

技術の“見える化”により、品質のばらつきを抑えることがポイント

課題

  • 技術者の経験の差が大きく、品質をそろえるのが難しい
  • カウンセリングの説明量が多すぎる
  • 日本式の衛生基準やサービス姿勢を現地でどう伝え浸透させるか

打ち手

  • 施術手順を動画と写真で可視化
  • 説明内容の「短く・わかりやすい」版を作成
  • 現地スタッフが安心して働ける評価制度を導入

展開方法

  • 施術品質が安定し、リピート率が向上
  • 現地スタッフの負担が減り、離職率の低下にもつながる

ITサービス(ケーススタディ)

“ローカリゼーションと改善スピード”で導入率を高める

■ 課題

ITサービスは、飲食や美容と違い、提供価値がプロダクトそのものに紐づきます。

そのため 日本仕様のままでは、現地企業の業務フローにフィットしない という壁に直面します。

承認プロセス、権限設計、通知文化、料金感覚まで国ごとに異なり、「翻訳はできても、実務では使われない」という問題が起こりやすいのが特徴です。

さらに海外市場は競合SaaSが豊富で、比較される前提で戦う必要があります。

■ 打ち手

成功企業が共通して行っているのは、“現地での使われ方”の再定義 です。

  • 5〜10社の現地企業にヒアリングし、実際のワークフローを把握する
  • UI文言・設定構成・通知方法・料金プランを現地向けに最適化
  • 「機能追加」よりも 改善サイクルの速さ に価値を置く
  • 導入支援では“プロダクトの説明”ではなく、現地の業務に組み込む支援 を重視
  • 国ごとに異なるサポート期待値(チャット/電話/メール)に合わせて体制を変える

ポイントは、ローカライズを翻訳作業ではなく プロダクトの再設計 として捉えることです。

■ 展開方法

現地企業の実務に自然に入り込む仕様に整えた結果、

  • 「使いやすさ」より「適合度」が評価され導入率が上昇
  • 改善スピードの速さが口コミで広がり、競合との差別化要因に
  • 導入支援とサポートが長期利用の決め手となり、解約率が低下

ITサービスの海外展開は、プロダクト力 × ローカライズ力 × 運用の速さ で勝負が決まります。

以上、ーーー実例とケーススタディーーー、どちらにも共通するのは、現地の前提をよく理解し、サービスの提供方法を現地仕様に再設計する姿勢です。

同じサービスでも市場ごとに“価値の感じられ方”は大きく異なるため、柔軟に調整できる企業ほど立ち上がりがスムーズになります。

中小サービス企業の海外進出は「準備力」で決まる

サービス業の海外展開は、文化や価値観の違い、スタッフ教育、サービス内容の再設計など、考えるべき項目が多く、難易度が高いと言われがちです。

しかし、実際に成果を出している企業に共通しているのは、特別な資本力ではなく、“進出前の準備をどれだけ丁寧に積み重ねられたか” という点です。

日本のサービス品質は海外でも評価されやすく、独自の価値をつくりやすいため、前提条件を押さえ、現地仕様に調整するだけで、事業は十分に成立します。

サービス業は顧客との接点が多く、改善サイクルを回しやすいという強みもありますので、小さく始めて改善しながら育てる進め方とも相性が良いです。

一方で、準備不足のまま進出してしまうと、現地との考え方の違いが表面化し、スタッフの育成やサービス品質の維持に大きな負担がかかります。

現地理解、教育体制、コミュニケーション、価格と運営のバランス調整など、初期の設計が整っていないと、立ち上がりに時間とコストがかかってしまいます。

サービス業の海外展開は「難しいかどうか」ではなく、自社がどれだけ情報を集め、現地向けに組み立て直し、改善できる仕組みを持てるかで結果が変わります。

準備の精度次第で中小企業でも十分に成功できます。

海外進出の相談はパコロアへ

海外展開は、情報が分散しており、自社だけで判断するには負担が大きくなりがちです。

特にサービス業の場合、現地の文化・顧客行動・スタッフ教育・コミュニケーションの違いが複雑に絡み合うため、外部の専門家と一緒に整理しながら進めることが、リスクを最小限に抑える一手になります。

パコロアでは、サービス業の海外進出に必要な以下の支援をご用意しています。

  • 海外市場調査(現地の価値観・顧客行動の把握)
  • 進出可否の判断材料づくり
  • サービス内容の現地仕様への再設計
  • スタッフ教育・評価制度づくり
  • コミュニケーション・カスタマーサクセス体制の構築
  • パートナー探索、商流づくり、販路開拓サポート

「まず何から始めればいいのか知りたい」「自社のサービスが海外で通用するのか判断したい」という段階でも大丈夫です。

小さく試しながら、確実に前へ進める方法を一緒に考えていきます。

海外進出を次の成長ステップとして検討されている方は、ぜひ一度無料相談をご利用ください。

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

著者プロフィールを見る

PaccloaQ

中小企業のコンサルティング&実務(OJT)支援ならパコロアにお任せください。
延べ1900社以上の海外進出支援実績