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中小製造業が海外に出る前に読むべき“現実の話”

公開 2025年8月14日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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Japanese manufacturing workers inspecting factory machinery as part of industrial operations, symbolizing overseas expansion planning.

「うちは海外なんてまだ早い」と思っていませんか?

国内市場が頭打ちになるなか、これまで“特別な企業だけのもの”と思われていた海外進出は、いまや中小製造業にとっても現実的な選択肢となりつつあります。

特に、生産拠点や現地法人を持つ「投資型の海外展開」は、自社の価値を最大限に活かし、長期的に競争力を高める一手として注目されています。

しかし、その一方で、進出後の失敗例も後を絶ちません。

「売れると思っていたのになかなか売れない」「現地人材が定着しない」「利益がでるサプライチェーンが構築できない」…そんな声も現場から聞こえてきます。

この記事では、実際に中小企業が海外に進出する前に知っておくべき“現実”を、課題・戦略・準備の観点から掘り下げていきます。

単なる成功事例ではなく、「どこでつまずくか?」「どう備えるか?」に焦点をあて、意思決定と計画立案に本当に役立つ視点をお届けします。

なぜ今、中小製造業が「海外」に目を向けるのか?

国内市場の縮小と“売上の限界”

少子高齢化、人口減少、価格競争の激化。

いま多くの中小製造業が直面しているのは、「国内だけでは、これ以上成長できない」という現実です。

大手メーカーの調達方針の変化にともない、BtoB製品の需要はよくて現状維持、少しずつ減少傾向にあります。

一部の商品以外は価格だけで選定され、差別化の余地が縮小しているのです。

そのなかで、“価格競争から脱却するための出口”として海外展開を考える企業が増えています。

とくに東南アジアや中東など、インフラ投資や工業化が進む新興市場では、日本製品への信頼性が高く、「品質とサービスで勝てる可能性」があるのです。

「海外進出=特別」ではなくなった時代背景

かつて「海外進出」といえば、大企業の専売特許のようなものでした。

しかし今では、補助金・公的支援制度の整備、情報流通の高速化、現地パートナー探しのプラットフォームの普及などにより、中小企業でも“射程に入る”時代が到来しています。

また、「国内に工場を構えていれば安全」という時代も終わりました。

地政学リスク、災害リスク、原材料コストの高騰。

企業としての持続可能性や分散化を考えたとき、海外への“投資”という考え方は、単なるチャレンジではなくリスクヘッジと成長戦略の両面を持つようになっています。

海外進出の初期でつまずく“よくある落とし穴”

海外進出に踏み切った中小企業のなかには、「こんなはずじゃなかった…」という苦い経験をするケースも少なくありません。

慎重に準備したはずなのに、なぜうまくいかないのか?その原因は、“見えていなかった落とし穴”にあります。

以下では、進出初期に多くの企業が直面する代表的な課題を紹介します。

「市場はある」と思っていたのに売れない理由

市場調査で「ニーズあり」と判断しても、実際に売れるとは限りません。

この“理論上の市場”と“実際に購買される現場”のギャップこそ、最初の大きな壁です。

たとえば、現地では「高性能で耐久性のある機械が求められている」という声があっても、その購買決定者が価格重視の公共機関や下請け企業であれば、性能よりもコストが判断基準になります。

また、商流における意思決定者(代理店か?最終顧客か?行政か?)を見誤ると、本当に届けるべき相手に情報や製品が届かないまま終わることも多いのです。

「価格と購買力」その“差”をどう埋めるか

日本の中小製造業の製品は、品質が高くても価格で勝負できないことがほとんど。

「価格が高い」と言われ、現地メーカーや韓国・中国製と比較されると、途端に“選ばれない製品”になってしまいます。

ここで鍵となるのは、“価格以外の価値”をどう見せるかという視点。

  • 長期的な保守・保証
  • ランニングコストの削減(TCOの説明)
  • 教育支援付きパッケージ提案
  • トラブル時の日本語対応サービス(日系企業の場合) など

日本製品の強みを“価格以上の安心”として提示できると、購買側の視点も変わります。

「価格の壁」は、“伝え方次第”で乗り越えられます。

高く見える日本製品でも、長く使える、壊れにくい、トラブル対応が早いなどの価値は、単価だけでなく“導入後の総合コスト=TCO”として伝えることが重要です。

――「製品はいいのに、価格で話が止まってしまう」
そんな場面を回避できることも多いのです。

ポイントは、“高いか安いか”ではなく“納得できるか”をどうつくるか。

ここに、日本企業の伝え方の工夫が求められています。

提携形態の選び方と落とし穴

海外進出において「どう売るか」は、「どこに出るか」と同じくらい重要な選択です。

中小製造業にとっては、コストと労力を抑えつつも“現実的に動ける形”を選ぶことがカギになります。

代表的な3つの形と、それぞれに潜む落とし穴を整理してみましょう。

① 販売代理店:任せやすいが、売上が動かないことも

もっとも多く選ばれる形態が販売代理店方式です。

現地の営業や契約業務を一任でき、初期コストを抑えられるのが利点です。

ただし、「一応カタログに載せてるけど、積極的には動いていない」というケースも少なくありません。

代理店側の営業優先度に上げてもらうには、立場に応じたコミッション設計や卸価格の調整、さらに販売支援策や製品研修などもセットで考えることが重要です。

② 現地法人:主導権はあるが、負担が重い

自社ブランドでの展開や長期的な現地定着を目指すなら、現地法人の設立が選択肢になります。

組織づくりから販売・人材採用・管理まで主導できるのは強みですが、人・金・時間すべての負担が重いのが現実です。

また、キーパーソンである駐在員が交代・退職したとたんに大きく崩れるリスクもあるため、体制面の備えが不可欠です。

③ パートナー企業(販路連携型):流通に紛れ込む戦略

第三の選択肢として、「他社の販路に便乗する」方法があります。

たとえば現地の商社や代理店がすでに取り扱っている商材に、自社製品を“ついで売り”してもらう形です。

例としては:

  • 工業用部材を扱う商社に、自社製品を組み込んでもらう
  • 既存の販売チャネルにOEMや白ラベル製品として参入する
  • サービスや消耗品を、既存商材とセット提案してもらう

この方法なら、初期リスクを抑えながら市場の感触を掴むことができる一方で、自社製品が埋もれる可能性や、販促の優先度が下がるリスクもあります。

文化・法律の“ズレ”が引き起こす初期トラブル

「契約を交わしたのに納期が守られない」「品質に対する認識が違う」
——こうしたトラブルの多くは、文化や価値観、そして法律の違いに起因しています。

たとえば、

  • 「報連相」は日本では当たり前だが、海外では“報告しない=問題ない”とされる文化もある
  • 雇用契約や労働条件が、現地法に準拠していなければ罰則や賠償請求に発展することもある
  • 電話やLINE感覚で契約変更を認識する国もあれば、一言の発言が交渉材料になる地域もある

つまり、日本での常識は通用しない、と思っておくくらいがちょうど良いのです。

トラブルを未然に防ぐには、現地の商習慣・労働法・契約慣行を理解したパートナーとの連携が不可欠になります。

【一言が商談を左右する「会話の地雷」―国別あるある】

文化の違いは、契約書の形式や税制だけにとどまりません。

たった一言の表現が、相手との信頼関係や交渉の流れを大きく変えることもあります。

日本ではごく普通の言い回しが、海外では「失礼」「信用できない」と受け取られることも。

以下、代表的な“会話の地雷”を国・地域別に見てみましょう。

中国:「価格は柔軟です」→ 値引き交渉が止まらない!?

交渉文化が強い中国では、「柔軟に対応します」「応相談」という表現が、そのまま「もっと下がるな?」と解釈されるリスク大。

一度「譲れる」と思われたら、そこから永遠に値引き要求が続くことも…。

➡ 対策:最初に“ここまで”という下限を決めて伝えること。

インド:「納期は大丈夫です」→ むしろ信用されない!?

インドでは「納期に余裕がある」と正直に言うと、「じゃあ少しくらい遅れても大丈夫だろう」と軽く見られたり、「そんな都合のいい話ある?」と疑われたりすることがあります。

要するに、“本当のこと”をそのまま言っても、得をするとは限らない文化なのです。

➡ 対策:少しバッファーを持たせた言い回し(例:「通常よりやや早めにお届けできる見込みです」)で、“誠実さとプロらしさ”を両立させるのがポイント。
※ちなみに、インド特有の“信頼のつくり方”は、日本企業にとっては特に難易度が高めです。

中東:「それは日本のやり方です」→ 怒らせるきっかけに?

中東圏では、“文化を尊重されているか”がビジネス関係に直結します。

「日本では〜」という言い方は、“こっちのやり方を否定された”と受け取られる可能性が。

しかも相手が年長者やキーパーソンなら、その一言で交渉自体が中止になることも。

➡ 対策:「日本ではこうしていますが、御社ではどうされていますか?」という“相手を立てる聞き方”がベスト。

アメリカ:「社内に持ち帰ります」→ 本気じゃないと思われる!?

スピード重視のアメリカでは、「すぐ決められない=準備不足 or 優先度が低い」と判断されることが多いです。

特に展示会など短時間の交渉の場では、その場である程度のYes/Noが出せないと、商機を逃す原因にも。

➡ 対策:あらかじめ決裁権限を持つ人を帯同 or 決裁基準を明確にして臨むこと。

現地パートナー戦略と「中小企業でもできる連携」のリアル

海外進出を考える中小製造業にとって、現地企業とのパートナーシップ戦略は非常に重要な選択肢です。

とくに人的・資金的リソースが限られる企業にとっては、自社単独では難しい販路開拓や商習慣への適応をパートナーと組むことで補える、非常に現実的かつ有効な方法でもあります。

ただし「とりあえず誰かと組めばいい」というものではなく、提携の方法・相手の選び方・関係構築後のリスク管理までを慎重に考える必要があります。

現地法人だけが正解じゃない

「海外進出」と聞くと、まず“現地法人の設立”を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、それが唯一の方法ではありません。

中小企業にとって、もっと現実的でリスクの少ない連携方法も数多く存在しています。

たとえば下記などがあります:

  • 販売提携型: 現地企業に自社製品を販売してもらう仕組み(販売代理店契約とは別)
  • ブランド協業型: 現地ブランドのOEM先として入り込み、共に商品開発
  • 設備・技術の共有: 互いに持たない設備や技術を組み合わせる“部分的提携”
  • 少額出資による信頼構築型: 数%の出資で関係を明文化し、影響力を持つ

つまり、「すべてを自前で持とう」とせず、必要な機能だけを現地と補い合う。

そんな柔軟な提携も、日本の中小製造業にとって現実的な現地適応戦略なのです。

現地パートナー選びで失敗しない3つの視点

パートナーを選ぶ際、よくあるのが「紹介されたから」「展示会で感じがよかったから」といった感覚的な理由だけで決めてしまうケース。

しかしそれは、大きなリスクにもつながります。

以下の3つの視点で冷静に相手を評価することが大切です:

  1. 販路・商流の「実力」を見る
     →「売った実績」だけではなく「売り続けられる仕組み」があるか?
  2. 財務と法的リスクの見える化
     → 契約書の整備状況、与信、支払い条件などのチェックは必須
  3. ビジョンや成長方針の“温度感”
     → 数年後の展望がずれていると、必ず摩擦が生まれる

短期の利益だけでなく、“一緒に育てていけるか”という視点も大事にしましょう。

パートナーシップで起きやすいトラブルとその対策

提携してから「思っていたのと違った…」となるケースは後を絶ちません。
特に起きやすいのが以下の3つの“すれ違い”や“誤解”です。

① 契約外の“暗黙の期待”が食い違う

→ 日本企業:「最初にこれだけ払ったんだから、あとは売ってくれるでしょ」
→ 現地側:「そのあと何もサポートしてくれないから、売れない」
➡ 対策:“契約外の期待”を最初からテーブルに出しておく

② 誰が決めるか?の責任所在があいまい

→ トラブル時に「そっちが決めたでしょ?」「うちは聞いてない」で関係悪化
➡ 対策:“誰が何を決めるのか”を契約時に明文化する

③ 市場の変化に関係がついていけない

→ 当初はうまくいったが、価格競争や需要の変化で形だけの提携に
➡ 対策:半年or年1回のレビュー機会を“契約に組み込む”こと

海外進出後に問われる「人」と「現場」のマネジメント

海外進出において、「法人登記が終わったらひとまず成功」というわけではありません。

むしろその後が本番。

現地社員との関係構築、現場運営、マネジメント体制など、“人”にまつわる課題が山ほど出てきます。

特に日本式の管理スタイルをそのまま持ち込んでしまうと、“通じない・続かない・変わらない”三重苦に直面することも少なくありません。

定着しない理由とマネジメントの限界

「現地社員がすぐ辞めてしまう」「信頼関係が築けない」「指示通り動かない」ーーこれは、多くの中小企業が進出後に最初に感じる“人材の壁”です。

よくある原因は以下のようなもの:

  • 上司からの細かい指示待ち文化が合わない(現地は“自律型”が前提)
  • 人間関係ベースの報連相を求めすぎている(「困ったら相談」は日本的)
  • 評価制度や昇給ルールが不透明に見える

つまり、なんとなく「上司だから」で成立していた日本式マネジメントが、海外では「管理が細かすぎる」「曖昧すぎる」「主観的すぎる」と見なされてしまうのです。

➡ 対策は:“働き方の前提”が違うことを理解し、「現地化」と「相互理解」を軸にしたマネジメント設計を考えること。

文化ギャップと労働習慣の違い

さらに、“価値観”や“仕事観”そのものの違いも大きな摩擦になります。

たとえば海外(ASEAN)では:

時間に対する感覚は、「10分前行動」や「黙って残業する」ではなく、
「始業時間に間に合えば問題ない」「残業は基本的にしない」が一般的。

上下関係についても、「年功序列」や「敬語重視」ではなく、
「フラットに意見を交わす対話文化」。

目標設定においては、「“空気を読む”調整」ではなく、
「KPI(数値目標)」「タスクの明確化」が求められます。

報告・連絡・相談のスタイルも異なり、日本のように細かく、頻繁に、逐次的に進捗を共有する文化は一般的ではありません。

代わりに、結論ファーストで要点だけを伝え、報告の頻度よりも成果や結果を重視する傾向が見られます。

どちらが正しい・間違っているではなく、「違いを知らずに自分の常識だけで動く」ことが問題なのです。

➡ 対策は:現地の働き方・価値観を学ぶ研修や事前情報収集を怠らないこと。

制度設計で見落とされやすい点

「とにかく給与を上げれば辞めない」「ボーナスを出せばやる気になる」
…というのは、“日本人感覚”の思い込みです。

現地スタッフにとって「モチベーションを感じるポイント」は必ずしも金額だけではありません。

実際には、以下のような制度設計が求められます:

  • 報酬:
    年収以外に「月間表彰」や「インセンティブボーナス」が重視される国も
  • 教育:
    「教える側が偉い」ではなく、双方向+実践型が浸透しやすい
  • 評価:
    数値・スキル・態度の3軸で、“納得できる透明性”を確保

特に中小企業では「教育体制や評価制度は後回しに…」となりがちですが、それが離職率の高さや生産性のブレにつながる原因になってしまいます。

➡ 対策は:シンプルでわかりやすく、かつ現地でも通じる制度を“最初に作る”こと。

サプライチェーンと現地調達戦略の再設計

製造業の海外進出は、“作って売る”だけでは完結しません。

特に現地での「調達」「物流」「在庫」までを含めた設計の見直しが欠かせません。

この章では、現地オペレーションの根幹を支えるサプライチェーン戦略について、見落とされやすいリスクやポイントを整理します。

物流・調達コストの“見えないリスク”

海外では、輸送費や通関手数料、関税などの“見えにくいコスト”が利益を圧迫する要因となりがちです。

たとえば:

  • 原材料価格は安いのに、物流費でトータルコストが逆転してしまう
  • 為替の変動や突然の税制変更で調達単価が跳ね上がる
  • インフラ不足による納期遅延で生産計画が狂う

こうした“見積書には載っていない現地対応コスト”を含めて全体像を設計し直すことが重要です。

また、調達先が遠すぎると、高額な陸送費や破損リスクがかえってコストを押し上げる要因にもなります。

コストダウンのための調達が、結果的にリードタイムや柔軟性を損なうケースも珍しくありません。

だからこそ、「価格」だけで調達先を選ぶのではなく、安定性・距離・現地対応力なども含めた“総合評価”での意思決定が、海外での調達成功のカギとなります。

現地調達で求められる品質基準と交渉術

現地調達を始める際、「価格は安いが品質が伴わない」問題に直面する企業は多いです。

特に中小企業では、かつては「まあ伝わるだろう」と進めてしまいがちでしたが、近年はそうした姿勢はかなり見直されてきています。

実際、多くの企業が現地に技術者を派遣したり、遠隔で図面を共有して指導したりと、“伝える努力”は積極的に行っています。

それでも現地サプライヤーの品質が安定しない背景には、「伝えた内容が現地でどう解釈・実行されているか」までの設計が足りないという課題があります。

成功のポイントは:

  • 品質基準は“目視・数値・管理方法”で具体化して伝える
  • 契約時に検査・再発防止フローも含めておく
  • 長期的な信頼構築を前提に、取引開始時から“育てる”意識を持つ

また、価格交渉では“値切る”よりも、“中長期の取引を約束する代わりに初回価格を調整する”といったスタンスが効果的な場面も多くあります。

サプライヤーの探し方と関係構築のコツ

海外進出を進める中で、1社のサプライヤーに依存するのはリスクが高いということは、すでに多くの企業が実感しているはずです。

地政学リスク、自然災害、品質不良や納期遅延など、“もしも”のときに備えるためには、複数の調達先を持つこと=BCP(事業継続計画)の基盤になります。

しかし中小企業にとっては、「信頼できる現地調達先を複数見つける」こと自体が難題です。

実際の現場では、下記の様なアプローチが有効です:

  • 展示会や業界イベントを活用し、候補先と直接会う
    → できれば現地での商談を優先し、“図面を渡して終わり”ではなく、その場で試作品や納期対応の柔軟性を確認する
  • 既存ネットワーク(現地日系商工会・支援機関・銀行等)を活用して紹介を得る
    → 国によっては紹介文化が根強く、「紹介された」というだけで信頼度が上がるケースも
  • 委託検査やトライアル発注を通じて、段階的に育てる
    → 最初から大口発注せず、“付き合いながら選別する”という柔軟な構えが重要

そして、関係をどう維持するかという観点では、定期的なコミュニケーションはもちろん、「発注の偏りをつくらない」「お互いに“逃げ場”を与える」といった設計も、長期安定のカギになります。

成功企業がやっていた“意外な準備”とは?

海外進出と聞くと、製品や販路、パートナー探しなど「目に見えること」が中心に語られがちですが、実際に安定・成功している企業ほど、地味な“土台づくり”に力を注いでいます。

ここでは、派手さはないけれど決定的に差がつく、そんな“意外な準備”について見ていきましょう。

ノウハウゼロから始めるなら、“現地感覚をつかむ努力”を惜しまない

成功している中小企業の多くは、いきなりビジネスを動かす前に、現地の空気をつかむことに時間をかけていました。

市場調査や統計データだけでは見えない、「何が歓迎されるのか」「何が地雷なのか」といった“文化と商習慣のリアル”を体で感じに行っていたのです。

たとえば、ある精密部品メーカーでは、進出前に現地の展示会に何度も足を運び、文化的な商習慣・人脈・税制上の細かい留意点まで徹底的に吸収。

その過程で「書類に書いていないけれど、現地では“常識”になっている条件」にも気づき、事前対応に組み込めたといいます。

「“建前と本音”のギャップ」など数値化できない感覚的な情報も、同時に少しずつ蓄積していきました。

こうした事前の「現地の市場を知ろうとする」努力で、「価格が合わない」「オーバースペック」のような前提条件の見誤りを防ぎ、静かだけれど地に足の着いたスタートがきれたといいます。

「知り合いもなく、ノウハウもまだないからこそ、すべての出会いに真摯に向き合い、ちょっとした違和感も見逃さない」。

そんな実直な姿勢が、海外進出を現実のものにする第一歩になるのです。

撤退と“進まない”判断も想定する

うまくいっている企業ほど、進出=正解と決め打ちしていません。

むしろ、「ある条件を超えなければ撤退する」という“進出しない判断”を事前に想定しています。

たとえば、「1年で売上◯百万円を超えなければ再検討」「2社以上の販路が確保できなければ撤退」といった数値基準に加え、

「想定したビジネスモデルが通用せず利益が見込めないと判断した場合」や「ローカライズしても自社の強みが活きないと分かった場合」など、“質”の観点からも撤退基準を設けていた企業もあります。

あらかじめ“撤退の判断基準”を明文化していた企業は、傷を最小限にとどめ、国内リソースを立て直すことに成功しています。

なかには、タイミングを見て再進出に挑んでいる企業もあります。

これは一見ネガティブに思えるかもしれませんが、実は「撤退ラインを明確に引いておく」ことで、投資判断にメリハリが生まれ、リソース配分や次の一手に“前向きな選択”がしやすくなるのです。

法務・税務だけじゃない、“時間軸”で考える準備術

成功企業は、「今やるべきこと」だけでなく、「3年後・5年後に何が起きそうか」まで視野に入れた準備をしていたことが共通しています。

たとえば、最初はOEM供給だけでスタートしても、数年後に現地ブランドで直販を目指す構想がある場合、最初から法務・会計・知財の設計を“育てる前提”で組み立てていたという企業もあります。

これは「やる気があるからできた」というよりも、「最初に未来を逆算していたからできた」というべきものです。

そして何より、こうした企業は「失敗を避ける準備」ではなく、「失敗しても軌道修正できる準備」に力を入れていたのも印象的です。

すべてを完璧にすることは難しくても、柔軟に対応できる体制を持っておくことが、海外進出の成功確率をグッと高めてくれるのです。

海外進出に向けて今、自社が考えるべきこと

「進出すべきかどうか」を考える視点

「海外進出」と聞くと、“攻めの選択肢”として魅力的に感じるかもしれません。

ですが、今の自社にとってそれが本当に“必要な選択肢”なのか?という問いは、意外と見落とされがちです。

大事なのは、「他社がやっているから」「将来不安だから」という理由だけで動くのではなく、「自社の強みがどこで、どの市場なら勝算があるのか?」を冷静に考える視点を持つことです。

海外進出は“ゴール”ではなく、あくまで“手段”。

その目的を明確にしておくことで、選ぶ道の精度がぐっと高まります。

必要な体制・予算・社内人材の見極め方

もうひとつ重要なのが、「やると決めたら何が足りていないか」を把握すること。

とくに中小企業では、社内に“海外を任せられる人材”がいるかどうかで、進出後の負担が大きく変わります。

・誰が海外対応の責任者になるのか?
・意思決定のスピードと裁量はどの程度あるか?
・現地対応の語学・文化理解・法務対応はどうカバーするか?

さらに、想定外の出費や時間的ロスに耐えうる予算設計も不可欠です。

実際には「走りながら考える」場面も多くなりますが、だからこそ準備段階から“社内の整備”に目を向けておくことで、進出後の柔軟な軌道修正が可能になります。

「相談相手がいるかどうか」が明暗を分ける

そして最後に──。

いざ海外進出に動き出した時、知らないが故の不本意な意思決定をしないためにも、「相談できる相手がいるかどうか」は極めて重要な要素です。

自社では見えにくい視点や、他社事例から得られるヒント、「今は動かない方がいい」という判断さえも、第三者の意見だからこそ得られることがあります。

迷ったとき、引っかかることがあったとき、「聞ける相手がいる」だけで、海外進出はぐっと具体的に、現実的に動かせるようになります。

最初の一歩は「相談」からでも遅くない

海外展開に向けた準備には、答えの出ない不安もつきものです。

でもそれは、すでに第一歩を踏み出そうとしている証拠でもあります。

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「とりあえず聞いてみたい」「何から始めるべきかを整理したい」
──そんな段階でも、どうぞ気軽にご相談ください。

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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