海外企業との商談では、価格や製品だけが交渉の行方を左右するわけではありません。
日本企業側ではごく普通だと思っている対応が、海外企業から見ると、
「なぜ聞いたことに答えないのか」
「結局何が言いたいのか」
「この会社は本当に取引する気があるのか」
と受け取られることがあります。
問題なのは、こうしたズレの多くが、日本企業側には「問題のある対応をした」という自覚がないまま起きることです。
日本では当たり前に通用してきた仕事の進め方や判断の仕方が、海外商談では別の意味に受け取られる。
そのズレに気づかないまま商談を続ければ、相手の関心や評価が下がっていても、その理由すら分からないことがあります。
この記事では、海外商談で日本企業が気づかないうちに踏みやすいポイントを取り上げ、そこにある文化的な前提のズレを見抜き、商談を前へ進めるための考え方を解説します。
海外商談で前提のズレが起きやすい3つの場面
1.「説明すること」に集中し、相手とのズレを見落とす
海外商談では、事前に用意した資料をきちんと説明すること以上に、相手が何を知りたがっているのか、どこまで理解しているのか、こちらと同じ前提で話しているのかを、その場で「同時進行で」見極めることが重要です。
ところが実際の商談では、説明する内容やタイミングが、相手とずれていることがあります。
相手は価格の根拠を知りたいのに、製品の特徴を説明し続ける。
相手は実現できるかどうかを確認したいのに、これまでの経緯を詳しく説明する。
すでに理解していることを繰り返す一方で、相手が判断するために必要な情報が出てこない。
日本側は十分に説明したつもりでも、相手にとって必要なことが「解決されていなければ」、商談は前に進みません。
大切なのは、用意した説明を最後までやり切ることではなく、相手の質問や反応から、
- 何が違っているのか
- 何が足りていないのか
- どこまで同じ理解になっているのか
をその場ですぐに見極めることです。
ズレが見つかれば、説明の順番を変える、質問を返す、別の例を出す、必要のない説明を飛ばすなど、その場で商談を組み替えていきます。
海外商談では、このファシリテーションがないまま説明だけを続けると、
「たくさん説明しているのに、相手が知りたいことには答えていない」
という状態になりかねません。
2.商談では、商品だけでなく「この会社と仕事ができるか」も見られている
海外企業との商談では、商品やサービスの魅力、価格、技術力だけが評価されているわけではありません。
商談中のやり取りを通じて、「この会社と実際に取引を始めたら、仕事はうまく進むだろうか」ということも見られています。
質問をしたときに欲しい回答が返ってくるか。判断に必要な情報を出してくれるか。想定外の質問や要望が出たときに、その場で考えて対応できるか。
相手は、こうした一つひとつのやり取りから、取引開始後の姿を想像します。
日本側では、答えられなかったことがあっても「持ち帰って確認すればよい」、十分に伝えられなかったことは「次回説明すればよい」と考えることがあります。
もちろん、すべてにその場で答える必要はありません。
しかし、相手が今回の商談で確認したかったことが十分に解消されず、「確認します」「次回説明します」が重なれば、相手には別の懸念が生まれます。
「取引が始まってからも、この調子なのではないか」
そう思われれば、それまで魅力的に見えていた商品やサービスについても見通しが悪くなり、関心そのものが薄れていくことがあります。
商談後に次の連絡が来ないのは、次の予定を決めなかったからとは限りません。
その商談の中で、すでに取引先としての評価が終わっていることもあります。
3.日本の進め方を基準に、早すぎる見切りをつけない
海外企業との商談や案件では、日本側が想定したスケジュールどおりに物事が進まないことがあります。
期限が近づいているのに必要な情報が揃わない。
途中経過の連絡がない。
こちらが依頼した順番とは違う形で回答が来る。
日本企業であれば、この段階で「この会社では難しいのではないか」と判断するような状況でも、海外企業との取引では、その後一気に話が進むことがあります。
実際、直前まで必要なデザインが揃わなかった企業が、最後の段階で一気に完成させてくることもあります。
また、こちらから出した提案がほとんど採用されなかったにもかかわらず、相手から「この仕様、この金額なら進めたい」と明確な条件が返ってきて、そこから案件が急に動き出すこともあります。
途中の進み方だけを見れば、日本側にはかなり不安に見えます。
しかし、途中経過が日本の期待どおりでないことと、相手に案件を成立させる力がないことは、必ずしも同じではありません。
もちろん、何も確認せずに待ち続ければよいわけでもありません。
納期や契約、支払い、施工など、守らなければ案件そのものが成立しない条件は明確にし、必要な確認は取り続ける必要があります。
難しいのは、「日本ではこの進め方はあり得ない」という理由だけで相手を見切らないことです。
どこまでなら待てるのか。
何が揃えばまだ間に合うのか。
絶対に越えてはいけない期限や条件は何なのか。
海外商談では、自社が守るべきラインを明確にしたうえで、相手の進め方を受け入れることで生じるコストや負担をどこまで吸収できるかという、日本では経験したことのないような、冷や汗もののリスク判断を迫られることもあります。
海外商談の前に「違い」を予測しておく
海外商談では、相手がどのような質問をしてくるか、どこで判断に迷うかをすべて事前に予測することはできません。
だからといって、相手国の商習慣やマナーをできるだけ多く覚えて商談に臨めばよい、というものでもありません。
準備しておきたいのは、相手との「違い」が出てきたときに、その場で商談を動かすための引き出しです。
まず、相手は今回の商談で、何をもって、どう判断しようとしているのか。
価格ありきなのか。
プロジェクトの完遂力や実績を重視しているのか。
新規開発力への期待も含まれているのか。
今、検討のどのフェーズにいるのか。
競合と何を比較しようとしているのか。
日本企業である自社に何を期待しているのか。
同じ商談でも、相手の目的や判断基準によって必要な説明は変わります。
次に、こちらがその場でどこまで答えられるかも確認しておきます。
価格、納期、仕様、最小発注数量、カスタマイズ、支払条件などについて、誰に確認しなければ答えられないのか。どこまでならその場で判断できるのか。
さらに重要なのは、「できない」ときの引き出しです。
希望する価格にはできないが、数量が変われば再検討できる。
その納期には間に合わないが、一部だけなら先に出せる。
希望する仕様そのものは難しいが、別の方法なら目的を実現できる。
商談では、用意した提案がそのまま通るとは限りません。
だからこそ、一つの回答しか持たずに商談へ行くのではなく、相手の反応を見ながら別の道を出せるようにしておくことが重要です。
また、商談相手について事前に分かることがあれば確認しておきます。
相手はどのような会社で、誰が商談に参加するのか。その人は何を担当し、今回どこまで判断できそうなのか。これまでのメールでは何を繰り返し質問され、何を気にしていたのか。
こうした情報は、相手を完璧に理解するために集めるのではありません。
商談中に「こちらが想定していた前提と違う」と気づくために集めます。
事前に仮説があれば、違ったときに違いが見えます。
海外商談の準備とは、説明資料を完成させることだけではありません。
何が違うか分からない相手と話しながら、その場で方向を変えられる状態をつくっておくことも、重要な準備の一つです。
商談中の反応を「日本の感覚」で判断しない
海外商談では、相手の反応を見ながら話を進めることが重要です。
ただし、ここには日本企業同士の商談にはない難しさがあります。
相手の反応を見ても、それが何を意味しているのか、こちらの感覚だけでは判断できないことです。
返事が短い。
質問が急に細かくなった。
同じことを何度も確認される。
こちらの説明にほとんど反応しない。
逆に、かなり強い言葉で条件を要求してくる。
日本企業との商談なら、これまでの経験から「価格がネックなのだろう」「興味が薄れたのだろう」「かなり不満なのだろう」とある程度推測できる場面でも、海外商談ではその読みが外れることがあります。
さらに英語での商談では、相手も英語を母語としているとは限りません。
短い返事なのは関心がないからではなく、英語で簡潔に答えているだけかもしれません。
同じ質問を繰り返すのは説明を聞いていないからではなく、自社の判断基準に照らして別の角度から確認しているのかもしれません。
強い要求も、関係を悪化させる意図ではなく、単に交渉条件を明確に伝えているだけということもあります。
反対に、笑顔で「OK」「Sounds good」と言われたからといって、こちらの提案全体に合意したとは限りません。
だから海外商談では、相手の反応を拾うだけでなく、その意味をこちらの常識で決めつけないことが重要です。
「価格そのものが問題でしょうか。それとも、この価格で社内承認を得るための材料が必要でしょうか」「今のご説明で、御社が確認したかった点には答えられていますか」
「ここまでで、私たちと理解が違っている点はありますか」
分からなければ確認する。
そこで初めて、事前に想定していた相手の判断基準との違いが見え、説明を飛ばす、順番を変える、別の事例を出す、条件を組み替えるといったファシリテーションができます。
海外商談で必要なのは、相手の気持ちを上手に察することではありません。
自分たちには相手の反応を正確に読めない可能性があると知ったうえで、確認しながら商談を組み立て直すことです。
商談後に「文化の違い」で片づけない
海外商談が思うように進まなかったとき、「やはり文化が違うから難しい」「海外企業は考え方が違う」で終わらせてしまうと、次の商談でも同じことが起こります。
振り返りたいのは、相手国の文化そのものではなく、今回の商談のどこで流れが変わり、双方がどれだけこの商談に参加していたかです。
- 最初に「おや?」と思った違和感は何だったか。
- この場をコントロールできなくなっていると気づいたのは、どのあたりからか。
- どこから相手の反応が鈍くなったのか。
- 相手は、自社の課題をきちんと話してくれたか。
- 相手も、この商談のために同じだけ準備してくれていたか。
- Webサイトには掲載していない情報について、相手から質問されたか。
こうして商談を巻き戻してみると、単に「文化が違った」では見えなかったことが出てきます。
そしてもう一つ確認したいのが、「こちらはなぜそう判断したのか」です。
「相手は価格しか見ていなかった」
「この案件にはもう興味がないようだった」
「要求が厳しすぎた」
「返事が曖昧だった」
そう判断した根拠は、本当に相手の発言や行動にあったのか。
それとも、日本での商談経験から自分たちがそう解釈しただけなのか。
一方で、すべてを自社側の問題として振り返る必要もありません。
相手が自社の課題をほとんど話さなかった、
こちらのWebサイトにある情報すら十分に確認していなかった、
判断に必要な情報をこちらから引き出そうとする姿勢も見られなかったのであれば、
そもそも相手の関心や準備が十分ではなかった可能性もあります。
海外商談では、相手との違いだけでなく、自分たちが無意識に置いていた前提も、商談が終わってから初めて見えることがあります。
大切なのは、「○○国の企業はこうだ」という国別の攻略法に変換することではありません。
今回分かったことを、
「次回はこの質問を先にしよう」
「この条件には別案を用意しておこう」
「この説明はもっと後でよかった」
「ここは相手の判断基準を確認してから説明しよう」
と、次の商談で使える引き出しに変えていくことです。
異文化への対応力は、一度の研修や国別マナーの知識だけで身につくものではありません。
実際の商談で起きたズレを振り返り、
「何が違ったのか」
「なぜ気づかなかったのか」
「次はどう確認するのか」
を一つずつ蓄積することで、次の海外商談で使える判断材料が増えていきます。
海外商談では「違いに気づいて動かす力」が問われる
海外商談で必要なのは、相手国の文化や商習慣をすべて知っておくことではありません。
自分たちが当たり前だと思っている仕事の進め方や判断基準が、相手にも同じように受け取られるとは限らない。その前提に立ち、商談前に仮説と引き出しを準備し、商談中に違いを見つけたら確認し、その場で進め方を変えていくことが重要です。
また、海外企業の進め方が日本の感覚と違うからといって、早い段階で「この会社とは難しい」と判断する必要もありません。
自社が守るべきラインを明確にしながら、どこまでリスクや負担を引き受けられるのかを判断し、案件を前へ進めることも海外商談では求められます。
そして、うまくいかなかった商談も「文化が違った」で終わらせず、どこでズレたのか、何を見落としたのか、相手の関心や準備はどの程度だったのかを振り返れば、次の海外商談で使える判断材料になります。
異文化への対応力とは、違いをたくさん知っていることではなく、違いに気づいたときに仕事の進め方を変えられることです。
異文化の中で仕事を進めるために必要な考え方については、「異文化適応力は備わっていますか」でも詳しく解説しています。
海外商談の進め方に迷ったら
海外企業との商談では、自社では問題ないと思っている対応ほど、相手とのズレに気づきにくいものです。
「商談まではできるのに、その先へ進まない」
「相手の反応が途中から変わった理由が分からない」
「この海外企業と、このまま取引を進めてよいのか判断できない」
こうしたとき、必要なのは一般的な海外ビジネスの知識を増やすことではなく、実際の商談やメール、提案内容、相手の反応を見ながら、今どこにズレがあるのかを整理することです。
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