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MTEP解散で見えたEU規制対応の盲点|中小企業が知っておくべき「相談の空白」時代

公開 2025年10月17日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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ALT: A small robot made of electronic parts holding a circuit board, symbolizing technical challenges after the MTEP dissolution.

2025年10月、東京都立産業技術研究センターが運営し、各公的試験研究機関などと連携してきた広域首都圏輸出製品技術支援センター「MTEP(エムテップ)」が、2026年3月をもって解散することを公表しました。

MTEPは、CEマーキングやREACH規制をはじめとするEUの安全規格や化学物質関連法令に対応する中小企業を支援してきた、関東圏(1都10県)を対象とする公設試験研究機関の連携組織です。

法規制・試験・翻訳・海外制度対応といった、企業単独では解決が難しい相談を、技術と法規の両面からサポートしてきた点で、関東の製造業にとって貴重な存在でした。

しかし今回の発表では、新たな統合組織を立ち上げるというよりも、各公設試験研究機関が地域ごとに独自に支援を行う分散型体制へと移行する方針が示されています。

つまり、これまでMTEPが担ってきた中央的な相談ハブ機能は失われ、相談内容によっては「どこに聞けばいいのか分からない」という状況が再び生まれかねません。

EU規制対応の現場が高度化するなか、行政の支援が薄くなることは中小企業にとって大きなリスクです。

本記事では、MTEP解散が意味する“支援の空白”を整理し、これから中小企業が取るべき現実的な備えについて解説します。

MTEPとは?なぜ中小企業にとって重要だったのか

MTEP(広域首都圏輸出製品技術支援センター)は、東京都立産業技術研究センター(地方独立行政法人)が事務局を務め、関東1都10県の公設試験研究機関と連携して運営していた支援組織です。

海外展開、とくにEU域内での化学物質を扱う企業に求められるREACH規制やRoHS指令、CLP規則やCEマーキング適合といった複雑な法令への対応をサポートしてきました。

各地域の試験研究機関や、かつて大手メーカーなどで品質管理や化学法規の実務を長年担ってきた専門家が協力し、技術試験・安全性評価・法規解釈・英語文書の確認など、中小企業が単独ではカバーしづらい分野をワンストップで支援できる点が最大の特徴でした。

MTEPのすごさは、欧米に進出した限られた民間大企業の現場で培われた国際実務の知見を、中小企業の海外展開にも還元できる“循環構造”を生み出したことにあります。

EU規制の実務のリアリティは、欧州のルール形成の現場でしか得られません。

行政でも大学でも、ビジネスの“落としどころ”までは教えられない領域でした。

実際に対応してきたのは、欧州の会議や現地当局との調整を、早くから自社予算を組んで行ってきた大企業の品質管理や法規対応の担当者たち。

MTEPには、そうした現場を渡り歩いた民間出身の専門家が集い、現場でしか得られない一次情報を中小企業に惜しみなく共有してきたという独自性がありました。

この体制は、海外経験の少ない中小製造業にとって、単なる行政支援ではなく、「技術と国際ルールの間をつなぐ知のハブ」、そして“オールジャパンによる援護射撃”として機能していました。

商社や民間コンサルでは担いきれない、初期フェーズでの法的・科学的判断を、中立的な立場から助言してくれる存在として、関東圏の製造業全般および、化学・素材系企業を中心に高い信頼を得ていたのです。

2025年10月、MTEPが解散──その公式理由と背景

2025年10月1日、東京都立産業技術研究センターのウェブサイト上で、「MTEP(広域首都圏輸出製品技術支援センター)が2026年3月末で解散すること」が正式に公表されました。

発表文によれば、背景には、

「中小企業が求める支援内容が多様化・高度化し、地域や各機関の実情に合わせたサービスが望まれるようになった」

という説明が添えられています。

つまり、従来のように1つの拠点が一律に相談を受けるよりも、各公設試験研究機関がそれぞれの判断で支援する方向へ移行する方針です。

ただし、現時点(2025年10月時点)では、解散後の具体的な新体制や後継組織の詳細は明示されていません。

公式ページでも「新たな支援体制や案内時期についてはお答えできかねます」とされており、

実質的には機能の再編というより、MTEPが担っていた横断的な相談窓口をいったん廃止する動きと見られます。

このため、これまでMTEPが果たしてきた

「技術・法規・翻訳・試験を横断的に相談できる場」

がなくなることで、地域ごとに支援内容の差が生じる可能性があります。

現場では今後、企業が個別にどの機関へ相談すべきかを判断する必要が生まれるでしょう。

MTEP解散で生まれた“相談の空白地帯”

MTEPが担っていた役割の希少性を踏まえると、「解散=単なる制度の整理」では済まない影響があります。

とくに懸念されるのが、“相談の空白地帯”の発生です。

これまで中小企業がMTEPに相談すれば、技術試験・法規対応・海外文書の整合性などを一体的に検討できました。

しかし、今後は試験機関・行政・民間コンサルが、それぞれ独立して対応する形となり、企業は自ら相談内容に応じて最適な窓口を探し続ける必要が出てきます。

この構造は、リソースの限られた中小企業にとって、「どこに何を聞けばよいのか分からない」状態を再び生み出すおそれがあります。

さらに、EU法規制は改訂サイクルが短く、規制解釈には科学的根拠と英文読解力の両方が求められます。

各試験研究機関は試験そのものの技術力は高いものの、海外制度の動向や企業の商流を踏まえた助言までは担いきれないのが実情です。

一方で、民間の専門コンサルタントは、MTEPに在籍していた専門家と似た経歴をもつ人材が多く、

大企業での経験や現地当局とのネットワークをもとに、高度な制度対応を有償で支援しています。

ただし、MTEPと民間コンサル、両者の違いは「支援の目的と段階」にあります。

民間コンサルは、すでに海外投入を決めた企業が予算をつけて依頼する“実務代行”型。

一方のMTEPは、「そもそもどこから手を付ければいいのか」という段階の中小企業に対して、

限られたコストで優先順位を整理し、最初の一歩を踏み出すための“道しるべ”を示してきました。

つまり、MTEPの存在意義は「競争相手としての民間支援」ではなく、情報が限られる中小企業の海外展開において、初動支援の芽を適切に育て、公的に下支えする仕組みにありました。

それゆえ、解散によって失われるのは単なる相談窓口ではなく、中小企業が最初に方向を定めるための羅針盤そのものなのです。

REACH・EU規制への対応をどう続ける?

MTEPの解散により、「公的な窓口にまず聞いて方向を定める」という選択肢がなくなりました。

では、中小企業はこれからどのようにEU規制対応を進めればよいのでしょうか。

結論から言えば、「正しい順番で、少しずつ社内の判断力をつける」ことが最も現実的な対応です。

REACHなどの欧州法規制は、最初から完璧を目指すよりも、

「(自社の)どの製品がEU域内に入る可能性があるのか」
「(自社の)どの化学物質がリスク対象か」

などをまず社内で棚卸しすることが出発点になります。

ここで重要なのが、“翻訳力のある担当者”を置くこと。

英語力というより、技術文書・安全データ・法規の意図を読み解き、

「これは義務」
「これは任意」
「これは要相談」

と切り分けられる人材を社内に一人でも置くことです。

外部の専門家に頼る場合は、単発のコンサル契約よりも、自社の担当者と二人三脚で情報を解釈してくれるパートナー型を選ぶことが重要です。

なぜなら、EU規制の現場では“答え”が一度で出ることは少なく、法改正や判例の解釈が動くたびに、都度の再検証が必要になるからです。

継続的に対話できる関係こそが、最も確実なリスク回避につながります。

脱MTEP時代をどう生きるか──支援に依存しない“現実対応力”を

MTEPの解散は、支援の終わりではなく、「支援は永続的ではない」という現実を私たちに突きつけた出来事です。

海外展開を目指す企業にとって、行政や公的機関の支援は心強い味方ですが、制度は常に変化し、時に途切れるものでもあります。

この不確実性こそ、何かに似ていませんか?

そうなのです。

実は、海外市場そのものが、まさにこの“不確実性”の上に成り立っています。

政策や補助制度は国ごとに変わり、為替や関税の動き一つで方針を修正せざるを得ない──
それが世界市場の“日常”です。

だからこそ、支援の有無を前提にせず、自ら情報を取りに行く姿勢が、海外展開を進める上での最も現実的な力になります。

他国の競合企業は、制度に守られるよりも、自力で情報を集め、専門家を探し、試行錯誤を重ねながら市場を開拓しています。

日本の中小企業も、同じ視点で動く時期に来ているのかもしれません。

とはいえ、どこから手をつけてよいかわからないという企業も多いはずです。

その場合は、まずは身近な自治体や、海外展開に精通した民間支援者など、一次相談ができる場を早めに持つことが重要です。

支援がなくともそうやってすぐに動ける企業は、不確実性の時代においても、きっと最後まで海外の競合企業に勝ち続けられるでしょう。

「海外展開できたら」ではなく、「海外展開すると決めている」──その意思こそが、支援の空白を超える最大の原動力です。

そして、本気で海外展開に挑む企業が、“自分で考え、動く力”を磨くようになるきっかけとなるなら——
それこそが、脱MTEP時代の最大の意義と言えるでしょう。

パコロアからのメッセージ

MTEPが担ってきたように、分野をまたぐ課題を俯瞰し、中小企業の“最初の一歩”を支える仕組みを持つことが、これからの時代に求められます。

パコロアでは、海外規制・展示会・販路開拓といった複合的なテーマを整理し、限られた予算でも「いまできること」を設計する支援を行っています。

EU規制対応や海外展開の初動でお困りの方は、まずは現状を整理する無料相談から始めてみませんか。

制度の空白が広がる今こそ、外部支援を“依存”ではなく“仕組み”として取り込むチャンスです。

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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