海外進出の事業計画書は、金融機関や支援機関への提出資料としてだけでなく、自社の海外事業を具体化するためにも役立ちます。
特に重要なのは、計画書を埋めることではなく、作成する過程で、自社のビジネスモデルが海外でも成立するのかを見直すことです。
本記事では、実際の行政支援でも使用された事業計画書をもとに、各項目の意味や書き方、記入時のポイントを具体的に解説します。
海外輸出と、現地法人・拠点を設ける海外投資では計画内容が異なるため、それぞれのWordテンプレートも無料でご用意しています。
海外進出で必要になる書類 海外展開事業計画書(輸出編)
なぜ「事業計画書」が海外進出に必要なのか?
日本国内でのビジネス経験があっても、海外進出となると全く違う環境や前提条件に立ち向かうことになります。
通貨、法律、文化、顧客層、競合環境、物流体制――これらの違いを踏まえた上で、どのように事業を進めていくのかを可視化し、言語化するのが「海外展開用の事業計画書」です。
また、作成するプロセス自体が重要です。
市場やターゲット、課題や制約を言語化していく過程で、事業戦略がより具体的に定まり、リスク対策や代替案の検討にもつながります。
つまり、海外進出のスタートラインに立つ前に、どこまで具体的に未来を描けるか――それを形にするのがこの計画書の役割です。
計画を立てずに進めると、「輸出はできたが利益が出ない」というケースも少なくありません。
海外進出の2タイプ──輸出型と投資型
ひとくちに「海外進出」と言っても、その形態には大きく「輸出型」と「投資型」があります。
どちらを選ぶかによって、事業計画書で検討すべき内容も異なります。
輸出型:国内拠点を維持しながら海外に販売するモデル
輸出型は、日本国内で生産・提供する商品やサービスを海外の顧客に向けて販売するスタイルです。
現地に拠点を持たないため、比較的コストやリスクを抑えて海外展開を始めることができます。
事業計画書では、販売方法や価格設定、輸送・物流、通関・規制対応、販売代理店との契約などが主な検討項目になります。
投資型:現地に法人や拠点を設けて事業を展開するモデル
投資型は、進出先に現地法人、営業所、工場などを設立し、拠点を持って事業を行うスタイルです。
輸出型に比べて初期投資が大きく、現地法制度、税務・労務、人材、資金、拠点運営、撤退など、検討すべき範囲も広くなります。
そのため、事業計画書も中長期的な視点を含めて、より詳細に検討する必要があります。
テンプレートに沿って書く!具体記入例と解説(全22項)
ここからは、ダウンロードできるテンプレートに沿って、各項目の書き方を具体的に解説します。
ポイントは、「なぜその情報が必要なのか」と「どのように書くと伝わるか」。
実際の支援現場で中小企業の事業計画書を添削してきた経験から、記入時につまずきやすい点や、考えておきたいポイントもあわせて紹介します。
輸出型と投資型には共通する項目が多いため、共通部分を中心に解説し、投資型で特に検討が必要な項目については個別に補足します。
1.企業概要
「企業概要」は、読み手があなたの会社を最初に知る入り口となる項目です。
会社名、所在地、設立年月、資本金、代表者、従業員数、事業内容、主要取引先など、基本情報を簡潔に記載します。
相手は当社のことをまったく知らない、という前提で情報を簡潔かつ正確に伝える必要があります。
【記入時のポイント】
- 事業内容は、相手が具体的にイメージできるように書く
NG:○○の製造・販売
OK:建築資材として使用される断熱パネルを、工務店や建材卸に提供 - 海外の相手が読む場合は、日本独自の略称や業界用語をできるだけ避ける
- 自社を理解するうえで重要な実績や得意分野があれば、簡潔に加える
投資型の場合は、「海外拠点設立予定」「現地法人名(予定)」なども記載しておくと、後に続く計画との関係が分かりやすくなります。
2.経営理念(ビジョン・ミッション・バリュー)
経営理念は、企業が大切にしている考え方や、事業を通じて実現したいことを示すものです。
ここでは、現在掲げている経営理念に加えて、海外事業を考えるうえでの「ビジョン」「ミッション」「バリュー」を整理してみましょう。
- ビジョン(将来像):将来、どのような会社・社会・未来を実現したいのか
- ミッション(使命):自社は何のために存在し、誰にどのような価値を提供するのか
- バリュー(価値観):その実現に向けて、どのような考え方や行動を大切にするのか
【記入例】
ビジョン
「5年後までにアジア3か国で販売・サポート体制を構築し、○○分野で継続的に選ばれる企業になる」
ミッション
「日本で培った○○技術を活かし、海外の製造現場が抱える△△の課題を解決する」
バリュー
「品質を妥協しない」「現地顧客の声を直接聞く」「長期的な信頼関係を重視する」
たとえば、現在の経営理念が「顧客第一」であっても、それをそのまま英訳して終わるのではなく、海外事業では「誰を顧客とし、どのような価値を提供し、何を大切に事業を進めるのか」まで具体化してみます。
すでにビジョン・ミッション・バリューが明文化されている企業は、それを海外事業にどうつなげるかを考えてみてください。
まだ明文化していない企業は、この機会に仮置きしてみるだけでも構いません。最初から立派な言葉に仕上げることより、自社が海外で何を実現し、そのために何を大切にするのかを言葉にすることが重要です。
コラム|事業計画書を書いたことがない方へ
これまで中小企業の海外展開をご支援する中で、「事業計画書を書くのは今回が初めて」という経営者に数多くお会いしてきました。
最初は「こんなことまで書く必要があるのか」「海外の競合や販売方法など、もっと実務的なところから考えたい」と感じる方も少なくありません。
また、事業計画書の作成を担当者に任せ、「各所から求められたため、義務的に作成する書類の一つ」と捉えていた経営者もいました。
しかし、実際に一つずつ書いていくと、
「頭の中にあったことが整理できた」
「考えていたつもりだったが、決めていないことが分かった」
「海外で何をしたいのかが、以前より具体的になった」
という変化が生まれます。
事業計画書を初めて作る方は、最初から完成度の高い計画書を作ろうとしなくても大丈夫です。
まずは、このテンプレートを最後まで一度埋めてみる。
それを最初のゴールにしてみてください。頭の中にある海外事業の構想を一度ひな型に落とし込むだけでも、考えるべきことが整理され、海外展開が一歩近づいた実感を持てるはずです。
すでに事業計画書を何度か作った経験がある方も、ぜひ一度このテンプレートに沿って確認してみてください。
このテンプレートは、実際の中小企業支援の現場で100社以上が使用してきた事業計画書をベースに、海外展開の支援現場で必要になった項目や視点を加えながら改良し続けてきたものです。
これまで作成した事業計画書にはなかった項目があれば、そこにこそ、新しい発見があるかもしれません。
3.知的財産・知的資産の把握(強みの構成要素)
海外展開を考える際には、自社の強みが何によって生み出されているのかを整理しておくことが重要です。
特許や商標などの「知的財産」だけでなく、長年蓄積してきた技術・ノウハウ、顧客との関係、ブランド、データ、人材など、目に見えない資産も含めて考えてみましょう。
【記入例】
- 特許・実用新案・意匠・商標
- 独自の製造技術・加工技術
- 熟練者が持つノウハウや技能
- 独自のレシピ・配合・製法
- 品質管理や生産管理の仕組み
- 顧客データ・販売データ
- 長年築いてきた取引先・仕入先との関係
- ブランドや業界内での信用
- 専門知識を持つ人材
- 独自の営業方法・提案方法・アフターサービス
たとえば、「高い加工技術」が強みだと思っていても、実際にはその背景に、熟練技術者の経験、独自の治具、品質管理の仕組み、特定顧客との共同開発実績など、複数の強みが組み合わさっていることがあります。
ここで大切なのは、「自社の強みは○○です」で終わらせず、その強みが何によって成り立っているのかまで分解してみることです。
海外では、日本国内での知名度や既存の取引関係をそのまま持っていけるとは限りません。
一方で、自社では当たり前だと思っていた技術やノウハウが、海外市場では差別化要素になることもあります。
まずは「海外で売れるか」を判断する前に、自社がすでに持っている資産を一度もれなく棚卸ししてみてください。
4.国内事業
このセクションでは、海外進出を検討するにあたって、現在の国内事業の現状を整理します。
海外展開は単なる新規市場開拓ではなく、国内で抱える課題の解決策であることが多いため、ここでの棚卸しが非常に重要です。
海外進出には、国内事業にはないコストやリスクが伴います。それでも海外へ出るのは、国内事業だけでは解決できない課題を、海外展開によって解決できる可能性があるからです。
現在の事業がどのような構造で成り立ち、何が強みで、どこに課題があるのか。
まずはここを整理し、「なぜ自社は海外へ出るのか」を改めて確認してみましょう。
(1)国内事業のSWOT分析
【書く目的】
自社の強み・弱みと、自社を取り巻く機会・脅威を整理し、現在の事業環境を客観的に把握します。
【SWOT分析の記載ポイント】
- Strength(強み):製品力、品質、技術、人材、長年の顧客、ノウハウなど
- Weakness(弱み):営業力不足、特定顧客への依存、原材料依存、ブランド力の弱さなど
- Opportunity(機会):海外からの引き合い、新しい用途や顧客層の出現、市場の成長、取引先の海外展開など
- Threat(脅威):国内市場の縮小、競合の台頭、資材高騰、人材不足、主要顧客の需要減少など
【記入時のコツ】
SWOTは「良い会社・悪い会社」を評価するものではありません。まずは事実を並べてみてください。
そのうえで、
- 自社のどの強みを海外でも活かせそうか
- 海外に出ることで新たに活かせる機会はないか
- 国内で抱えている弱みは、海外ではさらに大きな弱みにならないか
- 海外展開によって回避できる脅威と、逆に増える脅威は何か
と考えていくと、海外進出を検討する理由や、これから確認すべきことが見えやすくなります。
(2)国内事業の課題
【書く目的】
SWOT分析をもとに、現在の事業で何が課題になっているのかを具体的に整理します。
【記載例】
- 自社製品の国内市場が縮小し、価格競争が激化している
- OEM比率が高く、自社ブランドでの販売が広がっていない
- 売上が特定の顧客や業界に偏っている
- 国内では既存製品の新しい用途開拓が進んでいない
- 地方立地により、専門人材の採用が難しい
【記入時のコツ】
ここでは、無理に「だから海外進出が必要」と結論づける必要はありません。
海外進出によって解決できそうな課題なのか、海外へ出ても残る課題なのか、あるいは海外へ出ることで、かえって深刻になる課題なのか。
そこまで考えてみると、「なぜ海外なのか」が少しずつ具体的になってきます。
(3-1)【現在】主たる国内事業のビジネスモデル
【書く目的】
現在の国内事業が、誰とどのようにつながり、どこで商品・サービスとお金が動いているのかを図にして整理します。
【書き方のヒント】
たとえば製造業なら、
自社 → 販売代理店 → エンドユーザー
という商流だけでなく、
部材メーカー → 自社工場 → 倉庫 → 顧客
という物流もあります。
できれば、
- 誰から仕入れているか
- 誰が製造・加工しているか
- 誰に販売しているか
- 代理店や商社はどこに入るか
- 商品はどのように顧客まで届くか
- 代金は誰から誰へ支払われるか
を矢印でつないでみてください。
取引額、数量、粗利、リードタイムなど、事業構造を理解するうえで重要な数字があれば、それも加えておきます。
文章だけでは見えなかった「どこで利益が生まれているのか」「誰に依存しているのか」が、図にすると見えてくることがあります。
(3-2)【将来】海外展開後の主たる国内事業のビジネスモデル
【書く目的】
(3-1)で作った現在のビジネスモデルをもとに、海外展開後、国内事業の構造がどう変わるのかを描きます。
【書き方のヒント】
たとえば、
- 国内製造 → 海外代理店 → 海外顧客へ販売する
- 国内設計 → 海外拠点で生産 → 現地顧客へ販売する
- 国内の既存商社を通じた輸出から、海外顧客との直接取引へ変更する
- 海外向け商品の増加に伴い、国内の生産・在庫体制を変更する
など、海外事業が加わることで、国内側の商流・物流・生産・受発注・人員・収益構造がどう変わるのかを考えます。
ここで重要なのは、海外事業だけを別枠で描くのではなく、現在の国内事業とつなげて考えることです。
海外進出によって、
「国内の誰の仕事が増えるのか」
「どこに新しい業務が発生するのか」
「今までの取引先との関係は変わるのか」
「売上が増えたとき、国内側は対応できるのか」
まで見ていくと、海外展開後の事業の姿がかなり具体的になります。
5.海外展開事業計画(準備編)
(1)海外展開の目的
【書く目的】
海外展開が、自社のどの経営課題を解決するためのものなのかを明確にします。
「海外売上を増やしたい」「海外市場を開拓したい」だけではなく、なぜ国内事業だけではなく海外なのか、その理由まで考えてみてください。
【記載の視点】
たとえば、
- 国内市場が縮小しており、新たな市場を海外に求める
- 国内だけでは顧客層が限られるため、海外で新しい顧客・用途を開拓する
- 新規事業を展開するうえで、海外市場に有望なニーズがある
- 既存顧客の海外展開に伴い、現地での供給・サポート体制を構築する
- 国内では確保しにくい人材・原材料・技術などを海外で補完する
- 国内に偏っている売上や顧客を分散し、事業基盤を広げる
【記入時のコツ】
まず、
「海外展開によって、会社の何を変えたいのか?」
と考えてみてください。
たとえば「海外売上を3億円にする」は目標であって、海外展開そのものの目的とは限りません。
「国内の○○市場が縮小しているため、新たな収益源をつくる」
「○○技術を活かせる用途が国内では限られているため、海外で新たな用途市場を開拓する」
まで掘り下げると、海外へ出る理由が具体的になります。
そして、その目的が4.国内事業で整理した現状や課題とつながっているかも確認してください。
(2)海外展開の目標
【書く目的】
(1)で整理した海外展開の目的に対して、「いつまでに、どこまで実現するのか」を具体的にします。
目標は、売上や利益などの数字だけでなく、海外事業がどのような状態になっていれば順調に進んでいると言えるのか、定性・定量の両面から考えてみましょう。
【記載の視点】
テンプレートでは、3年後・10年後の2つの時間軸で考えます。
たとえば、
- 定性目標:現地代理店との販売体制を構築する
- 定性目標:現地顧客から継続的に引き合いが入る状態をつくる
- 定性目標:現地ニーズに合った商品・サービスを確立する
- 定量目標:海外売上○億円、海外売上比率○%
- 定量目標:海外取引先○社、代理店○社
- 定量目標:年間導入件数○件
- 定量目標:現地法人設立、現地雇用○名
【記入時のコツ】
まだ海外事業を始めていない段階では、「3年後や10年後なんて分からない」と思うかもしれません。
ここで最初から正確な数字を当てる必要はありません。
まず、
3年後:海外事業をどこまで立ち上げていたいか
10年後:海外事業が会社全体の中でどのような存在になっていたいか
を考えてみてください。
たとえば、
「3年後:ドイツで代理店2社を開拓し、年間売上5,000万円を目指す」
「10年後:欧州市場を海外事業の主要市場の一つに育て、海外売上比率30%を目指す」
のように、地域・販売体制・売上などを組み合わせると、目標が具体的になります。
そして、ここで置いた目標は固定ではありません。
実際に海外市場へ出れば、想定していた顧客と違ったり、別の用途が見つかったり、計画より時間がかかったりすることもあります。市場から得た情報をもとに、必要に応じて見直していきます。
(3)海外事業のSWOT分析
【書く目的】
ここでは、(4.国内事業)で行ったSWOT分析を、今度は進出先の市場から見た自社という視点で整理します。
国内では強みだったものが海外でも強みになるとは限りません。逆に、国内では特別だと思っていなかったことが、海外では強みになる場合もあります。
進出候補国の顧客、競合、流通、制度、商習慣などを踏まえて、海外事業の強み・弱み・機会・脅威を書き出してみましょう。
【記載の視点】
- Strength(強み):独自技術、品質、商品特性、価格競争力、海外での実績、現地パートナーなど
- Weakness(弱み):海外での認知度不足、販路未整備、語学・海外営業人材の不足、現地対応力など
- Opportunity(機会):現地市場の成長、競合の少ない用途、現地顧客の未充足ニーズ、制度や産業構造の変化など
- Threat(脅威):現地競合、為替変動、政治・法制度の変更、模倣、商習慣の違いなど
【記入時のコツ】
国内SWOTと同じ内容が入っても構いません。ただし、「それは進出先でも本当に強み・弱みなのか?」を一度問い直してみてください。
たとえば、
「高品質」が国内での強み
↓
進出先では、その品質差に顧客がお金を払うのか?
「日本製」が強み
↓
その市場・顧客にとって、日本製であることは購入理由になるのか?
「国内では価格が高い」が弱み
↓
海外の競合製品と比べても、本当に高いのか?
というように、日本国内から見た自己評価ではなく、海外の顧客や競合との比較で考えることがポイントです。
複数の国を検討している場合は、国ごとにSWOTを作って比較してみるのも有効です。同じ商品でも、市場が変われば強み・弱み・機会・脅威は変わります。
(4-1)海外事業の課題
【書く目的】
海外展開を実現するために、現時点で自社に足りていないものや、これから解決しなければならない課題を整理します。
ここまでに考えてきた海外事業の目的・目標・SWOTを見ながら、「この計画を実行するためには、何がまだ足りないのか?」を書き出してみましょう。
【記載の視点】
たとえば、
- 進出先の顧客ニーズを十分に把握できていない
- 現地の競合や価格帯が分からない
- 海外での販売ルートが決まっていない
- 代理店・パートナー候補が見つかっていない
- 海外営業を担当できる人材が不足している
- 現地の法規制・認証・税制などを確認できていない
- 商品・サービスを現地向けに変更する必要がある
- 海外展開に必要な資金や社内体制が十分ではない
【記入時のコツ】
課題がたくさん出てきても、「海外進出は無理だ」と考える必要はありません。
この段階で大切なのは、できていないことを隠すことではなく、「何が分かっていて、何がまだ分かっていないのか」を見える状態にすることです。
「現地代理店がいない」だけではなく、
「代理店候補をまだ探していない」
「候補は3社あるが、販売力を確認できていない」
「代理店は決まっているが、契約条件が未確定」
というように、現在どの段階にいるのかまで書けると、次に何をすべきかが見えやすくなります。
(4-2)海外事業の課題の検証
【書く目的】
(4-1)で挙げた課題を一つずつ確認し、どの課題を、いつ、どのように解決するのかを整理します。
すべての課題を海外進出前に解決する必要はありません。
進出前に確認しなければならないこと、実際に市場へ出ながら検証できること、社内だけでは解決できず外部の専門家などを活用した方がよいことに分けて考えてみましょう。
【記載の視点】
たとえば、
- 法規制・認証:販売開始前に確認する
- 市場ニーズ:顧客ヒアリングや展示会などで検証する
- 販売価格:競合価格、物流費、関税、代理店マージンなどを確認して検証する
- 販売チャネル:代理店候補との面談やテスト販売を通じて検証する
- 海外営業人材:社内育成、採用、外部人材の活用などを比較する
- 商品の現地適合:顧客の反応を確認しながら、必要な仕様変更を検討する
【記入時のコツ】
課題ごとに、
「何を確認するか」
「どうやって確認するか」
「いつまでに確認するか」
「誰が担当するか」
まで書いてみてください。
たとえば、
「現地ニーズが分からない」
↓
「10月の展示会でターゲット企業20社にヒアリングする」
↓
「営業部の○○が結果を整理し、11月末までに対象用途を絞り込む」
となれば、単なる「課題」が、実際に動ける計画に変わります。
また、調べてもすぐには答えが出ないこともあります。その場合は無理に結論を出さず、「何を検証すれば判断できるのか」まで決めておくことが重要です。
(5-1)海外事業のビジネスモデル【既存(もしあれば)】
【書く目的】
すでに海外で展開している事業がある場合、その商流・物流の流れや構造を明示することで、関係者(支援機関や金融機関など)に現状を正確に把握してもらうことが目的です。
【記載の視点】
- 海外で販売している製品・サービスと、その販売方法
- 顧客ターゲットと販売チャネル(BtoB、BtoC、代理店経由など)
- 製造拠点・物流フロー(日本→現地/現地内完結など)
- 現地パートナーの有無、役割、収益分配の仕組み など
【記入時のコツ】
- 商流図・物流図などは図解を入れるのがベスト(手書きでも可)
- 「誰に」「何を」「どうやって」届けているのかを簡潔に伝えること
- 既存ビジネスの強み・弱みがここでも補足できると後工程につながる
(5-2)海外事業のビジネスモデル【新規 今後の予定】
【書く目的】
これから開始する海外進出事業について、構想しているビジネスモデルを明文化し、具体性と実現可能性を示すパートです。
構想だけでなく、実行ステップも含めて描きます。
【記載の視点】
- 新規事業で提供する製品・サービス
- 販売ルートの想定(直販、現地代理店、オンライン販売など)
- 現地製造 or 国内製造のどちらか、または組み合わせ
- 顧客セグメント、提供価値、収益構造 など
【記入時のコツ】
- ビジネスモデルキャンバス(BMC)で整理するのもおすすめ
- 進出先の環境(競合、流通、文化)にマッチした設計になっているかを確認する
- 数字の裏付け(市場規模、価格、粗利など)が少しでもあると説得力UP
(5-3)全社事業のビジネスモデル【新規 今後の予定】
【書く目的】
海外進出を含めた「全社的な事業ポートフォリオの再設計図」を描きます。
単に海外に出るだけでなく、海外事業が会社全体のビジネスにどう貢献するのかを考えます。
【記載の視点】
- 国内+海外事業の役割分担(収益源、技術拠点、販売拠点など)
- グループ全体としての商流・物流の流れ
- 海外展開によってシナジーが出る部分(在庫最適化、人材活用、技術連携など)
- 経営資源(ヒト・モノ・カネ)の再配置
【記入時のコツ】
海外事業を単独で考えるのではなく、国内事業を含めた会社全体の一部として考えてみてください。
たとえば、
- 国内は開発・製造、海外は販売拠点とする
- 海外で得た顧客ニーズを国内の商品開発に活かす
- 国内と海外で異なる市場を持ち、売上や顧客の偏りを減らす
- 海外拠点を設けることで、これまで日本から対応できなかった顧客を開拓する
など、海外展開によって会社全体の事業構造が将来どう変わるのかを描きます。
投資型の場合は、海外拠点を設けることで、国内本社と海外拠点の役割、ヒト・モノ・カネの流れがどう変わるのかまで整理してみましょう。
6. 海外展開事業計画 (実行編)
(6-1)進出国の検討
【書く目的】
自社にとって最も成果が見込める進出国を選定するにあたって、複数の観点から比較・検討を行い、その妥当性と根拠を明文化します。
【記載の視点】
- 想定している国(複数ある場合は候補国を列挙)
- 対象国のマーケット規模・成長性(ニッチ市場でもOK)
- 現地に競合がいるかどうか/日本製品・サービスの受容性
- 流通構造、販路構築のしやすさ(BtoB/BtoCの違い)
- 文化・宗教・慣習上の障壁
- 生産拠点としての条件(コスト・人材・物流インフラ)
- 進出形態(市場として見るか、生産拠点として見るか、両方か)
【記入時のコツ】
- 「マーケットポテンシャルだけ」で選ばないこと
→ 自社の強みやリソースとの相性を重視 - 検討対象国を1つに絞り込めなくても大丈夫。
複数候補があっても、選定理由を説明できればOK - 現地視察やパートナーとの協議予定がある場合は、それも加えてリアリティを出す
(6-2)対象国の政治・経済・社会
【書く目的】
進出先のマクロ環境(政治的安定性、経済状況、社会構造など)を理解し、自社にとってのリスクと機会を把握することが目的です。
特に長期的な展開を考える場合は、制度や文化の背景も重要になります。
【記載の視点】
- 政治情勢
→ 政治体制、安定性、政権交代のリスクなど - 経済情勢
→ GDP成長率、物価水準、為替、購買力、インフレ率など - 社会的要素
→ 宗教、言語、教育水準、人口構成、都市化率など - 日本との関係性
→ 貿易関係、FTA・EPAの有無など - 安全保障
→ 治安、犯罪、政情不安など
【記入時のコツ】
すべての情報を詳しく調べることが目的ではありません。
自社の海外事業に関係する項目を中心に、**「この国の特徴が、自社の販売・生産・人材・価格・事業運営などにどのような影響を与えるのか」**という視点で整理してみてください。
たとえば、人口が増えているという情報だけで終わらず、自社のターゲットとなる顧客層も増えているのか。GDPが成長していても、自社の商品を購入できる層がどの程度いるのかまで確認します。
情報を確認する際は、JETRO、外務省、現地政府機関など、できるだけ信頼できる情報源を利用しましょう。
(6-3)対象国の政策・制度
【書く目的】
進出先の法制度や政策が自社の事業にどのような影響を与えるのかを確認します。
特に、外資規制や許認可などは、予定している事業形態そのものを変更しなければならない場合もあるため、進出前に確認しておくことが重要です。
【記載の視点】
- 外資規制の有無(参入制限、出資比率制限など)
- 外資優遇制度(税制優遇、補助金、経済特区など)
- 会社設立・進出手続き(手順、期間、費用など)
- 関連法令(労働法、知財法、環境法など)
- 政策トレンド(脱炭素、ハイテク誘致、国産化促進など)
- 投資先国の産業振興政策と自社の事業との関係
【記入時のコツ】
制度を調べて一覧にするだけではなく、その制度が自社の計画にどう影響するのかまで考えてみてください。
たとえば、
「外資の出資比率に制限がある」
→ 想定している現地法人の設立方法を変更する必要はないか
「特定製品の販売に許認可が必要」
→ 取得に必要な期間や費用を事業スケジュールに織り込めているか
「外資優遇制度がある」
→ 自社が対象となる条件を満たしているか
というように、制度と事業計画をつなげて確認します。
補助金や経済特区などの優遇制度を利用する予定がある場合も、利用できることを前提に計画するのではなく、対象条件や申請時期、適用期間などを確認しておきましょう。
(6-4) 事業形態最適化
【書く目的】
現地でどのような事業形態をとるのかを検討し、その形態を選ぶ理由を整理します。
独資、合弁、業務提携など、それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の事業内容や進出先の制度、必要な経営資源などを踏まえて検討します。
【記載の視点】
- 子会社設立(独資・合弁)か、委託・提携などの協業型か
- 現地パートナーの有無、相手の役割、提携内容
- 法人登記・契約関係の整理(資本関係・商流の明確化)
- 製造・販売・物流の担い手と責任分担
- ガバナンス(意思決定・現地責任者など)
- 将来的な事業形態変更の可能性(段階的な展開など)
【記入時のコツ】
単に「独資で進出する」「現地企業と合弁会社を設立する」と書くだけでなく、なぜその形態を選ぶのかまで考えてみてください。
たとえば、
- 経営や意思決定を自社でコントロールしたいため独資とする
- 現地の販売網や市場知識が必要なため、現地企業との合弁を検討する
- まずは業務提携から始め、市場の状況を見ながら現地法人設立を検討する
など、事業形態とその理由をセットで整理します。
合弁や業務提携の場合は、出資比率だけでなく、誰が何を担当し、どこまで意思決定に関与するのかも確認しておきましょう。
(6-5) 各障壁の検証
【書く目的】
海外進出を実行する上で直面する「実務的な障壁」(資金調達、法務、人材、物流など)を事前に洗い出し、どのように対応を検討しているかを整理することで、計画の実現可能性やリスク認識の高さを伝える。
投資フェーズにおける想定障壁(製造・販売拠点共通):
- 資金調達:邦銀や現地金融機関からの借入可能性、金利差、担保要件など
- 拠点確保:工場・店舗・事務所の適地選定、賃貸・購入条件、インフラ状況
- 原材料・設備:必要な原材料や設備が現地調達できるか、輸入に頼るか
- 許認可・規制:製造・販売に必要な許可や登録の取得の難易度
- 税務・法務・労務:現地の制度に関する知識や専門家との連携体制の有無
- 人材雇用:必要なスキルを持つ現地人材の確保可否、出向者との役割分担
- 異文化対応:出向者やその家族の医療・教育・住環境の整備状況
現地内国販売フェーズにおける想定障壁:
- パートナー:代理店、販売店、ディストリビューターなどの有無と信頼性
- 流通・物流:流通規制、物流コスト、通関対応、在庫保管場所の確保
- 商品仕様:現地文化に合った荷姿・表示・安全基準への対応
- 価格戦略:為替の影響、現地価格帯との整合性、値付けの根拠
- 顧客対応:宗教・文化に配慮した広告やプロモーション、カスタマーサポート体制
【記入のコツ】
障壁があること自体はマイナスではありません。
重要なのは、「何を認識していて」「何を誰と相談しているか」「どこまで目処が立っているか」を可視化できていることです。
(6-6) リスク分析
【書く目的】
海外展開で想定されるリスクをあらかじめ洗い出し、自社にとって特に重要なリスクは何か、起きた場合にどう対応するのかを整理します。
すべてのリスクをなくすことはできません。自社の事業に影響の大きいものを見極め、事前にできる対策を考えておくことが重要です。
【経営リスク(契約・知財・情報管理など)】
- 現地との契約トラブル(ライセンス・販売代理など)の懸念
- 技術やノウハウの漏洩リスク
- 情報漏えい・サイバーセキュリティ対策の有無
【調達リスク(原材料・仕入先など)】
- 購入先の品質安定性・価格変動リスク
- 主要仕入先の地政学的リスク(戦争・通関遅延など)
- 代替サプライヤーの確保可否
【生産リスク(製造系のみ該当)】
- 生産設備の故障・稼働停止への備え
- 品質管理の不備によるクレームやリコール
- 現地環境規制への適合と対応コスト
【販売リスク(文化・宗教・マーケティング面)】
- 宗教や風俗習慣による表現規制・ブランド毀損
- 現地販売スタッフとの意思疎通ミス
- クレーム対応体制の未整備
【バックオフィスリスク(税務・労務・社内管理)】
- 現地税制への誤対応、罰金や追加徴税
- 社員の不正や、ローカルマネージャーによる逸脱行動
- 日本側本社との連携不足による意思決定の遅延
【社会リスク・自然災害リスク】
- 政治不安、暴動、テロ、政権交代などのリスク
- 洪水・台風・地震・パンデミックなど、自然災害への備え
【記入のコツ】
すべてのリスクを網羅する必要はありません。
まずは、「起きる可能性」と「起きた場合の影響」を考え、自社の海外事業にとって重要なリスクを絞ってみてください。
そのうえで、
- どのようなリスクがあるか
- 起きた場合、事業にどのような影響があるか
- 事前にどのような対策ができるか
- 実際に起きた場合、誰がどう対応するか
まで整理できれば、リスク分析が実際の事業運営にも使えるものになります。
(6-7) 撤退条件
【書く目的】
海外事業は、進出すればゴールではありません。市場や経営環境が変化する中で、事業を継続するのか、縮小・撤退するのかを判断しなければならないこともあります。
あらかじめ撤退を検討する基準や判断軸を持ち、撤退する場合に必要となるコストや手続きについても整理しておきます。
【定量的な撤退基準の例】
- 損益分岐点に達しない状態が〇か月以上継続
- 売上が計画の〇%を下回る状況が〇年間続く
- 為替差損が年間で〇%以上発生した場合
【定性的な撤退基準の例】
- 現地パートナーとの信頼関係の継続が困難になった場合
- 政治的リスクや社会情勢が急激に悪化し、事業継続が現実的でなくなった場合
- 本社側の経営戦略が転換し、対象国の市場優先度が下がった場合
【撤退にかかる主なコストや手続き】
- 現地法人の清算費用(解約金、違約金、残務処理)
- スタッフの退職金や雇用調整費用
- 在庫・設備の処分・返品・輸送費用など
【撤退に伴う障壁や配慮事項】
- 現地取引先や関係機関との信頼関係への影響
- ブランド・評判への影響
- 日本国内の関連部署への影響と代替施策の検討
【記入時のコツ】
「撤退条件を決める」というと、進出する前から失敗を想定するようでネガティブに感じるかもしれません。
しかし、海外事業では、事業環境や市場の状況が当初の想定から変わることもあります。
そのときに、「ここまでは続ける」「この状態になったら計画を見直す」という判断軸をあらかじめ持っておくことで、状況が悪化したときにも冷静に判断しやすくなります。
最初から撤退条件を細かく決められない場合は、まずは「どの数字や状況を見て継続・見直しを判断するのか」を決めておくだけでも構いません。
【次のアクション】まずは事業計画書を書いてみましょう
まずはテンプレートをダウンロードし、この記事を参考にしながら1項目ずつ記入してみてください。
最初からすべての答えが出ていなくても構いません。書いていくことで、「すでに決まっていること」と「これから調べたり、検証したりする必要があること」が見えてきます。
テンプレートはこちらからダウンロードできます。
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