海外企業と仕事を始めると、「え、そこが違うの?」と思う場面が次々に出てきます。
会議でなかなか発言しない日本人を、海外企業はどう見ているのか。
社内に持ち帰って慎重に判断することは、本当に丁寧な対応なのか。
約束した納期が動くことを、相手はどの程度重大なことだと考えているのか。
名刺の扱い方や雑談、契約書に対する考え方まで、日本では当たり前だったことが海外では当たり前ではありません。
しかも難しいのは、どちらかが間違っているわけではないことです。
仕事の進め方、意思決定、時間、信頼関係、契約、働き方など、それぞれが違う前提でビジネスをしているため、同じ出来事を見ても受け取り方や次の行動が変わります。
海外ビジネスでは、この「前提の違い」を知らないまま日本の常識で判断すると、相手の行動を必要以上に問題視したり、逆にこちらの対応が相手にどう見えているのかに気づかなかったりすることがあります。
この記事では、日本と海外のビジネスで違いが出やすいポイントを7つ取り上げ、実際の仕事ではどのようなズレとして現れるのかを具体的に見ていきます。
まずは、「海外ではこうするべき」と覚えるのではなく、「自分たちが当たり前だと思っていることは、相手にも同じだろうか」という視点で比べてみてください。
日本と海外のビジネスは、なぜこんなに違うのか
日本企業が海外ビジネスを始めると、思っていた以上に「自分たちの常識が通じない」場面に出会います。
その背景には、仕事をするときに何を重視するのか、誰が判断するのか、どこまで言葉にするのかといった前提の違いがあります。
たとえば日本企業では、社内の合意を取りながら慎重に判断することや、相手の意図をくみ取りながら調整することが、仕事を円滑に進める方法として機能してきました。
一方、海外企業との仕事では、担当者自身に判断を求められたり、意見や条件をその場で明確に伝えることを期待されたりする場面があります。
ここで厄介なのは、自分たちが「違うやり方をしている」と気づかないまま、お互いが自分の前提で相手を評価してしまうことです。
日本側は、
「なぜ期限どおりに進めてくれないのか」
「なぜそんなに直接的な言い方をするのか」
「なぜ細かいことまで契約書に書きたがるのか」
と感じる。
一方、海外側からは、
「なぜその場で判断できないのか」
「なぜ自分の意見を言わないのか」
「なぜ決めたことを書面にしないのか」
と見えているかもしれません。
つまり、同じ出来事を見ながら、双方がまったく違う意味を与えていることがあります。
もちろん、「日本はこう、海外はこう」とすべての企業や国を一括りにはできません。国や地域、業界、企業、担当者によって仕事の進め方は異なります。
それでも、日本企業が海外企業と仕事をするときに、繰り返し遭遇しやすい違いはあります。
ここからは、特に実務でズレが起こりやすい7つのポイントを見ていきましょう。
1.仕事の進め方|海外では、いきなり本題から始まることも
日本企業同士では、新しい取引先との商談で、いきなり本題だけを話すことはあまりありません。
挨拶をして、最近の業界動向について話し、相手の会社や事業について聞きながら、少しずつ本題に入っていく。
相手の反応を見ながら話を進めることも、関係を築くうえで大切なプロセスです。
ところが海外企業との仕事では、こうした前段がほとんどなく、最初から案件の核心に入ることがあります。
「これはできますか?」
「この仕様ならいくらですか?」
「いつまでにできますか?」
「この条件を変えたらどうなりますか?」
初対面でも、立ち話でも、必要なことを直接聞かれる。
これは失礼なのでも、せっかちなのでもなく、限られた時間の中で「この案件を進められる相手なのか」を確認するための、ごく普通の仕事の進め方です。
ここで日本側に必要なのは、何でもその場で即決することではありません。
「これはできます」
「この条件なら対応できます」
「ここは変数によって変わります」
「正確な金額は確認が必要ですが、概算ならこの範囲です」
「ここだけは現場を確認しないと回答できません」
と、分かっていること、条件付きで答えられること、まだ答えられないことを切り分けながら、その場で話を前へ進めることです。
日本企業同士なら、少し話をしてから改めて詳細を確認する、社内で整理して後日回答する、という進め方でも違和感がないかもしれません。
しかし海外企業とのやり取りでは、「今ある情報で、どこまで話を進められるか」がその場で問われることがあります。
違うのは、単純な意思決定のスピードではありません。
本題に入るまでの距離と、一回の会話でどこまで案件を前へ動かそうとするか。
この仕事の進め方の違いを知っておくと、海外企業からいきなり具体的な質問を投げられても、「唐突だ」と感じるのではなく、「では、今ここでどこまで答えられるか」と切り替えやすくなります。
2.会議の進め方|最後まで黙って聞くことが、かえって相手の時間を奪うことも
日本では、相手が説明している途中で話を遮らず、まず最後まで聞くことが礼儀だと考える人も多いのではないでしょうか。
疑問があってもいったん聞き、説明が終わってから、
「一点確認してもよろしいでしょうか」
と質問する。
日本ではごく自然な会議の進め方です。
ところが海外企業との会議では、途中で分からないことや前提の違いがあれば、その場で質問が入ることがあります。
「それはどういう意味ですか?」
「その条件は当社には当てはまりません」
「その場合はこちらの方法ではどうですか?」
説明の途中でも、必要なら話を止める。
日本側からすると、「まず最後まで聞いてくれれば分かるのに」と感じるかもしれません。
でも相手側からすれば、前提が違ったまま10分説明を聞き続け、最後になって、
「実は最初の条件が違います」
となれば、その10分の説明をやり直すことになります。
むしろ、違うと気づいた時点で止めたほうが、お互いの時間を無駄にしません。
逆も同じです。
海外企業から説明を受けているとき、最初の数分で「こちらの理解とは違う」と気づいているのに、日本側が最後まで黙って聞き、終わってから質問すると、
「それなら、なぜもっと早く言ってくれなかったのか」
となることがあります。
会議で積極的に発言することは、単に「自己主張が強い」ということではありません。
分からなければ聞く。
違っていれば伝える。
必要なら、その場で話の方向を修正する。
参加者全員で会話を動かしながら、できるだけ短い時間で共通理解をつくっていく仕事の進め方でもあります。
そのため海外企業との会議では、発言しないことが必ずしも「礼儀正しく聞いている」と受け取られるとは限りません。
「理解しているのか」
「意見はないのか」
「この案件に関与するつもりがあるのか」
と、別の意味に見えることもあります。
海外企業との会議で大切なのは、たくさん話すことではありません。
違いに気づいたときに、その場で会話に参加すること。
日本では相手への配慮だった「最後まで黙って聞く」が、海外ではかえって相手の時間を使わせることもある。この逆転は、知っておきたい会議の違いの一つです。
3.納期・時間感覚|「途中が予定どおりでない」と「間に合わない」は同じではない
日本企業との仕事では、最終納期だけでなく、そこへ至る途中のスケジュールも重視されます。
「○日までにデータを提出」
「○日までに内容を確認」
「その後、最終版を確定」
と工程を区切り、それぞれの期限を守りながら最終納期へ進む。
もし途中の期限に遅れそうなら、事前に連絡し、理由を説明し、スケジュールを調整する。
こうした進め方そのものが、相手への信頼につながると考えられています。
ところが海外企業との仕事では、この「途中の進み方」が日本企業の想定どおりにならないことがあります。
必要な情報が予定日に来ない。
途中経過の連絡がない。
何度確認しても、まだ完成していない。
日本側からすると、
「この状態で本当に間に合うのか?」
「もうこの会社には任せられないのでは?」
と不安になります。
ところが、期限直前になって一気に必要なものが揃い、結果としてプロジェクトが成立することもあります。
つまり相手にとっては、途中の工程を一つずつ予定どおりに進めることよりも、「最終的に必要なところへ着地させること」のほうが重要な場合があるのです。
もちろん、「海外企業なら遅れても待てばいい」という話ではありません。
こちらにも、印刷、製造、輸送、施工、社内承認など、後ろに動かせない工程があります。
重要なのは、日本側が予定していた途中の期限を守らなかったことと、プロジェクトそのものを完遂できないことを、すぐに同じ意味だと判断しないことです。
「本当に動かせない期限はいつか」
「そこから逆算すると、あと何日待てるのか」
「今なくても進められるものは何か」
「これだけは今日必要、というものは何か」
を切り分けて考える必要があります。
日本では、途中のスケジュールまできちんと守ることが「安心して仕事を任せられる相手」の条件になりやすいですが、
海外企業との仕事では、途中の進み方が違っていても、最後には必要な結果を出してくることがしばしばあります。
その違いを知らないと、日本側は必要以上に早く相手を「信用できない」と判断してしまうこともあります。
ただし――ここが難しいところですが――本当に間に合わない相手もいます。
だから海外ビジネスでは、「予定どおり進んでいない=ダメ」と判断するのではなく、どこまでなら待てるのか、何を越えたら成立しないのか、自社側の限界線を持ちながら見極めることが重要になります。
4.信頼関係のつくり方|日本の「礼儀正しさ」が、そのまま信頼になるとは限らない
初めて海外企業と会ったとき、日本側が戸惑いやすいのが、ビジネスマナーの違いです。
日本では、初対面の相手には丁寧に挨拶をし、名刺を交換し、役職や立場を確認しながら、失礼のないよう少しずつ距離を縮めていきます。
ところが海外では、名刺を持っていなかったり、名刺交換そのものを重視していなかったりすることがあります。
受け取った名刺をすぐポケットに入れる。
役職に関係なくファーストネームで呼ぶ。
初対面なのに、家族や趣味について聞いてくる。
日本の感覚では、
「ずいぶんカジュアルだな」
「ビジネスなのに、なぜそんな話をするのだろう」
と感じるかもしれません。
でも、ここで見たいのはマナーの良し悪しではありません。
そもそも、相手との信頼関係をどこからつくろうとしているのかが違うことがあります。
日本では、礼儀を守る、約束した時間に来る、きちんとした言葉遣いをする、相手の立場を尊重するといった行動そのものが、「安心して付き合える人」という評価につながります。
一方、海外企業との仕事では、それに加えて、
「この人はどんな人なのか」
「率直に話せる相手なのか」
「一緒に仕事をしていて気持ちのいい人なのか」
といった、人と人との距離を縮めるコミュニケーションが早い段階から入ることがあります。
そのため、会議の冒頭で週末の話をしたり、家族や食事、旅行、スポーツなど仕事とは直接関係のない話をしたりすることもあります。
これは単なる「本題前の暇つぶし」とは限りません。
仕事の話だけでは分からない相手の人柄を知り、「この人と仕事ができそうか」を確かめる時間になっていることもあります。
逆に日本側が、失礼のないようにと終始かしこまり、聞かれたことにだけ丁寧に答え、自分自身についてほとんど話さなければ、
「礼儀正しい人」
とは思われても、
「まだ距離がある」
「何を考えているのか分からない」
と感じられることもあります。
だからといって、海外では誰にでもプライベートな話をすればよい、ということではありません。
相手がどんな距離感で関係をつくろうとしているのかを見ながら、自分も少しずつ合わせていくことが大切です。
名刺をどう渡すか、何分雑談するかという「海外マナー」を暗記するより、
「この相手は、何をもって自分を信頼できる人だと判断しようとしているのか」
を見る。
日本と海外では、信頼関係を築くまでの順番や、信頼を示す方法そのものが違うことがあります。
5.合意のつくり方|「そこまで言わなくても分かる」が通じないことも
日本企業同士の取引では、契約書や見積書にすべてを書き切らなくても、これまでの取引慣行や業界の常識、打ち合わせでのやり取りから、お互いに補いながら仕事が進むことがあります。
「通常ここまで含まれるでしょう」
「この場合は当然こちらで対応するでしょう」
「そこまで細かく書かなくても分かるでしょう」
こうした共通認識があるからです。
ところが海外企業との仕事では、その「当然」が相手と共有されているとは限りません。
たとえば、見積書に「設置費込み」と書いてあっても、
どこまでが設置なのか。
電源工事も含むのか。
現場で追加作業が発生した場合はどうするのか。
撤去や廃棄まで含むのか。
日本側では説明するまでもないと思っていたことが、相手にはまったく別の範囲として理解されていることがあります。
逆に、相手から、
「これもできますよね?」
「前回の打ち合わせでOKと言いましたよね?」
と言われ、日本側が驚くこともあります。
こちらは「条件が合えば可能です」と説明したつもりだった。
相手は「実施することで合意した」と理解していた。
問題が起きてから双方のメールを読み返すと、どちらかが嘘をついているわけではなく、同じやり取りを違う前提で理解していた、ということもあります。
だから海外ビジネスでは、契約書を作ることだけでなく、
「何をするのか」
「何をしないのか」
「どこまでがこの価格に含まれるのか」
「何が起きたら条件が変わるのか」
「誰が何をいつまでにするのか」
を、できるだけ言葉にして残すことが重要になります。
これは、相手を信用していないから細かく書くのではありません。
お互いの「当然」が違う可能性があるから、同じ前提で仕事を始めるために確認するのです。
特に注意したいのは、日本側が曖昧なまま話を進めることだけではありません。
相手が提示した条件についても、
「まあ、普通に考えればこういう意味だろう」
と日本側の常識で補完しないことです。
分からなければ確認する。
条件があるなら条件を書く。
合意したことと、まだ検討中のことを分ける。
海外企業との契約や合意では、書類を分厚くすることそのものより、双方の頭の中にある「当然」をどれだけ表に出せるかが重要です。
6.計画の進め方|最初に決めたとおりに進めることが、正解とは限らない
日本企業では、新しいプロジェクトを始める前に、できるだけ条件を整理し、計画を固めてから動こうとすることがあります。
目的を決める。
予算を決める。
仕様を決める。
スケジュールを決める。
社内承認を取る。
そして一度決めた計画は、できるだけ予定どおりに実行する。
途中で大きく変更することは、「最初の計画が甘かった」「準備不足だった」と見られることもあります。
ところが海外企業との仕事では、最初からすべてを確定させるより、
「まずここまでやってみよう」
「結果を見て次を決めよう」
「この方法が難しいなら、別の方法に変えよう」
と、動きながら計画そのものを変えていくことがあります。
そのため、日本側からすると、
「最初に言っていたことと違う」
「また条件が変わった」
「ちゃんと考えてから始めてほしい」
と感じる場面も出てきます。
でも相手側では、「状況が変わったのだから、より実現可能な方法へ変えるのは当然」と考えているかもしれません。
ここでも、変更すること自体が良い、悪いという話ではありません。
大切なのは、何を固定し、何なら途中で変えられるのかを見分けることです。
たとえば、
予算の上限は変えられない。
納品日は変えられない。
しかし仕様は変更できる。
当初の方法が難しければ、別の方法なら目的を達成できる。
こうして考えると、「最初の計画を守れるか」だけでなく、「最終的な目的を達成するために、途中で方法を変えられるか」という別の仕事の進め方が見えてきます。
海外企業から突然別案を出されたとき、日本側が最初の計画との違いばかりを問題にすると、本来は成立できた案件まで止めてしまうことがあります。
一方で、相手の変更をすべて受け入れれば、こちらのコストや納期、責任範囲が際限なく変わってしまいます。
だから必要なのは、
「変更できない条件は何か」
「変更してもよい部分はどこか」
「変更すると、価格・納期・責任範囲の何が変わるのか」
をその都度整理することです。
最初に決めた計画を守ることを重視するのか、目的を達成するためなら途中で方法を変えることも選択肢にするのか。
この違いを知っているだけでも、海外企業から突然「では、こう変えましょう」と言われたときの受け止め方は変わります。
7.約束の捉え方|小さな約束ほど、その会社が見られている
海外企業との仕事では、契約書に書かれた大きな約束だけでなく、日々のやり取りの中で交わした小さな約束が、相手からの信頼を左右することがあります。
「明日までに送ります」
「金曜日に回答します」
「この仕様で対応できます」
「この金額で提供します」
「この日までに支払います」
一つひとつは、それほど大きな約束には見えないかもしれません。
しかし相手からすれば、こうした約束は、
「この会社が言ったことは、本当に実行されるのか」
を判断する材料になります。
明日送ると言ったものが、明日届く。
回答すると言った日に、回答が来る。
見積書に書かれた内容が、その通り提供される。
請求書どおりの金額が、約束した期日までに支払われる。
この積み重ねによって、
「この会社が言ったことは、実際に起きることと一致する」
という信頼が少しずつつくられていきます。
これは、日本企業が海外企業を判断するときも同じです。
会社の規模が大きい。
Webサイトが立派である。
担当者の感じがよい。
有名企業との取引実績がある。
こうした情報だけでは、本当にその会社を信頼してよいかは分かりません。
「送る」と言ったものが送られてきたか。
「支払う」と言った日に支払われたか。
「対応する」と言ったことを実際に対応したか。
相手が言ったことと、実際の行動が一致しているかを見ることは、海外企業との取引リスクを判断する重要な材料になります。
一方で、自社側になると、この基準が甘くなることがあります。
「正式に約束したわけではない」
「急いでいたから仕方がない」
「小さなことだから問題ないだろう」
「あとで説明すれば分かってもらえる」
しかし、それは自分たち側の事情です。
相手から見れば、
「やると言ったのに、やらなかった」
という事実だけが残ることがあります。
もちろん、海外企業との仕事では予定外のことも起こります。
約束した期限を守れなくなることも、当初の条件どおりに進められなくなることもあります。
その場合に重要なのは、何も言わずに約束を変えるのではなく、できないと分かった時点で相手に伝え、理由を説明し、新しい約束をつくることです。
約束を一度も変更しないことではなく、約束を自分たちの都合だけで軽く扱わない。
海外ビジネスでは、こうした日々の小さな行動が、相手にとって「この会社と次の仕事をしても大丈夫か」を判断する材料になります。
そして自社もまた、相手の言葉ではなく、
「その会社は、これまで言ったことを実際にやってきたか」
を見る。
信頼は、相手を信じようとする気持ちだけで生まれるものではありません。
言ったことと、実際にしたことが一致する。
その小さな積み重ねが、海外企業との取引では強い信頼になります。
コラム|同じ状況を見ても「危ない」と気づく人、気づけない人
海外ビジネスでは、トラブルが起きてから対応する力だけでなく、まだ何も起きていない段階で「このまま進めると危ないかもしれない」と気づく力が必要になります。
たとえば、海外企業からこんな連絡が来たとします。
「最終データは来週送ります」
納期を考えると、本当は今週中にデータが必要です。
ここで、
「来週送ると言っているから、届いてから対応しよう」
と考える人もいます。
一方で、
「来週のいつ?」
「届いてから確認して、不備があったら修正する時間はある?」
「相手は“来週送れば間に合う”と思っているのでは?」
「こちらが必要としている締切を、相手は本当に理解している?」
と、次々に気になる人もいます。
まだ相手は約束を破っていません。トラブルも起きていません。
それでも後者には、すでにリスクが見えています。
見ているのは、「来週送ります」という言葉だけではなく、
「自分たちが前提としているスケジュールが、相手にも共有されているか」
だからです。
もう一つ、まったく違うケースを考えてみましょう。
海外企業から自社の技術について問い合わせが入り、相手から次々に専門的な質問を受けたとします。
日本側も、
「先方も詳しい。かなり具体的な話ができそうだ」
と考え、技術の仕組み、開発の背景、実現方法、これまで蓄積してきたノウハウなどを、質問されるたびに詳しく説明していきます。
日本側では、「専門家同士の情報交換」「取引を検討するために必要な説明」のつもりです。
でも、ここでも一度立ち止まる必要があります。
相手は何をどこまで開示しているでしょうか。
こちらだけが、自社の根幹にかかわる情報を次々に無料で提供していないでしょうか。
NDAは締結しているのか。
今回どこまで情報を開示するのか。
何を知ったうえで相手に次の判断をしてもらうのか。
その先は、有償の技術支援や共同開発など、別の段階ではないのか。
さらに注意したいのは、「こちらが何を言ったか」だけではありません。
日本側では、
「この条件が満たされれば検討できます」
と前提条件を説明したつもりでも、相手側では、
「その条件で実施することになった」
と、自分たちに都合のよい決定事項として受け取っているかもしれません。
こちらでは「可能性について説明しただけ」。
相手側では「合意した」。
同じ会話から、双方がまったく違う次の行動を始めることがあります。
この段階でも、まだトラブルは起きていません。
だからこそ、
「なぜここまで聞いてくるのだろう」
「この情報を渡したら、相手は次に何ができるのだろう」
「今の発言は、相手側では何が決まったことになるのだろう」
と、相手側から逆算して考えることが重要になります。
海外駐在や留学の経験があり、語学力が高くても、この力が自動的に身につくとは限りません。
逆に、語学力がそれほど高くなくても、小さな違和感から、
「何か前提が違うのではないか」
「このまま進めたら、次に何が起きるだろう」
と(誰に言われなくても)立ち止まれる人もいます。
海外では、自分たちの常識、意図、善意、専門性が、そのまま相手に共有されているとは限りません。
相手側ではどう解釈されるのか。
その解釈のまま相手が動いたら、次に何が起きるのか。
問題が起きてからではなく、まだ何も起きていない段階で気づけるか。
これは、「海外事業の前提差リスクを察知する力」といえるかもしれません。
海外ビジネスの経験を積むということは、国ごとのマナーや商習慣をたくさん覚えることだけではありません。
実際の仕事の中で起きた小さな違和感を見逃さず、
「自分の前提が、相手には共有されていないかもしれない」
と反射的に考え、相手側から逆算する力を鍛えていくことでもあります。
日本と海外の違いを知ったら、自社の「当たり前」を見直してみる
ここまで、日本と海外で違いが表れやすい仕事の進め方を見てきました。
ただし、海外ビジネスで大切なのは、「海外ではこうする」と相手のやり方に合わせることではありません。
まず確認したいのは、自分たちがどんな前提で仕事をしているのかです。
本題に入るまでに、どのくらい時間をかけているのか。
会議で疑問を感じたとき、その場で確認できているか。
途中のスケジュールが崩れたとき、何をもって「もう無理」と判断しているのか。
取引先との信頼関係を、何によって判断しているのか。
契約書や見積書に書いていないことを、「当然分かっている」と考えていないか。
一度決めた計画を、必要に応じて変更できるのか。
こうして並べてみると、海外企業との違いを知ることは、相手の文化を勉強するだけではなく、自社の仕事の進め方を外から見直すことでもあります。
そして、違いそのものが問題なのではありません。
「自分たちはこう考えている」
「相手も同じように考えているはずだ」
この二つを無意識に同じものとして扱ったとき、ズレが起こりやすくなります。
海外企業と仕事をするときは、相手の行動に違和感を覚えたら、すぐに「おかしい」「信用できない」と判断する前に、
「自分たちは何を当然だと思っているのだろう」
「相手は、どんな前提でこの行動をしているのだろう」
と一度分けて考えてみてください。
そのうえで、次のチェックリストを使って、自社の海外ビジネスの進め方を確認してみましょう。
海外ビジネスの進め方をセルフチェック
日本と海外のビジネスの違いを理解していても、実際の仕事になると、いつものやり方に戻ってしまうことがあります。
次の項目を見ながら、自社では海外企業とどのように仕事を進めているか確認してみてください。
仕事の進め方
- 初回の商談でも、相手が知りたい本題に早い段階で入れていますか?
- 「持ち帰って確認します」だけで終わらず、その場で答えられること、条件付きで答えられること、確認が必要なことを分けて伝えていますか?
- 一回の会話で、案件を次の段階へ進めるために何が必要かを意識していますか?
会議・コミュニケーション
- 相手の説明で分からないことがあったとき、その場で確認できていますか?
- 相手の説明の途中で前提が違うと気づいたとき、その場で伝えて確認できますか?
- 自分が発言しないことが、相手からどう見えるか考えたことがありますか?
納期・スケジュール
- 途中の予定が遅れたことと、最終的に案件を完遂できないことを分けて考えていますか?
- 「この日を越えたら成立しない」という本当の期限を把握していますか?
- 相手の進み方が自社の想定と違うだけで、「信用できない」と判断していませんか?
信頼関係
- 自社が何をもって「信頼できる取引先」と判断しているか説明できますか?
- 相手がどのようなコミュニケーションで信頼関係を築こうとしているか見ていますか?
- 礼儀正しく対応することだけで、十分に関係を築けていると思っていませんか?
契約・合意
- 見積書や契約書に書いていないことを、「当然分かっている」と考えていませんか?
- 価格に含まれるもの、含まれないものを明確にしていますか?
- 「できる」「検討できる」「合意した」を区別して伝えていますか?
- 相手の言葉についても、日本側の常識で意味を補っていませんか?
計画・変更
- 最初に決めた方法を守ることと、最終的な目的を達成することを混同していませんか?
- 変更できない条件と、途中で変更できる部分を分けていますか?
- 相手から変更案が出たとき、「最初と違う」という理由だけで否定していませんか?
- 変更によって価格、納期、責任範囲、リスクがどう変わるか確認していますか?
前提差リスク
- 「相手も当然分かっているはず」と考えていることはありませんか?
- 相手の言葉だけでなく、その言葉の前提まで確認していますか?
- 自社から情報を渡す前に、「この情報を受け取った相手は、次に何ができるか」を考えていますか?
- 自社の発言が、相手側では「何が決まったこと」になるのか考えていますか?
- まだ問題が起きていない段階で、小さな違和感に気づけていますか?
約束・信頼
- 見積内容、納期、支払いなど、相手の言葉と実際の行動が一致しているかを積み重ねて見ていますか?
- 「送ります」「回答します」「対応します」と伝えたことを、実際にその通り実行していますか?
- 小さな約束だからと、自社の都合で期限や内容を変えていませんか?
- 約束どおりにできないと分かった時点で、相手に伝え、新しい約束をつくっていますか?
- 相手企業を信頼できるか判断するとき、会社の規模や担当者の印象だけでなく、「言ったことを実際にしたか」を見ていますか?
すべてにチェックが付く必要はありません。
むしろ、答えに迷った項目や、「これは自社では考えたことがなかった」と感じた項目があれば、そこに海外企業との前提差が潜んでいる可能性があります。
国ごとのマナーや商習慣を覚える前に、まず自社がどんな前提で仕事をしているのかを知る。
そのうえで、相手との違いを一つずつ確認し、必要なところだけ仕事の進め方を変えていくことが、海外ビジネスでは重要です。
日本と海外の違いを知ることから、海外ビジネスは始まる
海外企業と仕事をすると、日本では問題にならなかったことが問題になったり、逆に日本では不安に感じる進め方でも、相手にとってはごく普通だったりします。
大切なのは、「日本のやり方が正しい」「海外のやり方に合わせるべき」と考えることではありません。
自分たちは何を当然だと思っているのか。
相手はどんな前提で動いているのか。
その違いによって、この先どんなズレが起こりそうなのか。
そこまで考えられるようになると、文化や商習慣の違いは、単なる「海外ビジネスの難しさ」ではなく、事前に確認し、調整できるものに変わっていきます。
海外進出を検討しているものの、
「自社の進め方が海外でも通用するのか分からない」
「海外企業とのやり取りで、どこにリスクがあるのか判断しにくい」
「海外事業を進めているが、なぜか途中で止まってしまう」
と感じている場合は、一度、自社と相手企業の「前提の違い」を整理してみることをおすすめします。
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