海外向けに製品を出すことになり、「英語の取扱説明書が必要だ」と言われたとき、多くの中小企業はまず翻訳を考えます。
しかし実務の現場では、日本語の取扱説明書をそのまま英訳したことで、海外で誤解が生じたり、想定外の問い合わせやクレームにつながったりするケースが少なくありません。
問題は英語力ではなく、翻訳に入る前の整理不足にあります。
本記事では、英語の取扱説明書を作成する前に、中小企業が必ず決めておくべき5つのポイントを、技術論や規格論に寄らず、実務目線で整理していきます。
英語の取扱説明書は「翻訳」から始めてはいけない
英語の取扱説明書が必要になったとき、多くの中小企業が最初に考えるのは「翻訳会社に依頼すること」や「機械翻訳を使うこと」です。
しかし実務の現場では、この順番そのものがトラブルの原因になることが少なくありません。
日本語の取扱説明書をそのまま英訳しても、海外の利用者にとって分かりやすい説明になるとは限らないからです。
よくある失敗は、英語表現の正しさばかりに意識が向き、そもそも何を、誰に、どこまで伝えるべきかが整理されないまま翻訳に進んでしまうことです。
その結果、海外ユーザーから想定外の質問が増えたり、安全に関わる注意点が正しく伝わらなかったりと、後から修正コストが膨らみます。
これは英語が苦手だから起きる問題ではなく、翻訳前の設計が曖昧なまま進めてしまうことが原因です。
英語の取扱説明書は、単なる日本語文書の置き換えではありません。
海外で製品を使う人の環境や前提条件、使われ方を踏まえたうえで、情報を取捨選択し、再構成する必要があります。
そのため、最初にやるべきことは翻訳ではなく、取扱説明書の目的と役割を整理することです。
次の章では、英語の取扱説明書を考えるうえで欠かせない「誰が、どこで、どう使うのか」という視点について具体的に見ていきます。
まず決めるべきは「誰が・どこで・どう使うか」
英語の取扱説明書を考える際、最初に整理すべきなのは文章表現や専門用語ではありません。
最も重要なのは、「この取扱説明書を、誰が、どこで、どのように使うのか」という前提条件です。
ここが曖昧なまま進むと、どれだけ正確に翻訳しても、海外では使いづらい説明書になってしまいます。
たとえば、製品を実際に操作するのが
現場作業者なのか、
代理店の技術担当者なのか、
それとも最終ユーザーなのか、によって、
必要な情報量や説明の深さは大きく変わります。
また、
工場内で使われるのか、
屋外なのか、
言語や文化の異なる複数の国で使われるのか、によっても、
注意点の伝え方は変える必要があります。
日本国内を前提に作られた取扱説明書は、こうした前提条件が暗黙のうちに省略されていることが少なくありません。
さらに、「どこまで説明するか」という線引きも重要です。
すべてを丁寧に書こうとすると、情報量が増えすぎてかえって読まれなくなります。
一方で、省略しすぎると安全面や操作ミスにつながるリスクが高まります。
このバランスを決めるためにも、利用者像と使用シーンを具体的に想定することが欠かせません。
英語の取扱説明書は、万能な説明書を目指すものではありません。
限られた紙面や画面の中で、誰に何を伝えるかを選び取る作業です。
次の章では、その判断を踏まえたうえで、英語取扱説明書に最低限必要な構成と考え方について整理していきます。
英語取扱説明書の最低限の構成と考え方
英語の取扱説明書を作成する際、最初から国際規格に完全対応した内容を目指す必要はありません。
特に初めて海外向けに製品を出す中小企業の場合、重要なのは「最低限、何が伝わっていないと困るのか」を見極めることです。
構成を考える際は、網羅性よりも実用性を優先するほうが、結果的にトラブルを減らせます。
最低限押さえるべきなのは、
製品の概要、
基本的な操作方法、
注意すべきポイント、
そして困ったときの対処方法、です。
日本の取扱説明書では、前提知識として暗黙に省かれている情報が多く含まれていますが、海外ではその前提が共有されていないことがほとんどです。
そのため、製品の使い始め方や、してはいけない操作を明確に示すことが重要になります。
また、構成を考える際には「読む順番」も意識する必要があります。
最初から細かい仕様や補足説明を並べるよりも、まず安全に使うための最低限の情報を前に出し、その後に詳細を補足する形のほうが、海外ユーザーにとって理解しやすくなります。
すべてを同じ重さで並べるのではなく、優先順位をつけて配置することが大切です。
英語取扱説明書は完成品ではなく、使われながら調整されていくものです。
まずは最低限の構成で公開し、実際の問い合わせや反応を見ながら改善していく前提で考えるほうが、現実的な運用につながります。
次の章では、その構成を英語に落とし込む際に多くの企業が悩む、機械翻訳との向き合い方について整理します。
機械翻訳は使っていい?ダメ?実務での現実解
英語の取扱説明書を作るとき、多くの中小企業が悩むのが「機械翻訳を使ってよいのか」という点です。
結論から言えば、機械翻訳は使っても構いません。
ただし、使い方を誤ると、後工程で大きな修正コストやリスクを抱えることになります。
問題になりやすいのは、翻訳精度そのものではなく、日本語原稿の状態です。
日本語の段階で主語や責任範囲が曖昧な文章、前提条件が省略された表現、社内向けの言い回しが残っていると、機械翻訳によって意味が変わって伝わる可能性が高くなります。
その結果、「英語としては正しいが、意図とは違う」文章が量産されてしまいます。
一方で、日本語原稿が整理されていれば、機械翻訳は十分に実務で使えます。
操作手順や注意喚起など、構造がはっきりしている部分は、下訳として活用することで作業効率を大きく高められます。
重要なのは、機械翻訳を最終成果物にしないことです。
あくまで叩き台として使い、最終的な表現や責任の所在は人が確認する前提で進める必要があります。
翻訳会社に依頼する場合でも、機械翻訳を使わないほうがよいとは限りません。
事前に日本語原稿を整え、どこが重要で、どこは簡略化してよいのかを共有しておくことで、翻訳の質とスピードは大きく変わります。
次の章では、翻訳された文章を「読まれる取扱説明書」にするための、デザインやアクセシビリティの考え方について見ていきます。
海外ユーザーに伝わるためのデザインとアクセシビリティ
英語の取扱説明書というと、文章の正確さに意識が向きがちですが、実際に海外で使われる場面では「読む以前に、見て理解できるか」が重要になります。
特に英語が母語でないユーザーにとっては、文章量が多いだけで心理的なハードルが高くなり、必要な情報が読まれないまま使われてしまうことも少なくありません。
そのため、デザインやレイアウトは単なる見た目の問題ではなく、情報伝達の一部として考える必要があります。
文字サイズが小さすぎないか、
行間が詰まりすぎていないか、
重要な注意点が他の情報に埋もれていないか、といった点は、
海外ユーザーの理解度に直結します。
色の使い方も同様で、警告や注意を示す色が分かりにくいと、意図が正しく伝わらない可能性があります。
また、アクセシビリティの視点も欠かせません。
高齢者や視力の弱い人、スクリーンリーダーを使う人がいることを前提に考えると、画像だけで意味を伝えない、構造的に情報を整理する、といった配慮が必要になります。
これは特別な対応ではなく、「誰にでも使いやすい取扱説明書」を目指すための基本的な考え方です。
英語の取扱説明書は、文章とデザインが一体となって初めて機能します。
翻訳された文章が正しくても、読みづらければ意味は伝わりません。
次の章では、作成した取扱説明書をそのままにせず、改善を回していくための考え方について整理します。
作って終わりにしない:フィードバックと改善の回し方
英語の取扱説明書は、一度作って完成するものではありません。
実際には、海外で使われ始めてから初めて「伝わっていない部分」や「誤解されやすい箇所」が見えてきます。
問い合わせやクレームが出たとき、それを失敗と捉えるのではなく、改善のヒントとして扱えるかどうかが、その後の運用を大きく左右します。
よくあるのは、海外からの質問をその場しのぎで対応し、取扱説明書自体は更新されないまま放置されてしまうケースです。
この状態が続くと、同じ質問が何度も繰り返され、担当者の負担が増えるだけでなく、情報の不整合も生じやすくなります。
英語の取扱説明書は、問い合わせ対応の履歴を反映させることで、少しずつ精度を上げていくことができます。
改善を回すために、最初から大がかりな仕組みを用意する必要はありません。
どの部分で質問が多いのか、どの操作で誤解が起きやすいのかを簡単にメモとして残し、定期的に見直すだけでも十分です。
重要なのは、誰が更新判断をするのか、どのタイミングで見直すのかを社内で決めておくことです。
英語の取扱説明書を改善していく過程は、海外ユーザーとの接点を整理する作業でもあります。
取扱説明書を通じて何が伝わり、何が伝わっていないのかを把握することで、次の製品や次の海外展開にも活かせる知見が蓄積されていきます。
次の章では、こうした運用を前提に、取扱説明書を紙だけで考えないためのデジタル活用について見ていきます。
紙だけで考えない:英語取扱説明書のデジタル活用
英語の取扱説明書というと、いまだに「紙で同梱するもの」というイメージを持たれがちですが、海外では必ずしもそれが前提ではありません。
むしろ、紙の取扱説明書は最低限にとどめ、詳細な情報はデジタルで補完するという考え方のほうが現実的です。
特に情報量が多くなりがちな英語取扱説明書では、この発想が運用面で大きな差を生みます。
デジタル化のメリットは、更新のしやすさにあります。
紙の場合、一度配布してしまうと修正が難しく、誤りや改善点があっても反映までに時間とコストがかかります。
一方、PDFやWebマニュアルであれば、改善点をすぐに反映でき、常に最新の情報を提供することが可能です。
前章で触れた改善サイクルとも相性が良く、取扱説明書を「育てる」運用がしやすくなります。
また、動画や図解、検索機能など、デジタルならではの表現を組み合わせることで、文章だけでは伝わりにくい操作や注意点を補足できます。
英語が得意でないユーザーにとっても、視覚情報があることで理解のハードルは大きく下がります。
最初からすべてを盛り込む必要はありませんが、将来的な拡張を見据えて設計しておくことが重要です。
英語の取扱説明書をデジタルで考えることは、英語対応そのものを楽にするだけでなく、他言語展開や海外向け情報発信にもつながります。
取扱説明書を単独の成果物として扱うのではなく、海外展開全体の情報設計の一部として捉えることで、無理のない運用が可能になります。
英語の取扱説明書は海外進出の一部として考える
英語の取扱説明書は、単なる翻訳物ではなく、海外で製品をどう使ってもらうかを設計する作業です。
翻訳前に整理すべきことを決めておくだけで、後の修正コストやトラブルは大きく減らせます。
一方で、自社だけで判断しきれない点や、「これで十分なのか不安」という状態のまま進んでしまうケースも少なくありません。
パコロアでは、英語の取扱説明書を含め、海外進出全体の流れの中でどこまで対応すべきかを整理する無料相談を行っています。
今の進め方が適切か、一度立ち止まって確認したい場合は、お気軽にご相談ください。