海外のお客様に商品を届けたい──そんな中小企業にとって、「海外配送」は初期段階から押さえておきたい重要なテーマです。
配送手段によってコストもスピードも大きく異なるため、計画的な選択が求められます。
本記事では、BtoC商品(個人消費者向けの商品)を製造・販売している企業が、スムーズかつ効率的に小口商品を海外配送するための基本的な知識や実務ノウハウをご紹介します。
※なお、法人間取引(BtoB)を前提とした「国際輸送」については、別記事国際輸送の基礎知識と成功事例をご参照ください。
海外配送の基本ステップと考え方
海外配送を成功させるためには、事前準備が何より重要です。
以下のステップを押さえることで、トラブルの少ないスムーズな配送が実現できます。
ステップ1:荷物の特性と配送方法を見極める
まず、送る荷物のサイズ・重量・内容物を確認し、どの配送手段(航空便・船便・国際宅配便)が適しているかを見極めます。
- スピードを重視:航空便(高コスト)
- コストを重視:船便(時間がかかる)
- 小口・個別配送:国際宅配便(DHL、FedExなど)
配送方法によってリードタイムやコストが大きく異なるため、目的地や配送目的(サンプル出荷/販売品など)に応じて適切に判断しましょう。
ステップ2:配送業者の選定
大手の国際宅急便会社では、さまざまなサービスが用意されています。比較すべきポイントは以下の通り:
- 配達日数の目安
- 追跡サービスの精度
- 輸送保険の有無
- 通関サポートの有無
実績のある業者を選ぶことで、予期せぬトラブルを避けられます。
ステップ3:適切な梱包と保険
適切な梱包と保険 海外では国内よりも乱雑に荷物が扱われることも多く、特に壊れやすい商品の場合は輸出用梱包(トライウォールや緩衝材)を徹底しましょう。
また、高額品や割れ物には保険の付保も推奨されます。
ステップ4:通関書類の準備
海外配送では、輸出入通関に必要な書類(インボイス、パッキングリストなど)の作成も重要です。
記載ミスや不足があると、通関が遅延したり、追加料金が発生する原因になります。
ここまでの流れを整理しておくことで、海外配送の第一歩をスムーズに踏み出すことができます。
配送手段別の特徴と選び方
BtoC商品を海外に届ける際、配送方法の選択は、コスト・スピード・安全性すべてに関わる重要な意思決定です。
それぞれの手段における特徴と選定基準を解説します。
航空便:スピード最優先の選択肢
航空便は、急ぎの出荷や販売時期が限られる商品に適した手段です。
大型ではないが、手持ちサイズを超えるような荷物に向いています。
- 配送日数:通常2~5日程度
- 費用:高めだが、納期厳守には有効
- 利用例:展示会直送商品、消費期限のある製品
国内大手では近鉄エクスプレス、日本通運、郵船ロジスティクスなどが航空貨物サービスを提供しています。
国際宅配便(クーリエ):小口商品の定番
小口商品の定番 DHL、UPS、FedExなどに代表される国際宅配便は、少量・高頻度出荷の企業にとって最も使いやすい方法です。
- ドア・ツー・ドアで迅速な配達
- 追跡や補償サービスが充実
- 小口で高単価な商品、サンプル出荷に最適
日本郵便のEMSも国際宅配便の一種ですが、追跡精度や補償内容は国際クーリエと比較して国によるバラつきがあります。
船便:コスト重視だが時間に余裕を
船便はコストを最優先する場合の有力候補です。大量・重量物を安価に輸送できますが、リードタイムが長くなります。
- 配送日数:通常2週間~1か月以上
- 利用例:予備在庫の補充、大型・重量製品
- 注意点:気象による遅延や破損リスクあり
越境ECやリピーター顧客向けの定期出荷では使いづらい面があるため、目的とタイミングに応じて限定的に活用するのが現実的です。
梱包と書類の準備
海外配送では、梱包の精度と必要書類の準備が配送品質を左右します。
不備があると遅延や破損、税関でのトラブルにつながるため、丁寧な準備が必須です。
適切な輸出梱包のポイント
海外では荷物が乱雑に扱われることも多く、日本国内の基準より頑丈な梱包が求められます。
- 強化段ボール(トライウォール)やエアパッキンを使用し、衝撃や湿気に備える
- 梱包サイズと重量のバランスを最適化し、無駄な送料を削減
- 英文ラベルで内容物・送り先を明記し、識別性を高める
壊れ物や高額商品は特に注意を払い、必要に応じて保険の付保も検討しましょう。
通関に必要な書類の準備
通関トラブルを避けるためには、以下の基本書類の正確な記載が不可欠です:
- インボイス(商業送り状)
- パッキングリスト(梱包明細書)
- 原産地証明書や検査証明書(必要な場合)
書類の内容に誤りがあると、税関で止められたり、追加費用が発生することも。
送り先の国ごとの要件も異なるため、あらかじめ現地の規制を確認することが重要です。
なお、初めて書類を作成する方や、ひな形の整備にお困りの方のために、(株)パコロアでは以下のExcelフォーマットを無料で提供しています。
海外進出で必要になる書類 【英語】送り状兼請求書 Invoice(インボイス)[Excel]
海外進出で必要になる書類 【英語】梱包明細書 Packing List(パッキングリスト)[Excel]
海外配送の第一歩として、まずは正確な書類準備から始めましょう。
料金とコストの比較
海外配送では、「どの配送方法を選ぶか」によってコストが大きく異なります。
単純な料金比較だけでなく、「納期・数量・取引頻度」などを加味して、長期的に効率の良い手段を選定することが重要です。
主要な配送サービス会社と料金の傾向
国際宅配便を利用する場合、DHL・FedEx・UPS・日本郵便(EMS)などの大手が代表的です。
それぞれに特徴があります:
- DHL:
ドイツ発。書類系に強く、欧州圏への対応力が高い。 - FedEx:
アメリカ発。柔軟な対応力と、米国市場への強さが特徴。 - UPS:
アメリカ発。世界最大規模のネットワークと信頼性。 - 日本郵便:
窓口対応の利便性、コストパフォーマンスに優れる。
料金面では、国際クーリエ(DHL・FedExなど)が最も高額ですが、配達スピードや追跡精度などのサービス水準も高いです。
一方で、日本郵便のEMSや国際eパケットは、ややスピードや補償面では劣るものの、コスト重視の小規模出荷には有効です。
また、格安クーリエ(OCS、ペガサスグローバルエクスプレス)なども存在します。
コスト重視のB2C出荷では候補となりますが、サービスのばらつきに注意が必要です。
初回見積を取る際には、以下の情報を整理しておくとスムーズです:
- 仕向け国(発送先の国)
- 月間の出荷見込み件数
- 商品内容と梱包後のサイズ・重量

コストを抑えるための実務的ポイント
海外配送は、ちょっとした工夫で送料を大きく削減できる分野です。
中小企業が無理なく継続するためには、次のような実務的な工夫が効果的です。
- 梱包サイズと容積重量の最適化
配送コストは「実重量」だけでなく「容積重量(サイズ)」でも算出されます。
スカスカの梱包は無駄な送料を生む原因に。
→ 箱サイズの見直しや緩衝材の最小化で、送料を圧縮できます。 - 出荷のまとめ処理(バッチ出荷)
少量でも週1回などに出荷をまとめることで、1件あたりの送料単価を抑えることが可能です。
定期購入やリピーター向け商品の出荷に適しています。 - 出荷数量によるディスカウント交渉
国際宅配業者(クーリエ)は、月間や年間の出荷数に応じて送料のディスカウント率が変動します。
見込み数量を提示して交渉するだけでも、割引を得られることがあります。 - 現地転送業者・代行業者の活用
たとえばアメリカなどでは、現地の倉庫経由で配送した方が送料や関税面で有利になることも。
「越境」だけにこだわらず、現地での最適化も視野に入れましょう。 - 書類作成やラベル発行の効率化
通関書類やラベルを都度手作業で作っていると、人的コストやミスの発生につながります。
テンプレートの活用や、配送業者のシステム連携を検討すると、作業負荷の軽減とスピード向上が期待できます。
なお、これらの工夫を尽くしても、配送コストが利益を圧迫するケースもあります。
その場合は
「そもそも収益構造が適正か」
「海外価格設定に無理がないか」
など、ビジネスモデルの再検討も視野に入れる必要があります。
「海外配送のコストが思ったより高い?」と感じたら、
輸出ビジネスで利益が出づらい理由と、その改善策について詳しく解説したこちらの記事もぜひご覧ください:輸出で利益が出ない8つの理由|中小企業がやりがちな落とし穴と改善策
配送トラブルを防ぐために知っておくべきこと
海外配送では、国内配送とは比べものにならないほど多様なリスクが存在します。
配送遅延や破損、通関トラブルなど、事前に対策できるポイントを押さえておくことで、顧客との信頼関係を損なうリスクを減らせます。
よくあるトラブルとその原因
- 通関での滞留・返送
→ インボイスやパッキングリストの記載漏れ・ミス、HSコードの誤記載などが主な原因。 - 荷物の破損・紛失
→ 梱包不足、保険未加入、現地配送会社の扱いの荒さなどが要因に。 - 予想外の関税請求・追加費用
→ 受取側が関税負担を拒否するケースや、DDP/DDU条件の誤認識がトラブルに。 - 配送遅延
→ 天候・ストライキ・国際情勢・通関渋滞など、多くの外部要因が影響。
トラブルを回避するための対策
- 書類の整備を徹底する
インボイス・パッキングリストは、形式だけでなく「内容の正確さ」が重要。
商品説明や原産国、価格、数量などを明確に。 - 梱包と保険は“過剰なくらい”がちょうどいい
特に割れ物・高額商品は、強化梱包&保険付保が基本。
配送業者が推奨する梱包方法を事前に確認しておきましょう。 - 「関税・送料の負担区分(インコタームズ)」を明記する
DDU(関税・送料を受取人が負担)なのか、DDP(すべて送り主が負担)なのかをあいまいにすると、トラブルの元に。 - 追跡情報とサポート窓口の整備
顧客にとって、荷物の「現在地がわかる」ことは安心感につながります。
自社の窓口があると、問題発生時の対応もスムーズです。
国別に異なる配送事情と注意点
海外配送は「送り先の国」によって、通関事情・配送スピード・関税の仕組みなどが大きく異なります。
以下では、日本の中小企業にとって出荷機会の多い代表的な地域を例に、配送時の注意点をまとめました。
アメリカ:返品対応とDDP/DDUの明確化が鍵
- 関税 threshold(無税枠)が高め(約800USD)だが、関税よりも返品対応やラベル規定が重要。
- DDP条件(関税・送料を全て発送者負担)でないと受け取られないケースも。
- 返品コストの見積もりとポリシー整備が必須。
EU諸国:VAT番号・IOSS登録が求められることも
- 税関手続きが厳格で、IOSS(インポートワンストップショップ)制度への対応が求められることがある。
- 発送時にHSコード・商品分類の精度が問われやすい。
- サステナブル梱包に関する規制が進んでおり、事前に情報収集が必要。
中国・アジア圏:ローカル配送の精度に要注意
- 国内の再配送体制(ラストワンマイル)の品質に差があり、追跡の正確性や現地スタッフの対応が不安定なことも。
- 商品によっては通関に時間がかかることがあり、事前の輸出可否確認が有効。
オーストラリア・ニュージーランド:通関は比較的スムーズだが配達地域に注意
- 自然災害や交通インフラの影響を受けやすい国土構造。
- 郊外・離島への配送は時間がかかる傾向があり、配達遅延の説明責任が発生しやすい。
海外配送でよくある質問(FAQ)
実際に海外配送を始めようとすると、多くの中小企業が共通してつまずくポイントがあります。
ここではよく寄せられる質問を、実務経験にもとづいてQ&A形式でまとめました。
【Q1:送り先の住所が英語でわからない!どうすればいい?】
→A1:相手に英語表記で書いてもらうのがベスト。
英語での住所記載は国ごとのルールが違うため、無理に日本人が翻訳しようとすると逆に混乱のもとになります。
Google翻訳などではなく、現地の人に現地フォーマットで記入してもらうのが一番確実です。
【Q2:関税や輸入税は、誰が払うの?】
→A2:配送条件(DDP/DDU)により異なります。
「DDP(関税・送料すべて込)」で送ると受け取り側の負担ゼロですが、発送者側が関税・手数料をすべて持つ必要があるためコストに注意。
「DDU(関税別)」の場合、受取人が支払うことになりますが、拒否されるリスクも考慮しましょう。
【Q3:食品や化粧品など、制限のあるものも送れる?】
→A3:国によって規制が異なります。事前確認が重要。
とくにアメリカ・EU・中東は輸入規制が厳しく、成分表示やラベル・成分証明書の提出が求められる場合があります。
業界団体や各国の大使館、あるいは配送業者を通じて事前確認を行いましょう。
【Q4:発送後、商品が届かないと問い合わせが…どうすれば?】
→A4:まずは追跡情報を共有、次に配送業者に調査依頼。
クーリエ各社には追跡・調査の窓口があります。
トラブル対応で重要なのは「焦らず・根拠を持って」対応すること。
曖昧な説明よりも、時系列で状況を整理したうえで顧客に案内するのが信頼につながります。
|ちょっとしたトラブルも事前に想定しておくことで“対応の速さ”が変わります。
|よくある質問は、社内でテンプレート化しておくと便利です。
海外配送を“コストと信頼”で最適化するには
B2C製品を扱う中小企業にとって、海外配送は単なる物流ではなく、顧客体験そのものに直結します。
配送手段や書類、トラブル対応などを一つひとつ丁寧に見直すことで、ブランド信頼を積み重ねることができます。
また、配送コストやトラブル対応を通じて得た知見は、海外展開の土台となる“現場力にもなります。
長期的には「どこに・どんなルートで・どのタイミングに」届けるのが最適か、自社にとっての輸送戦略を描けるようになります。
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株式会社パコロアでは、配送だけにとどまらず、海外マーケティング、販路開拓、現地拠点の立ち上げまでを一貫してサポートしています。
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──そんな方こそ、ぜひ一度ご相談ください。