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インバウンド事業は中小企業でも成立する?始める前に確認すべき5つの判断軸

公開 2026年2月2日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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Welcome to Japan illustration with Tokyo Tower, Mount Fuji, and Japanese cultural icons

インバウンド事業という言葉を聞くと、観光地や宿泊業、飲食店向けの話だと感じる方も多いかもしれません。

一方で、ここ数年、製造業やサービス業、地域密着型の中小企業からも「インバウンド対応を考えるべきか悩んでいる」という相談が増えています。

ただし、インバウンド事業は、

「人が増えているからやれば売れる」
「補助金があるから始めやすい」

といった単純な話ではありません。

実際には、向いている企業と、まだ始めるべきではない企業がはっきり分かれます。

本記事では、インバウンド事業を「やり方」ではなく「判断」の視点から整理します。

中小企業が参入前に確認すべきポイントを5つの判断軸として示し、成立しやすいケースと、無理に始めた場合に起きやすい落とし穴を具体的に解説します。

インバウンド事業を今すぐ始めるべきかどうか。

あるいは、別の海外展開手段を選ぶべきか。

その判断材料を持ち帰っていただくことが、本記事の目的です。

インバウンド事業とは何か

インバウンド事業とは、訪日外国人を対象に価値を提供し、対価を得るビジネス全般を指します。

観光や宿泊、飲食といった分かりやすい業種が注目されがちですが、本質は「外国人が日本国内で消費・体験・取引を行う構造」をどう事業として成立させるかにあります。

よくある誤解の一つが、

「インバウンド事業=観光業向けの話」
という理解です。

実際には、製造業、サービス業、BtoB事業者であっても、条件が整えばインバウンド事業の担い手になり得ます。

たとえば、以下のようなケースです。

  • 訪日客向けに商品や体験を提供する事業
  • 外国人向けの研修、学習、体験プログラム
  • インバウンド対応を行う事業者を支えるBtoBサービス
  • 地域や施設と連携し、間接的に収益を得る仕組み
  • 海外企業の来日を前提に、日本国内で役務提供を行うBtoB型のサービス

一方で、インバウンド事業は「海外進出」とは性質が異なります。

海外に拠点を構えたり、輸出を行ったりするのではなく、顧客(や顧客企業)が日本に来ることを前提にしたビジネスである点が大きな違いです。

この違いを理解せずに進めてしまうと、

「海外展開ほどの準備はいらないだろう」
「国内事業の延長で何とかなるはず」

といった判断になりやすく、結果として負担だけが増えるケースも少なくありません。

インバウンド事業は、国内向け事業とも、輸出・海外投資とも異なる、独自の考え方が必要です。

だからこそ重要なのは、「できるかどうか」よりも先に、自社がこの形態に向いているかどうかを見極めることです。

次の章では、中小企業がインバウンド事業を検討する際に、最初に確認すべき判断軸について整理します。

ここを飛ばして施策から考え始めると、後戻りが難しくなる点には注意が必要です。

インバウンド事業が成立しやすい企業・成立しにくい企業

インバウンド事業を検討する際、多くの企業が最初に考えるのは「うちでもできるだろうか」という点です。

結論から言えば、インバウンド事業は中小企業でも成立します。

ただし、すべての企業に同じように向いているわけではありません。

まず、比較的成立しやすい企業の特徴から整理します。

一つ目は、提供する商品やサービスが、言語に依存しすぎていないことです。

視覚的に伝わる、体験を通じて理解できる、使い方が直感的である。

こうした要素がある場合、外国人顧客とのコミュニケーション負荷を抑えたまま価値提供が可能になります。

二つ目は、価格や条件をある程度、事前に定義できることです。

インバウンド事業では、現場判断や属人的な対応が増えがちです。

あらかじめ価格、提供範囲、対応条件を整理できている企業ほど、トラブルを回避しやすくなります。

三つ目は、既存事業が安定していることです。

インバウンド事業は立ち上げ初期に、想定外の調整や手戻りが発生します。

国内事業が不安定な状態で同時に進めると、どちらも中途半端になりやすい点は見落とされがちです。

一方で、成立しにくい、あるいは今は見送った方がよい企業にも共通点があります。

代表的なのは、対応できる人材が極端に限られているケースです。

特定の一人しか対応できない、判断がその人に集中している場合、負荷が急激に高まります。

結果として、インバウンド事業そのものが社内のボトルネックになることもあります。

また、「とりあえずやってみよう」という動機が先行している場合も注意が必要です。

インバウンド需要の増加や、周囲の成功事例を見て焦って始めた結果、自社の強みと噛み合わず、継続できなくなるケースは少なくありません。

重要なのは、インバウンド事業を成長のための万能策として捉えないことです。

あくまで数ある選択肢の一つであり、合わない企業があるのは自然なことです。

この段階で無理に前向きな結論を出す必要はありません。

むしろ、「今は向いていない」と判断できること自体が、リスク管理の一部だといえます。

次の章では、インバウンド事業をもう少し具体的に捉えるため、代表的な事業タイプと収益の考え方について整理します。

インバウンド事業の代表的な3タイプと収益モデル

インバウンド事業と一口に言っても、その形は一つではありません。

中小企業が検討しやすい代表的なタイプを、収益の考え方とあわせて整理します。

来店・来場型のインバウンド事業

もっともイメージしやすいのが、訪日外国人が実際に足を運び、商品やサービスを利用する形です。

飲食店、物販店、工房、施設見学などがこれに該当します。

このタイプの特徴は、既存の国内向け事業を一定程度活用できる点にあります。

一方で、接客対応や案内、決済方法など、現場オペレーションの調整が避けられません。

収益モデルとしては、単価×来訪数が基本になりますが、訪日客は滞在期間が限られているため、繁忙期と閑散期の差が大きくなりやすい点には注意が必要です。

体験・サービス提供型のインバウンド事業

体験型のワークショップ、ツアー、学習プログラムなど、「日本ならではの体験」を価値として提供するタイプです。

このタイプは、モノを売らずに価値を提供できるため、在庫リスクが低いという利点があります。

その反面、サービスの質や進行に対する期待値が高く、事前説明と実際の体験内容の差がトラブルにつながることもあります。

収益は参加費やプログラム料金が中心となり、価格設定や提供範囲をどこまで明確にできるかが、継続性を左右します。

間接支援・BtoB型のインバウンド事業

訪日外国人を直接相手にするのではなく、インバウンド対応を行う事業者や地域を支える形で関与するタイプです。

多言語対応支援、運営サポート、仕組みづくりなどがこれに含まれます。

外国人対応そのものは少ない一方で、事業全体を理解する視点が求められます。

収益モデルは、委託費用やプロジェクト単位の報酬が中心となり、単発で終わらせず、継続契約につなげられるかがポイントになります。

補足:海外企業の来日を前提としたBtoB型インバウンド事業

このほか、近年増えているのが、海外企業の来日を前提に、日本国内で役務提供を行うBtoB型のインバウンド事業です。

一例としては、海外企業が日本で展示会や商談、イベントに参加する際の支援などが挙げられます。

展示会ブースの設計・施工、現場管理、日本側との調整、会場ルールや契約条件への対応など、提供価値は「接客」ではなく「実務遂行」にあります。

このタイプは、個人向けインバウンドと比べて単価が高く、契約関係も明確になる一方、調整力、法務理解、責任範囲の整理など、求められる水準も高くなります。

そのため、観光業の延長として考えるのではなく、専門性のあるBtoBサービスとして位置づける必要があります。

インバウンド事業を検討する際は、自社がどのタイプに近いのか、あるいはどこまで対応できるのかを整理することが欠かせません。

ここが曖昧なままだと、後工程で判断がぶれやすくなります。

次の章では、こうした事業タイプに共通して潜む、見落とされがちなリスクについて整理します。

インバウンド事業で見落とされがちなリスク

インバウンド事業を検討する際、人手不足や言語対応がリスクとして挙げられることは少なくありません。

しかし、実際に事業が行き詰まる原因は、それ以前の段階に潜んでいることが多いのが実情です。

責任範囲が曖昧なまま進んでしまうリスク

まず見落とされがちなのが、責任範囲が曖昧なまま進んでしまうリスクです。

インバウンド事業では、予約条件、キャンセル対応、遅延やトラブル時の判断など、事前に整理しておくべき事項が多く存在します。

これらを曖昧なまま現場対応に任せると、想定外の負担が特定の担当者に集中します。

例えば、

「集合場所までの移動は含まれていない」
「開始時間に遅れた場合は参加不可」

といった条件を事前に明示していないと、当日のクレームや追加対応が発生しやすくなります。

メールで送っただけで終わらせず、注意点を一目で分かる形で伝える工夫が欠かせません。

契約や条件の整理不足によるリスク

次に、契約や条件の整理不足も大きなリスクです。

個人向けの小規模な取引であっても、提供内容と対価の関係が明確でなければ、認識のズレが生じやすくなります。

BtoB型のインバウンド事業ではなおさらで、口頭や慣習に頼った対応は後々のトラブルにつながりやすい点に注意が必要です。

例えば、

「通訳は含まれていると思っていた」
「設営後の修正対応まで料金内だと思っていた」

といった認識の違いが、追加作業や無償対応を求められる原因になります。

どこまでが契約範囲なのかを、文章で残しておくことが最低限の防御になります。

デジタル施策を導入すれば解決すると考えてしまうリスク

多言語サイトや予約システムを導入すれば解決すると考えてしまうのも、よくある落とし穴の一つです。

実際には、問い合わせ対応や運用体制が追いつかず、結果として顧客満足度を下げてしまうケースも見受けられます。

例えば、自動予約はできても、変更やキャンセルの問い合わせに誰も対応できない、といった状況では、現場の混乱を招くだけです。

仕組みを入れる前に、「誰が」「どこまで」対応するのかを決めておく必要があります。

事業の持続性を軽視してしまうリスク

もう一つ見逃せないのが、事業の持続性を軽視してしまうリスクです。

短期的な需要増加に合わせて対応を拡大したものの、人材や体制が追いつかず、数年で撤退を余儀なくされる例は少なくありません。

例えば、繁忙期だけ現場を回すために、特定の担当者に業務が集中し続ける状態が続くと、事業としての継続は難しくなります。

繁忙期ではなく、通常期を基準に回る体制かどうかを確認する視点が重要です。

インバウンド事業のリスクは、「大きな事故」よりも、「小さなズレの積み重ね」として現れます。

どのリスクを受け入れ、どこで線を引くのかを、事前に言語化しておくことが、事業としての安定性につながります。

次の章では、こうしたリスクを踏まえたうえで、中小企業がインバウンド事業を無理なく続けるための設計上の判断について整理します。

インバウンド専業にしない、という判断が事業を長持ちさせる

インバウンド事業を検討する際、

「サステナビリティが大切」
「地域との共存が必要」

といった話は、すでに多くの場面で語られています。

ただ、中小企業の実務において重要なのは、理念としてのサステナビリティではありません。

インバウンド事業を“専業にしない”という設計そのものが、結果として事業を長持ちさせる、という現実的な判断です。

多くの中小企業にとって、インバウンド需要は「主力事業」ではなく、国内事業や既存ビジネスに重なる形で生まれる追加需要です。

ここを切り分けず、インバウンド専業として体制を組んでしまうと、需要の変動に耐えられなくなります。

例えば、

訪日客が減った途端に、専任担当者の仕事がなくなる
繁忙期だけ業務が膨らみ、通常期は持て余す

こうした状態は、持続可能とは言えません。

一方で、

「通常業務が回っている延長線上で、インバウンドにも対応できる」設計

になっている企業は、状況が変わっても柔軟に調整できます。

インバウンドが増えれば対応を厚くし、減れば自然に比重を戻すことができるからです。

この視点で見ると、サステナビリティとは環境配慮や地域貢献以前に、需要が上下しても事業を壊さない構造を持っているかどうか、という問題だと分かります。

たとえば、次のような問いに言い換えると、判断しやすくなります。

  • インバウンドがなくても、この事業は回るか
  • 通常期の体制のまま、無理なく対応できる範囲か
  • 特定の一人だけに負荷が集中していないか

これらに「はい」と言えない場合、そのインバウンド事業は、設計段階で無理をしています。

地域との関係も同様です。

地域から理解を得られない形で事業を急に広げてしまうと、後から調整するコストは非常に大きくなります。

重要なのは、「やめる」か「続ける」かを二択で考えないことです。

需要の増減に合わせて、事業の速度や比重を調整できる余地があるかどうか。

それが、結果として事業を長く続けるための条件になります。

今後、人口減少が進む中で、英語対応や多様な顧客への配慮は、特別な取り組みではなく、徐々に「当たり前」になっていきます。

だからこそ、短期的な需要の上下に一喜一憂するのではなく、急拡大せず、必要に応じて比重を戻せる設計が重要です。

インバウンド専業にしないという判断は、中小企業にとって後ろ向きな選択ではありません。

変化に耐えながら続けるための、現実的なリスク管理です。

インバウンド事業を検討する企業が最初にやるべきこと

ここまで見てきたように、インバウンド事業は、

「需要があるかどうか」や
「英語対応ができるかどうか」

だけで判断すべきものではありません。

むしろ重要なのは、始める前の整理です。

この整理を飛ばしてしまうと、後から修正するコストが一気に跳ね上がります。

施策を考える前に、「判断材料」をそろえる

インバウンド事業を検討する際、多くの企業がいきなり施策を探し始めます。

多言語対応、Webサイト、集客方法、補助金。

しかし、それらはすべて「手段」であって、「判断」ではありません。

最初にやるべきことは、次のような点を言語化することです。

  • なぜインバウンド事業を検討しているのか
  • 既存事業との関係はどうなるのか
  • インバウンドがなくても事業は成り立つのか

ここが曖昧なまま進めると、途中で立ち止まったときに、戻る場所がなくなります。

小さく検証し、キャパの範囲で段階的に広げる

インバウンド事業は、最初から完成形を目指す必要はありません。

むしろ、中小企業にとって現実的なのは、小さく試し、品質と体制が追いつく範囲で段階的に広げることです。

最初から拡大ありきで設計すると、想定外の対応が積み重なったときに、現場が崩れやすくなります。

例えば、

  • 対応人数を限定する
  • 期間を区切って実施する
  • 特定の業務だけを切り出して試す

こうした形であれば、想定と違った場合でも事業全体への影響を最小限に抑えられます。

うまくいった場合は、同じ品質を保てる条件を確認しながら、少しずつ受け入れ範囲を広げていけば十分です。

外部支援は「決めるため」に使う

インバウンド事業では、外部の支援機関や専門家に相談する場面も出てきます。

ただし、ここでも注意が必要です。

外部支援は、「やり方を教えてもらうため」だけに使うものではありません。

やるか、やらないかを判断するための材料をそろえる

そのために使う方が、結果として失敗が少なくなります。

事業として成立するのか、
自社に合っているのか、
今やるべきか、見送るべきか。

こうした問いに答えられる状態になってから、具体的な施策に進む方が、無理のない展開が可能です。

インバウンド事業は「選択肢の一つ」にすぎない

最後に強調しておきたいのは、インバウンド事業は、数ある選択肢の一つにすぎないという点です。

自社の状況や体制によっては、別の形で海外と関わる方が適している場合もあります。

インバウンド事業を検討すること自体が、自社の事業を見直す良い機会になることもあります。

その意味で、本記事が

「今すぐ始めるための答え」ではなく、
「判断するための整理材料」として役立てば幸いです。

もし、インバウンド事業を進めるべきかどうか、まだ判断に迷っている段階であれば、無理に決める必要はありません。

パコロアでは、検討段階の整理を目的とした30分の無料相談を行っています。

お気軽にご利用ください。

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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PaccloaQ

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