海外進出が注目される背景
日本では人口減少や高齢化が進み、国内市場だけに依存した事業には中長期的な課題があります。
一方、海外へ進出する日本企業は長期的に増えてきました。
日系企業の海外拠点数は、1995年の10,416拠点から2023年には79,560拠点まで増えています。

数字で見る海外ビジネス日系企業の海外拠点は10年で倍増 月刊事業構想編集部2016年6月
海外進出日系企業拠点数調査 外務省2022年10月 から(株)パコロア編
海外展開は大企業だけのものではありません。
調査では、海外進出を行っている中小企業が一定数存在し、進出していない企業の中にも今後の海外進出に関心を持つ企業が見られます。


ところが、企業の海外展開に対する意識を見ると、別の側面もあります。
帝国データバンクの調査では、「海外展開投資」を「重要」とする中小企業は19.7%にとどまりました。

こうした中でも、実際に海外進出を成功させている中小企業は確実に存在しています。
彼らは自社の課題を乗り越え、変化する世界市場に適応することで、売上や生産性を高めています。
つまり海外進出には「やらない理由」はいくらでもありますが、それでも、自社にとって「海外進出する理由」を見出せるかどうか。
まずはそこが、海外進出を検討する出発点です。
実際にチャンスを掴んでいるのは、外に目を向けたごく少数の中小企業でもあります。
ただし、海外へ出れば、どの企業でも同じようにメリットを得られるわけではありません。では、海外進出によって中小企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。
中小企業が海外進出する主なメリット
1. 売上と商機の拡大
1つ目のメリットは売上増加です。
もちろんすぐに成果が出るわけではありませんが、海外市場に参入することで、日本国内では得られなかった売上や販路を得られる可能性が高まります。
特に製造業などでは、現地企業との提携や直接輸出により、商機が一気に広がるケースもあります。

また、製品やサービスの魅力を海外向けに再定義することで、新たなマーケットを開拓することも可能です。
例えば、インド、インドネシア、アフリカ諸国のように人口が増加している地域には、今後の市場拡大が期待され、日本企業にとって魅力的な成長市場です。
こうした地域では生活習慣や文化が異なるため、それに合わせた製品戦略が必要ですが、だからこそ新たなニーズに応えられる余地があります。
国内市場の人口減少が避けられない中で、こうした新興国の市場は、長期的な売上増加の重要な柱となります。

2. 雇用・人材育成の促進
海外展開では、市場調査、営業、契約、物流、現地企業との交渉など、国内事業とは異なる業務が発生します。
海外担当者だけでなく、製造、開発、法務、経理など、国内のさまざまな部門が海外事業に関わることで、社員の経験や社内の対応力を高める機会にもなります。
また、中小企業白書では、海外直接投資を開始した企業について、開始後も国内従業者数が増加している傾向が示されています。

3. 労働生産性の向上
輸出実施企業の労働生産性は、輸出を実施していない企業より高いというデータがあります。
中小企業白書2023年度版では、2021年度の労働生産性は、輸出実施企業が751.1万円、輸出非実施企業が534.2万円となっており、216.9万円の差があります。

ただし、このデータだけから「輸出をすれば生産性が上がる」とは言えません。
もともと生産性や競争力の高い企業ほど輸出に取り組みやすい可能性もあります。それでも、輸出企業と非輸出企業との間に継続して差が見られることは、海外展開を考えるうえで注目したい点です。
4. 経営リスクの分散
国内市場だけに売上を依存せず、海外にも顧客や事業を持つことは、経営リスクの分散につながる可能性があります。
国内市場の縮小や景気変動などによって一つの市場の売上が落ちても、別の市場で売上を確保できれば、事業全体への影響を抑えられます。
ただし、一か国、一社の取引先への依存度が高ければ、新たなリスクを抱えることにもなります。
海外へ進出すること自体ではなく、売上や顧客、市場を分散できることがメリットです。
5. 新しい市場から、自社の競争力を見直せる
海外では、日本とは異なる競合、価格、顧客ニーズの中で商品やサービスを評価されます。
国内では当たり前だと思っていた技術やサービスが高く評価されることもあれば、逆に、日本で評価されている強みが海外ではほとんど価値にならないこともあります。
海外市場で顧客や競合と接することは、「自社の何が本当に競争力なのか」を見直す機会にもなります。
海外進出のメリットを活かしやすい企業・活かしにくい企業
ここまで海外進出によって得られるメリットを見てきましたが、海外へ出れば、どの企業でも同じようにそのメリットを得られるわけではありません。
実際には、海外進出を始める前の国内事業の状況や、海外事業にどこまで人材・資金・時間を投入できるかによって、その後の成果は大きく変わります。
海外進出のメリットを活かしやすい企業
- 国内事業の売上が伸びている、もしくは国内市場でシェア3位以内に入っている
- 担当者や外部人材、専門会社を適宜配置できる
- 海外で売上をつくるまで一定期間投資できる
- 現地の反応を見ながら、商品・価格・販売方法を変えられる
- 経営者が海外事業に継続してコミットできる
海外進出では、市場調査や展示会への出展、Webサイトの整備、営業活動などを始めても、すぐに売上につながるとは限りません。
そのため、国内事業に一定の競争力があり、海外事業が軌道に乗るまで人材や資金を投入できる企業ほど、海外進出のメリットを活かしやすくなります。
海外進出のメリットを活かしにくい企業
一方、次のような状態で海外進出を始める場合は注意が必要です。
- 国内売上が横ばい、もしくは減少している
- 人材育成や設備への投資を十分に行っていない
- 海外担当者の確保は、実際に売れ始めてから検討する予定
- できれば海外では、販売を現地企業などに代行してもらいたい
- 海外展示会への出展やWebサイト構築などは、補助金があれば進めたい
- 国内事業を最優先し、海外事業は時間があるときに進める
「国内市場が厳しくなってきたので海外へ」というケースは、特に慎重に考える必要があります。
海外では、日本で築いてきた知名度や取引関係がほとんどない状態から、新しい顧客や販売先を開拓しなければなりません。
国内事業で苦戦している原因を整理しないまま海外へ市場を広げても、その問題が解決するとは限らず、むしろ人材や資金の負担が増える可能性があります。
海外進出のメリットを得るためには、「海外へ出ること」ではなく、海外で事業をつくり、継続して動かせる状態にあるかを先に確認することが重要です。
海外進出すべきかは、自社の状況から判断する
海外進出には、売上や販路の拡大、経営リスクの分散、生産性や競争力の向上など、さまざまなメリットがあります。
しかし、大切なのは「海外進出にはメリットがあるか」ではなく、「自社がそのメリットを得られるか」です。
国内事業の状況、自社の商品・サービスの強み、海外で狙う市場、販売方法、必要な人材や投資額によって、海外進出の可能性は大きく変わります。
海外進出するかどうかを検討するときは、海外市場の魅力だけを見るのではなく、自社が海外事業を継続して育てられる状態にあるかまで含めて判断することが重要です。
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