国内市場の縮小に伴い、海外展開を模索する食品メーカーは増えています。
これまで多くの企業にとって、食品商社に販路を委ねるのが王道でした。既存の流通網に乗せられるため、今でも有効な選択肢です。
一方で、商社は商品を流通させるプロであって、一つひとつの商品を海外市場で育てるマーケティング会社ではありません。
そのため、商社に任せているだけでは、海外売上がなかなか広がらないこともあります。
では、商社を使わず自社で販売すればよいのでしょうか。
そう単純でもありません。
食品の海外展開で重要なのは、「商社か直販か」を選ぶことではなく、海外事業のどこを外部に任せ、どこを自社で持つのかを決めることです。
本記事では、食品メーカーが自社に合った海外展開の仕組みを考えるための判断ポイントを整理します。
食品メーカーの海外展開は「商社か直販か」の二択ではない
食品メーカーの海外展開では、「商社に任せるか、自社で直接販売するか」が議論になりがちです。
しかし実際には、その二択で考える必要はありません。
商社には、既存の流通網や取引先を活用して商品を広く流通させられる強みがあります。
一方、自社で現地のバイヤーや小売店と直接やり取りすれば、商品の反応や改善点を自分たちで把握できます。
重要なのは、どちらか一方を選ぶことではなく、自社が海外事業のどこまでを担うのかを決めることです。
たとえば、
- 輸出や物流は商社に任せる
- 現地での商品説明や販促は自社で行う
- バイヤーからの声は自社に戻るようにする
- 新しい販路の開拓は商社とは別に自社でも進める
という組み合わせもできます。
商社を利用していること自体が問題なのではありません。
問題になるのは、商品を商社に渡した後、「どこで、誰に、なぜ売れているのか」がメーカー側に見えなくなり、次の判断ができなくなることです。
食品メーカーの海外展開では、まず「商社を使うか」ではなく、「海外事業の何を自社に残すのか」を考える必要があります。
販売方法を変えると、食品メーカーが担う役割も変わる
海外展開では、商社を通じて販売する方法もあれば、現地の輸入会社や小売店と直接取引する方法、越境ECで消費者へ直接販売する方法もあります。
重要なのは、どの方法を選ぶかによって、メーカー側が担う仕事が変わることです。
たとえば、
- 商社経由なら、輸出、代金回収、流通を任せられる。ただし、現地で商品を売るための販促活動はメーカー側でも必要になる
- 現地の輸入会社や小売店と直接取引するなら、営業、価格交渉、契約、輸出実務など、自社で担う範囲が広がる
- 越境ECなら、海外の消費者と直接つながり販売できる一方、集客、顧客対応、物流なども自社で考える必要がある
また、海外展示会や商談会は、それ自体が販路ではありません。
海外の取引先候補と出会い、市場の反応を確かめるための販路開拓手段です。
商社経由で輸出している企業でも、自社で販路開拓や販促活動を行うことはできます。ただし、既存の商流との調整が必要になる場合があります。
つまり、食品メーカーの海外展開は、「商社か直販か」「展示会かECか」と単純に分けられるものではありません。
自社がどこまで担い、何を外部に任せるのか。その組み合わせを設計することが重要です。
販路を増やす前に、その先で発生する仕事を自社が継続して担えるのかまで考えておく必要があります。
ここを決めないまま手段だけ増やすと、展示会には出た、ECにも出店した、商談もした――けれど、どれも続かないという状態になりかねません。
食品メーカーの海外展開は「小さく始めれば安全」とは限らない
海外展開では、「まずは小さく試してみる」という考え方がよく使われます。
確かに、最初から大きな投資をする必要はありません。
しかし、越境EC、現地小売への直接販売、海外展示会のどれが「小さく始める方法」になるかは、企業によって違います。
たとえば、越境ECなら初期投資を抑えやすくても、食品を個人向けに海外へ発送できるのか、物流コストを含めて採算が合うのかという問題があります。
現地の輸入会社や小売店との直接取引なら、一度に大きな投資をしなくても始められますが、商談や契約、輸出、代金回収などを自社で担う体制が必要になります。
海外展示会なら、複数の取引先候補と短期間で接点を持てますが、出展するだけでは販路にはなりません。その後の営業を継続できなければ、名刺や問い合わせだけが残ることもあります。
つまり、「小さく始める」とは、単にお金をかけないことではありません。
自社が検証したいことを決め、その答えを得られる方法を選ぶことです。
- この商品が現地で受け入れられるのか
- 想定している価格で取引できるのか
- どのような販売先と相性がよいのか
- 自社で継続して対応できるのか
何を確かめたいのかによって、最初に選ぶ方法は変わります。
「越境ECから始める」「まず展示会に出る」と手段から決めるのではなく、自社が次の判断をするために、今何を確かめる必要があるのか。
食品メーカーの海外展開では、この順番が重要です。
食品メーカーが直面する「3つの壁」とその乗り越え方
小さく始めて、反応を見ながら育てていく。
これは食品メーカーの海外展開でも有効な考え方ですが、実際に販売を始めるには、事前に確認しておかなければならないことがあります。
特に重要なのが「法規制」「物流」「市場調査」の3つです。
1. 各国の法規制と食品認証
海外で食品を販売するには、国ごとに異なる食品規制への対応が必要です。
たとえば、
- 成分表示・アレルゲン表示
- ハラール・コーシャなどの認証
- 輸入許可やライセンス
- ラベル表示の言語や表示方法
など、商品や販売国によって確認すべき内容は変わります。
「A国で販売できたから、B国でも同じ商品を販売できる」とは限りません。
さらに、規制対応のために原材料やパッケージの変更が必要になれば、原価や商品設計にも影響します。
そのため法規制は、販路が決まってから確認するのではなく、どの国で、どの商品を販売するのかを判断する段階から確認しておく必要があります。
2. 国際物流と鮮度管理の壁
食品の場合、海外へ「送れる」だけでは十分ではありません。
商品によっては、
- コールドチェーン(冷蔵・冷凍)への対応
- 輸送中の破損や温度変化への対策
- 輸送費・通関・関税を含めたコスト計算
- 消費期限・賞味期限を踏まえた輸送日数
- 現地での保管方法
などを検討する必要があります。
航空便なら間に合うけれど、輸送費を加えると現地で売れる価格にならない。
船便ならコストは下がるけれど、賞味期限との兼ね合いで難しい。
食品の海外展開では、このような問題が実際に起こります。
つまり、「輸出できるか」だけでなく、その物流条件で継続的な事業として成立するかまで考える必要があります。
3. 市場調査と消費者ニーズのギャップ
日本で評価されている商品が、そのまま海外でも評価されるとは限りません。
たとえば、
- パッケージが現地の売場や消費者の感覚に合わない
- 味が「薄い」「甘すぎる」「辛すぎる」と評価される
- 想定していたターゲットと実際の購入者が違う
- 日本では強みだった特徴が、現地では購入理由にならない
といったことがあります。
市場データを見るだけでなく、試験販売、SNSでの反応、現地でのヒアリングなどを通じて、実際の消費者やバイヤーの反応を確認することも重要です。
ただし、反応が悪かったからといって、すぐに商品を変えればよいわけでもありません。
商品そのものに原因があるのか、価格なのか、販売場所なのか、パッケージなのか、そもそも狙っている顧客が違うのか。
ここを見極めないまま改良を繰り返しても、正しい答えには近づけません。
そして、この3つの壁はそれぞれ独立しているわけではありません。
規制対応で原材料を変更すれば原価や味が変わり、物流条件が変われば販売価格が変わる。
その結果、狙える販路や顧客まで変わることがあります。
だからこそ食品メーカーの海外展開では、「法規制」「物流」「市場調査」を一つずつ解決するだけではなく、自社の場合は何を優先して確認し、どの条件なら事業として成立するのかを整理することが重要です
「商社を使わない」のではなく、商社との役割分担を変える
食品の海外展開では、商社を利用することには大きなメリットがあります。
海外の小売店や輸入会社は、一つのメーカーの商品だけを仕入れているわけではありません。
調味料、菓子、飲料、加工食品など、さまざまな商品を組み合わせて売場をつくります。
そのため、複数メーカーの商品をまとめ、輸出、代金回収、物流まで担う食品商社の存在は、メーカーにとっても海外の買い手にとっても合理的です。
特に中小の食品メーカーが、すべての国で直接取引や物流を構築する必要はありません。
変わってきているのは、「商社を使うかどうか」ではなく、商社に何を任せるかです。
商品を商社に渡せば、あとは海外で売ってもらえる。
そう考えていると、なかなか販売が広がらないことがあります。
海外の売場には多くの商品が並び、商社も数多くの商品を扱っています。
その中で、自社商品だけを継続的に説明し、認知を広げ、消費者の反応を集め、ブランドを育ててもらえるとは限りません。
商社経由で販売する場合でも、メーカー自身が、
- 海外向けの商品情報を整える
- 商品の使い方や食べ方を伝える
- WebやSNSなどで継続的に情報発信する
- 展示会や販促活動を通じて需要をつくる
- 現地から得た反応を商品や販売方法に反映する
といった役割を担う必要があります。
つまり、これからの食品メーカーに必要なのは、「商社依存から脱却してすべて自社でやること」ではありません。
商社の流通力を活かしながら、メーカーにしかできない仕事は自社で持つことです。
ただし、自社で販路開拓や販促活動を行う場合には、既存の商流との調整が必要になることもあります。
どこまで商社に任せ、どこから自社が担うのか。
この役割分担を設計できるかどうかが、食品メーカーの海外展開を継続的な事業にできるかを左右します。
海外展開が止まる食品メーカーは「誰がやるか」が決まっていない
海外展開の方法を検討するとき、販路や規制、物流には目が向きやすい一方で、意外と後回しになるのが社内体制です。
実際には、海外事業が動き始めるとさまざまな仕事が発生します。
- 海外からの問い合わせに対応する
- 見積書や商品資料を作成する
- サンプルを発送する
- バイヤーとの商談をフォローする
- 規制や表示について確認する
- 商社や輸入会社、物流会社と調整する
- 現地の反応を社内の商品開発や営業へ戻す
最初は社長や営業担当者が通常業務と兼務していても、案件が増えるにつれて対応が追いつかなくなることがあります。
ここで問題になるのは、必ずしも「海外専任者がいないこと」ではありません。
誰が判断し、誰が実務を行い、社内のどこまでを巻き込むのかが決まっていないことです。
たとえば、海外バイヤーから商品の仕様変更を求められたとき、営業担当者だけでは判断できません。
製造、品質管理、商品開発、経営判断まで関係することもあります。
海外展開は、海外営業担当者一人の仕事ではないのです。
そして、商社を利用する場合でも、この問題がなくなるわけではありません。
どこまで商社に任せ、どこから自社が対応するのか。現地から得た情報を誰が受け取り、次の判断につなげるのか。
この役割が曖昧なままだと、せっかく海外から反応があっても、社内で処理しきれず事業が止まってしまいます。
食品メーカーの海外展開では、販路を決めることと同時に、「この海外事業を自社の中で誰が動かすのか」まで設計しておく必要があります。
食品メーカーの海外展開は「何から始めるか」で結果が変わる
ここまで見てきたように、食品メーカーの海外展開では、考えるべきことが一つではありません。
販売方法、商社との役割分担、法規制、物流、市場性、そして社内体制。
しかも、これらは互いに影響します。
だからこそ、最初からすべてを整えようとすると、海外展開はなかなか始まりません。
反対に、
「まず展示会に出てみよう」
「越境ECを始めよう」
「商社に商品を紹介してもらおう」
と手段だけを先に決めても、その後が続かないことがあります。
重要なのは、自社にとって今、一番先に確認すべきことは何かを決めることです。
たとえば、まだ海外販売の経験がない食品メーカーなら、そもそも現在の商品が希望する国へ輸出できるのか、物流費を含めた価格で事業が成立するのかを先に確認する必要があるかもしれません。
すでに商社経由で輸出しているメーカーなら、新しい国や商社を探す前に、なぜ現在の販売が広がっていないのかを確認する方が先かもしれません。
海外から問い合わせが増えているメーカーなら、販路開拓よりも、社内の対応体制を整えることが優先になる場合もあります。
同じ「食品メーカーの海外展開」でも、スタート地点は企業によって違います。
一般的な海外展開の手順を順番に実行するのではなく、自社が今どこにいて、何が次のボトルネックになるのかを見極める。
そこが分かれば、次に何へ時間と予算を使うべきかも見えてきます。
自社の食品は、どこから海外展開を始めるべきか
食品メーカーの海外展開には、商社、直接取引、展示会、越境ECなど、さまざまな選択肢があります。
しかし、ここまでお読みいただくと、「どの方法が一番よいか」という問いだけでは決められないことがお分かりいただけると思います。
同じ商品でも、進出国、賞味期限、価格、物流条件、規制、既存の商流、社内体制によって、取るべき方法は変わります。
商社との取引を続けながら、自社で販促を強化した方がよい企業もあります。
あるいは一つの国、一つの商品に絞って検証した方がよい企業もあります。
反対に、新しい販路を探す前に、現在の海外事業がなぜ広がらないのかを整理した方がよい企業もあります。
ここから先は、「食品メーカーならこうすればよい」という一般論では答えが出ません。
必要なのは、自社の商品と現在地をもとに、何を優先し、何を今はしないのかを決めることです。
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「商社経由で輸出しているが、その先が広がらない」
「自社の商品なら、どの国・どの販路から始めるべきか整理したい」
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