
国内市場の飽和に直面し、海外展開を模索する食品メーカーは年々増えています。
「うちの製品も世界で売れるはず」と感じながらも、どのルートで進めればよいか迷う方は多いのではないでしょうか。
実際、これまで多くの企業は、食品商社に販路を委ねるのが王道でした。
商社を通せば、既存の流通網に乗せられるだけでなく、現地バイヤーにとっても棚づくりや商品管理が効率的になるため、双方にとって合理的な仕組みです。
しかしその一方で、商社はあくまで卸販売会社であり、マーケティング会社ではありません。
新しい商品をゼロから育てたり、その商品が現地に根付くまでメーカーに個別にアドバイスすることは、マンパワー的に不可能という現実があります。
このため、メーカーの海外進出の挑戦機会は「最初の1回」に限られ、その後は自助努力に委ねられがちです。
多くのメーカーは海外市場で何が求められているか知るすべがなく、商品改良も進みにくいのです。
加えて、商社側は「今すぐ売れる商品」を優先するため、既存の売れ筋が棚を占めてしまう。
結果として、小さな会社の新規参入の難易度はますます上がっているのです。
つまり、商社ルートは「一度現地消費者に気に入られれば安定した販路になり得る」反面、「新規参入の最適パートナーとは限らない」仕組み。
ここを乗り越えるには、商社に頼るだけでなく、自ら仕組みをつくって現地に挑む発想が求められます。
食品メーカーが海外展開を成功させるための基本戦略
食品メーカーが海外展開に挑むとき、多くの企業がまず頼るのは食品商社です。
既存のネットワークに乗れるのは安心感がありますが、そこで止まってしまうと「自社ブランドを育てる」「長期的に利益を伸ばす」チャンスを逃しかねません。
成功している食品メーカーは、商社に全面依存するのではなく、商社と直ルートを組み合わせながら自社の仕組みを持つ戦略をとっています。
ここで押さえておきたいのは、次の3つの基本です。
海外市場の重要性と成長機会を理解する
国内市場は少子高齢化で縮小が進んでいます。
一方で、アジアを中心に海外市場は人口増加と経済成長によって食品需要が拡大中です。
この差を理解し、「海外に出るのはリスク」ではなく「出ない方がリスク」という認識を持つことが第一歩です。
国内市場との違いを把握する
食品の嗜好や購買習慣は国によって大きく異なります。
商社経由ならある程度調整してもらえますが、直接貿易で挑む場合はメーカー自ら現地調査やテスト販売を繰り返す必要があります。
ここを避けては、現地消費者の心に届く商品は生まれません。
商社に頼るだけでなく、自社の役割を決める
商社は「売れる商品」を流通させるのは得意ですが、「育てる」ことは苦手です。
だからこそメーカー自身が、商品開発・ブランド構築・現地の声を拾って改善する仕組みを担う必要があります。
この役割分担を明確にすることではじめて、商社ルートを活かしながら「自社でも海外に根を張る」ことが可能になるのです。
こうした基本戦略を押さえることで、商社に依存しすぎることなく、長期的に海外で勝ち残る準備が整います。
小さく始めて成功する!海外展開の3つの実践モデル
「いきなり現地法人を作るなんて無理!」
そう感じる方は多いはず。
実際のところ、今の海外展開は、“段階的”が主流です。
最初から大きな投資をせず、小さくテストして、反応を見て育てていく。
このステップの方が、成功率を大きく高めます。
ここでは、食品メーカーが実際に使っている3つの始め方をご紹介します。
1. 越境ECからのテスト販売
最もハードルが低く、スタートしやすいのが越境EC。
Amazon、Shopee、Tmall Global、Etsyなどを活用して、現地法人や代理店を介さずに“直販”で商品を販売できます。
特徴としては、下記があります。
- 初期投資が少ない
- 顧客の反応をダイレクトに得られる
- 現地の物流・言語・法規制などの“リアル課題”を体感できる
これらは少額で「海外販売の肌感」を知るにはもってこいの手法です。
しかし、返品対応や配送遅延、関税の問題などにも直撃します。
および、物流・関税・カスタマーサポートなどの課題があり、出店=簡単にすぐに売れるわけではないのが現実です。
(本記事では食品の越境EC展開の概要だけを触れ、詳細は別記事で解説します。)
2. 現地パートナーとのスモールスタート提携
次におすすめなのが、信頼できる現地パートナーと小規模に提携する方法。
卸である食品商社を介さず、直接海外の小売店へ販売する方法です。
日本食材店、ローカルスーパー、飲食チェーンとのタイアップなど、テスト販売や共同プロモーションの形から始められます。
現地の販路や消費者ニーズを学びながら、リスクも分散できるのが大きなメリット。
商社経由と違い、現地小売はブランドの価値を理解したうえで発注してくれるケースが多く、柔軟な条件で取引関係を築きやすいのも魅力です。
3. 海外展示会・バイヤー商談会への出展
最後は、見本市や商談会などを活用した「出会いの場」からの展開。
自社商品に対する海外バイヤーのリアクションを見ながら、販路やPR方法の手応えをつかめます。
これにより、
- 現地ニーズの“ギャップ”を早期に発見
- 海外向けのパッケージや訴求ポイントの仮説検証
- 将来の販路候補とのネットワーク構築
といった実践的な成果が得られます。
ただし、展示会は出展準備やコストがかかり、バイヤー側にも「1社ずつ取引する負担」があります。
だからこそ、展示会は単発で終わらせず、その後の商流づくりにつなげる設計が欠かせません。
これら3つのモデルは、どれも「学びながら広げる」ためのリアルな選択肢。
ポイントは、「いきなり全部」ではなく、「仮説→検証→改善」のサイクルを早く回すことです。
食品商社に頼るだけでは届かない部分を、直接貿易のルートで戦略を組み立てることが、海外展開を成功させる第一歩です。
食品メーカーが直面する“3つの壁”とその乗り越え方
小さく始めて育てる。
これは理想的な進め方ですが、現実はそう甘くありません。
商社に頼らず自ら海外展開を進めるとき、食品メーカーが必ず直面するのが「法規制」「物流」「市場調査」の3つの壁です。
この3つを乗り越えられるかどうかが、海外展開を成功させる分かれ道となります。
1. 各国の法規制と食品認証
海外で食品を販売するには、日本国内では想像もつかないほどの法的ハードルがあります。
たとえば:
- 成分表示・アレルゲン表示の義務(国によって基準が違う)
- ハラール・コーシャなど宗教的な認証
- 輸入許可やライセンス取得の手続き
- ラベル表示の言語指定・字体ルール
など、細かく複雑なルールが立ちはだかります。
しかも国ごとにまったく異なるため、「A国でOKだったからB国も行けるだろう」では通用しません。
これを乗り越えるには、事前のリサーチと専門家(貿易コンサル、現地の規制調査パートナーなど)との連携が必須です。
社内で全部対応するのではなく、「外部の知見を借りて効率化」する姿勢がカギになります。
2. 国際物流と鮮度管理の壁
食品は言うまでもなく“ナマモノ”。
鮮度や安全性を保ちながら海外へ届けるには、物流そのものがブランディングと直結します。
以下のような点に対応できるかどうかがポイントです:
- コールドチェーン(冷蔵・冷凍)対応の物流網
- 輸送中の破損・温度変化リスク
- 輸送費・通関・関税の見積もり
- 消費期限・賞味期限ラベルの現地対応
ここでも、国際輸送の経験が豊富な物流パートナーとの連携が極めて重要。
特にBtoC販売では「届いたときに崩れてた」「温度管理が不十分だった」といったトラブルが直結でレビューに反映されるため、慎重な選定が求められます。
3. 市場調査と消費者ニーズの“ギャップ”
「良い商品だから売れる」は海外では通用しません。
言語、文化、味覚、価値観、あらゆる点で“日本の常識”が通じない場所が海外です。
例えば:
- パッケージが現地の文化や色彩感覚に合っていない
- 味が「薄い」「甘すぎる」「辛すぎる」と言われる
- 想定ターゲットと実際の購入者層が全然違う
といった“ギャップ”が現場では頻発します。
これを避けるには、
- 試験販売のフィードバックを重視する
- SNSや現地インフルエンサーを活用した反応テスト
- 現地在住者や現地法人との情報共有
といった、「定量+定性」の両面からの市場理解が必要です。
数字(データ)と肌感覚(声)のバランスがモノを言います。
これら3つの壁は、どれも乗り越えられるものです。
大切なのは、「知らなかった」ではなく、「準備していた」状態で臨むこと。
次は、実際にそうした準備を重ねて成功した食品メーカーの事例を見てみましょう。
食品メーカーの(商社抜き)成功ケーススタディ3選
ケース1:越境ECから学びを積み重ねた菓子メーカー
地方の小さな菓子メーカーは、商社に「見た目も味も普通で海外では売れない」と断られました。
そこでAmazonやShopeeを通じて越境ECに挑戦しますが、半年以上も無反応。
このままではまずい――。
そう感じながらも数か月、悩みに悩む日々が続きました。
ただ、そもそも「普通すぎる見た目」がネックだと、以前からうすうす感じていたこともあり、思い切ってパッケージから変えることを決意します。
予算50万円を投じ、海外で売れている菓子を研究。
小ロットでパッケージデザインを一新し、販売サイトのコンテンツも連動して更新しました。
そして再リリースから3か月後、ようやく1つ2つと売れ始めた…と思ったのも束の間。
「歯にくっつく」「不思議な味でビミョー」
といったレビューが続き、落ち込みと焦りが募ります。
それでも諦めず、レビューを一つひとつ丁寧に分析。
“ビミョーな味”とは何なのかを逆手に取り、あえて説明文に盛り込んでいきました。
すると、「そのビミョーな味を試してみたい」という海外ユーザーが現れ、さらには「これは説明文の味じゃなく、○○の味だよ」と語るリピーターまで登場。
最終的には、「確かにまた食べたくなる不思議な味」と評判になり、現地の小売店からも複数の問い合わせが入るように。
その小売店からは商品改良のアドバイスも受けながら、小規模ながら現在は定期輸出を実現しています。
ケース2:現地小売とのパートナーシップで育った調味料メーカー
ある調味料メーカーは長らく商社に任せていましたが、数年に1回小口発注があるかないかの状態が続き、輸出は半ば諦めていました。
そんな中、コロナ明けに競合企業が現地でポップアップショップを成功させていると知り、「自社でも何かできないか?」と模索。
やっと返事をくれた日本食材店に直談判し、テスト販売を始めました。
「もっと小容量が欲しい」
「プレミアム感を強めてほしい」
「使用シーンが分かるパケデザインを」
「肉用・サラダで用途展開を」
と様々な要望が寄せられましたが、すべてに対応するのは困難。
そこで「使用シーンが分かるパッケージデザイン」だけに絞って取り組んだところ、まずはトライアルからと現地スーパーのバイヤーが少額発注。
念願の海外スーパーの棚をやっと確保できました。
ただし、残る課題への対応も早急に求められており、全社をあげて継続して改善に取り組み中です。
ケース3:展示会を突破口に販路を開拓した農産加工メーカー
ある地方の農産加工品メーカー。国内では知名度があるものの、海外販売の実績はゼロ。
そこで思い切ってアジアの展示会に初出展しました。
試食ブースでは多くの声をもらい、それを持ち帰って味やパッケージを改良。
改良後のサンプルを各社に送ったところ、いくつか発注は入ったものの、それっきりでリピートにはつながりませんでした。
その後は国内の業務に追われ、気づけば1年が経過。
そんな折、ある取引先から「海外出展の後、どうなったの?」と聞かれ、何も答えられない自分に悔しさが込み上げました。
諦めきれず、海外進出に詳しいコンサルタントに相談。
すると、「味やパッケージだけでなく、現地のバイヤーが“発注したくなる理由”を設計しないと売れ続けない」と指摘されます。
そこから「どうすればバイヤーが継続的に扱いたくなるか」を徹底的に見直し、1年かけて訴求ポイントや提供価値を再構築。
満を持して、再び展示会へ出展しました。
すると、商品そのものは変えていないのに、“伝え方”を変えただけで反応が大きく改善。
いまでは、バイヤーの声を活かした新商品開発にも取り組めるようになり、商社を通さない自社主導の販路を着実に広げています。
ケーススタディまとめ
3つのケースに共通するのは、「最初は苦戦し、試行錯誤を繰り返した」そして「あきらめなかった」という点です。
商社なしでの海外展開は決して平坦ではありません。
しかし「失敗を学びに変え、改善を重ねる姿勢」こそが、ブランドを海外市場に根付かせる最大の武器となります。
商社に頼らない海外展開で直面する3つのリスクと対策
商社を介さずに海外市場へ挑むことは、自由度が高い反面、すべての責任を自社で背負うことを意味します。
ここでは、商社に頼らないからこそ直面する3つのリスクと、その乗り越え方を整理します。
1. 法規制・契約リスク
商社を通せば、商社が輸出者として現地輸入規制に必要な書類整備をメーカーに促したり、契約当事者として代金回収を担ってくれます。
しかし、直接貿易(直販)ではすべて自社の責任です。
たとえば、
- 食品成分表示やアレルゲン表示の基準
- 宗教的認証(ハラール・コーシャなど)
- 知的財産の保護(商標・パッケージデザインの盗用)
- 契約トラブル(支払い遅延、独占契約の縛り)
といった課題に、真正面から対応しなければなりません。
対策:
現地の規制調査の専門家や海外進出コンサル、弁護士と連携し、事前に「知らなかった」をなくす仕組みを整えることが重要です。
2. 物流と資金繰りのリスク
商社経由であればまとめ配送や在庫リスクを肩代わりしてくれます。
しかし直接貿易(直販)の場合、冷凍輸送や少量配送の物流構築を自社で検討せねばなりません。
具体的には国際輸送会社を選定することになりますが、遅延や梱包破損がない業者を的確に選ぶ必要があります。
さらに、輸送手段によってリスクやコストは大きく変わります:
- 航空便:
速いが高コスト。小ロットや鮮度重視の商品に向く。 - 船便:
安いが時間がかかる。まとまった量を定期的に運ぶ場合に有効。 - クーリエ便(DHLやFedExなど):
小規模スタートに便利だが、食品規制によって送れない品目も多い。
特に食品は賞味期限が短いため、輸送手段の選択を誤ると「売上が立つ前にキャッシュが尽きる」というリスクさえあります。
対策:
スモールスタートで小口輸送から始め、段階的にまとめ配送や現地倉庫を活用する仕組みに切り替えていくのが賢明です。
3. ブランド棄損のリスク
商社を介せば、棚作りや販促はある程度「お任せ」で回ります。
一方、直接販売では現地消費者への情報発信もすべて自社の責任。
- SNSでの不十分な投稿
- 誤った翻訳や文化的タブーに触れる広告
- 消費者対応の遅れ
こうした小さなミスがブランドイメージを一気に損ねるリスクがあります。
対策:
行き当たりばったりの発信ではなく、最初に投稿計画やブランド方針を決め、現地に合った形で継続的に発信する体制を作ることが不可欠です。
リスクのまとめ
商社なしでの海外展開は、「法規制」「物流」「ブランド」の3つの壁が一気に自社の肩にのしかかります。
しかし裏を返せば、この3点を計画的に整えれば、商社に依存せずとも海外展開を自社で軌道に乗せることは可能なのです。
今後の食品メーカーの海外展開の展望
これまで海外展開といえば「まず商社に選ばれること」が前提でした。
しかし今は、商社に頼らなくても「まず挑戦できる」環境が広がっています。
今後の展望を3つのポイントで整理しましょう。
1. デジタル化で販路が多様化
越境ECやSNSを活用すれば、食品メーカーが現地消費者と直接つながることが可能になりました。
小ロットで市場を試せる仕組みが整ってきており、中小企業にも参入のチャンスが広がっています。
2. 現地ニーズに応じた小ロット展開
商社経由の「大量一括納品」では拾えなかったニッチな需要に、メーカー直販なら柔軟に対応できます。
小さく始めて改善を重ねる戦略こそ、中小食品メーカーの強みを活かす道です。
3. 社会的価値が選ばれる時代
環境配慮や健康志向など、海外消費者は「ストーリーのあるブランド」を重視する傾向が強まっています。
商社経由の大量流通よりも、メーカー自身が直接発信する方が価値を伝えやすい時代です。
海外展開は“準備と仕組みづくり”で成果が変わる
海外進出は、大企業や商社に選ばれた企業だけの特権ではありません。
実際に地方や中小の食品メーカーが、自社の強みを再発見し、現地に合わせた戦略で成果を上げています。
大切なのは、商社任せにせず、自ら仮説を立て、小さく検証し、改善を繰り返す姿勢。
そして、リスクを想定して準備することで、挑戦を止めずに前進できるのです。
パコロアができること
私たちパコロアは、商社に頼らない中小企業の海外進出を「知識」から「実行」へとつなげる伴走型コンサルティング会社です。
- 現地市場調査や消費者ニーズの把握
- 越境ECや物流・サプライチェーンの設計
- 食品関連の法規制や知的財産のリスク管理
- 現地パートナー選定やブランド戦略の構築
海外展開に必要なピースを一つずつ整理し、「売れる仕組み」づくりを企業と一緒に組み立てるのが私たちの役割です。
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