海外進出を進めたいものの、「社内に任せられる人がいない」と悩む中小企業は少なくありません。
海外経験のある人材を新たに採用しなければならないのか、英語ができる社員を担当者にすればよいのか。ここで止まってしまう会社もあります。
しかし、海外担当者は最初から完成された人材である必要はありません。
この記事では、中小企業が社内から海外担当者を決め、実務を通じて育てていくための考え方と進め方を解説します。
なぜ中小企業は「海外進出を任せる人がいない」で止まるのか
中小企業が海外進出を検討するとき、よく出てくるのが「誰に任せるのか」という問題です。
海外事業の経験があり、英語ができ、営業やマーケティングにも詳しい。
そんな人材が社内にいれば理想的ですが、最初からすべてを備えた社員がいる会社は多くありません。
そこで中小企業がとれる選択肢は、大きく2つあります。
一つは、海外事業に必要な知識や経験を持つ人材を外部から採用する方法です。人材紹介会社や人材派遣会社を利用したり、求人広告を出したりして、海外事業の立ち上げから担える経験者を探します。
もう一つは、現在いる社員の中から海外担当者を決め、社内で育てる方法です。
しかし、どちらにも費用と時間がかかります。
経験者を採用する場合は採用コストがかかり、自社に合う人材がすぐに見つかるとも限りません。一方、社内で育てる場合は、通常業務との両立や、経験を積むまでの時間を考える必要があります。
しかも、どちらを選べば海外事業が成功するという保証があるわけではありません。
「外部から採用するべきか、社内で育てるべきか」。
この判断がつかないまま人材への投資に二の足を踏み、海外進出そのものが止まってしまう中小企業も多くあります。
では、自社の場合はどちらを選ぶべきなのでしょうか。
次に、それぞれのメリットとデメリットを整理します。
海外人材を採用するか、社内で育てるか
「経験者を外部から採用する」「既存社員を海外担当者として育てる」のどちらが適しているかは、海外事業の進捗状況や社内体制によって異なります。
海外経験者を採用するメリット・デメリット
海外経験者を採用するメリットは、海外営業を進めるうえで必要となる基本的な流れや判断基準をすでに持っていることです。
貿易実務、海外顧客との営業や交渉、契約、リスク管理などの経験があれば、一から海外ビジネスの進め方を学ぶ必要はありません。
特に、すでに海外で一定の売上があり、販売方法や業務フロー、社内での役割分担などが確立している会社では、経験者を採用するメリットが大きくなります。
海外事業部の仕事がある程度仕組み化されていれば、中途採用で入った人も
「この会社では海外事業をこう進める」
という流れを理解しやすく、これまでの経験を生かしやすいからです。
一方、海外経験があっても、自社の業界や商品、顧客についての知識があるとは限りません。
また、これまで経験してきた国や業界、販売方法での成功体験が強いほど、
「海外ではこうするものだ」
という経験が先に立ち、新しい市場で試せる方法を狭めてしまう可能性もあります。
特に、これから海外事業を立ち上げる会社では、何が正解かまだ分かりません。
試行錯誤そのものが必要な段階では、「海外営業経験がある」だけで採用を判断しないことが重要です。
社内の人材を育てるメリット・デメリット
社内の人材を海外担当者として育てる最大のメリットは、自社の商品や技術だけでなく、これまで蓄積してきた実践知を持っていることです。
たとえば海外顧客から断られたときも、自社の商品や既存顧客を理解していれば、
「なぜ響かなかったのか」「次は何を変えてみるか」
を考えやすくなります。
海外でのやり方について先入観が少ないため、新しい市場に合わせてさまざまな方法を試しやすいこともメリットです。
また、海外事業を将来的に自社で内製化したい会社であれば、担当者の経験がそのまま社内に蓄積されていきます。
海外事業を立ち上げながら人材も育てることができます。
一方、海外ビジネスの経験がなければ、
「何を、どの順番で、どこまでやればよいのか」
を判断するためのものさしがありません。
目の前の商談には対応できても、自社の海外事業全体を俯瞰し、現在の進め方が適切なのかを検証することは難しい場合があります。
そのため社内人材を育てる場合は、担当者にすべてを任せるのではなく、足りない海外知見を補いながら実務経験を積ませる仕組みが必要になります。
自社の海外事業がどの段階にあるかで考える
つまり、人材選びは「経験者と未経験者のどちらが優秀か」という問題ではありません。
すでに海外事業の進め方が確立しており、その仕組みを動かせる人材が必要なら、海外経験者の採用は有力な選択肢になります。
一方、これから海外事業をつくっていく段階で、試行錯誤しながら自社に合った方法を見つけたい、将来的には海外事業を内製化したいという会社なら、社内の人材を育てる方法も有力です。
ここからは、後者の「社内の人材を海外担当者として育てる」場合について、具体的な進め方を見ていきます。
社内で海外担当者を選ぶときに見るポイント
海外担当者を社内から選ぶ場合、英語力や海外経験はもちろん重要です。
しかし、それだけで担当者を決めると、実際に海外事業を進め始めたときにうまくいかないことがあります。
海外担当者の仕事は、英語でメールを書いたり、海外顧客と話したりすることだけではないからです。
実務では、
- 分からないことをそのままにせず、確認できる
- 社内外から集まった情報を整理し、何が重要かを判断できる
- 自分では決められないことを切り分け、経営者や上司に戻せる
- 海外顧客の反応や状況の変化に気づき、これまでの前提を自発的に見直せる
- 社内の商品知識や技術情報を、海外顧客に伝えるために関係者と調整できる
といった力が必要になります。
たとえば、海外顧客から「この仕様で対応できるか」と聞かれたとき、担当者自身がすべての答えを知っている必要はありません。
「これは技術部門への確認が必要」
「この条件なら価格も変わる」
「先方が本当に求めているのは別の仕様かもしれない」
と考え、必要な人に確認しながら回答を組み立てられることのほうが重要です。
海外事業では、最初から正解が分からないことが何度も起こります。
そのため海外担当者を選ぶときは、英語力や海外経験だけでなく、分からないことを整理し、社内を巻き込みながら仕事を前へ進められる人かを見る必要があります。
海外担当者は「海外に詳しい人」であるだけでなく、「まだ社内にやり方がない仕事を、ゼロからイチへ進められる人」であることが重要です。
海外担当者を育てる4つの順番
社内から海外担当者を選んだら、次は実際の海外業務を経験させながら育てていきます。
海外営業や貿易、契約、マーケティングなどをすべて勉強してから実務を任せるのではなく、まず小さな仕事から担当してもらい、そこで出てきた課題を一つずつ解決していく方法です。
1.最初に担当者の役割を決める
まず、「海外担当者に何を任せるのか」を決めます。
たとえば、
- 海外からの問い合わせへの一次対応
- 海外顧客や代理店候補との連絡
- 市場や競合についての情報収集
- 展示会出展の準備や商談後のフォロー
- 社内の技術・価格・納期などの確認
などです。
ここで重要なのは、担当者の仕事だけでなく、担当者が決めてよいことと、経営者や上司が判断することを分けておくことです。
海外事業を始めたばかりの段階では、価格、契約条件、代理店の選定など、担当者だけでは判断できないことが次々に出てきます。
最初からすべてを任せるのではなく、「ここまでは担当者、ここからは経営判断」という線を引いておくことで、担当者も動きやすくなります。
2.小さく任せて、実際の海外業務に出す
役割を決めたら、実務を任せます。
最初から大きな商談を一人で担当させる必要はありません。
海外から届いた問い合わせに返信する、海外企業を調べる、オンライン商談に同席する、展示会後の見込み客へ連絡するなど、実際の海外企業との接点を少しずつ増やします。
海外事業では、実際に相手とやり取りして初めて分かることが多くあります。
「この質問には答えられない」「価格を聞かれたが、どこまで提示してよいか分からない」「返信したのに先方から反応がない」。
こうした経験そのものが、海外担当者を育てる材料になります。
3.つまずいたところを育成課題にする
実務を始めると、担当者が止まる場所が見えてきます。
なぜメールでのやり取りが続かないのか、商談で相手の反応が薄いのか、カタログのダウンロードが少ないのか。
あるいは、社内の誰に何を確認すれば、その問題を解消できるのか。
ここで初めて、何を学ぶ必要があるのかが具体的になります。
研修や勉強を先に一通り行うのではなく、実務でつまずいたところから必要な知識を補っていくことで、学んだ内容と実際の仕事がつながります。
同時に会社側も、「担当者の能力不足」だけではなく、価格の決め方が曖昧、英文資料がない、技術部門への確認方法が決まっていないなど、社内側の課題に気づくことができます。
4.足りない知識や経験だけを補う
実務を重ねるうちに、担当者に足りないものが見えてきます。
貿易実務なら研修を受ける、英文契約なら専門家に確認する、海外営業の進め方が分からなければ経験者から助言を受けるなど、必要な部分を補っていきます。
すべてを一人で習得する必要はありません。
海外担当者を育てる目的は、海外業務の専門家を一人つくることではなく、自社の海外事業を前へ進められる担当者を育てることです。
「任せる → つまずく → 確認する → 学ぶ → また任せる」。
この繰り返しによって、担当者自身の経験だけでなく、自社にとっての海外事業の進め方も少しずつ蓄積されていきます。
海外人材が育つ会社・育たない会社の違い
同じように社内から海外担当者を選んでも、数年後には海外事業を自分で進められる人材に育っている会社もあれば、いつまでも担当者が一人で悩み続けている会社もあります。
その違いは、担当者本人の能力だけではありません。
途中でも前に出せる会社は育ちやすい
海外事業では、最初から十分な知識を持っている担当者はいません。
分からないことがあっても、まず調べる。海外企業に連絡してみる。返ってきた反応を社内に持ち帰る。分からなければ聞く。
こうして実務を前に進める会社では、担当者が経験できる量も増えていきます。
反対に、「もっと勉強してから」「英語力が上がってから」「海外向けの体制が整ってから」と準備を続けているだけでは、実際の海外企業から得られる経験は増えません。
担当者からの「問い」が社内を循環している
海外担当者が実務に出ると、
「この価格まで下げてもよいですか」
「この仕様変更には対応できますか」
「この会社を代理店候補として進めてもよいですか」
など、社内ではこれまで考えたことのなかった新規案件が次々に出てきます。
育成が進む会社では、担当者がその問いを社内へ持ち帰り、経営者や技術、営業など必要な人が判断し、その答えを持って担当者が再び海外企業とやり取りします。
この繰り返しによって、担当者だけでなく会社にも海外事業の判断基準が蓄積されていきます。
一方、「海外のことは担当者に任せた」として、質問や判断まで一人に背負わせると、担当者は早晩動けなくなります。
失敗を担当者だけの失敗にしない
海外企業へ提案して断られたり、商談が途中で止まったりすることは珍しくありません。
そのときに「担当者の営業力が足りなかった」で終わらせるのではなく、
- 商品が市場に合っていなかったのか
- 価格や条件に問題があったのか
- 相手企業の選び方が違ったのか
- 提案方法を変える必要があるのか
を会社として検証します。
海外事業の立ち上げ期は、担当者を育てる期間であると同時に、会社自身が海外での売り方を学ぶ期間でもあります。
担当者だけを育てようとするのではなく、担当者が得た経験や問いを会社に戻し、会社も一緒に学習する。この循環ができる会社ほど、海外人材も海外事業も育ちやすくなります。
海外担当者だけに海外進出を背負わせない
海外担当者を決めても、「海外のことは担当者に任せた」としてしまうと、人材育成も海外事業も止まりやすくなります。
特に海外事業の立ち上げ期は、担当者だけでは決められないことが数多くあります。
経営判断まで担当者に任せない
どの市場を狙うのか、どこまで価格を下げるのか、製品を海外仕様に変更するのか、代理店とどのような条件で契約するのか。
こうした判断は、海外担当者の仕事ではなく経営判断です。
担当者には、海外企業とのやり取りから得た情報を整理し、「何を会社として決める必要があるのか」を社内へ戻してもらいます。
そして経営者が判断し、担当者がその判断を持って再び海外企業と交渉する。
この役割分担ができていれば、担当者は自分で決められない問題を一人で抱え込まずに済みます。
通常業務との兼務を前提にしすぎない
中小企業では、国内営業やマーケティングなどの通常業務と海外担当を兼務することも少なくありません。
しかし、海外担当という肩書きを加えただけで、これまでの仕事量が変わらなければ、緊急性の高い国内業務が優先され、海外業務は後回しになりがちです。
海外担当者を育てるのであれば、何を任せるかだけでなく、その仕事をする時間をどう確保するかも会社側で考える必要があります。
海外業務を評価できるようにする
海外事業は、すぐに売上につながるとは限りません。
市場を調べる、海外企業へ連絡する、商談する、提案を修正する。こうした活動を何度も繰り返した先に、ようやく受注につながることもあります。
売上だけを評価基準にすると、立ち上げ期に必要な仕事が「成果の出ていない仕事」に見えてしまいます。
問い合わせへの対応、商談数、見込み客との関係構築、代理店候補との交渉など、海外事業を前へ進めるために何を積み上げたのかも確認する必要があります。
海外担当者を育てることは、一人の社員に海外業務を覚えてもらうことではありません。
担当者が動き、そこで得た情報を社内へ戻し、会社が判断し、再び市場で試す。
その仕事が続けられる環境を会社側につくることまでが、海外人材の育成です。
海外進出は、人材が揃ってから始めるものではない
海外進出を始めるために、最初からすべてを任せられる人材が社内にいる必要はありません。
海外事業の進め方がすでに確立している会社なら、経験者を外部から採用する方法があります。
一方、これから海外事業を立ち上げ、自社に合った市場や販売方法を試行錯誤していく段階なら、社内の人材を海外担当者として育てながら進める方法もあります。
その場合は、
- 海外担当者として誰を育てるのか決める
- 担当者の役割と経営判断を分ける
- 小さな海外実務から任せる
- つまずいたところから必要な知識を補う
- 得られた経験や情報を社内に蓄積する
という順番で進めます。
海外担当者の育成と海外事業の立ち上げは、別々に行うものではありません。
海外市場で実際に動き、顧客の反応を見ながら担当者が学び、会社も自社に合った海外事業の進め方を学んでいく。この二つを同時に進めることが、中小企業にとって現実的な人材育成になります。
なお、海外事業ではすべての業務を社内だけで担う必要もありません。
社内で持つべき役割と、専門家や外部人材に任せる役割の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
→海外進出のカギは人材にあり|社内・外部人材の最適な役割分担とは?
海外担当者の決め方・育て方に迷っている方へ
パコロアでは、海外事業の現在地を整理したうえで、次に必要な人材・役割・進め方を一緒に整理しています。
「海外進出を任せられる人がいない」
「担当者はいるが、どのように役割分担すればよいか整理したい」
という企業様は、『海外進出チェック』の詳細をご覧ください。
→ 自社分析レポート『海外進出チェック』の詳細を見る
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