高い技術力を持ち、海外展示会にも継続して出展している。
それでも、海外売上が思うように積み上がらない――。
実は、独自技術や高い専門性を持つニッチな製造業ほど、展示会での反応や問い合わせが、少しはあるために、海外事業そのものは前進しているように見えます。
ところが数年経っても、売上を生み出す仕組みはほとんど変わっていないことがあります。
この記事では、技術力のある中小製造業が海外展開で陥りやすい失敗と、「今は我慢の時期」と考える前に確認したいポイントを解説します。
技術力のある製造業ほど、海外展開の失敗に気づきにくい
海外市場でまったく反応がなければ、戦略の見直しはそれほど難しくありません。
難しいのは、展示会では製品を評価され、問い合わせや商談も少しずつ発生しているケースです。
特に、他社にはない技術や高い専門性を持つ製品は、それ自体に興味を持つ顧客がいるため、海外営業の進め方が自社製品の特性に合っていなくても、一定の反応を得られることがあります。
すると、
「製品は評価されている」
「もう少し認知が広がれば売れる」
「あと何回か展示会に出れば代理店が見つかる」
「海外販売代理店がもっと売ってくれるようになる」
と考えやすくなります。
ここで注意したいのは、製品への評価と、海外事業が順調に育っていることは同じではないという点です。
展示会で10人から高い評価を得ても、その10人との接点が次の顧客獲得につながらなければ、翌年もまた新しい10人を探すところから始まります。
問い合わせが数件入り、商談が生まれていても、それが次の事例や紹介、販売パートナーの育成などにつながっていなければ、海外事業はまだ立ち上げ未満で、営業の負荷も減っていきません。
技術力がある会社ほど、この状態でも海外から一定の反応を得られるため、撤退するほど悪くはなく、かといって大きく伸びるわけでもない状態が長く長く続くことがあります。
問題は、ここを「海外事業には時間がかかるから、今は我慢の時期」と判断し続けてしまうことです。
本当に時間をかければ積み上がっていく途中なのか。
それとも、積み上がらない海外営業方法を繰り返しているだけなのか。
その違いを見極めるために、まず次の6つの状態に陥っていないか確認してみましょう。
1.海外展示会への連続出展が「海外事業の継続」になっている
海外市場を開拓する初期段階では、展示会は有効な手段です。
現地でどのような企業や研究者が製品に関心を持つのかを確認し、顧客候補や代理店候補と直接話すことができます。
Webサイトや市場調査だけでは得られない情報も集まります。
問題は、数年経っても展示会の役割が変わっていない場合です。
1年目も、自社の社員が出展して新しい顧客を探す。
2年目も、同じように自社の社員が出展して新しい顧客を探す。
3年目も、また別の展示会へ出展して新しい顧客を探す。
出展を重ねれば、ブースの見せ方や英語での説明、来場者への声のかけ方などは上達していきます。
そのため、海外営業そのものも前進しているように感じやすくなります。
しかし本来、海外事業が育っていれば、展示会の役割も変わっていくはずです。
最初はメーカー自身が顧客を探していても、やがて現地の代理店が顧客を開拓する、既存ユーザーから別プロジェクトの相談が入る、現地企業との共同提案が始まるなど、販売を支える人や経路が増えていきます。
メーカー自身は、そこで生まれた販売基盤を活かしながら、別の市場や別の顧客層の開拓へ進むことができます。
ところが、何年経ってもメーカー自身が展示会へ出向き、毎回ゼロから新規顧客を探しているのであれば、出展回数は積み上がっていても、海外販売の仕組みは積み上がっていない可能性があります。
「今年も海外展示会に出る」ことが、いつの間にか「海外事業を続けている」ことそのものになっていないか。
連続出展を決める前に、一度確認しておきたいポイントです。
2.成果が伸びない原因を、施策の改善で埋め続けている
海外展示会を続けていると、毎回さまざまな課題が見つかります。
来場者が少なければ、ブースの見せ方を変える。
製品説明が伝わりにくければ、英語資料を充実させる。
商談につながらなければ、イベントやデモを企画する。
英語での対応が難しければ、語学力の高い人材を配置する。
一つひとつを見ると、どれも合理的な改善です。
しかし、改善を重ねても海外売上が大きく変わらない場合は、個々の施策ではなく、その前提を確認する必要があります。
たとえば、高度な研究機器や特殊な産業機器であれば、展示会で多くの来場者を集めることよりも、その技術を本当に必要としている研究者や技術者をピンポイントで特定し出向き、具体的な課題について直接話せることの方が重要かもしれません。
この場合、来場者が少ないこと自体は、必ずしも問題ではありません。
100人をブースに集めるより、その分野の第一線にいる研究者1人と自社の技術者が45分間、具体的な研究課題について話す方が、その後の共同研究や製品採用、新たな用途開発につながる可能性があります。
それなのに「来場者が少なかった」という結果だけを見て、次回は集客イベントを増やす、ノベルティを工夫する、説明員を増やす、と改善していけば、展示会そのものの完成度は上がっていきます。
しかし、本当に見直すべきだったのは集客方法ではなく、「誰と会うために展示会へ出るのか」という前提だったかもしれません。
つまり必要なのは、目の前の施策を「もっと上手にやる」ことではなく、
「そもそも、それを上手にやる必要があるのか」を疑うことです。
この構造は、展示会に限りません。
代理店が売らないから代理店を増やす。
海外からの問い合わせが少ないから広告を増やす。
商談が進まないから海外営業人材を採用する。
目の前の問題を一つずつ解決していても、その問題設定自体が本質からずれていれば、海外事業全体が前へ進みづらくなります。
特に技術力のある製造業では、製品そのものに力があるため、こうした施策からでも一定の反応が得られます。
そのため、施策を改善し続けることが、そのまま海外事業を前進させることだと考えやすくなります。
個々の施策を改善する前に、一度確認したいのは、「この問題は本当に改善すべき問題なのか?」ということです。
3.技術製品なのに、技術者と海外顧客が直接つながっていない
高度な技術製品ほど、海外営業では「分かりやすく説明すること」が重視されがちです。
そのため、英語を話せる営業担当者を配置する、英語資料を充実させる、海外の販売パートナーに製品説明を任せる、といった体制を整える企業も少なくありません。
もちろん、基本的な製品説明や問い合わせ対応には必要なことです。
しかし、トップニッチ製品の顧客が知りたいのは、製品仕様だけとは限りません。
「この条件でも使えるのか」
「これまで観察できなかった現象を捉えられるのか」
「自分たちの研究用途に合わせて変更できるのか」
「この技術を使えば、別の方法では難しかったことができるのか」
こうした問いが出てきたとき、必要になるのは流暢な製品説明ではなく、技術について深く話せる相手です。
特に研究者や専門技術者が顧客の場合、相手もまだ答えを持っていない課題について話すことがあります。
そこで生まれる対話から、新しい用途や共同研究、製品改良につながることもあります。
ところが海外営業では、「技術者は英語が苦手だから」と営業担当者や英語を話せる人だけを前面に出し、技術者は質問への回答が必要になったときだけ後から参加する体制になっていることがあります。
この場合、英語対応はできていても、最も価値のある技術的な対話が始まる前に商談が終わってしまう可能性があります。
必要なのは、技術者全員が流暢な英語を話せるようになることではありません。
専門性の高い通訳を入れる、技術者がオンラインで最初から参加できるようにする、頻出する技術説明だけは英語で共通認識として準備しておくなど、方法はいくつもあります。
重要なのは、「英語で商品説明ができるか」だけでなく、その前段階として「顧客が本当に話したい相手と、十分話せる状態になっているか」です。
トップニッチ製品では、海外営業担当者が世界の顧客からの問い合わせを一次受付することで、その中に含まれる重要な断片やヒントを取りこぼしてしまうことがあります。
むしろ、たとえ英語が流暢でなくても、自社の技術者が前面に出て、世界の研究者や技術者が持つまだ形になっていないアイデアや疑問、質問に直接向き合う。
その方が、新しい用途や共同研究、製品開発につながるヒントを拾える可能性があります。
4.海外営業担当者に「海外事業全体」を任せている
海外営業担当者を置くと、海外に関する仕事がその人に集まりやすくなります。
海外展示会の選定や準備、問い合わせ対応、代理店とのやり取り、英語資料の作成、商談のフォローなど、実務を一人の担当者が幅広く担っている企業もあります。
担当者が経験を積めば、こうした仕事は次第に速く、上手になります。
しかし、「海外営業が上手になること」と
「海外事業をどのように成長させるかを決めること」は別の仕事です。
- どの用途・どの業種を優先するのか。それはなぜか。
- 最初にどのような顧客を獲得すべきか。それはなぜか。
- ターゲットはどこにいるのか。直接会いに行くことはできないのか。展示会で出会うのであれば、そのターゲット企業のキーパーソンは本当にその展示会に来るのか。
- 上位デバイスに組み込んでもらう、業界の中核となる企業や研究機関と共同事例を作る、論文やエビデンスを蓄積する。その製品では、どの方法がターゲットに近づく最善策なのか。
- 既存ユーザーを次の市場開拓にどう生かすのか。
- いつまでメーカー自身が最前線で営業し、どの段階から現地代理店へ役割を移していくのか。
つまり、限られた人員と予算を使って、どのルートなら自社の技術を最も必要とする相手に近づけるのかを決める。
これは海外事業そのものの設計であり、経営者にしかできない経営判断です。
ところが、海外営業担当者に海外事業全体を任せていると、担当者は自分に与えられた仕事の中で成果を出そうとします。
展示会なら、次回はもっと良い展示会にする。
代理店が動かなければ、新しい代理店を探す。
英語対応が足りなければ、英語のできる人を増やす。
どれも担当者としては自然な判断です。
それでも海外事業が伸びないときに必要なのは、担当者にさらに工夫を求めることではありません。
本来、経営者が判断すべき海外事業の方向まで担当者に委ねたまま、現場の施策だけを改善し続けていないか。
一度、経営側から海外事業全体を見直す必要があります。
海外営業担当者が忙しく動き続けていることは、海外事業が前へ進んでいることを意味しません。
むしろ経営者が確認したいのは、
「この担当者は、海外事業を前へ進める仕事をしているのか。
それとも、今ある海外営業を維持する仕事で手いっぱいになっているのか」
という点です。
5.海外活動は増えているのに、「自社がやらなくてよい仕事」が増えていない
海外事業を始めたばかりの頃は、メーカー自身が多くの仕事を担います。
展示会に出展し、自社で製品を説明する。
見込み客を探し、問い合わせに対応する。
代理店候補を探し、製品を一から教える。
商談にも技術者が参加し、一件ずつ関係をつくっていく。
初期段階では、それで問題ありません。
しかし、海外事業が育っていけば、メーカー自身が担う仕事も少しずつ変わっていくはずです。
- 現地代理店が自社で顧客を開拓できるようになる。
- 既存ユーザーから別プロジェクトの相談が入る。
- 導入事例や研究成果を見た新しい顧客から問い合わせが入る。
- 現地企業が自社製品を組み込んで提案してくれる。
- 過去に築いた顧客やパートナーとの関係から、新しい商談が生まれる。
つまり、過去の海外営業が、次の海外営業を助けるようになります。
ここで経営者に一度確認してほしいことがあります。
「2~3年前と比べて、自社がやらなくてもよくなった海外営業の仕事は何ですか?」
海外売上がまだ大きくなくても、この問いにいくつも答えられるのであれば、海外事業の基盤は少しずつ育っている可能性があります。
一方、出展国が増え、海外出張が増え、商談件数も増え、海外営業担当者は以前より忙しくなっている。
それなのに、メーカー自身が毎回見込み客を探し、一から説明し、一件ずつフォローする状態が数年前と変わっていないのであれば、注意が必要です。
活動量が増えた分だけ売上機会は増えていても、海外事業を支える仕組みそのものは増えていない可能性があるからです。
海外事業の成長は、「今年は何回展示会に出たか」「何件商談したか」だけでは測れません。
むしろ数年単位で見るなら、自社が動かなければ止まってしまう仕事が、どれだけ減ったかも重要な指標です。
メーカー自身がすべてを続けるのではなく、過去につくった顧客、実績、エビデンス、代理店、パートナーが次の顧客を連れてくる。
そうした状態が増えて初めて、海外営業の活動が海外事業として積み上がり始めます。
6.「まだ時間が必要」と「今の進め方では積み上がらない」を区別できていない
海外事業には時間がかかります。
特にトップニッチ製品では、顧客による評価や検証に時間が必要だったり、予算化や採用まで長い期間を要したりすることがあります。
そのため、すぐに売上につながらなくても、「もう少し続ける必要がある」と判断すること自体は間違いではありません。
難しいのは、ここまで見てきたように、技術力のある製品ではその間にも少しずつ反応が得られることです。
展示会では興味を持ってもらえる。
問い合わせが数件入る。
商談も続いている。
代理店候補も現れる。
ときには受注もある。
完全な失敗ではありません。
だからこそ、「方向は間違っていない。あとは時間の問題だ」と考えやすくなります。
しかし、海外事業の立ち上げに時間をかけることと、同じ海外営業ばかりを長く続けることは違います。
たとえ売上になるまで数年かかる製品でも、その途中では、小さくとも確実な何かが積み上がっているはずです。
- ターゲットが定まってくる。
- 顧客についての理解が深まる。
- 製品の新しい用途が見つかる。
- 導入実績や研究成果が次の商談に使えるようになる。
- 現地で機会を取りこぼさず、製品を説明・販売できる人が育つ。
- 自社の強みを生かせる引き合いが増える。
- これまでにはなかった、挑戦しがいのある問い合わせが入り始める。
- メーカー自身が動かなくても生まれる案件が増える。
つまり、売上になるまでの時間は長くても、売上につながるまでの道が少しずつ出来上がっていくはずです。
反対に、
数年経っても毎年同じ展示会へ出展し、
新しい見込み客を探し、
一から製品を説明し、
同じように代理店候補を探しているのであれば、
「時間がかかっている」のではなく、
同じ場所から何度もゼロベースでリ・スタートしている可能性があります。
トップニッチ製品で難しいのは、ここを見極めることです。
このまま今の海外営業を続けることでゴールが見えてくるのか。
それとも、何かが噛み合っておらず、この違和感を見逃してはいけない時期なのか。
「もう少し続ければ」と判断する前に、一度立ち止まって確認する必要があります。
「正しい我慢」と「間違った継続」は、何で見分けるのか
海外事業では、すぐに売上が伸びないからといって、現在の方針が間違っているとは限りません。
トップニッチ製品では、顧客による評価や検証、予算化、社内承認などに時間がかかり、最初の受注まで数年を要することもあります。
だから見るべきなのは、売上だけではありません。
重要なのは、時間をかけた分だけ、次の海外営業を助けるものが残っているかです。
たとえば、2~3年前と比べて、次の問いにYESが増えているでしょうか。
- 自社の技術を最も必要とするターゲットが、以前より明確になったか
- 海外ユーザーの実績や研究成果が、次の顧客との商談に使えるようになったか
- 自社の強みを生かせる、質の高い問い合わせや相談が増えているか
- 現地代理店やパートナーなど、自社以外にも顧客を見つけ、製品を説明し、商談を進められる人が育っているか
- 展示会に出展しなくても生まれる問い合わせや商談が増えているか
- メーカー自身が一から動かなくても進む海外案件が増えているか
YESが増えているのであれば、海外売上がまだ小さくても、これまでの活動が次の活動につながる土台をつくっている可能性があります。
その場合は、今の取り組みを焦って変える必要はありません。
積み上がっているものを確認しながら、そのまま前へ進むべきです。
反対に、数年間活動しているのにYESがほとんど増えていないのであれば、必要なのは「もう少し頑張ること」ではないかもしれません。
展示会をもう1回増やす。
新しい代理店をもう1社探す。
海外営業担当者をもう1人増やす。
その前に確認したいのは、今の海外営業を続けた先に、数年後、自社が目指す海外事業の姿が本当にあるのかということです。
海外展開では、正解の見えないところに、自社で道をつくっていかなければならない場面が何度もあります。
だからこそ、ときどき勇気を持って振り返り、
「今つくっている道は、本当に自社がつくりたかった海外事業につながっているか」を確認することが重要です。
海外から入る問い合わせの質が変わってきた。
自社の強みを生かせる相談が増えた。
顧客やパートナーが育ち、過去の活動が次の商談につながるようになった。
そうした積み上がりに腹落ちできるのであれば、そのまま進めばよいでしょう。
一方で、何年続けても想定していたものが積み上がっていないのであれば、その違和感を見逃してはいけません。
そのまま進むのか。方法を変えるのか。ときには引き返すのか。
それを判断するのは、海外営業担当者ではありません。
自社がどんな海外事業をつくるのかを決める、経営者が判断することなのです。
海外事業の進め方に違和感があるなら、一度立ち止まって確認を
海外展示会への出展を続けている。
海外営業担当者もいる。
代理店もある。
問い合わせや商談も少しずつ生まれている。
それでも数年前と比べて、「海外事業として何が積み上がったのか」がはっきりしないのであれば、次の展示会や次の施策を決める前に、一度、海外事業全体を見直してみてもよいかもしれません。
必要なのは、これまでの取り組みを否定して、すべてをやり直すことではありません。
これまでに得た顧客との接点、技術への評価、海外での経験、代理店やパートナーとの関係の中から、何を残し、何を変え、次にどこへ力を集中するのかを決めることです。
パコロアでは、すでに海外展開に取り組んでいる企業からのご相談にも対応しています。
「展示会を続けるべきか」
「代理店を増やすべきか」
「海外営業人材を更に採用すべきか」
といった個々の施策を決める前に、現在の海外事業を整理し、今、最も優先して見直すべきことは何かを一緒に確認します。
海外事業の進め方に少しでも違和感があるものの、その原因をまだ言葉にできていない段階でも構いません。
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