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輸出で利益が出ない8つの理由|中小企業がやりがちな落とし穴と改善策

更新 2025年7月24日 公開 2020年9月19日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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Global air cargo logistics and export profit management concept with cardboard boxes and airplane overlay.

うちもそろそろ海外展開したいんですが、輸出ってやっぱり儲かるもんですか?

実は「輸出=利益が出る」とは限らないんです。

むしろ、ちゃんと計算せずに始めると、思ったより利益が出ないケースが多いんですよ。

えっ、それってどういうことでしょう?

今回は、輸出しても利益が出づらいパターンを、商品の特徴や流通の仕組みなどに着目して、8つのケースにまとめました。

最新の事例をもとに、中小企業が陥りがちな落とし穴と改善策を紹介していきます。

それは気になるね。

うちの商品はどうなんだろう…。

もちろん、輸出自体は可能です。

ただし、販路拡大や利益確保には、想像以上に時間とコストがかかることもあります。

事前にこうしたパターンを知っておくことで、海外戦略をより現実的に設計できるようになります。

illustration of 8 categories that are difficult to commercialize as an export

1. 高すぎる輸送コスト

利益率を下げる国際輸送費の実態

大きくて重い商品は、どの地域へ輸出しても国際輸送コストが跳ね上がります。

特に空輸の場合、サイズや重量によって1商品あたりの送料が製品価格の20〜30%を超えることもあり、薄利商品ではすぐに赤字に転落する可能性があります。

「アジア圏なら近いから安いのでは?」と思う方も多いですが、現地に同等性能の製品がある場合、送料分だけ価格競争で不利になります。

国内価格そのままで展開しても、現地の安価な代替品に勝てないのが現実です。

ただし、以下のような条件を満たす場合は例外です。

  • 現地で調達できない独自機能や品質を持つ
  • 世界的に認知された別格ブランドで価格競争に巻き込まれない

こうしたケースでは、高い輸送費も顧客が納得して負担しやすくなり、利益を確保しやすくなります。

Comparison table of estimated international shipping costs by transport method, product size, and destination, showing impact on export profitability for small businesses
輸出時の想定送料コスト(概算)

この表からも分かるように、航空便での輸出は利益を大きく圧迫する場合があります。

船便は安価ですが、到着までに2〜6週間かかるため、スピードを求める商材には不向きです。

2. 見えないコスト:規制・規格対応

無視できないコンプライアンス費用

各国にはそれぞれ輸出入に関する規制や技術基準があります。

例えば、EUでは製品に「CEマーキング」が義務付けられており、安全性・環境配慮の基準を満たしている証明が必要です。CEマーキング、知らなかったでは済まされない??(パコロア寄稿)

こうした認証を取得するには、

  • 現地コンサルや技術者の調査・翻訳費用
  • 製品の試験・書類作成費
  • 登録費・代理申請の代行手数料

などがかかり、数十万円〜100万円超えのケースも珍しくありません。

「知らなかった」では済まされず、違反した場合は罰金・輸出停止・ブランド毀損のリスクもあります。

特に中小企業にとって、こうした費用の見落としは利益を大きく削る要因になります。

【改善のヒント】

輸出対象国を絞り、対応が比較的簡単な国・製品カテゴリから始めるのも一手です。

Export compliance cost breakdown for small businesses, including CE marking and regulatory approval fees across different countries
輸出時の規制・認証対応コスト(例)

※上記は機械・電子部品系の一例です。製品カテゴリ・申請ルートにより大きく変動します。

※すべて正式な代理申請や通訳・書類作成を含んだ想定です。

3. 現地対応が難しいメンテ商品

顧客体験が売上を左右する

美理容師用シザー、包丁、畳、業務用水槽などのメンテナンスが前提となる商品を輸出する場合、事前に「現地でどう対応するか」の戦略が欠かせません。

現地パートナーの育成、メンテナンスの受け付けルートの確保、修理キットの提供など、輸出前の段階で構築しておくべき体制がいくつもあります。

しかし、それらのコストや手間をかけても利益が出るかどうかは、「カスタマーズエクスペリエンス(CX)」次第です。

CXとは、商品やサービスの購入前後に顧客が感じる「心地よさ」「驚き」「感動」などの総合的な体験価値のこと。

たとえ価格が高く、メンテに手間がかかっても、CXが優れていれば、顧客はリピートしてくれる可能性があります。

メンテ商品を海外で成功させるには、製品力+顧客体験の両立がカギになります。

"Matrix comparing maintenance intensity and customer experience importance for export products like scissors, aquariums, and tatami mats."
メンテナンス商品×CXの影響度マトリクス(例)

4. 現地の格安品に負けるリスク

品質より価格が決め手になる現実

日本の商品は品質もデザインも優れている——そう信じたいところですが、

実際には「それでなくても現地品で十分」というケースも多くあります。

特に、現地でも似たような機能・見た目の商品が出回っており、そこに送料や関税が加わると、価格競争で太刀打ちできないことも。

うちは機械も扱ってますが、やっぱり難しいですかね…。

重くてメンテが必要な装置でも、競合にない仕様やブランド力があれば、

海外で売れている日本の製品はたくさんあります。

「価格+機能+信頼」で差をつければ、勝機はあります。

価格で勝てないなら、どうするか?

ひとつの手は、海外現地での生産・組立モデルへの転換です。

現地化すればコストを抑え、競争力を維持しつつ利益を出すことが可能です。

なるほど、現地生産か……

それはおもしろい視点ですね。

ただし、次に紹介するタイプの商品は、それも難しい。

5番目以降は、より慎重な判断が必要になります。

Comparison chart showing export product pricing vs local alternatives, highlighting the impact of shipping costs on competitiveness.
価格競争で苦戦する理由(例)

5. 思い出は残るが、売上が続かない商品

越境ECが生む“第2の旅体験”

インバウンド客が日本で「便利!」「かわいい!」と心を掴まれた商品。

けれど、帰国後に再購入の手段がないと、それはただの“旅の思い出”で終わってしまいます。

これは「リピートの壁」と呼ばれ、インバウンド商品の海外展開において大きな課題です。

  • 越境ECの整備(公式サイト or プラットフォーム)
  • SNSで体験と商品を結びつけるストーリー発信
  • ワークショップや開発過程に顧客を巻き込む仕組み
  • 継続利用で知識や価値が高まる“ガイド的ブランド”構築

旅の記憶と商品が“つながり続ける仕組み”を持てば、広告ゼロでもリピート顧客は育てられます。

Table showing strategies for turning inbound souvenir products into repeat purchases through cross-border e-commerce and customer experience design.
旅の思い出品”の売上持続モデル

6. 異文化への対応が難しい商品

定着には長い時間と資金が必要

海外と日本では文化や風習の背景が異なるため、「売れるか売れないか」が見えづらい商品が存在します。

たとえば──
仏壇、着物、扇子、雪駄、和小物、日傘、マスクなど。

いずれも日本では日常でも、海外では“何に使うの?”となりがちです。

文化的に強く共感される理由がなければ、現地のごく一部の層にしか響かず、販売は限定的になりがちです。

特に文化普及が必要な商品では、以下のような課題があります:

  • 商品の用途や背景を説明する必要がある
  • 異文化の中での「違和感」や誤解を乗り越える必要がある
  • 教育や発信に長期的な投資が必要になる

たとえば、キッコーマンの醤油。

アメリカ市場に浸透するまでに40年をかけ、ようやく「KIKKOMAN=しょうゆ」という定着に成功しました。

貼り薬文化がなかったアメリカで、サロンパスは30年以上の啓蒙活動を通じて、今では同国の貼り薬シェアNo.1ブランドとなっています。

このように、文化そのものを変えるほどの挑戦には、時間も費用も、そして粘り強さも必要です。

現地市場で「育てる覚悟」がなければ、撤退を前提にした柔軟な方向転換も視野に入れるべきです。

"Table comparing the cultural distance, estimated time to market acceptance, and required strategies for exporting culturally unique Japanese products."
異文化商品を普及させるまでにかかる時間とコスト

7. 顧客層が未成熟な市場

商品の細分化が通じにくい理由

日本の小売市場は、顧客層が非常に細かく分かれています。

これは、日本に中間層がしっかり存在しているからこそ成り立つ現象です。

たとえば、

  • ビレッジバンガード
  • マツモトキヨシ
  • ドン・キホーテ

これらは似たような商品も扱いますが、顧客ターゲットや店舗演出は全く異なります。

日本ではこのような多様な店舗戦略が成立していますが、海外市場では事情が異なります。

多くの国では、中間層がまだ成長途上。

そのため、細かい顧客ニーズに応じた商品展開や多店舗戦略は、そもそも成立しないことが多いのです。

日本では「誰のための商品か」が明確でも、その“誰か”が、海外にはまだ存在しない。

このような状況は珍しくありません。

日本市場の特殊性を見落とし、同じ戦略をそのまま海外で適用しても、ターゲットがいないため販売が振るわないという結果に至ることもあります。

たとえば、日本では「東京で流行すれば、地方都市でも売れる」という構図がよくありますが、これは極めて例外的です。

海外では国や地域によって文化・所得・嗜好が大きく異なり、一括りにはできません。

Table comparing the size of the middle class in different countries, and its impact on product segmentation and retail expansion strategies.
中間層の厚みと商品戦略の関係

8. 市場投入のタイミングが早すぎる

現地ニーズの成熟度を見極める

国によっては、製品やサービスを導入するよりも、人手で対応する方が安上がりというケースがあります。

たとえば、ある日本企業がインドで市場調査(F/S調査)を行った際、日本では必需品となっている家庭用品が「大工にオーダーメイドで作ってもらう方が安い」と判明。

製品化された輸入品よりも、現地の人力コストの方がはるかに低かったのです。

このように、「壊れても安価に買い替えられる」「修理も人手が安い」状況では、日本製品の耐久性や品質の高さが評価されにくいことがあります。

しかし、こうした市場も永遠にそのままではありません。

実際には1〜2年で状況がガラッと変わることも。

  • 人件費が上昇する
  • 消費者の生活水準が上がる
  • 時間効率が重視され始める

こうした変化によって「長持ちする製品を買った方が得だ」と市場の認識が変わり、日本製品が受け入れられるようになることも多いのです。

つまり、輸出を始めるタイミング次第で、結果は大きく異なるのです。

事前に現地の経済状況や所得水準の変化を把握したうえで、輸出・進出の計画を練ることが成功への近道になります。

Table showing export feasibility based on local labor cost trends and market readiness, highlighting timing strategies for international expansion.
市場導入タイミングによる輸出可否の変化

モノより人の方が安いんですか、日本では考えられないなぁ。

5.から8.の商品も、決して売れないわけではありません。

ただ、売るには工夫と戦略が必要な「難易度が高いジャンル」だといえるでしょう。

これから輸出を検討される方は、今日ご紹介した失敗要因をあらかじめ知っておくことで、無駄なコストや時間を回避できます。

たとえばハサミ、マスク、畳、着物、5本指ソックスのように、一見難しそうな商品でも、海外市場での事業化に成功している企業はたくさん存在します。

そこには、現地の文化や流通を徹底的にリサーチし、事前に計画を立てた上で実行した、地道な努力と準備があります。

じゃあ、異文化の影響もなくて、海外規制も少ない商品なら……

それって、最初から輸出に向いてるってことですよね?

その通りです!

すでに輸出優位性があるのなら、そのチャンス、今こそ活かしてみてください!

  • どの商品が本当に海外で利益を出せるのか?
  • 現地コストや規制を見越して事業計画を立てるには?

そんな疑問に答える無料相談やサポート資料もご用意していますので是非ご活用ください!

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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