国内需要が伸び悩む中、多くの中小メーカーが海外展開を検討し始めています。
とくに中間財メーカーは、B2B取引の性質上、製品の価値が伝わりやすく、一度取引が始まれば長期の契約につながりやすいという強みがあります。
しかし、具体的に何から始めれば良いのか、展示会・代理店・商社の使い分けはどう考えるべきか、技術資料や見積りの準備はどう進めるのか。
いざ動こうとしても、最初の一歩が見えずに立ち止まってしまう企業も少なくありません。
この記事では、中間財メーカーが海外展開を進める上で押さえておきたい基礎と実務ステップを、できるだけ分かりやすく整理します。
市場調査の方法、展示会の選び方、代理店開拓の進め方から、技術資料・知的財産・補助金・初期費用の考え方まで、実際に動き出すために必要な手順を順番にまとめました。
一般的な“海外進出の解説”ではなく、製造業、とくに中間財メーカーの現場に寄り添った内容になっています。
海外に向けて動き出したい、でも何から着手すればいいか不安がある。そのような方が、次の一歩を具体的に描けるように作っています。
それでは順に見ていきましょう。
中間財メーカーならではの海外展開の特徴
中間財メーカーの海外展開には、一般消費者向け(BtoC)とは違う特徴があります。
ここでは、まずBtoBの海外展開の全体像を整理していきます。
BtoB取引は長期関係になりやすい
中間財メーカーは多くの場合、取引先の製品づくりに深く組み込まれます。
部品、加工品、素材、半製品などは、代替が難しく、品質や納期が安定している企業と長く付き合う傾向があります。
これは海外展開でも同じで、一度採用されれば5年、10年と継続するケースも珍しくありません。
そのため海外展開では、新規取引の立ち上がりには相応の時間がかかる反面、継続性の高い契約につながりやすいという特徴があります。
短期的な成果ではなく、最低でも3年スパンで見ていく姿勢が必要です。
技術優位性が伝わりやすい
中間財メーカーにとって最も大きな強みは、技術力がそのまま競争力になりやすい点です。
精度、耐久性、特殊加工、小ロット対応、顧客仕様への柔軟さなど、日本企業が得意とするポイントは海外で評価されやすい傾向があります。
また、BtoBの場合は広告費で差をつけるよりも、仕様書やサンプル、加工実績を通じて価値を理解してもらえるため、企業規模に関係なく勝負できる領域です。
中小企業でも「技術の深さ」さえ伝われば採用につながる可能性があります。
価格競争に巻き込まれにくい
BtoCはどうしても価格比較で選ばれがちですが、中間財は用途が明確で、求められる品質基準も高いため、単純な価格競争になりにくい特徴があります。
海外企業から見ても、品質と安定供給が最優先であり、多少価格が高くても採用されるケースは多くあります。
逆に言うと、価格だけで勝負しようとすると、海外では必ず大手や新興国メーカーに負けます。
中間財メーカーほど「他に無い技術」「安定供給」「品質保証」を軸にした戦い方が効果的です。
中間財メーカーは海外市場との相性が良い傾向がある
市場の拡大余地や競争構造を踏まえると、中間財メーカーは海外市場との相性が良いと言われます。
理由は三つあります。
- 1 国内市場よりも需要が多い国が多い
- 2 製品の置き換えが起こりやすく、海外企業が新しい仕入先を探す動きが定期的にある
- 3 認証や技術基準が整っていれば、企業規模に関係なく取引開始が可能
もちろん全ての企業が成功しやすいという意味ではありません。
ただ、BtoBとしての特徴が海外展開と重なり、地道な取り組みが成果につながりやすい構造になっています。
手順を踏むと、成果につながりやすい
中間財メーカーは、一見すると海外展開のハードルが高く見えるかもしれません。
しかし、必要なのは正しい順番で準備を進めることです。
技術資料、展示会選定、代理店開拓、品質保証の説明などを一つずつ整えていけば、決して特別な企業だけが成果を出せる取り組みではありません。
次の章では、この「最初の一歩」をどう踏み出すかを整理していきます。
最初の一歩:海外展開の「目的」と「勝てる領域」を決める
海外展開を成功させる企業の共通点は、最初に「目的」と「勝てる領域」を明確にしていることです。
ここが曖昧なまま進むと、展示会に出ても商談がかみ合わず、代理店に声をかけても手応えが薄いまま時間だけが過ぎてしまいます。
中間財メーカーの場合、国内での事業構造がそのまま海外で通用するわけではありません。
まずは自社の立ち位置と強みを再確認することから始めていきます。
強みの棚卸しをする
最初に必要なのは「何が評価されるのか」を言語化することです。
技術力、加工精度、小ロット対応、短納期、品質保証体制、環境基準への適合など、中間財メーカーが持つ強みは複数あります。
社内で当たり前に思っていることほど、海外企業にとって大きな価値になることもあります。
たとえば以下のような観点で整理してみると、展示会や営業活動でのメッセージが明確になります。
・海外顧客や既存取引先から「御社ならでは」と評価されてきた技術や特性は何か
・標準用途に加えて、特殊用途やカスタム案件にどこまで対応してきたか(頻度・精度)
・納期・品質・価格の総合点もさることながら、業界内で相対的にどこが強みとして説明できるか
海外企業は「技術そのもの」よりも、「具体的にどう役立つのか」が知りたいものです。
強みが整理できると、打ち出す言葉が変わり、海外での反応も大きく変わっていきます。
海外展開の3つの型を理解する
中間財メーカーが選べる海外展開の方法は、大きく3つの型に分かれます。
これによって準備する資料、必要な投資、営業の進め方が変わるため、最初にどれを目指すのか明確にしておきます。
1つ目は販路開拓(輸出)です。
展示会出展や代理店開拓が中心となり、製品をそのまま輸出するモデルです。
2つ目はOEM供給です。
海外メーカーの製品づくりに部品や加工を提供する形で、長期契約になりやすい特徴があります。
3つ目は現地委託生産です。
輸送コストや納期の課題がある場合に、現地で生産ラインの一部を委託する形です。
初期投資やパートナー選定が重要になります。
どの型を目指すかによって、次に進むべきステップが変わるため、ここを曖昧にしないことが大切です。
ターゲット国の優先順位をつける
海外展開では闇雲に海外全体を対象にしても、商談の精度は上がりません。
「どの国を狙うか」が大きな分岐点になるため、候補国を絞り、優先順位をつけることが重要です。
判断基準にはいくつかあります。
・需要がある国(市場の規模、輸入量の増減)
・競合構造(大手が強いのか、新興国メーカーが多いのか)
・物流コストやリードタイム
・必要な認証や規制のレベル
・日本企業との相性(品質志向が強いか)
・過去の引き合いが多い地域
中間財メーカーは、製品の性質上、輸送コストや納期が事業性に強く影響します。
そのため、欧米だけでなく、アジアや中東などの近接地域を選択する企業も増えています。
無理に大きな市場を狙う必要はありません。
まずは「勝てる可能性のある国」から小さく始めて、検証しながら広げていく方が負担が少なく、成果につながるスピードも速くなります。
最初に目的を決めることで、全てがつながっていく
目的と勝てる領域が定まると、必要な資料、展示会の選び方、代理店探しの方法が自然と見えてきます。
海外展開は一つひとつのステップが連動するため、最初の設計が後の成功を大きく左右します。
次の章では、具体的な「市場調査」の進め方を、できるだけ簡単に整理していきます。
市場調査は“机上調査で十分”:BtoB向けの現実的な方法
海外展開を考えるとき、多くの企業が「まず市場調査から」と言われます。
しかし、いざ始めると情報が散在していて、どこを見れば良いのか分からないという声をよく聞きます。
中間財メーカーの場合、最初に必要なのは“方向性をつかむための机上調査”です。
ここでは、会社の規模に関係なく実践しやすい2つの方法をまとめます。
HSコードと輸出入データで「狙うべき国の候補」を絞る
HSコードは、あなたの製品が国際的にどのカテゴリーに分類されているかを示す番号です。
難しく考える必要はなく、まずは自社製品がどのHSコードに該当するかを把握するところから始めます。(HSコードは輸出統計品目表から調べることができます。)
そのうえで、輸出入データを使って、次の三点を確認します。
・輸入金額の規模(大きい=成熟、ただし競争も強い)
・過去数年の輸入推移(市場規模が小さくても伸びている国は狙い目)
・輸入元(どの国のメーカーが強いのか、自社が入り込む余地はどこか)
ここで求めたいのは、細かな精度ではなく「候補国の方向性」です。
HSコードと輸出入データをセットで見ることで、狙うべき国が自然と絞れてきます。
伸びている国は展示会の質も高く、商談のつながりやすさにも影響します。
この分析ができている企業ほど、海外展開の初期判断で迷わなくなります。
展示会サイトの出展社一覧で競合を調べる
実務の現場で最も役立つのが、業界展示会サイトの出展社一覧を使った競合調査です。
製品カテゴリー別に、海外でどんなメーカーが出ているかが一覧で分かるため、競合のレベルや自社の立ち位置が把握しやすくなります。
この方法が優れているのは、業界構造が一目で分かることです。
例えば、大手ばかりのカテゴリーであれば参入のハードルが高いと分かりますし、中小規模の企業が多ければ自社にも十分なチャンスがあります。
展示会ごとに主な商材が異なるため、「どの展示会に出展すべきか」の判断材料にもなります。
市場調査と展示会戦略を一緒に考えられるため、中間財メーカーには特に相性の良い方法です。
机上調査でも、最初の方向性は十分に見えてくる
ここまでの2つの方法は、どれも特別なスキルや専門知識は不要です。
それでも、海外展開の「最初」の方向性をつかむには十分な材料になります。
重要なのは、「完璧な市場調査」ではなく、「まずは動ける判断材料を揃える」ことです。
最初の方向性さえ決まれば、次の展示会選定、代理店開拓、技術資料の準備がスムーズに進みます。
次の章では、海外展開を大きく左右する展示会と代理店の使い分けについて、さらに具体的に整理していきます。
販路開拓の核心:展示会・代理店・商社の使い分け
中間財メーカーが海外販路をつくる際、最も成果が出やすいのは展示会・代理店・商社を組み合わせる方法です。
ただし、この3つは役割が大きく異なります。
どれか一つだけに依存すると、思うように動かず、時間と費用が無駄になってしまうこともあります。
ここでは、それぞれの特徴と使い分けを整理し、実務でどう進めればいいかをまとめます。
展示会は“最初の入り口”になる
中間財メーカーの海外展開における展示会は、新規顧客との出会いをつくる入口です。特にB2B分野では、展示会の質がそのまま商談の質に直結します。
展示会のメリットは三つあります。
- 1 短期間で多くの見込み客に接触できる
- 2 実物や技術資料を使って価値を直接伝えられる
- 3 競合比較されやすいため、来場者が本気で新規サプライヤーを探している
注意したいのは、海外展示会は「初回接点をつくる場」であると同時に、その場での評価や判断が日本よりも圧倒的に早いという点です。
日本の展示会のように、会期後にゆっくりフォローして商談を進めるのではなく、即断・即提案が求められ、その場で次のステップの可否が決まることも珍しくありません。
だからこそ、展示会前の準備が成功のカギになります。
技術資料、サンプル、価格の考え方、説明ストーリーまで、当日の判断に耐えられる状態に整えておくことが重要です。
代理店は“継続営業の中心”、エンドユーザーとはメーカーが直接商談も
展示会にはエンドユーザー企業と代理店の両方が来場します。
中間財メーカーの場合、展示会後の最初の技術商談は、メーカーが直接エンドユーザーとやり取りすることが多く、製品の仕様確認やサンプル評価は“直のコミュニケーション”で進みます。
一方で、日常的な営業活動や訪問、見積り調整、納品手続きなどの“継続フォロー”は、現地市場に詳しい販売代理店が担う方が効率的です。
つまり海外展開は、
・メーカーがエンドユーザーと技術商談を進める
・代理店が営業・フォローを継続する
という “両輪型” が一般的です。
代理店を選ぶ際に大切なのは企業規模ではなく、「その市場にどれだけ強いか」です。
大手代理店でも対象業界に専任担当がいなければ成果は出ませんし、小規模でも専門特化型の代理店は大きな力を発揮します。
代理店に任せる領域は、営業活動、見積り調整、顧客対応などが中心です。
ただし、技術説明や品質保証の説明、仕様調整はメーカーの役割です。
ここを最初に明確にしておくことで、商談が止まりにくくなり、双方の力を最大限に発揮できます。
商社は“合致したときにだけ使える”“別ルート”の取引形態
中間財メーカーにとって、昨今、商社は「海外販路の中心的存在」ではありません。
商社は自社製品を積極的に売ってくれるわけではなく、あくまで既に持っているエンドユーザーとの取引の中で、ニーズが合った場合に限ってあなたの製品を提案してくれます。
つまり、商社はメーカーに代わって営業してくれる存在ではなく、「合致したときに使える追加ルート」のようなものです。
商社への依存を前提にすると、期待と現実のギャップが大きくなってしまいます。
ただし、商社経由で案件が動いた場合はメリットがあります。
代金回収、貿易条件の調整、物流手配、品質保証のフォローなど実務が簡素になるため、事務負担が大きく軽減されます。
海外企業との初回取引が不安な段階では、商社経由が選択肢になるケースもあります。
大切なのは、商社を「販路拡大のエンジン」と捉えないことです。
基本の海外展開は、自社で展示会に出て、現地のディストリビューターを探すところから始まります。
その流れの中で、商社経由の案件が生まれたら活用する。
これが現実的で無理のない進め方です。
展示会で出会い、代理店で育て、商社は“合致すれば使う”
中間財メーカーの販路モデルは、次のように整理できます。
展示会で初回接点をつくり、
自社で商談を形にし、代理店と共に育てる
商社は既存顧客とのニーズが一致したときは活用する
この三つは同じライン上に並んでいるわけではありません。
展示会と代理店は海外展開の中心に位置づき、商社は「条件が揃えば使える別ルート」という立ち位置です。
展示会で得た名刺は代理店につなぎ、代理店が継続的な営業を行います。
(ただし、初期の1〜2回の出展では代理店が未だいないことも多く、その場合の1~2年はメーカー自身がエンドユーザーのフォローを英語で直接進めることが一般的です。)
その流れの中で、商社が保有するエンドユーザーのニーズと自社製品が一致した場合に限り、商社経由の案件が立ち上がることがあります。
つまり、商社は“販路を広げる主体”ではなく、“適合時に発生する追加経路”と考えると現実的です。
このように、展示会、代理店、商社の役割を正しく理解しておくことで、無駄な期待や誤解を避けながら、現実的な販路づくりが進めやすくなります。
依存しないために必要な実務ステップ
展示会・代理店・商社にはそれぞれ得意領域がありますが、どれか一つに依存すると商談が止まりやすくなります。
海外展開において“主軸となるのはメーカー自身”であり、そのうえで次のような実務が効果的です。
・展示会後の初回フォローは代理店任せにしない
(代理店がいない初期はメーカーが直接対応する)
・技術商談はメーカーが主導し、代理店には営業フォローを任せる
・商社には「紹介があれば使う」程度の期待値に設定する
(商社頼みの戦略にしない)
・代理店・商社との役割分担を文書で明確化する
(誰が何を担当するか曖昧にしない)
・展示会→資料→サンプル→現地訪問という流れをメーカーがコントロールする
依存しないためのポイントは、“新規開拓の中心はメーカー自身が担う”という前提で設計することです。
小さく始めて検証しながら組み合わせていくと、海外展開の動きが止まりにくくなります。
技術資料・サンプル・価格提示:BtoB営業の最初の関門
海外商談を進めるうえで、中間財メーカーに最初に求められるのが「技術資料」「サンプル」「価格情報」です。
ここが整っていないと、展示会でどれだけ反応が良くても、その後の商談が止まってしまいます。
逆に言うと、この三つを事前に準備しておくことで、商談のスピードは大きく変わります。
英語化すべき技術資料一覧
海外企業とのやり取りでは、まず技術資料が基準になります。
消費者向けのパンフレットとは違い、BtoBでは仕様レベルや生産体制まで説明できる資料が必要です。
最低限そろえておきたいのは次の通りです。
・製品仕様書(スペック表)
・図面あるいは外形寸法データ
・加工内容や工程が分かる情報(該当する場合)
・材質・許容誤差・耐久性・検査方法
・品質保証体制(検査機器、QCプロセス、トレーサビリティ)
・海外環境規制や基準(RoHS、REACHなど)への適合状況
・製造ロットとリードタイムの目安
・梱包・出荷形態
ここで大切なのは、全て“英語で”準備することです。
海外の商談はスピードが早く、英語化が遅いとその時点で選定対象から外れてしまいます。
資料の形式はPDFで問題ありません。
一度整えておけば、以後どの国で商談が進んでも使えるため、最初の投資効果は非常に大きい領域です。
サンプル提供の原則
サンプルは海外商談で最も重視されるポイントの一つです。
特に中間財の場合、カタログや仕様書だけでは評価できず、実物を見たいという要求が多くなります。
サンプル提供の考え方は次の通りです。
1つ目は「初回は小ロットで十分」であること。
大きな数量を送る必要はありません。
まずは評価用の最小単位を送り、反応を見ながら調整すれば大丈夫です。
2つ目は「無料にするか有料にするか」です。
これは企業ごとに方針が異なりますが、一般的には初回の評価用サンプルは無料、それ以上の数量は有償とする企業が多いです。
海外では有償サンプルが一般的な国もあるため、見積り段階で明確に伝えておくと混乱がありません。
3つ目は納期です。
サンプルの納期が遅いと、商談の温度感が一気に下がります。
展示会後に商談を加速させたいのであれば、サンプルは「いつでもすぐ発送できる状態」にしておくことが理想です。
信頼される見積りの作り方
価格提示は、単に金額を出すだけではありません。
BtoBの海外商談では、価格構造や条件の透明性が非常に重要です。
見積りは企業の姿勢そのものと捉えられます。
特に中間財メーカーの場合、以下の点を整理した見積りが求められます。
・単価(ロット別に明確に)
・MOQ(最小ロット)
・リードタイム
・輸送方法(航空/船便)
・Incoterms インコタームズ(FOB/CIF/DAP などの価格条件)
・支払い条件(T/T、L/Cなど)
・試作と量産で価格が変わる場合の区分
・仕様変更による価格調整ルール
・保証範囲(不良時の対応)
これらをあらかじめ明記しておくことで、相手企業が社内で比較検討しやすくなり、フィードバックも早く返ってきます。
見積りは単なる金額提示ではなく、「自社がどこまでグローバル基準で説明できる会社か」を示す重要な資料です。
ここが整っている企業は、海外企業からの信頼が格段に高くなります。
三つを揃えると商談が一気に動き始める
技術資料、サンプル、見積りの三つは、どれか一つでも欠けると商談が動きません。
逆に、展示会前にある程度準備しておけば、商談のテンポは大きく変わります。
特に中間財メーカーは製品の評価に時間がかかるため、初動の準備がその後のスピードに直結します。
代理店や商社が動きやすくなる効果もあり、結果的に負担が減る最もコスパの良い準備といえます。
次の章では、海外展開で欠かせない「知的財産」と「模倣品対策」について整理します。
展示会に出る企業ほど重要になるテーマです。
知的財産権と模倣品対策
中間財メーカーの海外展開では、技術情報や図面、製造ノウハウが評価の中心になるため、知的財産の扱いが商談の進み方に大きく影響します。
特に展示会に出展する企業は、製品情報を公開する代わりに、基本的な防御策を取っておく必要があります。
ここでは、特許や商標をどう守るか、海外での模倣品対策をどう考えるかを、初心者向けに整理します。
海外で特許・商標をどう守るか
海外展開において、すべての国で特許を取得したり商標を登録する必要はありません。
これは現実的ではなく、費用対効果も合いません。
必要なのは「優先順位を決めること」です。
特許や商標を海外で守る際の基本的な考え方は、次の三つです。
- 1 狙う国を明確にしたら、その国だけを優先的に出願・登録する
- 2 海外展示会に出る前に“出願中”の状態をつくっておく
- 3 日本で登録しただけでは海外での保護にならないという点を理解する
特許や商標は万能ではないため、全方位で守ろうとすると資金が尽きてしまいます。
実務では、狙う主要国に絞り、必要な範囲に限定して管理することが現実的です。
アジアで注意すべきポイント
日本企業が海外展開をするとき、アジアは非常に重要な市場になります。
しかし、模倣品リスクを考えると注意したい国もあります。
特に中国、東南アジアは、現地メーカーが迅速に模倣品を作るケースがあり、日本企業からも相談が多い領域です。
ここで重要なのは、リスクを過度に恐れるのではなく「事前にできる対策を淡々とやっておく」ことです。
具体的には次のような点です。
・図面や仕様書に、機密部分を公開しすぎない
・すべてを見せる必要はなく、初回は概要レベルにとどめる
・取引前にNDA(秘密保持契約)を結ぶ
・展示会では写真撮影を制限する
・商標やブランド名は主要国だけ登録しておく
中間財メーカーの場合、製品の強みが“精度”や“工程管理”などコピーしにくい領域にあるため、最低限の対策をしておけば、過度に恐れる必要はありません。
英文契約書に入れるべき知財条項
知的財産は、特許や商標だけで守るものではありません。
商談が動き始めたら、契約書の段階で「何をどう扱うか」を明確にしておくことが重要です。
英文契約書で押さえておきたい「知財条項」は次の通りです。
・図面、仕様書、検査データなどの著作権と所有権がどこにあるか
・取引先が再利用・再販売してよい範囲
・製品のリバースエンジニアリング(分解解析)の禁止
・取引終了後のデータ返却義務
・ブランド名や商標の使用範囲
・品質問題が発生した際の責任範囲
特に初めて海外企業と取引する場合、この部分を曖昧にすると後々トラブルになりやすいです。
大企業向けの難しい契約ではなくてもいいので、「最低限守るべきこと」を相手に伝えておくと、商談がスムーズに進むだけでなく、信頼の証にもなります。
*上記は英文契約書内の「知財条項」についてのみの説明です。
英文契約書のリスク回避についても知りたい方は「これで大丈夫?」英文契約書でよくあるミスとその対策ガイドもどうぞ。
展示会に出る企業こそ、知財対策は必要
展示会は海外展開のチャンスが最も集まる場である一方、情報が一気に広がる場でもあります。
技術資料やサンプルを公開する以上、一定の対策は必要です。
中間財メーカーは、特許や商標の取得よりも「公開する範囲のコントロール」が重要になるケースが多いです。
重要情報をすべて初回で開示する必要はなく、「段階的に資料の解像度を上げていく」進め方がリスクを避ける最も現実的な方法です。
海外展開において知財は難しく見えるかもしれません。
しかし、最初に押さえておきたいのは“守るべきところだけ守る”という考え方です。
これができていれば、展示会・代理店・商談のすべてがスムーズに進むようになります。
次の章では、海外展開で実際に発生する費用と、その支払いタイミングを分かりやすく整理します。
海外展開で必要になる費用とそのタイミング
海外展開は、何から取り組むかによって費用の発生タイミングが大きく変わります。
中間財メーカーの場合、最初の1年は「展示会」「資料整備」「営業活動」の組み合わせで費用が積み上がる一方、受注につながると追加で必要になる投資も出てきます。
ここでは、海外展開でどのタイミングに何が必要になるのかを整理し、経営判断に使える情報としてまとめます。
初年度に発生する主な費用(海外展示会・営業・資料整備)
海外展開を始めた初年度は、準備と販路開拓にコストが集中します。
ここが最も読者の不安が大きい部分でもあるため、必要になる費用と発生タイミングを下記に整理しました。
- 1 海外展示会出展費用:
出展料、装飾費、渡航費、サンプルの追加製作費など、合計すると一定額になります。
ただし展示会はBtoB企業にとって最も効率の良い接点づくりであり、初年度に1〜2回参加する企業が多くなります。 - 2 技術資料や英語化の費用:
仕様書、図面、製造工程、品質保証など、商談で必ず必要になる資料を英語化しておく必要があります。
一度整備すれば長く使えるため、初期投資としての効果は大きいです。 - 3 サンプル関連の費用:
展示会当日用、商談後の送り直し、評価用サンプル配送など、製品によっては数回分必要になります。
評価用サンプルは商談の進み方を左右するため、初年度はある程度予算を見ておくのが現実的です。 - 4 営業活動にかかる工数:
メール・オンライン商談・見積り作成・渡航など、担当者の時間も実質的なコストになります。
特に海外出展後の数か月は問い合わせが増えるため、社内の対応時間も含めて考えておく必要があります。
【外国語対応のWebサイト(英語サイト)について】
中間財メーカーの海外商談では、展示会後に必ず企業情報や製品情報を確認されるため、最低限の英語ページは必須です。
ただし英語サイト構築には特徴があり、
・準備から公開まで半年以上かかる場合が多い
・展示会前に間に合わせたいが現実的には難しいことがある
・展示会で得た現地の声やニーズを反映して“展示会後に作り直し”が必要になることが多い
という悩ましい点があります。
中間財メーカーは、展示会で得た反応によって「訴求ポイント」「事例」「用途説明」が大きく変わるため、海外出展前に完璧な英語サイトを作ることは実務上ほぼ不可能です。
そのため、展示会前には企業情報と主要製品の基本説明を英語化し、サイトの大枠となる構造を整えておくことが現実的です。
そのうえで、展示会から帰国後に得た反応やニーズを反映しながら、自社で柔軟に情報更新できるCMSを使い、グローバルナビゲーション(グロナビ)の文言も変更しやすい構造で運用していくことが大切です。
英語サイトは“展示会とセット”で考えると成功しやすい営業ツールです。
反応や問い合わせの質が一気に変わるため、海外マーケティング投資としても効果が大きく、初年度の費用計画に組み込んでおくことをおすすめします。
受注が動き始めてから発生する費用
商談が進み、サンプル評価が終わると、次は量産や恒常的な取引に向けた費用が発生します。
この段階では、初年度とは異なる種類のコストが出てきます。
まず最初に発生しやすいのが、「量産用の治具や検査工程に関する費用」です。
特に海外企業は品質基準が明確なため、検査体制の強化や追加工程が必要になるケースがあります。
次に、「仕様変更」への対応です。
海外企業は細かな仕様変更を求めることも多く、その調整に時間とコストがかかることがあります。
量産前に見通しを共有し、変更が生じた際の費用負担を事前に話し合っておくと後々スムーズです。
さらに、量産開始前後で発生するのが「契約書の作成・レビュー費用」です。
先方の契約書案をそのまま受け入れると、自社に不利な責任範囲や補償条件が含まれていることがあります。
弁護士によるレビューや加筆修正のコストは避けて通れないため、この段階の必要経費として見込んでおくことが重要です。
最後に、包装や梱包の基準が国内と異なる場合、「梱包仕様の変更費用」が発生します。
輸送距離が長いため、国内向けよりも耐久性のある梱包材が求められるケースがあります。
現地での“追加投資”が必要になるタイミング
海外展開が軌道に乗り始めると、案件に応じて追加の投資が必要になるタイミングが出てきます。
- 1 渡航費用:
海外代理店教育、顧客工場の立ち会い、評価過程のフォローなど、受注前後は現地対応が増えます。
特にヨーロッパや北米は距離があるため、渡航費や滞在費が想定以上になることがあります。 - 2 海外代理店との連携費用:
代理店が製品を売るためには、説明会、商材トレーニング、定期的な情報提供が必要です。
海外代理店を本気で動かすためには、こちら側の海外マーケティング対応コストも一定程度発生します。 - 3 委託生産検討費用:
輸送費が高騰したり、納期がシビアだったり、需要が増えてきた場合、現地や周辺国での委託生産が選択肢になります。
この場合は打ち合わせや品質確認など、別の種類の投資が必要になります。
これらは“成功の副作用”でもあり、受注が本格化するほど必要な投資が増える傾向があります。
採算ラインをどう考えるか
海外展開の初年度は、売上がほとんど立たないケースも多く、準備や資料整備、展示会出展などの先行投資が中心になります。
大切なのは、2〜3年ほどのスパンで投資回収を見据えることです。
中間財メーカーは一度採用されると長期取引につながりやすく、初年度の動きが後年の安定売上に直結します。
採算を考える上で大切なポイントは次の通りです。
・1~2年目は準備と営業活動が中心(投資先行)
・2年目以降で商談が量産段階に入り始める
・3年目で採用が増えると継続的な売上が立つ
・1社の定着で黒字化する構造がある
逆に、黒字化できないパターンは「展示会に出たきり」「代理店任せ」「資料不足」「サンプル対応が遅れた」など、準備不足が続いたケースに多いです。
海外展開の採算は、長期的な視点と段階ごとの投資配分が鍵になります。
次の章では、安定的に事業を続けるために必要な「継続運営」の仕組みについて整理していきます。
海外展開を“継続”させる仕組み
海外展開で最も多い失敗は「始めたのに続かない」ことです。
ー海外展示会に出展し、名刺交換はしたものの、気づいたら半年経っていた
ー代理店と契約したが、気がつけば動きが止まっていた
こうしたケースは決して珍しくありません。
中間財メーカーの場合、製品評価に時間がかかり、顧客の採用サイクルも長いため、短期で成果を求めると続かなくなります。
海外展開は“継続して初めて成果が出る新規事業”であり、そのための仕組みを最初の段階で組み込んでおくことが重要です。
展示会→フォローアップ→代理店の動きを一つの流れにする
継続の第一歩は、“アクションを点で終わらせない”ことです。
展示会に出展したら名刺交換で終わるのではなく、フォローアップのメールを送り、関心の高い企業は代理店につないで商談を進めてもらう。
この一連の流れを、展示会のたびに繰り返すことで、少しずつ案件が積み上がっていきます。
重要なのは、展示会、代理店、営業活動を別々に考えず、「一つの連続した流れ」にすることです。
これができる企業は、海外商談の動きが止まりにくく、継続率が高くなります。
CRMで案件管理を“見える化”する
海外商談は、展示会の名刺、メール問い合わせ、代理店からの紹介など、複数の経路で案件が発生します。
この複雑な情報を個人のメールボックスやメモで管理すると、必ず抜け漏れが起きます。
継続の仕組みとして最も有効なのが、CRM(顧客管理)を活用し、案件の状態を“見える化”することです。
・展示会で接点
・資料送付済み
・サンプル評価中
・見積り作成済み
・仕様調整中
・量産検討中
このようにフェーズを分けて管理することで、どの案件が止まっているのか、どこに次のアクションが必要なのかが分かるようになります。
Excelでの簡易管理でも構いません。
重要なのは“継続的に追いかけられる仕組み”があることです。
営業・技術・製造の連携ルールを決める
海外案件は、営業だけでは進められません。
技術資料、サンプル、仕様変更、品質確認など、技術部門や製造部門の協力が不可欠です。
そこで必要なのが、部門横断の「連携ルール」を決めておくことです。
・技術資料は誰が作成し、どこに保存するか
・サンプル依頼は誰が判断し、どの納期で出すか
・見積りの作り方はどう統一するか
・仕様変更の判断ラインをどこに置くか
これらのルールが曖昧だと、海外商談が止まる原因になります。
逆に、社内ルールが明確な企業は対応に一貫性があり、代理店や顧客からの信用を得やすくなります。
定期的なリアルコミュニケーションで信頼構築
海外展開では、展示会後や受注前後に、現地への定期的な訪問が信頼構築の大きな要素になります。
オンラインだけでは伝わりにくい技術背景や対応姿勢は、実際に顔を合わせることで格段に伝わりやすくなります。
渡航頻度は国や製品によって異なりますが、「必要なタイミングで直接会う」ことが、長期的な商談の安定につながります。
「続ける前提」で進めた企業だけが成果を得ている
海外展開は、短期で成果が出ないからこそ、途中で止まってしまいます。
しかし、数年単位で継続した企業は、初年度の展示会で出会った相手と商談が再燃したり、代理店が本気で動き始めたり、少しずつ成果が積み上がっていきます。
海外企業からのニーズに誠実に応えつつ、継続性を仕組み化し、ローカル企業に負けないスピードで提案を出し続けること。
これが、海外展開を長期的に成功へ導く唯一の方法です。
次の章では、中間財メーカーの海外展開を成功に導く“まとめ”に入ります。
正しい順番で進めることが、中間財メーカーの海外展開を成功へ導く
中間財メーカーの海外展開は、一般的なBtoCとは進め方が大きく異なります。
展示会→技術資料→サンプル→仕様調整→量産、と段階が長く、評価にも時間がかかります。
しかし、この流れさえ理解し、海外企業のニーズを満たす仕様で商談を続ければ成果につながります。
重要なのは、
・正しい順番で準備すること
・現地仕様ニーズに合わせて製品や資料を調整できること
・展示会や代理店、商談を“流れとして”継続させること
この3点です。
海外展開は一度始めると社内で判断しづらい場面も多く、どこまで投資すべきか、どの国を優先するか、誰が担当すべきかなど、不安が出てくるのは当然です。
そんな時は、外部の専門家を一度うまく使ってみるのも一つの方法です。
パコロアからのご案内
パコロアでは、中間財メーカーの海外展開を「どこから手を付ければいいか分からない」という段階から並走し、
展示会の選定、技術資料の整備、代理店開拓、Webサイトの英語化、商談フォローまで、企業ごとのフェーズに合わせて支援しています。
・この製品は海外で通用するのか知りたい
・まずどの国を狙うべきか判断材料がほしい
・展示会に出る前に準備すべきものを整理したい
・代理店をどう選び、どう動かすか相談したい
・社内だけで進めるのが難しくなってきた
という段階で相談いただく企業が多く、スポット相談だけでも今後の方向性がはっきりするケースがほとんどです。
海外展開は、やみくもに動くよりも「最初の設計」が何より大切です。
もし今回の記事を読んで、
- うちの場合はどこから始めるべき?
- 展示会に出すべき?出さないほうがいい?
- この製品はどの国に可能性がある?
と思われた方は、ぜひ一度ご相談ください。
中間財メーカーの支援経験をもとに、最適な進め方をご提案します。
ぜひ無料相談はこちらから。