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海外で“損しない”ための知的財産戦略|リスクと攻めの実践対策

公開 2025年9月4日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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Businessman holding a card that says Intellectual Property, symbolizing the importance of IP protection in global business.

製品やサービスを海外に展開する中で、

「模倣品が出回っていた」
「現地で商標を取られていた」

なんて話、実は他人事ではありません。

日本で通用したルールが、海外では通じない――これは知的財産の世界でも同じです。

本記事では、「損しないための」知的財産戦略をテーマに、海外ビジネスで見落としがちなリスクや、攻めの対応策を実務目線で解説します。

  • 海外で特許や商標をどう守るの?
  • 先に取られたらどうすればいい?
  • 「契約で守る」って、具体的にどうするの?

そんな疑問に応える内容を、チェックリスト付きでお届けします。

海外展開を検討中の企業はもちろん、すでに進出済みの企業も必見です!

なぜ今「知的財産」なのか?海外展開の落とし穴

「知財」と聞くと、「うちのような中小企業には関係ない」と感じる方も多いかもしれません。

しかし実際は、製品名やロゴ、パッケージのデザイン、Web上のコンテンツなど、すでに多くの企業が知らず知らずのうちに知的財産をビジネスに活用しています。

国内では守られていた知財も、海外に出た瞬間に「無防備」になってしまうことがあるのです。

海外展開において知的財産が重要になる理由は、次の3つです:

  • 他社に模倣されたとき、守る手段がなければ泣き寝入りになる
  • 商標や意匠が先に現地で登録されてしまうと、訴訟リスクが発生する
  • 契約交渉で「知財の取り決め」が抜け落ちると、事業ごと奪われかねない

つまり、知財は防御ツールであると同時に、事業の“信用”や“交渉力”の源泉にもなるのです。

製造業、ソフトウェア、サービス業──業種に関係なく、知財を意識した戦略の有無が海外での成果を左右します。

海外での知的財産リスク、実はこんなにある!

「そんなに危ないの?うちは大丈夫」と思っていても、実際のトラブルは想像以上に身近です。

以下は、中小企業が実際に直面した海外での知財トラブルの例です:

  • 模倣品・海賊版が現地市場に出回り、価格競争に巻き込まれた
  • OEM委託先の工場が勝手にコピー品を流通させていた
  • 展示会で出した資料をもとに、別企業が特許出願していた
  • ブランドロゴを現地企業に先取りされ、自社で使えなくなった

さらに厄介なのは、「知らずに他人の知財を侵害していた」パターンです。

海外では同じ名称やデザインでも、すでに登録済みのケースが多く、自社が悪気なく使ったつもりでも、相手から訴えられることも。

また、国によって知財の制度・保護範囲・審査速度は大きく異なります。

たとえば:

  • 中国や東南アジア諸国:
    先願主義。登録していなければ保護されない。
  • EU諸国:
    商標の類似範囲が広く、意匠権の有効期間も異なる。
  • 米国:
    パブリシティ権(肖像や名前の商業利用)が問題になることも。

このように、「日本と同じ感覚」で海外展開すると、思わぬ落とし穴にハマるリスクがあるのです。

対策の第一歩は、「どこで」「何が」「どう守れるのか」を正しく理解すること。

次の章では、海外知財の基本的な考え方と制度をご紹介します。

特許・商標・意匠…どこまで守るべき?

海外で知的財産を守るには、限られた予算や人手のなかで、「何を守るべきか、どの国を優先すべきか」を見極めることが重要です。

ここでは、主要な知的財産の種類と、それぞれの国際的な保護のしくみを整理しておきましょう。

特許(Patent)

  • 守れるもの:
    技術、製品構造、製造方法などの新規アイデア
  • 注意点:
    国によっては「早い者勝ち」。製品を公表・販売する前に出願が必要です。

補足:PCT(特許協力条約)
   → 世界150カ国以上に向けて、一括出願が可能。
    出願から30カ月程度は各国への出願判断を猶予できます。

商標(Trademark)

  • 守れるもの:
    ブランド名、ロゴ、商品名、スローガンなど
  • 注意点:
    先に現地で商標を取られると、自社が使えなくなるリスクも。

補足:マドリッド協定議定書(マドプロ)
    → 一つの出願で複数国の商標保護を申請可能。
    WIPO(世界知的所有権機関)が取りまとめ、審査は各国が実施。

意匠(Design)

  • 守れるもの:
    商品の外観デザイン、パッケージ、UIなど
  • 注意点:
    コピーが容易な分、保護が重要。出願前にデザインを公開するとNGな国も。

補足:ハーグ協定
   → 複数国への意匠出願を一括で行える国際制度。
    登録・更新手続きも一元化できます。

テクノロジーで知財を守る!最新ツール活用術

海外での知財戦略は、もはや「人の目と経験」だけに頼る時代ではなくなっています。

AIやブロックチェーンといった新しい技術を活用することで、従来は難しかった監視や管理を効率化できるようになってきました。

AIによる特許調査と模倣品監視

かつては膨大な時間とコストを要した特許調査も、AIを活用することで短時間で効率的に行うことが可能です。

さらに、ECサイトやSNS上に出回る模倣品の監視も自動化できるツールが増えており、リスクを早期に発見しやすくなっています。

ブロックチェーンでの権利証明と契約管理

ブロックチェーン技術は、特許や著作物の存在を証明する「改ざん困難な記録」として活用が進んでいます。

また、国際契約における知財条項をスマートコントラクトで管理する取り組みも始まっており、将来的には契約不履行リスクの軽減につながると期待されています。

公的機関・無料ツールの活用

テクノロジーを積極的に取り入れることで、知財の守り方は「コストがかかる負担」から「効率的で持続可能な仕組み」へと変わりつつあります。

こうした仕組みをいち早く活用することが、海外での競争力維持にも直結します。

国際契約での「知財の地雷」と回避術

海外での事業展開では、契約書に知財に関する条項を盛り込むことが不可欠です。

ところが、契約交渉の場では価格や納期に意識が集中し、知財の取り扱いが十分に検討されないまま契約が結ばれるケースも少なくありません。

これは大きなリスクにつながります。

契約で明文化すべき知財条項

  • 知的財産の帰属先:
    共同開発や委託製造の場面では、成果物の知財を誰が所有するのかを明記しておくことが必須です。
  • 利用範囲とライセンス条件:
    知財を相手に使用させる場合、利用できる地域・期間・用途を明確にしておく必要があります。
  • 秘密保持義務(NDA):
    単なる秘密保持契約では不十分で、知財に関する情報の取り扱いを具体的に定めることが望まれます。

管轄・準拠法・紛争解決条項

国際契約では、どの国の法律に基づき、どの裁判所(または仲裁機関)で解決するのかを決めておかないと、万一のトラブル時に極めて不利な状況に陥る可能性があります。

知財紛争は国境をまたぐことが多いため、この条項は軽視できません。

文化・商習慣の違いが生む落とし穴

たとえば、日本では「当然守るべき」と考えられる慣行が、相手国では契約に明示されていなければ通用しないことがあります。

商標の使用範囲や成果物の再利用などを巡って、契約に書かれていなかったためにトラブルになるケースは少なくありません。

国際契約において知財条項を「抜け漏れなく」設けることは、訴訟リスクを減らすと同時に、取引先との信頼関係を保つ意味でも重要です。

海外進出を成功させるためには、契約の段階から知財を戦略的に位置づける姿勢が、中小企業にも欠かせません。

信頼できる現地パートナーの見つけ方

海外での知財戦略は、契約や出願といった「仕組み」だけで完結するものではありません。

実際の運用やリスク対応においては、現地の事情を理解し、誠実に協力してくれるパートナーの存在が不可欠です。

現地パートナーが果たす役割

  • 模倣品や不正流通の早期発見:
    現地市場での動きを敏感にキャッチできるのは、現地に根ざした企業や人材です。
  • 制度・商習慣のギャップ解消:
    知財制度やビジネス慣行の違いを橋渡しし、適切な対応を助けます。
  • トラブル時の初動対応:
    侵害や紛争が発生した際に、迅速に対応できる体制を整えるために現地の支援は欠かせません。

パートナー選びで重視すべきポイント

  • 信頼性の確認:
    過去の実績や取引先の評判を徹底的に調べること。
  • 知財への理解度:
    単なる販売代理や工場ではなく、知財保護の重要性を理解しているかどうかが鍵となります。
  • 契約条件の透明性:
    報酬体系や責任分担が不明確な相手は避けるべきです。

避けたい失敗例

  • 価格だけでパートナーを選んだ結果、知財の扱いがずさんでトラブルに発展
  • 「長年の知人だから大丈夫」と思い込み、契約を交わさずに進めてしまった
  • 現地企業の下請けを十分に管理せず、模倣品が流通してしまった

こうした失敗を避けるには、パートナー選びの重要性を理解しつつも、進出初期の現実的な課題にどう向き合うかを考える必要があります。

パートナーがまだいない場合の対応策

中小企業の多くは、進出初期の段階で信頼できる現地パートナーをすぐに確保できるわけではありません。

  • 展示会に出展したばかりで代理店やディストリビューターが見つかっていない
  • 数社の小売店に少量を海外販売しているだけ
  • あるいはBtoB取引で直接輸出しているが顧客以外のネットワークがない

といった状況は珍しくありません。

そのような場合は、以下のような方法が考えられます:

  • 展示会や業界イベントでネットワークを広げる:
    一度の出展で成果が出なくても、継続的に参加することで信頼関係を築けます。
  • 既存顧客からの紹介を依頼する:
    直接的に聞きにくい場合もありますが、限定的に「信頼できる弁理士や弁護士を知っているか」などを相談すると負担になりにくいケースがあります。
  • 現地の業界団体や商工会に参加する:
    公式の会合やネットワーキングを通じて、販売現場をよく知る企業や人材と接点を持ちやすくなります。

海外ビジネスにおける知財保護は、契約や出願と同じくらい「人選び」に左右されます。

信頼できる現地パートナーを見つけることは、長期的に安心して事業を継続するための土台となります。

今日からできる「知財戦略」3ステップ

海外知財への対応は、必ずしも大掛かりな体制から始める必要はありません。

まずは次の3つのステップを踏むことで、最低限の防御線を張ることができます。

ステップ1:自社の知的財産を棚卸しする

製品名、ロゴ、デザイン、技術、マニュアルなど、既に保有している知的財産を一覧化します。

「何が資産であるか」を明確にすることが第一歩です。

ステップ2:保護すべき範囲・国を絞る

全ての国に出願することは現実的ではありません。

進出予定の市場や模倣品が出やすい国を優先し、限られた予算を集中させます。

ステップ3:契約と出願で最低限の防御線を張る

販売契約や委託契約には知財条項を明記し、必要な特許・商標・意匠の出願を行います。

完全な網羅を目指すのではなく、「被害を最小限にする仕組み」を整えることが大切です。

海外進出を考えるすべての企業にとって、知財戦略は「守り」であると同時に「攻め」にもなります。

今日から始められる3つのステップを実行することで、将来のリスクを大きく減らすことができるでしょう。

ケーススタディ:守るだけでは足りない、攻めで成果を出す

失敗例:知財は守ったのに売上につながらなかったケース

  1. 中国で商標出願したが…
    出願は済ませたものの、並行して現地で販売代理店を確保しておらず、数か月後には模倣品がECで先行販売。

    ➡ 改善策:出願と同時に「現地販売チャネルをどう構築するか」を検討し、パートナー候補と早期に交渉しておくべきだった。
  2. 特許を取ったが活用できず
    日本で持っていた特許を海外出願したが、販路がないため自社だけでは販売が伸びず、結局模倣品にシェアを奪われた。

    ➡ 改善策:現地メーカーとライセンス契約を結び、販売網を活用する形にしていれば特許を収益化できた。

成功例:知財を“攻め”に使って成果を上げたケース

  1. 商標をブランド武器にした食品メーカー

    アジア進出時、商品名の商標を早期に登録し、現地小売チェーンと「商標使用許諾契約」を締結。

    模倣品排除と同時に、チェーン側がブランドを前面に押し出して販促してくれた。

    ➡ 結果:現地初年度からシェア獲得。商標が「販路開拓の交渉カード」として機能した。
  2. デザイン登録をライセンスした雑貨メーカー

    自社製品のユニークなデザインをハーグ協定で登録。

    現地のOEM企業に製造を委託しつつ「デザイン使用ライセンス」としてロイヤリティを受け取る仕組みにした。

    ➡ 結果:販売リスクを抑えつつ、知財収益を得られるビジネスモデルを構築。
  3. 技術特許を共同開発に活かした製造業

    特許を単に守るのではなく、現地パートナー企業と共同開発契約を結び「特許技術の一部を提供」する代わりに現地販路を確保。

    ➡ 結果:新市場に短期間で製品を投入でき、模倣リスクを下げながら売上を拡大。

守る知財から、活かす知財へ

直前のケーススタディでも見たように、知財は守るだけでなく、活かすことで事業の成長を後押しする武器になります。

例えば:

  • ライセンス契約による新市場開拓
  • ブランド力を高める商標戦略
  • 共同研究開発の契約

など、攻めの活用法を組み合わせることで、海外での競争力はさらに高まります。

チェックリスト:海外進出前に確認したい知財ポイント

海外での知財戦略は

「知っているか・準備しているか」

で結果が大きく変わります。

以下のチェックリストを活用して、進出前に最低限押さえておくべきポイントを確認しましょう。

  • 自社の知財(特許・商標・意匠・著作権など)を棚卸ししたか
  • 進出予定国で必要な出願を確認したか
  • 現地で商標や意匠を先取りされていないか調査したか
  • 販売契約や委託契約に知財条項を盛り込んだか
  • 信頼できる現地パートナーを確保、または見込みを立てているか
  • 模倣品対策や監視の仕組みを整えているか

このチェックリストを参考にすることで、抜け漏れを防ぎつつ、限られたリソースで優先順位をつけやすくなります。

海外進出・知財戦略はパコロアにご相談ください

海外知財は「守り」と「攻め」の両輪で考えることが重要です。

とはいえ、限られたリソースのなかで何から始めればよいか迷う企業も多いでしょう。

パコロアでは、中小企業の海外進出を支援する豊富な知見をもとに、実務で役立つ知財戦略の構築をお手伝いします。

具体的なリスク対策から、現地パートナーとの橋渡し、契約・出願のサポートまで、状況に応じたアドバイスをご提供します。

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小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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