
中小企業のみなさまが海外に製品や技術を提供する際、それが意図せず、兵器の製造や軍事転用に使われてしまう可能性があります。
こうしたリスクを防ぐために、日本では「外国為替及び外国貿易法(外為法)」に基づき、輸出貿易管理令による安全保障貿易管理が実施されています。
とくに高度な製品・部品・技術を扱う企業では、輸出審査や手続きが求められるケースもあります。
「うちの商品は関係ないと思っていたら実は該当していた…」という例も少なくありません。
本記事では、安全保障に関わる重要な制度である輸出貿易管理令について、「わかりやすく」「実務に沿って」ご紹介します。
該非判定の考え方や非該当証明の取り方、キャッチオール規制への対応方法などを、中小企業の担当者にも理解しやすい形で案内します。
※なお、2025年10月からは安全保障貿易管理の制度に大きな改正が予定されており、とくに
- 「通常兵器」に関するキャッチオール規制の強化
- 需要者の確認義務、
- ホワイト国(グループA国)向けの通知制(インフォーム要件)
など、実務に影響する変更が多数あります。
本記事では、こうした最新の制度改正内容もあわせて解説しています。
まず確認!規制外

すべての貨物や技術が輸出貿易管理令の対象になるわけではありません。
まずは「規制対象外」の代表例を確認してみましょう。
ここに当てはまる場合、特別な申請や審査手続きは原則不要です。
【輸出管理(安全保障貿易管理) 規制対象外貨物】
食品、たばこ、皮革とその製品、木材、書籍、天然繊維、メリヤス織物、衣類、履物、帽子、傘、つえ、家具、寝具、美術品など。
(但し、人造繊維、中古衣類、真珠、時計、楽器、おもちゃ、運動用具などは規制対象です。)
どう確認するの?

ご自身の商品が対象になるかは、経済産業省が公開している
「16 項貨物・キャッチオール規制対象品目表」で確認できます。
規制対象外であれば、経産省への許可申請などは不要です。
でも!「〇がついた」企業さまは、ぜひこの先の章も読んでください。
意外とある! 軍事転用のリスク

中小企業の皆さまでも、「うちの商品が!?」と驚かれるケースが実は少なくありません。
以下はすべて、民生品が軍事転用された事例です:
- 工作機械:
ウラン濃縮用の遠心分離機の部品加工に使われる - 不凍液・トリエタノールアミン(化粧品・シャンプー):
化学兵器(マスタードガスなど)の原料 - 凍結乾燥機:
生物兵器の製造装置として使われる - 高性能ジェットミル:
ミサイル用の固形燃料生成に使用 - 炭素繊維(釣竿・ラケット等):
ミサイルの構造部材に転用可能
技術の提供も規制対象になる?

はい、貨物だけではなく、「技術そのもの」も輸出とみなされ、審査対象になります。
以下のようなパターン、ありませんか?
- 外国人実習生・研究員の受け入れ:
開発中の設計やノウハウが共有されてしまう可能性 - 海外工場の設立・移転:
マニュアルや設計図、内蔵ソフト、工程表の共有 - 海外企業とのストレージ共有:
試作品や仕様書のやりとり - 一時帰国中の日本人(非居住者):
紙、メール、CDROM、USBメモリ等の記憶媒体提供
これらは「技術の提供」として扱われるケースがあり、安全保障審査の対象になる可能性があります。
「うちは関係ないと思ってたけど…」という方ほど、ぜひこの基本チェックをしてみて下さい。
次は、「じゃあ非該当だったら何を出すの?」という非該当証明書について案内していきます。
出典元:
経済産業省 安全保障のための輸出管理
経済産業省 安全保障貿易管理ハンドブック2019
経済産業省 安全保障貿易管理 Q&A技術関連
経済産業省 安全保障貿易管理について 令和2年
キャッチオール規制の新設(2025年改正)
2025年10月の制度改正により、「通常兵器キャッチオール規制」という新しい規制枠が加わります。
これは、軍事転用されるおそれのある「汎用品」についても、用途や需要者によっては規制対象となるしくみです。
たとえば、これまで「該非判定で非該当だったから安心」とされていた工作機械や分析装置などが、
「軍事利用の疑いがあるユーザー宛」
「武器開発用途の懸念がある」場合には、
許可申請が必要になるケースが発生します。
また、技術提供についても
「提供先が武器開発に関与しているかどうか」といった、
需要者のチェックが求められる場面が増えます。
制度の背景にあるのは、「民生品でも戦略物資になりうる」時代への対応です。
まさに本章で紹介している事例こそ、新しい制度の重点対象に位置づけられているとも言えます。
非該当証明とは

シャンプーや釣竿が軍事転用されるなんて…本当に驚きました。
図面や技術支援にも気をつけないといけないとは…。
でも正直、うちの商品は普通の工業製品でして…。
兵器なんて関係ないと思うのですが、
「キャッチオール規制の対象品目」に〇がついていて。
これはどういう意味なんでしょうか?

〇がついていたということは、その商品が「キャッチオール規制の対象」になっているという意味です。
でも、安心してください。
キャッチオール規制の対象でも、輸出先や用途が適正であれば、経済産業省への輸出許可は不要です。
とはいえ、税関では、通関手続きの際、「該非判定」を正しく行ったかどうかが問われます。
そのため、判断の根拠資料とあわせて「非該当証明書」をあらかじめ用意しておくとスムーズです。
非該当証明書とは?
- 海外企業から問い合わせや受注があった際に備え、輸出者が事前に作成しておく
- 形式は自由ですが、経済産業省の参考様式が公開されています
- 国際輸送会社などを通じて、税関への提示資料にもなります
詳しくは経済産業省 安全保障貿易管理 非該当証明書 (参考様式)を参照して下さい。

「輸出管理」「安全保障貿易管理」「安全保障輸出管理」…全部ちがう制度なんですか?
似たような名称も多くて混乱中です。

同じです、表現が違うだけで、意味はほぼ同じです。

「輸出貿易管理令」と「輸出令」も?

こちらも同じです。
それぞれの「別表」も、内容は一緒です。
この制度、結局なに?

つまりこれは、特定の貨物や技術を輸出する場合、国の許可が必要になることがあるという制度なんです。
制度の根拠は「外国為替及び外国貿易法(外為法)」で、
経済産業大臣が用途などに懸念があると判断した場合、許可制になります。

経済産業大臣の許可…
なんか、だんだんスケールが大きくなってきました…

そうなんです。
でも慌てず、ルールを知って、必要な対応を先回りしておくことが大事なんです。
非該当証明の注意点(2025年改正)
2025年10月からの制度改正では、キャッチオール規制の対象が「大量破壊兵器関連」だけでなく、通常兵器関連にも広がることになりました。
これにより、「非該当証明書の作成が必要なケース」が増加する可能性があります。
とくに次のような場面では、税関や顧客からの確認が厳しくなることが予想されます:
- 軍事転用リスクがあるとされる商品(分析機器、材料系など)
- 輸出先が「懸念国」または、特定のユーザー(エンドユーザー)である場合
- 輸出者が「用途確認・需要者確認」を怠ったと見なされる場合
このため今後は、非該当証明書に記載する根拠や判断理由も明確にしておくことが、より一層重要になります。
リスト規制と用語

リスト規制に該当する貨物や技術は、以下のように分類されています。
- 武器
- 原子力
- 化学兵器
- ミサイル
- 先端素材
- 材料加工
- エレクトロニクス
- 電子計算機
- 通信
- センサー
- 航法装置
- 海洋関連
- 推進装置
- その他
- 機微品目(重要技術に関するもの)
マトリクス表での確認方法

貨物に該当するか調べたい場合は、以下のExcelマトリクス表を使います:
- 貨物 → 「輸出令・別表第1」の1~15項(貨物マトリクス表)
- 技術 → 「外為令・別表」の1~15項(技術マトリクス表)
こちらで最新版がダウンロードできます:経済産業省 安全保障貿易管理 マトリクス表
該非判定は自社だけで難しい?

すでに商社経由で間接輸出の経験がある中小企業の方は、過去に「該当・非該当証明書」を作成したことがあるかもしれません。
でも初めての輸出や海外取引の場合、
自社製品がこのリスト規制に本当に該当するのかどうかを自力で判定するのはかなり難しいです。
検索に使えない用語がある?読替が必要!

マトリクス表で使われている用語は、法令上の専門用語で記載されています。
そのため、自社で日常的に使っている言葉で検索してもヒットしないケースがあるんです。
以下は「一般的な呼び名」と「マトリクス表における記載例」の読替例です。
- Wi-Fi機器 → 無線通信装置
- 電動工具 → 回転制御装置
- ノートPC → 情報処理装置
このように「読替」が必要です。
下記のような対応表(例)を必ず参考にして、正しい項目で検索してください。
読替が必要な用語(例)一覧表

出典元:経済産業省 安全保障貿易管理 貨物・技術のマトリックス

「うちはマトリクスで確認済み!」という方でも、
言葉の違いだけで対象品目を見落とすケースもあるので、読替表は要チェックです。
次は、該非判定の流れと、リスト規制をどのように確認していけばよいかを見ていきます。
「読替ミス」に要注意(2025年改正)
今回の制度改正では、リスト規制とは別に、通常兵器に関するキャッチオール規制が導入されます。
これにより、たとえマトリクスで「非該当」と判断された製品でも、輸出先やユーザー、用途によっては許可が必要となるケースがあります。
このとき、「用語の誤読=本当は対象だったのに見落とし」が、制度違反(=無許可輸出)とされる可能性が高くなります。
とくに以下のようなパターンは注意:
- 一般名で検索して該当なし→実は法令上の別名でリストに載っていた
- 社内では略語で呼んでいて、該非判定の際にチェック漏れ
- 自社では部品単体で管理しているが、法令上は装置単位で規制対象
今後は「読替を前提としたマトリクス検索」が、ますます重要になります。
該非判定の方法
まずは自社で確認したいなら?

自社内で「できれば自力で該非判定をしたい」という場合、
まず参考にしたいのが、CISTECの『該非判定超入門(PDF)』です。
手順がシンプルかつ図入りで紹介されていて、初心者でも理解しやすい内容になっています。
難しい場合はプロに頼るのもアリ!

途中で「もう無理かも…」と思った方、大丈夫!
CISTECの有料相談(該非判定支援)を利用する方法もあります。
費用は発生しますが、正確な判定が必要なケースではリスク回避として効果的です。
該非判定支援もアップデートに注目(2025年改正)
2025年10月の制度見直し以降、該非判定に必要とされる根拠や記載内容について、より明確かつ詳細な説明が求められるようになります。
そのため、従来の「CISTEC 該非判定超入門」などのガイドラインも、内容の見直しが行われる可能性があります。
また、「自己判定」だけで該非証明を作成していた企業が、通関時に追加質問や確認を受けるケースも想定されるため、専門機関の支援や外部アドバイザーの活用を検討する中小企業が今後増えることも考えられます。
キャッチオール規制とは

さて、ここからはキャッチオール規制の確認方法についてお話しします。
確認ポイントは2つだけ!仕向け地と用途
まず確認すべきは以下の2点です:
- リスト規制に該当しないこと(前提条件)
- 仕向地がどこか、何に使うか(用途)
許可申請が不要な仕向け地(一覧)
次の国へ輸出する場合、許可申請は原則不要です:
- アルゼンチン
- オーストラリア
- オーストリア
- ベルギー
- ブルガリア
- カナダ
- チェコ
- デンマーク
- フィンランド
- フランス
- ドイツ
- ギリシャ
- ハンガリー
- アイルランド
- イタリア
- ルクセンブルク
- オランダ
- ニュージーランド
- ノルウェー
- ポーランド
- ポルトガル
- スペイン
- スウェーデン
- スイス
- 英国(イギリス)
- アメリカ合衆国
懸念される用途の具体例
以下の用途に使われる恐れがある場合、輸出許可が必要になる可能性があります:
- 核兵器
- 軍用の化学製剤
- 軍用の細菌製剤
- 化学・細菌製剤の散布装置
- 300km以上飛ぶロケット
- 300km以上飛ぶ無人航空機
- 核燃料物質または核原料物質の開発
- 核融合に関する研究
- 原子炉(発電用軽水炉以外)の開発
- 重水の製造
- 核燃料物質の加工・再処理
- a. 化学物質の開発・製造
- b. 微生物や毒素の開発・製造
- c. ロケットや無人航空機の開発
- d. 宇宙関連研究
また、次の国々に向けた輸出で、通常兵器開発等への懸念がある場合も要注意です:
- アフガニスタン
- 中央アフリカ
- コンゴ民主共和国
- イラク
- レバノン
- リビア
- 北朝鮮
- ソマリア
- 南スーダン
- スーダン
最終判断のポイントまとめ

3ステップで判断できます:
- 該当しない場合 → 輸出OK(許可不要)
- 需要者が不明な場合 → 慎重に対応し、必要に応じて確認書類保存
- 外国ユーザーリスト非該当なら → 基本的に申請不要
最終的に懸念があれば、経済産業省へ個別に申請や相談しましょう。

出典元:経済産業省 安全保障貿易管理 申請手続き
経済産業省 安全保障貿易管理 申請、相談に関する通達
通常兵器にも拡大!キャッチオール新規制(2025年改正)
これまで「大量破壊兵器関連」が主な対象だったキャッチオール規制ですが、2025年10月からは「通常兵器関連」にも対象が拡大されます。
これにより、以下のような品目や用途に関する輸出も、懸念があると判断された場合には経済産業省の許可が必要になります:
- 防衛装備品として利用される可能性がある部品や装置
- 軍事研究・開発に使用される恐れのある材料や技術
- 輸出先やエンドユーザーが懸念対象国・組織に該当する場合
重要ポイント:
- 対象外だった製品も、「通常兵器リスク」があると判断されれば規制対象になる
- 仕向け地・用途・ユーザー確認がより厳格に求められる
- 外国ユーザーリストのチェックに加え、「需要者確認」「用途確認」の記録保存が今後ますます重要に
企業としては、今後以下のような対応が推奨されます:
- 取引先の用途確認フローを社内で明文化
- 社内教育で通常兵器関連の知識を共有
- 判断に迷う場合は経産省へ事前相談
技術提供も管理対象?もっと詳しく!

最初の章でお伝えしたとおり、貨物だけでなく「技術の提供」も輸出とみなされるため、
安全保障貿易管理では、しっかりと審査や手続きが必要になります。
ここでは、「どこまでが“技術”になるのか?」「どんな行為が対象なのか?」を、
もう少し踏み込んで紹介します。
技術の提供、どんなケースが対象?
たとえば、こんなケースも「技術の輸出」に該当する可能性があります:
- 海外向けマニュアルや技術仕様書の提供
- 外国からの実習生や研修生への技術指導
- 海外の子会社とのオンライン共有(ストレージ・クラウド)
- 図面やプログラムのメール添付送信
- 技術者派遣によるノウハウ移転
- 工場移転時のマニュアル・ソフト・工程表の提供
「モノは動いてないからセーフ」とは限らず、データ・会話・研修も対象になります。
技術とは?どんな範囲を指すのか
経済産業省では、「技術」として審査対象となる内容を以下のように定義しています:
製造工程“前”のすべて:
- 設計研究、設計解析、設計概念
- プロトタイプ製作および試験
- パイロット生産計画
- 設計データ
- 設計データを製品に変化させるプロセス
- 外観設計、総合設計、レイアウト
製造“中”の工程:
- 建設
- 生産エンジニアリング
- 統合、製品化
- 組立/アセンブリ
- 検査、試験
- 品質保証
製造“後”または周辺工程:
- 操作
- 据付
- 保守(点検)
- 修理
- オーバーホール
- 分解修理 など
図面だけでも、工程表だけでも対象になるケースがあります!
情報そのもののやりとりが“技術の輸出”になると考えるのがベースです。
(※以上の技術定義・事例はすべて、前述の出展元に基づいて構成しています。)
技術提供の管理強化に注意(2025年改正)
2025年10月の制度改正では、「技術の提供」に関する規制もより厳密な運用が求められる見込みです。
従来の「設計データ」や「研修指導」などに加え、以下のようなケースでも確認が強化される可能性があります:
- 外国籍スタッフへの社内共有(例:Slackや社内ストレージ上の閲覧)
- クラウド経由で海外との共同設計
- 技術仕様のバージョンアップやサブデータの再送信
特に、通常兵器に関連する技術の提供が懸念される場合には、許可制が適用される可能性もあります。
情報のやりとりがオンライン化している現在、意図せず規制に触れるリスクが高まっています。
今後は、社内での技術管理フローやアクセス制限ルールを見直すことも大切です。
これで輸出準備OK!

はぁ〜、難しかったです…。
でも、うちはリスト規制は関係なくて、キャッチオール規制の対象ってわかっただけでも進歩です。
客観要件も問題なさそうだったので、非該当証明書をWordで1枚作成して対応できそうです!
なんとか輸出いけますよね?
通関時によくある“あるある”確認事項

素晴らしい進み方です!
実は、輸出の現場では通関前や出荷直前に「○○という書類はありますか?」と聞かれること、よくあるんです。
たとえば:
- 輸出通関での「該非判定資料」の提示
- 国際輸送会社から「非該当証明書」や「用途確認書」の提出依頼
- 船積み・航空便の直前で「安全保障輸出管理上の確認」の連絡
でも、御社のように事前に情報を整理して、該非判定と書類を用意しておけば慌てません。
むしろこれだけ整っていれば、スムーズに手続きが進むはずです。

もう輸出できる気がしてきました!
あとは、注文さえあれば…

アハ、それが一番大事かもですね。
でも、制度を理解して準備を整えていることは、ビジネスチャンスへの第一歩です。
お疲れさまでした!
いかがでしたか。
輸出管理や技術提供の確認は、専門用語も多くて本当に大変ですよね。
今回の記事では「これだけやっとけばOK!」を目指して整理しましたが、実際の運用には個別の確認や体制づくりが重要です。
「うちの場合はどうすれば?」
「実際に輸出案件がきたらどう対応するの?」
そんなときは、パコロアのプロフェッショナルがしっかりサポートいたします。
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