「PL保険をかけたから大丈夫」「契約書を作ったから安心」——そう考えていませんか?
しかし、海外には日本の常識や制度が通用しない場面が多くあります。


リスクを見据えた海外進出とは
日本企業が海外進出中にリスクマネジメントを怠ると、小さなミスが事業全体を揺るがすこともあります。
実際に、2016年の独立行政法人中小企業基盤整備機構の調査では、海外進出済みの中小企業の82.4%が、明確なリスクマネジメント方針を持っていないとされています。海外リスクマネジメント実態調査 2016年2月 独立行政法人中小企業基盤整備機構
つまり、多くの企業が“転ばぬ先の杖”を用意していないのが現状なのです。
海外進出を「会社の未来を切り拓く挑戦」とするために、今こそリスク対策に本腰を入れましょう。

海外進出に潜むさまざまなリスク

日本企業が海外取引(輸出)、海外進出(投資)を進める中で、それぞれの流れを具体的にイメージしてみると、リスクが浮き彫りになるでしょう。
オペレーションリスクの具体例
「輸出」ビジネスを始めると、メールでの商談からはじまり、見積もり、受注、生産、出荷、代金回収…といった一連の流れが発生します。
この中には、以下のような数多くのリスクが潜んでいます:
- 技術情報を提供したはずが、そのまま模倣されて自社よりも先に販売された。
- 支払い条件を合意していたのに、輸出後に突然音信不通になり、代金が未回収のまま。
- 見積内容の翻訳ミスで、数量や仕様を誤認されたまま発注され、返品対応に追われる。
- 梱包ミスにより商品が破損。保険申請を行ったが「不適切な梱包」として補償されなかった。
- 輸入通関で必要な現地書類の不備により、倉庫で荷物が止まり、結果的に商品劣化で廃棄処分に。
- 商品画像や納入実績を提出したところ、それが現地企業のサイトで無断転載されていた。
- 商品出荷前は頻繁に連絡があったが、出荷後は音信不通になり、代金が未回収に。
- 海外の商標登録制度に不慣れだったため、現地企業に商標を先に取られ、正規品であるにもかかわらず販売できなかった。
これらのリスクは、業務を「いつも通りに」行っただけでは回避できないタイプの問題です。
カントリーリスクとその特異性
輸出だけでなく、現地に工場や法人を設ける「投資型」の海外進出では、より深刻なリスクが浮上します。
- 現地行政の手続き遅延で開業が半年遅れた。にも関わらず、賃料は契約通り発生していた。
- 土地契約の権利関係が不明瞭で、進出後に別の所有者から訴訟を起こされた。
- 現地で採用した従業員が早期に退職。採用・教育に掛けたコストが回収できなかった。
- 精霊信仰を軽視した社内通達が文化的反感を招き、祝祭後に社員が誰も戻らなかった。
- 当局の環境規制の強化により、使用していた素材が突然輸入禁止となり、全製品の見直しが必要になった。
- 軽視していた治安の問題で、幹部社員が強盗被害に遭い、現地業務の継続が困難になった。
- 海外コンサルタントの言葉をうのみにして準備を進めたが、撤退時にようやく多くの不備に気づいた。
- 日本語の微妙なニュアンスが通じず、現地スタッフとの認識ズレが大きな問題を引き起こした。
特に発展途上国においては、政治的な混乱や法律の不透明さがリスクを増幅させています。
分かりやすい例ではクーデター勃発や国債のデフォルト、ハイパーインフレなどがあります。
例えば、政治家の汚職、公務員の職務怠慢、政情不安、犯罪検挙率の低さ、警察への賄賂の常態化も要因の1つと言われています。程度の差こそあれ、以下のカントリーリスクはどの国にもあります。
- 外資規制
- 司法制度の不公正
- 政権による企業経営への介入
- 保護主義による法改正
- 事業接収
- 現地通貨建による減価
- 模倣品の氾濫
- 所得格差の増大
- 為替の下落
- インフレ進行
それぞれのトラブルや課題に対する対策は、日本本社と共に海外拠点がしっかり練っておく必要があります。
人的・サイバーセキュリティも重要なリスク要素
さらに見落とされがちなのが下記の様な「人的リスク」や「サイバーセキュリティ」に関するリスクです。
- 海外拠点での管理体制が甘く、従業員による備品の横領や水増し請求が常態化していた。
- パートナー企業のスタッフにより、営業機密が他社へ流出。
- 社内システムに不正アクセスがあり、輸出先や価格条件などのデータが抜き取られた。
- 無意識に使用したフリーWi-Fiがハッキングの原因となり、社内ネットワークにウイルスが侵入した。
こうしたセキュリティリスクは、人的信頼に頼るだけでは不十分です。
リスクの検出と封じ込めを行う具体的なルールと、日々の運用が求められます。

海外進出のリスクを可視化する思考法

想定外を前提に準備する
「こんなことで足止めされるのか」「まさかここでミスが出るとは」——海外ではそんな“想定外”が日常的に発生します。
海外には、下記などが根付いており、これらは日本企業の“当たり前”とはかけ離れています。
- 明文化されていない商慣習
- ゆるやかな時間感覚
- 強い上下関係や属人的判断
- 不完全な情報共有
これらに対応するには、単にルールを設けるだけでなく、「文化的背景」を理解し、トラブル発生時の受け皿としての“柔軟な対話”と“二重三重の備え”が必要です。

海外進出リスクにどう備えるか:実践的ヒント

海外進出リスクを知るための情報源
日本企業が海外進出リスクを知るためには下記の様な情報が役立ちます。
- 先行企業の失敗事例から学ぶ
- JETROなどの専門機関が提供するケーススタディの活用
- 政府や国際機関が公開する治安・経済情報のチェック
海外進出リスク対応準備のあり方
海外進出リスクに対応するための準備には下記などがあります。
- 社内で“許容できるリスクの範囲”を明文化する
- 有事の際の連絡体制と責任分担をあらかじめ定める
- 拠点ごとの文化・宗教的要素に対して最低限の知識共有を行う
- 社員向けにセキュリティと情報倫理の研修を導入する
また、社内の判断基準に多様性を取り入れ、“現地スタッフの声”を政策に反映させる仕組みも重要です。
海外で発生するリスクの理由を知る
リスクにどう備えるかについては、なぜそのようなことが起きるのか?について、海外にいる相手の立場になりきって想像してみるのも1つの方法です。
例えば、日本と異なり海外の国々では、
- 歴史が浅い
- 刹那的
- 識字率が低い
- 国のセイフティネットが無い
- 餓死する人が日常にいる
- 社会全体の競争が激しい
- 社会のルールを守ることで得られる”自分の“メリットは無いか、非常に少ない
- 落とし物を届けるシステムは無い、仮に届けたとしても盗みを逆に疑われるリスクはある
などがあります。
また、下記のように考える人も普通にいます。
例えば、
- 残業し休日出勤し健康を害してまで仕事をするのは狂気の沙汰でクレイジー
- 生きる意味の根底に”神”や”家族”の存在はあってもそこに”会社”を同列化するなどありえない
- 共同体の内側の人には尽くすが外側の人(異宗教や異国)への仁義は無く、期待もしない
- 真実は1つではなく多面体で、今日の正解は明日には不正解、ということもある
- 二重三重に防御して、持ち分を減らさぬ自助努力は当たり前
- 理由も無く人のことを信用しない、自分が簡単には信用されなくても驚かない
- 意見があれば主張をする、表情乏しく頷くだけでは意味が分からない、不参加と同じ
- 唐突な指示や、背景説明が無い依頼を、業務命令と言われても、動けない、説明責任を果たしていない
等々、日本とは、歴史も制度も異なる世界が垣間見えると、いかに日本側が異質か?が何となく掴めるようになってきます。
それぞれの国で物の見方や考え方に大きな幅がある中で、100%リスクを回避できる、と考えること自体が現実的ではないことが分かります。
進出したい国や事業により、絶対に回避すべきリスク、許容せざるを得ないリスクが、それぞれ変わってきます。
許容できるリスクの下限とその影響を、社内でしっかり事前に協議しておきましょう。

知らないというのは怖いものですね。
しっかりと海外進出のリスクに備え、準備をしようと思います。

いい心掛けです。
特に、サイバーセキュリティや人的リスクは見落とされがちですが、今後ますます重要になります。

でも…、完璧に備えるなんて無理じゃないですか?

100%回避するのは難しくても、“転ばぬ先の杖”として想定しておくだけで被害は最小限に抑えられます。備えあれば憂いなし、です。
ほかにも大切なリスク管理として、「知的財産の管理」があります。

海外での模倣品多いですよね。
でも、どうせ止められないんじゃないですかね?

そんな弱腰でどうするんですか!!