インバウンド事業というと、ホテルや飲食店、観光施設など、訪日外国人を直接受け入れるビジネスを思い浮かべるかもしれません。
しかし実際には、商品販売や体験サービス、インバウンド事業者へのBtoB支援、海外企業の来日支援など、その形はさまざまです。
中小企業でも、すでに持っている商品、技術、設備、人材などを活かして事業化できる可能性があります。
本記事では、インバウンド事業の代表的な事業例を紹介しながら、自社で取り組める可能性を判断する5つのポイントと、始める際の注意点を解説します。
インバウンド事業とは何か
インバウンド事業とは、訪日外国人を対象に商品やサービス、体験などを提供し、収益を得るビジネスを指します。
観光、宿泊、飲食、小売などが代表的ですが、インバウンド事業は観光業だけのものではありません。
たとえば、次のような事業も含まれます。
- 訪日客向けの商品販売やサービス提供
- 体験型プログラムや研修、学習サービス
- インバウンド対応を行う企業へのBtoB支援
- 海外企業が日本で展示会や商談を行う際の支援
インバウンド事業と海外進出の大きな違いは、基本的に「顧客が日本に来る」ことです。
海外に拠点を設けたり、商品を輸出したりしなくても、国内にある店舗、設備、技術、人材などを活かして海外顧客とのビジネスをつくれる場合があります。
では、実際にどのようなインバウンド事業があるのでしょうか。次に、中小企業が関わることのできる代表的なタイプを見ていきます。
インバウンド事業の代表的な4タイプと事業例
インバウンド事業には、外国人旅行者を直接顧客とするものだけでなく、インバウンドに取り組む企業や、来日する海外企業を支援するBtoB事業もあります。
代表的な4つのタイプを見てみましょう。
1.来店・来場型
訪日外国人が店舗や施設を訪れ、商品やサービスを購入するタイプです。
飲食店、小売店、宿泊施設、観光施設のほか、工房やショールームなどへの来訪も含まれます。
既存の店舗や商品を活用しやすい一方、外国人にも分かりやすい案内、予約、決済、接客などの準備が必要になります。
2.体験・サービス提供型
日本でしかできない体験や学習、サービスそのものを商品として提供するタイプです。
例えば、料理や伝統工芸の体験、工場・工房見学、地域ツアー、文化体験、研修プログラムなどが考えられます。
普段は商品として販売していない技術や場所、文化などが、外国人にとっては体験価値になることもあります。
3.インバウンド事業者を支援するBtoB型
外国人旅行者を直接顧客とするのではなく、インバウンドに取り組む企業や地域を支援する事業です。
多言語対応、予約・決済システム、Webや集客支援、通訳、運営支援など、訪日外国人の増加によって新たに必要になるサービスを提供します。
自社がすでに持っている技術やサービスを、インバウンド事業者向けに展開できる場合もあります。
4.海外企業の来日を支援するBtoB型
観光客ではなく、日本でビジネスを行う海外企業を顧客とするインバウンド事業もあります。
例えば、海外企業が日本の展示会やイベントに出展する際のブース設計・施工、運営支援、商談のサポート、日本企業との調整などです。
このタイプでは、語学力だけでなく、日本の商習慣や業界ルールを理解し、海外企業が日本で事業活動を行えるよう実務を支えることが価値になります。
このように、インバウンド事業は観光客を集めるビジネスだけではありません。既存の商品やサービス、技術、設備、専門性を「日本に来る外国人や海外企業」という新しい顧客に提供できないかという視点で考えると、中小企業にもさまざまな可能性があります。
【パコロアの支援事例】
パコロアでは、ある日本企業のインバウンド海外事業をゼロから立ち上げ、海外企業からの問い合わせ対応から受注までの仕組みづくりを支援しています。
海外案件の比率は前年の2%から6%へ拡大し、現在も海外企業からの受注が続いています。
中小企業がインバウンド事業を始める前の5つの判断ポイント
インバウンド事業の形が見えてきたら、次は自社で事業として成立する可能性があるかを確認します。
訪日外国人が増えていることと、自社のインバウンド事業が利益を生むことは別です。始める前に、次の5つを確認してみましょう。
1.外国人から見ても価値のある商品・サービスか
日本で売れている商品やサービスが、外国人にも同じ理由で選ばれるとは限りません。
一方、自社では当たり前だと思っている技術、製造工程、地域性、文化、サービスなどが、外国人から見ると特別な価値を持つこともあります。
「外国人向けに何か新しいものをつくる」と考える前に、まず既存の商品やサービスの何が評価される可能性があるのかを確認してみましょう。
2.誰から、どのように収益を得るのか
インバウンド事業では、「外国人が来る」だけでは売上にはなりません。
商品を購入してもらうのか、体験料や参加費を受け取るのか、企業から業務を受託するのかによって、必要な準備も収益のつくり方も変わります。
誰が顧客で、何に対して、いくら支払うのかを具体的にできるか確認しましょう。
3.外国人対応を特定の人に依存しないか
「英語ができる社員がいるから大丈夫」と、その一人に問い合わせや接客、トラブル対応まで集中すると、通常業務にも影響します。
必要なのは全員が英語を話せることではなく、予約、問い合わせ、決済、接客、変更やトラブルなどについて、誰がどこまで対応するのかを決めておくことです。
4.追加コストを含めても利益が残るか
売上が増えても、外国人対応のための人件費や集客費、予約・決済システム、多言語対応などに費用がかかれば、思ったほど利益が残らないことがあります。
売上だけでなく、インバウンド事業を行うことで新たに発生する費用や時間まで含めて採算を確認する必要があります。
5.既存事業と無理なく両立できるか
中小企業では、インバウンド事業だけのために新しい組織や人員を用意できるとは限りません。
既存の商品、設備、人材などを活用できるか。需要が増えたときにも通常業務が回るか。反対に需要が減ったときに、過剰な人員や設備を抱えないか。
インバウンド需要だけを前提にするのではなく、既存事業とのバランスも含めて考えることが重要です。
インバウンド事業を始めるときに注意したいこと
インバウンド事業では、外国人顧客との接点が増えることで、これまで国内取引ではあまり意識していなかった対応が必要になることがあります。
特に、次の点は事業を始める前に確認しておきましょう。
予約・変更・キャンセル条件を明確にする
予約が必要なサービスでは、キャンセルや日程変更、遅刻、人数変更などが発生することがあります。
どこまで変更できるのか、キャンセル料はいつから発生するのか、返金はどのように行うのかなどを事前に決め、外国人にも分かる形で案内しておくことが重要です。
料金に含まれる範囲を明確にする
体験サービスやBtoB支援では、当初の依頼から追加対応が発生することもあります。
基本料金に何が含まれるのか、追加料金が発生するのはどのような場合かを明確にしておくと、顧客との認識違いを防ぎやすくなります。
特に海外企業とのBtoB取引では、変更対応、追加作業、通訳、現場対応など、どこまでを契約範囲とするのかを書面で確認しておきましょう。
多言語化やシステム導入だけで終わらせない
外国語のWebサイトや予約システムを用意しても、その後の問い合わせや変更、トラブルに対応する人がいなければ、事業は回りません。
ツールを導入すること自体を目的にせず、問い合わせを受けた後に誰が対応し、受注や来店までどうつなげるのかまで考えておく必要があります。
インバウンド専業にしない、という判断が事業を長持ちさせる
インバウンド需要は、為替や景気、国際情勢などの影響を受けるため、常に同じ水準で続くとは限りません。
特に中小企業では、最初からインバウンド専用の人員や設備を大きく増やすのではなく、既存事業を活かしながら需要に応じて対応を広げられる形も検討してみましょう。
例えば、通常は国内顧客向けに使っている店舗や工房で外国人を受け入れる、既存の商品を訪日客にも販売する、国内企業向けに提供している専門サービスを来日する海外企業にも提供するといった方法です。
インバウンド需要が増えれば比重を高め、減ったときには既存事業へ戻せる。こうした柔軟性を持たせておくことも、中小企業がインバウンド事業を継続するための一つの方法です。
インバウンド以外にも、海外顧客と取引する方法には、輸出や代理店販売、海外への直販などさまざまな形があります。
自社の商品や事業に合った方法を比較したい場合は、
→海外進出の形態を徹底比較!企業タイプ別おすすめ戦略と選び方ガイド
も参考にしてください。
インバウンド事業を始めるときの進め方
自社でインバウンド事業に取り組む可能性が見えてきたら、最初から大きな投資をするのではなく、できる範囲から実際の反応を確認してみましょう。
まず既存の商品・サービスで試してみる
最初から外国人向けの新商品やサービスをつくる必要はありません。
既存商品の一部を外国人にも販売する、工房見学や体験を限定的に受け入れる、既存のサービスを海外企業にも提供するなど、現在の事業を活かして試せることから始めます。
実際に外国人顧客と接すると、どの商品に関心を持つのか、何を質問されるのか、どこで購入や申込みをためらうのかなど、事前の想定だけでは分からなかったことが見えてきます。
実際の反応と採算を確認する
試した後は、売上だけでなく、問い合わせ数、購入された商品、利用されたサービス、対応にかかった時間や費用なども確認します。
想定していた顧客とは違う国の人から反応があったり、自社では強みだと思っていなかった部分が評価されたりすることもあります。
そこで得た情報をもとに、続けるのか、内容を変えるのか、対象を広げるのかを判断します。
必要になった施策から整える
外国人からの問い合わせが増えた、予約時の説明に時間がかかる、帰国後にも購入したいと言われるなど、実際の課題が見えてきたら、それに必要な仕組みを整えていきます。
多言語サイト、SNS、予約・決済システム、外国語での案内なども、「インバウンド事業には必要だから」と最初から一式そろえるのではなく、実際の顧客の反応や課題に合わせて優先順位を決めるとよいでしょう。
インバウンド事業は、始めること自体が目的ではありません。
自社の商品やサービスにどのような海外需要があるのかを確かめながら、事業として続けられる形をつくっていくことが重要です。
自社の場合、どのような形でインバウンド事業を始められるのか、あるいはインバウンド以外の方法が向いているのか整理したい場合は、無料壁打ち相談(30分)をご利用ください。
【インバウンドシリーズ】
インバウンド事業を検討・実践するためのポイントをまとめたシリーズ記事です。ご関心に合わせてご覧ください。
インバウンド事業とは?中小企業の事業例と5つの判断ポイント(本記事)