海外進出の成功事例を見ると、「うちでもできるのでは」と感じる一方で、こんな不安はありませんか。
- 自社の製品は本当に海外で通用するのか
- どの国・どの販路を選べばいいのか分からない
- 展示会や商談をしても、その先に進めるイメージが持てない
海外進出では、成功企業と同じことをすれば、同じ結果が出るわけではありません。
商品、進出国、販売先、価格、社内体制が違えば、取るべき方法も変わります。
だから成功事例を見るときに重要なのは、「何をしたか」だけではなく、
「なぜ、その企業はその判断をしたのか」を見ることです。
本記事では、食品・製造業を中心とした中小企業6社の海外進出事例を取り上げ、成果につながった「判断」に注目して見ていきます。
成功事例をそのまま真似するためではなく、「自社なら何を判断しなければならないのか」を考える材料として読んでみてください。
ニビシ醤油|ベトナム現地販売を実現した老舗の挑戦
創業140年を超える老舗、ニビシ醤油株式会社は、九州を拠点に味噌や醤油の製造・販売を手がけています。
韓国や香港をはじめ約10カ国への輸出実績を持つ同社ですが、新しい国へ展開する際には、これまでの輸出経験をそのまま当てはめたわけではありません。
ベトナム市場では、九州独自の甘さを持つさしみしょうゆを、現地の肉料理などにも合う調味料として訴求しました。
つまり、日本で売れている商品の特徴を消して現地に合わせるのではなく、「何を残せば現地で価値になるのか」を考えたわけです。
一方で、原材料や添加物などについては現地の規制に適合させる必要があり、商品設計の見直しも行っています。
ここに、海外展開で難しい判断の一つがあります。
「日本の商品をそのまま売る」か「現地向けに変える」かの二択ではありません。
ニビシ醤油の事例では、
- 九州独自の甘さという商品の特徴は活かす
- 食べ方・使い方は現地の食文化に接続する
- 規制に関わる部分は現地市場に適合させる
というように、変えない部分と変える部分を分けています。
海外で商品を販売するとき、自社の商品では「何を残し、何を変えるべきか」。
最初の成功事例から見えてくるのは、この判断の重要性です。
OCC|IoT技術で海ブドウを欧州へ、沖縄発スタートアップの挑戦
沖縄県に本社を置く株式会社OCCは、ITソリューションを主力事業とする企業です。
同社が海外展開を進めたのは、一般的なITサービスではなく、IoTやAIを活用したコンテナ型の海藻養殖装置でした。
この装置では、IoTカメラで海藻の生育状況をモニタリングし、AIを活用して生育を管理します。
沖縄の特産品である海ブドウを、海外へ輸送して販売するのではなく、「現地で養殖する仕組み」そのものを海外へ展開した点が特徴です。
欧州市場への進出では、スペインやフランスを候補とし、2023年には現地の海藻加工会社と基本合意を締結。その後、スペインで養殖許可の取得手続きや実証実験を進めるなど、段階的に事業化へ取り組んできました。
この事例で注目したいのは、「何を海外へ持っていくのか」という判断です。
海外進出というと、自社の商品をそのまま輸出することを考えがちです。
しかしOCCは、
- 海ブドウそのものを輸出する
- 海外で販売先を探す
という方法だけではなく、
- 自社のIT技術を活用する
- 現地で海ブドウを生産できる仕組みにする
- 現地企業と組みながら事業化を進める
という別の形を選びました。
つまり、自社が海外へ持っていけるものは、完成した「商品」だけとは限りません。
技術、製造方法、設備、ノウハウなど、自社が持つ強みを別の形に組み替えることで、海外事業の選択肢が変わることがあります。
自社が海外へ売ろうとしているものは、本当に「その商品」でなければならないのか。
OCCの事例から見えてくるのは、海外進出を考えるときの、もう一つの重要な判断です。
出典:中小機構|海外販路開拓 株式会社OCC
ヤマサちくわ|老舗ちくわメーカーがオーストラリアで販路を開拓
愛知県豊橋市のヤマサちくわ株式会社は、1827年創業の老舗水産練製品メーカーです。
国内では「豊橋名産ヤマサのちくわ」として知られる同社ですが、国内市場の縮小を背景に、海外での販路開拓にも取り組んできました。
オーストラリア市場への進出にあたっては、これまでの輸出経験から物流の安定性や治安などを考慮し、さらにTPP加盟国であることなども踏まえて市場を選定しています。
そして興味深いのが、販売先の選び方です。
現地リサーチを行った結果、オーストラリアの二大スーパー「Woolworths」「Coles」へのアプローチは現実的ではないと判断し、最初のターゲットを日系スーパーに絞りました。
海外へ進出するなら、できるだけ大きな市場、大きな販売先を狙いたくなるものです。
しかし、販売先の規模が大きければ、自社にとって良い販路になるとは限りません。
ヤマサちくわは、自社の商品特性や海外展開の段階を踏まえ、最初から大手小売を狙うのではなく、商品を理解してもらいやすい販路から入る方法を選びました。
その結果、現地の日系スーパーで水産練製品7品目の成約を獲得しています。
さらに販売開始後も、試食販売を通じて現地消費者に商品を知ってもらうなど、「輸出できた」で終わらせず、現地で商品を定着させる取り組みを続けています。
この事例で注目したいのは、「どこで売れれば成功なのか」という判断です。
- 大手小売への採用を目指すのか
- 商品を理解してもらいやすい販路から始めるのか
- 最初から現地市場全体を狙うのか
- 小さく販売を始め、反応を見ながら広げるのか
同じ商品でも、この入口の選び方によって必要な価格、数量、営業方法、社内体制まで変わってきます。
「一番大きな販路」ではなく、「今の自社が勝ちやすい販路」はどこなのか。
ヤマサちくわの事例は、海外販路を考えるときに、この二つを分けて考える重要性を示しています。
セイリン|日本製鍼を世界へ、品質で勝負するニッチトップ企業
セイリン株式会社は静岡県に本社を置く、鍼灸用鍼などの医療機器メーカーです。
1978年の創業以来、ディスポーザブル鍼灸鍼の開発・製造を手がけ、現在では30カ国以上で製品を展開しています。
アメリカ、中国、オーストラリアに関連会社を持つほか、ドイツなどにも海外拠点を設けています。
この事例で注目したいのは、海外展開を単なる「日本からの輸出」で終わらせていない点です。
医療機器は、品質の高い製品を作れば、そのまま世界中で販売できるわけではありません。
国によって薬事規制や販売環境が異なり、製品を継続して使ってもらうためには、販売チャネルの構築や現地パートナーとの連携、規制対応なども必要になります。
セイリンは海外事業において、各国の薬事規制への対応に加え、海外子会社での販売チャネルや製品ラインの拡充などにも取り組んでいます。
つまり、「海外へ売る」だけではなく、「海外市場で売り続けるために、どこまで自社で体制を持つのか」まで考えてきた企業です。
ここに、中小企業の海外進出で大きな判断が必要になるポイントがあります。
- 日本から輸出するだけで事業を続けられるのか
- 現地代理店やパートナーに販売を任せるのか
- 自社の海外拠点を設けるのか
- 規制対応や顧客支援まで、どこを自社で担うのか
海外市場への関与を深くすれば、できることは増えます。
一方で、人材もコストも必要になり、簡単に引き返せない投資も増えていきます。
だから「海外で売れ始めたら現地法人」というように、進出形態を一律に決めることはできません。
自社は海外市場に、どこまで入り込む必要があるのか。
セイリンの事例から見えてくるのは、海外事業を長期的に育てるうえで、この「関与の深さ」をどの段階で変えていくかという判断です。
出典:セイリン株式会社|海外拠点一覧
マテックス|他社が手を出さない領域に挑む、老舗メーカーの突破力
マテックス株式会社(大阪府八尾市)は、遊星歯車・減速機などを手がける老舗メーカーです。
同社は海外との直接取引の経験が少なく、海外業務を一人で担当するなど、海外営業に十分な人員を割ける状況ではありませんでした。
そのなかで取り組んだことの一つが、海外顧客への「伝え方」の見直しです。
それまで国内営業で使っていた資料を英訳していましたが、海外顧客が何を知りたいのかという視点から、提案資料の内容を組み直しました。
そして2023年4月には、ドイツの世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ」に欧州で初めて出展。
その後もインドネシアやアメリカなどの海外展示会へ出展を広げています。
こうした活動を通じて、既存の海外顧客から別製品の試作を受注したほか、海外展示会で出会った企業との成約にもつながりました。
この事例で注目したいのは、「リソースが足りないから海外進出できない」と考えなかったことです。
人員や予算が限られている中小企業では、できることをすべて行うのは現実的ではありません。
だからこそ、
- どの市場へ出るのか
- どの展示会へ出展するのか
- 誰に何を伝えるのか
- 商談後のどの案件を追いかけるのか
といった優先順位が重要になります。
特にマテックスの事例では、
「日本で使っている営業資料を英訳する」ことと、
「海外顧客が知りたい内容を伝える」ことは同じではない、
という点も見逃せません。
海外営業で必要なのは、国内で行っていることをすべて海外向けに置き換えることではありません。
限られた人員と時間を、どこに集中させれば成果につながるのか。
マテックスの事例から見えてくるのは、中小企業の海外進出では、この「やることを増やす」より「何を優先するか」という判断が重要だということです。
イワタ|“日本製の寝具”を台湾へ、丁寧な市場対応で販路拡大
株式会社イワタ(京都府)は、1830年創業の老舗寝具メーカーです。
自然素材を使った高付加価値寝具を手がけ、海外市場についても長年にわたり可能性を探ってきました。
実際、2012年度には中小機構の支援を受け、フランス・パリやイギリス・ロンドンで、欧州における直営店開設を視野に入れたF/S(事業化可能性調査)を行っています。
しかし、その後の海外展開が「欧州に直営店を出す」という一直線の道をたどったわけではありません。
転機の一つとなったのが台湾でした。
国内メーカーから台湾の販売代理店候補を紹介されたことをきっかけに、2022年から台湾市場への本格的な取り組みを開始。
最初から大きな店舗を構えたのではなく、まず台湾企業と非独占の販売店契約を結び、枕や敷きパッドなど比較的小型の商品から販売を始めました。
そこで一定の受注を確認した後、次の段階へ進みます。
台湾の消費者の嗜好や商習慣、寝具サイズの違いなどを調べ、ベッドフレームやマットレスを含めて商品構成を調整。
さらに現地企業との関係を深め、総代理店契約へと発展させました。
そして2024年8月、台北のSOGO復興館に、約90㎡の「IWATAフラッグシップストア」台湾1号店を開設しました。台湾の富裕層向けに開発した商品も投入されています。
この事例で注目したいのは、「最初に描いた海外進出の形が、そのまま最終形になるとは限らない」ということです。
イワタは長い時間をかけて海外市場を検討し、その過程で市場も、販売方法も、パートナーとの関係も変化しています。
台湾でも、
- 代理店候補との出会い
- 非独占での販売開始
- 市場の反応を確認
- 商品の現地化
- 総代理店契約
- フラッグシップストア開設
と、一段ずつ進んでいます。
海外進出では、最初に完璧な計画を作り、それを何年も変更せず実行することが成功とは限りません。
市場から得た情報や取引先との関係、自社の経験が増えれば、「次に取るべき選択」も変わります。
重要なのは、最初の計画に固執することではなく、どの段階で次の打ち手へ進むのかを判断することです。
10年前に考えた海外展開と、今の自社にとって最適な海外展開は、同じでしょうか。
イワタの事例は、海外事業を長期で育てる企業にとって、その問いを考える材料になります。
6事例に共通するのは、「正解」ではなく「判断」だった
ここまで6社の事例を見てきました。
業種も、商品も、進出国も、海外展開の方法も異なります。
そして興味深いのは、6社が同じ方法で成功しているわけではないことです。
ある企業は商品を現地に合わせ、ある企業は自社の特徴をあえて残しています。
大手小売を狙わず小さな販路から始めた企業もあれば、海外拠点を持ち、市場へ深く入り込んでいる企業もあります。
海外展開のために十分な人員を用意できた企業ばかりでもありません。
つまり、この6社から「海外進出はこうすれば成功する」という一つの正解を取り出すことはできません。
共通しているのは、それぞれの会社が自社の状況に合わせて、重要な場面で判断していることです。
- ニビシ醤油:何を残し、何を市場に合わせて変えるのか
- OCC:自社の何を海外市場へ持っていくのか
- ヤマサちくわ:最初にどの販路を狙うのか
- セイリン:海外市場にどこまで入り込むのか
- マテックス:限られた人員と時間をどこへ集中させるのか
- イワタ:いつ次の打ち手へ進むのか
こうして並べてみると、成功企業が最初から正解を知っていたわけではないことも見えてきます。
市場を調べ、実際に動き、反応を見て、その時点で次の判断をしています。
だから、成功事例を読んで「この会社と同じことをしよう」と考えるだけでは、自社の海外進出の答えにはなりません。
むしろ考えるべきなのは、
「この会社は、なぜその判断をしたのか」
そして、
「同じ場面で、自社なら何を選ぶべきなのか」
ということです。
商品、価格、競争力、社内体制、予算、海外経験、目指す事業規模が違えば、選ぶべき答えも変わります。
成功事例から学べるのは「正解」ではありません。
自社の状況を見ながら、その時々で何を判断しなければならないのかです。
そして、ここからが海外進出で最も難しいところです。
他社の成功事例は調べられても、
「では、自社の場合はどの国を選ぶのか」
「この商品は変えるべきなのか」
「代理店から始めるのか、直接販売するのか」
「今、投資を増やすべきなのか、まだ検証を続けるべきなのか」
という答えは、検索しても出てきません。
自社の条件を入れた瞬間に、一般情報では答えられない個別判断になるからです。
海外進出の成功事例を、自社の判断に変えるために
6社の成功事例を読んで、
「なるほど、こういう進め方があるのか」
で終わることもできます。
しかし、実際に海外進出を考えている企業にとって重要なのは、その先です。
自社なら、何を選ぶのか。
- どの国から始めるのか
- どの商品を海外へ出すのか
- 何を変え、何を変えないのか
- どの販路から入るのか
- どこまで自社で行うのか
- 今の人員と予算で、どこまで進めるのか
ここまで条件を入れると、他社の成功事例をそのまま当てはめることはできなくなります。
パコロアが支援しているのは、まさにこの部分です。
海外ビジネスの実務経験とAIを活用した多角的な分析をもとに、自社の強み、ターゲット市場、販売方法、社内体制などを整理し、「今の自社は何を優先して判断すべきなのか」を30ページ超の個別判定レポート『海外進出チェック』として整理します。
成功企業と同じことをするためではなく、自社に合った進め方を見つけるために。
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