海外進出を検討し始めた中小企業の多くは、すでにある程度の情報収集は終えていることが多いものです。
市場規模、成長率、展示会、競合、成功事例。
しかし、必要そうな情報は一通りそろっているのに、なぜか判断がなかなか前に進まない・・・。
この状態に心当たりがある企業は少なくありません。
ここで問題になっているのは、情報不足ではありません。判断するための基準が定まっていないことです。
海外進出では、検討項目が一気に増えます。
どれももっともらしく見えるため、「判断しているつもり」になりやすい一方で、実際には決断に必要な軸が整理されていないまま、検討が止まってしまいます。
では、なぜ判断できないのか。
多くの中小企業は「判断基準がない」のではなく、「判断基準だと思っているものが、実は基準になっていない」状態に陥っているのです。
海外進出で判断が止まる本当の理由
海外進出が進まない企業の多くは、すでに何らかの判断をしています。
たとえば、
- 市場規模が大きいか
- 需要がありそうか
- 日本企業が多く進出しているか
- 展示会が開催されているか
これらは一見すると「判断基準」に見えます。
しかし実務では、ほとんど判断の決め手になりません。
理由は単純で、これらは条件であって、判断基準ではないからです。
条件はいくつ集めても、最終的な「やる・やらない」「どこから始める」を決めてくれません。
その結果、
「もう少し情報を集めてから」
「来期に検討し直そう」
という結論になり、海外進出は先送りされます。
必要なのは、正しい情報を増やすことではなく、判断の順番と基準を揃えることです。
次の章では、多くの中小企業が「判断基準だと思い込んでいるもの」と、そのズレについて整理していきます。
多くの中小企業が「判断基準」だと誤解しているもの
海外進出を検討する場面で、よく判断材料として挙げられるのが、市場規模や成長率、進出企業数といった数値情報です。
確かに、これらは無視できない要素ですし、調べやすいため最初に目が向きやすいポイントでもあります。
しかし、これらだけを根拠に進出判断をしようとすると、話は前に進みません。
なぜなら、これらは「その国が魅力的かどうか」を示す情報であって、「自社が進出できるかどうか」を判断する基準ではないからです。
たとえば、市場規模が大きくても、自社の商品や価格帯が受け入れられるとは限りません。
日本企業の進出実績が多くても、自社と同じビジネスモデルで成功しているとは限りません。
また、展示会が開催されている、現地代理店が存在する、といった情報も、進出の可能性を示す材料にはなりますが、それだけで判断はできません。
条件がそろっていることと、(自社にとっての)判断材料がそろっていることは、別だからです。
こうした情報を集めれば集めるほど、
「良さそうだけど不安もある」
「決め手がない」
という状態に陥りやすくなります。
多くの中小企業は、判断基準を持たずに検討しているのではありません。
自社にとって必要な判断材料を適切に整理しないまま、判断しようとしているのです。
では、海外進出を検討する際、何が自社にとっての判断材料になるのでしょうか。
次の章では、その考え方として、海外進出フレームワークの役割を整理していきます。
判断基準を整理するためのフレームワークという考え方
ここで登場するのが、海外進出におけるフレームワークです。
フレームワークというと、難しい理論や分析手法を思い浮かべるかもしれませんが、本来の役割はもっとシンプルです。
海外進出におけるフレームワークとは、
「何を判断材料として見るべきか」を整理するための枠組みです。
答えを出すためのものではなく、判断に必要な視点をそろえるために使います。
その代表例のひとつが、CAGEフレームワークです。
CAGEとは、次の4つの観点の頭文字を取ったものです。
- Cultural(文化的な違い)
- Administrative(制度・法規制・商習慣の違い)
- Geographical(地理的距離・物流・時差)
- Economic(所得水準・価格感・経済構造の違い)
CAGEは、海外市場そのものを評価するための手法というよりも、「自社とその国との間に、どのような隔たりがあるか」を整理するための考え方です。
中小企業にとって意味があるのは、海外進出を検討する際に、どの視点が判断材料になり得るのかを漏れなく確認できることです。
たとえば、市場規模が大きく見える国であっても、制度面のハードルが高ければ、実務は一気に難しくなります。
逆に、文化的な違いが小さく、取引慣行が近い国であれば、小さな一歩から始めやすい場合もあります。
フレームワークは、こうした違いを「感覚」ではなく「視点の集合」として捉えるための道具です。
何が分かっていて、何がまだ分かっていないのか。
その整理ができて初めて、次の行動を選べるようになります。
ただし、ここで注意が必要です。
CAGEのようなフレームワークを、そのまま当てはめても、中小企業の実務では判断につながらないケースが多くあります。
次の章では、なぜCAGEをそのまま使ってはいけないのか、中小企業の現場で起きがちなズレを整理していきます。
CAGEをそのまま使えない理由
CAGEは、海外進出を考えるうえで有効な視点を与えてくれます。
しかし、中小企業の実務にそのまま当てはめると、判断が止まってしまうケースが少なくありません。
理由の一つは、分析の粒度が合わないことです。
CAGEは本来、国同士や市場同士を比較するための枠組みです。
一方、中小企業が知りたいのは、「この国で、いまの自社が動けるかどうか」という、もっとも具体的な判断です。
たとえば、文化的な違いがあるかどうかを考える際、国民性や価値観の一般論を調べても、実際の商談や取引で何が障害になるのかまでは見えてきません。
制度や法規制についても同様です。
法律の概要を理解しても、自社の商品やビジネスモデルにどう影響するのかが分からなければ、判断材料にはなりません。
もう一つの理由は、情報が集まらない段階で使われがちなことです。
CAGEを丁寧に埋めようとすると、多くの情報が必要になります。
しかし、海外進出の検討初期に、そこまでの情報をそろえるのは現実的ではありません。
結果として、
「分からない項目が多すぎる」
「判断できる状態にならない」
という状況に陥ります。
中小企業の海外進出では、フレームワークは「正確に分析するため」ではなく、限られた情報の中で判断を前に進めるために使う必要があります。
次の章では、CAGEの考え方を土台にしながら、中小企業の実務に合わせて整理し直した簡略化フレームワークについて紹介します。
実務で使える簡略フレームワーク
ここまで見てきたように、海外進出の検討で必要なのは、判断を前に進めるための整理です。
パコロアが中小企業の支援現場で重視しているのは、CAGEの4要素をそのまま分析することではありません。
それぞれを、次のように実務用の問いに置き換えて整理します。
まず文化の違いについては、「現地の文化はどうか」ではなく、
自社の商品・価格・説明の仕方が、そのまま通用しそうか
という観点で考えます。
ここで完璧な理解は不要で、「違和感が出そうかどうか」を見極めるだけで十分です。
次に制度や商習慣については、「法律を理解しているか」ではなく、現時点で致命的な制約がありそうかを確認します。
たとえば許認可が必要か、契約形態が大きく異なるかなど、初期検討で止まる要因になり得る点だけを押さえます。
地理的な距離については、単なる距離や時差ではなく、
物流・移動・コミュニケーションの負担が現実的か
という視点で整理します。
小さく始めたい中小企業にとって、ここは実行可否に直結します。
最後に経済環境については、市場規模やGDPではなく、
自社の価格帯や利益構造が成り立ちそうかを見ます。
売れそうかではなく、「続けられそうか」という視点です。
このように、CAGEの考え方を
「国を評価する軸」から
「自社が動けるかを判断する問い」へ置き換えることで、
限られた情報でも判断が可能になります。
重要なのは、すべてに明確な答えを出すことではありません。
「この観点は問題なさそう」
「ここは調べないと進めない」
と仕分けできれば、次の行動が見えてきます。
次の章では、ここまで整理してきた考え方をもとに、当社にとって判断材料がどこまでそろっているのかを、チェックリスト形式で確認していきます。
当社にとっての判断材料がそろっているか?チェックリスト
ここまでの整理で重要なのは、「海外進出できるかどうか」を決めることではありません。
判断に使える材料が、どこまでそろっているかを把握することです。
そこで一度、次の問いに答えてみてください。
すべてに答えられる必要はありません。答えられない問いが、いまの判断を止めているポイントです。
判断材料チェックリスト(初期検討用)
- この国で「売れそう」と言っている理由を、第三者に説明できる
- 需要があるという仮説を、具体的な用途や顧客像で語れる
- 自社の商品・サービスが、どこで違和感を持たれそうか想像できる
- 法規制や認証について、
「関係ありそうなもの」を1つ以上特定できている - それが自社のビジネスにどう影響するか、仮でも説明できる
- 現地で想定される取引形態(直販・代理店など)を言語化できる
- その形態で、社内の誰が何を担うかイメージできている
- 価格について、
「売れるか」ではなく「続けられるか」という観点で考えている - コストや手間が増えた場合の耐性を説明できる
- 「ここが不安」「ここが引っかかる」という違和感を、言葉にできている
ここで重要なのは、チェックが多く付くことではありません。
答えられない問いを、自覚できているかどうかです。
答えられない項目は、
「調べれば解決するもの」なのか、
「経験や判断力がないと評価できないもの」なのか。
この切り分けができると、次の一手が見えてきます。
次の章では、このチェックを通じて見えてくる「自社で判断できる範囲」と「そうでない範囲」について整理します。
フレームワークが機能する会社・しない会社の違い
ここまでのチェックリストに向き合うと、多くの中小企業はある地点で立ち止まります。
それは失敗ではなく、ごく自然な分岐点です。
フレームワークは、使えば誰でも答えが出る道具ではありません。
機能するかどうかは、判断材料を「評価できる力」が社内にあるかで決まります。
たとえば、
「この国では価格が合わないかもしれない」
「この取引形態は負担が大きそうだ」
といった違和感に気づけても、それが致命的なのか、調整で乗り越えられるのかを見極めるには、実務の経験や比較の視点が必要になります。
ここが、自社でできる検討と、難しくなる検討の境界です。
多くの場合、初期の整理までは自社でも進められます。
違和感を書き出し、
答えられない問いを特定し、
「何が分かっていないか」を言語化する。
ここまでは、時間をかければ自力で可能です。
一方で、その先にある
「この違和感は進出を止める理由になるのか」
「この条件は受け入れるべきか、避けるべきか」
といった判断は、情報量ではなく評価の根拠となる実践知がものを言います。
この段階になると、フレームワークは、
「整理の道具」から
「判断を支える道具」へと役割が変わります。
ここで初めて、外部の視点や実務経験が時短につながる理由が生まれます。
重要なのは、最初から外部に頼ることでも、最後まで自社だけで抱え込むことでもありません。
どこまで自社で判断できていて、どこから先が難しいのかを自覚できているか。
それ自体が、海外進出における重要な判断材料になります。
ここまで見てきたように、フレームワークの使いどころは、最初から決まっているわけではありません。
実務の中で「どこまでは自社で判断できているか」「どこから先が難しいのか」を整理していく過程で、その役割が変わっていきます。
その結果として言えるのは、フレームワークは結論を出すためのものではなく、判断できる状態に近づいているかを測るための道具だということです。
パコロアでは、海外進出の検討段階で、「どの国に出るか」を考える前に、当社にとって判断材料がどこまでそろっているかを整理し、進出後の手戻りをできるだけ減らすことを大切にしています。
チェックリストで見えてきた違和感や引っかかりを、実務の視点でどう評価するか。
その整理から、次の一手を考えていきます。
もしあなたが判断材料の整理で立ち止まっている場合は、30分の無料相談で、いまどこまで判断できている状態かを確認することも可能です。
どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。