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海外進出の成功事例|中小企業3社から学ぶ海外ビジネス成功の5つの共通点 

更新 2026年8月20日 公開 2024年2月14日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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海外ビジネスの成功事例を調べていると、「有名企業だからできた」「資金力があったから成功した」と、自社とは条件が違うように感じることがあります。

しかし、中小企業の海外展開を見ていくと、業種や進出国、販売方法が違っていても、成功までの過程にはいくつか共通する条件があります。

大切なのは、成功企業が「何をしたか」をそのまま真似することではありません。

なぜその方法を選んだのか、どのような強みを持っていたのか、現地で何を変え、何を変えなかったのか、そして社内にどのような人材・資金・意思決定体制があったのかまで見ることで、自社にも応用できる条件が見えてきます。

この記事では、実際に海外展開を進めた中小企業3社の事例を紹介したうえで、そこから見える海外ビジネス成功企業に共通する5つの法則を整理します。

さらに、製造業、食品、IT、サービス業について、海外展開で特に押さえておきたいポイントも具体的に解説します。

成功事例を「すごい会社の話」で終わらせず、自社が海外展開を進める際の判断材料として読み解いていきましょう。

海外ビジネスに成功した中小企業3社の事例

海外ビジネスの成功には、決まった一つの方法があるわけではありません。

実際に海外展開に成功した企業を見ても、海外展示会や現地営業から販路を開拓した企業、国内のOEM事業から海外で自社ブランド展開へ転換した企業、現地の変化に合わせてサービスそのものを作り直した企業など、その進み方はさまざまです。

ここでは、パコロアが海外展開の支援に関わった中小企業3社の事例を紹介します。いずれも公的な海外進出支援事業等を通じて関わった企業で、現地でのF/S(事業化可能性調査)や営業活動、事業立ち上げまで伴走したケースのほか、国内での事業計画・戦略整理を支援したケースも含まれています。

単に「何をして成功したか」だけではなく、最初にどのような課題があり、どこで判断し、何を変えながら海外事業を形にしていったのかに注目して見ていきましょう。

1 工業製品メーカーA社|国内で売れなかった技術を海外22か国へ

A社は、建設業界向けの計測機器を製造する中小メーカーです。

国土交通省に推奨されるほどの技術力を持っていましたが、保守的な国内市場では既存製品からの切り替えがなかなか進まず、優れた製品を持ちながら売上を伸ばせない状況が続いていました。

そこでA社は、国内市場だけにこだわらず、海外へ販路を広げることを決断します。

海外展示会への出展だけでなく、ロシア、スウェーデン、スイスなどで現地の市場性や販売可能性を確認するF/Sを行いながら、海外企業への営業活動を重ねていきました。パコロアも公的な海外進出支援事業等を通じて、こうした現地F/Sや営業活動を支援しています。

その過程で、日本に拠点を持つ欧州系企業にも技術提案を行いました。

しかし、日本側だけでは導入を決めることができず、本国の判断が必要なことが分かります。

ここでA社は諦めませんでした。

欧州本社のキーパーソンを確認し、現地の本社工場を訪問。自社製品の技術力を説明するだけではなく、競合製品との比較データや、自社製品を採用しなかった場合に考えられる機会損失まで整理してプレゼンテーションを行いました。

その場ですぐに契約が決まったわけではありません。

「1か月待ってほしい」と言われ、帰国後も結果を待つことになります。

そして後日、正式な契約書が届きました。

その後、A社の製品は22か国で販売されるまでに販路を広げています。

この事例で重要なのは、「技術力の高い製品だったから海外で売れた」とだけ考えないことです。

A社には、もともと高い技術力がありました。しかし、それだけでは国内でも海外でも取引は成立しませんでした。

海外展示会への継続的な出展、複数国でのF/S、現地での営業活動、意思決定者の特定、本社への直接訪問、競合との比較、導入効果や機会損失の説明まで、一つずつ相手企業が判断するための材料を揃えながら商談を前へ進めています。

つまりA社の成功から参考にできるのは、「良い製品なら海外で売れる」ということではありません。

良い製品を持っていても、どの市場に可能性があるのかを現地で確かめ、誰が意思決定者なのかを見極め、相手企業が採用を判断できるところまで営業方法を組み立てる必要がある、という点です。

2 輸送機器メーカーB社|国内OEMから米国で自社ブランド展開へ

B社は、輸送機器を製造する中小メーカーです。

日本では大手企業向けのOEM生産を中心に事業を展開し、特定分野で高いシェアを持っていました。

国内事業は安定していましたが、海外展開にあたってB社が選んだのは、日本で成功しているOEMモデルをそのまま海外へ持っていく方法ではありませんでした。

進出先に選んだのはアメリカです。

まず現地展示会へ出展し、市場の反応や競合状況を確認しながら、自社ブランドでの販売可能性を探りました。

そのうえで、販売代理店を通じて日本から製品を輸出するのではなく、米国に製造拠点を設け、現地で生産・販売する方法を選択しました。

現地では、製造を担うオペレーターだけでなく、営業を担当するセールスマネジャーなども採用し、自社で事業を運営できる体制を構築していきました。

一方で、海外法人を設立して人を雇えば、それだけで事業が動くわけではありません。

B社は事業を立ち上げる前から、法務、労務、現地の商習慣など、それぞれの分野の専門家と相談し、事業開始後に起こり得る問題を事前に洗い出していました。

パコロアも公的な海外進出支援事業等を通じて、国内で海外展開に向けたリスク管理や戦略整理を支援しています。

また、B社には国内OEM事業で培ってきた低コストで製造する力がありました。

海外進出のためにまったく新しい強みを作ったのではなく、日本で蓄積してきた製造力やコスト競争力を生かしながら、販売方法やブランドの見せ方は米国市場に合わせて変えていきました。

Webサイトもその一例です。

日本本社のWebサイトをそのまま英訳するのではなく、米国法人では英語での情報発信を充実させ、現地顧客が製品や導入事例を確認できるWebサイトを整備しました。

この事例で重要なのは、「日本で成功したビジネスモデルを、そのまま海外へ持っていく必要はない」という点です。

B社は、日本ではOEMメーカーとして実績を築いていましたが、米国では自社ブランド、現地製造、現地採用による事業モデルを選びました。

一方で、国内で培った製造技術やコスト競争力まで捨てたわけではありません。

つまりB社の成功から参考にできるのは、海外市場に合わせて何でも変えることではなく、国内事業で培った「自社の強み」と、海外市場に合わせて「変えるべき部分」を分けて考えることです。

商品、価格、販売方法、製造場所、Webサイト、人員体制などを一つずつ検討し、海外市場で成立するビジネスモデルへ組み直すことが重要になります。

3 教育サービスC社|テキサスで現地ニーズを捉え、事業を再設計

C社は、小学校受験に強みを持つ教育事業者です。

海外進出のきっかけとなったのは、日系企業の海外拠点移動に関する情報でした。

現地に駐在する日本人家庭が増えれば、幼児教育への需要も生まれるのではないか。そこでC社は、駐在員家庭向けの幼児教室を米国テキサス州で展開することを検討します。

ただし、「日系企業が進出するから、駐在員家庭も増えるだろう」という予測だけで出店を決めたわけではありません。

パコロアも公的な海外進出支援事業等を通じてテキサス州での現地F/Sに同行し、市場環境や顧客となる家庭の状況などを確認しながら、事業化の可能性を検討しました。その後、現地での事業立ち上げも支援しています。

こうして準備を進め、現地での事業をスタートさせましたが、間もなく大きな想定外が起こります。

パンデミックです。

対面授業を前提としていたC社は、事業開始早々、サービス提供の方法そのものを見直さなければならなくなりました。

そこで、授業をオンラインへ切り替えるだけではなく、講師体制の変更、時間割の再編、授業内容の見直しなどを短期間で進めました。

しかも、海外拠点だけの問題ではありません。

日本本社にも前例がない取り組みを、現地の状況を見ながら一つずつ決めていく必要がありました。

さらにC社は、当初想定していた「駐在員家庭向けの受験対策」という事業モデルそのものについても見直していきます。

現地で事業を続ける中で、家庭の教育ニーズや生活環境を改めて確認すると、当初想定していた顧客以外にもサービスを必要としている層がいることが分かってきました。

そこで、自社がもともと持っていた幼児教育の強みを残しながら、現地で求められるカリキュラムやサービス内容を取り入れ、対象となる顧客層も広げていきました。

その結果、駐在員家庭だけを対象とした教室ではなく、より幅広い家庭から利用される事業へと成長しています。

この事例で重要なのは、「最初に立てた海外事業計画を守り抜くこと」が成功ではないという点です。

C社は、進出前に現地F/Sを行い、事業の可能性を確認してからスタートしています。

それでも、パンデミックという予測できない環境変化が起こりました。また、実際に現地で事業を始めたからこそ、事前調査だけでは分からなかった顧客ニーズも見えてきました。

そこで計画と現実が違うことを「失敗」と捉えて撤退するのではなく、現地で得た情報をもとにサービスを作り直しています。

一方で、すべてを現地に合わせて変えたわけでもありません。

C社が国内で培ってきた幼児教育の知見や教育サービスとしての強みは残しながら、提供方法、カリキュラム、対象顧客などを変えていきました。

つまりC社の成功から参考にできるのは、進出前に十分な調査をすれば計画どおりに進められる、ということではありません。

事前にF/Sを行って仮説を立て、そのうえで現地に入り、実際の顧客や市場から得た情報によって仮説を修正し続けること。そして、自社の強みまで捨てるのではなく、「残すもの」と「変えるもの」を判断しながら事業を作り直せることが重要です。

3社から見える、海外ビジネス成功の5つの法則

A社、B社、C社は、業種も進出方法も海外で行ったことも異なります。

A社は、国内で評価されながら販路を広げられなかった工業製品を、海外でF/Sや営業を重ねながら22か国へ展開しました。

B社は、国内ではOEMメーカーとして事業を確立していましたが、米国では自社ブランド、現地製造、現地採用という異なるビジネスモデルを選択しました。

C社は、テキサス州でF/Sを行って事業を立ち上げた後、パンデミックや現地ニーズの変化に対応しながらサービスを再設計しました。

一見するとまったく違う成功事例ですが、その過程を見ていくと、海外ビジネスを継続して成長させるための共通条件が見えてきます。

1 海外で通用する「自社の強み」が明確になっている

海外進出では、他社にはない商品や技術を持っていることは大きな強みになります。

ただし、「オンリーワンの商品があれば成功する」という意味ではありません。

重要なのは、自社の商品やサービスがなぜ顧客に選ばれているのか、その理由を海外の顧客にも説明できることです。

A社には高い技術力がありましたが、「技術力があります」と説明するだけでは取引につながりませんでした。

競合製品と何が違うのか、導入するとどのようなメリットがあるのか、導入しなかった場合にどのような機会損失が考えられるのかまで示すことで、自社の強みを相手企業が判断できる価値へ変えています。

B社も、日本で培った製造力やコスト競争力という強みを持っていました。

海外進出のために新しい強みをゼロから作ったのではなく、国内事業で蓄積してきた競争力のうち、何が海外でも使えるのかを見極めています。

そのため、海外進出を考える際には「日本で売れているか」だけを見るのではなく、

  • 顧客はなぜ自社を選んでいるのか
  • 競合と比べて何が違うのか
  • その違いは海外顧客にとっても価値になるのか
  • 海外ではその価値をどのように伝える必要があるのか

まで整理しておくことが重要です。

2 現地で確かめ、必要なら計画を変えている

海外市場については、統計やWeb調査、競合調査などから多くの情報を集められます。

しかし、事前調査だけですべてを把握することはできません。

A社は複数国でF/Sや営業を行いながら、どの市場に可能性があり、誰に提案すれば商談が進むのかを確かめていきました。

C社もテキサス州でF/Sを行ってから事業を立ち上げましたが、実際に進出すると、パンデミックという想定外の事態だけでなく、事前には見えていなかった顧客ニーズも現れました。

成功した企業は、最初の計画を「正解」として守り続けたのではありません。

仮説を立てて市場へ入り、実際の顧客や取引先の反応を確認し、必要に応じて商品、サービス、販売方法、対象顧客などを修正しています。

海外進出では、最初から完璧な計画を作ることよりも、何を確認するために市場へ出るのかを明確にし、得られた情報を次の判断へ反映できることが重要です。

3 想定外に対応できる担当者と社内体制がある

海外ビジネスでは、計画どおりに進まないことが珍しくありません。

商談相手から返事が来ない、想定していた販売先が見つからない、規制対応が必要になる、契約条件が変わる、現地スタッフの採用が進まないなど、国内事業とは異なる問題が発生します。

そのたびに経営者や外部専門家から細かな指示を受けなければ動けない状態では、海外事業のスピードは落ちてしまいます。

必要になるのは、単に英語が話せる担当者ではありません。

  • 新しい情報を集める
  • 問題の原因を整理する
  • 必要な専門家や社内関係者へ確認する
  • 複数の選択肢を考える
  • 判断が必要な事項を経営者へ上げる
  • 決定した内容を実行する

といった一連の業務を進められる人材が必要です。

こうした能力を最初からすべて持つ人材を探すだけではなく、海外事業を進めながら担当者が経験を蓄積し、自社内にノウハウを残していくことも重要です。

外部の専門家を利用する場合も、すべてを任せ続けるのではなく、将来的に自社で判断・実行できる範囲を増やしていくことが、海外事業を継続する力になります。

4 成果が出るまで投資を続けられる事業体力がある

海外ビジネスでは、最初の営業活動から売上が立つまでに時間がかかることがあります。

A社も、一度海外展示会へ出展しただけで22か国への販売が実現したわけではありません。複数国でのF/Sや営業活動、企業への提案を重ねています。

B社のように現地法人や製造拠点を設ける場合には、売上が十分に立つ前から、人材採用、設備、法務、労務などの費用が発生します。

輸出から始める場合でも、渡航、展示会、規制確認、英文資料、Webサイト、物流、外部専門家など、受注前に必要となる費用があります。

そのため、「海外事業にいくらかかるか」だけではなく、

  • どの段階まで先行投資を続けられるか
  • どのくらいの期間で成果を判断するか
  • 追加投資をする条件は何か
  • どの状態になれば方法を変更または撤退するか

まで、事業開始前に考えておく必要があります。

海外事業を成功させるための資金とは、単に大きな予算を用意することではありません。

成果が出るまで試行錯誤できる余力を持ち、その資金をどの段階で何に使うのかを判断できることが重要です。

5 最後は経営者が判断している

海外事業では、担当者だけでは決められない判断が何度も発生します。

新しい国へ進むのか、現地法人を設立するのか、代理店と独占契約を結ぶのか、人を採用するのか、追加投資をするのか、事業モデルを変更するのか。

こうした判断には、費用だけでなく、会社全体の事業方針や許容できるリスクが関係します。

そのため、海外担当者や外部の専門家がどれだけ優秀でも、海外事業そのものを経営者から切り離すことはできません。

専門家は市場情報や選択肢を示すことができます。担当者は現場で情報を集め、実行することができます。

しかし、「この会社として、どのリスクを取り、どこまで進むのか」を最後に決めるのは経営者です。

成功している企業では、経営者がすべての実務を行っているわけではありません。

担当者や専門家へ任せる部分と、経営者自身が判断する部分が分かれています。

海外事業を担当者へ丸投げするのでも、反対に経営者がすべての細かな実務へ介入するのでもなく、必要な情報が経営者まで届き、重要な局面で迅速に意思決定できる体制を作ることが重要です。

業界別に見る海外ビジネス成功のポイント

ここまで紹介した3社の事例からも分かるように、海外ビジネスで必要となる準備や営業方法は、業界によって異なります。

たとえば工業製品では、技術の優位性だけでなく、導入によって顧客にどのような効果があるのかを説明する必要があります。一方、食品では輸入規制や賞味・消費期限、ITでは契約や情報管理、サービス業では現地の顧客ニーズや人材管理などが事業成立に大きく影響します。

ここからは、製造業(工業製品)、食品、IT、サービス業の4分野について、海外展開を成功につなげるために特に確認しておきたいポイントを整理します。

1 製造業・工業製品|技術ではなく「導入する価値」を売る

日本の製造業が海外営業を行う際によくあるのが、自社製品の技術力やスペックを詳しく説明する一方で、「その製品を導入すると顧客に何が起きるのか」が十分に伝わっていないケースです。

先ほど紹介したA社でも、高い技術力を持っていることだけでは取引につながりませんでした。

海外の顧客企業が知りたいのは、技術そのものに加えて、その技術によって生産性、安全性、品質、作業時間、コストなどがどのように改善されるのかという、自社にとっての導入価値です。

そのため、工業製品の海外営業では、次のような準備が重要になります。

  • 製品の技術やスペックだけでなく、導入によって得られる効率化、品質向上、コスト削減などの効果を説明する
  • 競合製品との違いを整理し、可能であれば数値や比較データで示す
  • 導入しない場合に発生するコストや機会損失も含め、顧客企業が投資判断できる材料を用意する
  • 輸出先で必要となる認証、安全基準、製品規制などを営業開始前に確認する
  • カタログだけでなく、仕様書、図面、取扱説明書、試験データなど、商談や導入判断に必要となる英文資料を準備する
  • 海外からの問い合わせや商談には速やかに対応し、距離や時差による不安を感じさせない営業体制を整える

特にBtoBの工業製品では、海外展示会で名刺を獲得したり、販売代理店候補を見つけたりすること自体が成功ではありません。

技術担当者が製品を評価しても、購買部門や経営層が投資効果を判断できなければ、商談は途中で止まります。

誰が製品を使用し、誰が技術評価を行い、誰が予算を持ち、最終的に誰が採用を決めるのか。顧客企業内の意思決定の流れまで確認し、それぞれが必要とする情報を提供することが重要です。

また、日本では長年の取引関係や国内実績が信用につながっていても、海外の新規顧客にとっては自社を知らない状態から商談が始まります。

「日本で有名だから」「大手企業への納入実績があるから」だけに頼るのではなく、海外の顧客が自社製品を採用する理由を、相手が判断できる情報に置き換えて伝えることが、工業製品の海外展開では重要になります。

製造業を含む中小企業の具体的な海外進出事例については、こちらの記事で6社の取り組みと成功につながった判断を詳しく紹介しています。

中小企業の海外進出成功事例6選|何が違ったのか?(製造・食品)

2 製造業・食品|「おいしい」だけでなく、輸出できて売り続けられる商品にする

食品メーカーの海外展開では、商品の味や品質だけでなく、「その国へ輸出できるか」「現地の流通に乗せられるか」「店頭で継続して販売できるか」まで含めて考える必要があります。

日本国内で人気のある食品でも、輸出先の規制に適合していなければ販売できません。また、輸出自体は可能でも、賞味・消費期限が短い、現地で十分な利益を確保できない、販売店で商品価値が伝わらないといった理由で、継続的な販売につながらないこともあります。

そのため食品の海外展開では、営業先を探す前に、商品が海外で流通・販売できる条件を確認することが重要です。

たとえば、次のような点を確認します。

  • 輸出先の食品規格、原材料、添加物、残留農薬、重金属などの規制に適合しているか
  • 原産地や特定地域を理由とした輸入規制の対象になっていないか
  • 現地で必要となる食品表示やラベルを準備できるか
  • 必要な食品施設登録、衛生管理、認証などに対応できるか
  • 輸送期間や通関、販売店での在庫期間を考慮しても十分な賞味・消費期限が残るか
  • 国際輸送、関税、販売代理店や卸・小売店のマージンを加えても成立する価格にできるか
  • 温度管理が必要な場合、現地までコールドチェーンを確保できるか

特に賞味・消費期限は、食品の海外商談を始める前に確認しておきたい重要な条件です。

加工食品では、最低6か月、できれば9か月以上の賞味・消費期限を求められることがあります。

パコロアがFOODEXで海外バイヤーとの商談支援を行う中でも、賞味・消費期限が短いことを理由に、商品そのものには関心があっても「この条件では取り扱えない」と判断されるケースが多々あります。

海外向けの場合、日本の工場を出荷してから、国際輸送、輸入通関、現地卸、小売店などを経て店頭に並びます。さらに小売店側は、商品が到着した時点から一定の販売期間を確保しなければなりません。

そのため、日本国内では十分な賞味・消費期限であっても、海外流通では短すぎることがあります。

ここで注意したいのは、海外バイヤーとの商談を始めてから「賞味・消費期限を延ばしてください」と言われても、簡単には対応できない場合があることです。

食品の賞味・消費期限を延ばすためには、単に表示を書き換えるのではなく、原材料、製法、加熱・殺菌方法、包装、保存方法などを見直し、必要に応じて工場の製造工程やラインの変更、保存試験などが必要になることがあります。

つまり、賞味・消費期限は「商談が進んだ後に対応する輸出実務」ではなく、海外で販売できる商品かどうかを左右する商品設計の問題でもあります。

海外バイヤーとの商談機会を作る前に、自社商品の賞味・消費期限で想定する国・商流に乗せられるのか、バイヤーが必要とする残存期間を確保できるのかを確認しておくことが重要です。

また、海外で販売できる状態を整えることと、実際に売れることは別の問題です。

食品は、味、香り、食感など、日本では実際に食べれば伝わる魅力を、海外の顧客には購入前に理解してもらわなければなりません。

そのため、海外向けWebサイトや営業資料では、商品の写真だけでなく、

  • どのような食品なのか
  • どのように食べるのか
  • どのような料理に使えるのか
  • どのような人に選ばれているのか
  • 他の商品と何が違うのか

などを、写真や動画、レシピ、使用例などを使って具体的に伝えることが重要です。

さらに、小売店で販売する場合には、「商品を店頭に置いてもらうこと」をゴールにしないことも重要です。

どの売場に置くのか、どの商品と並べるのか、どのようなPOPや試食で購入を促すのかなど、店頭でのマーチャンダイジングまで考える必要があります。

自社だけで現地小売店への営業や店頭販促まで対応することが難しい場合には、食品分野に強い輸入業者、販売代理店、商社など、現地流通を理解している事業者と組む方法もあります。

食品メーカーの海外展開では、

「日本で売れている食品だから海外でも売れる」

ではなく、

「輸出できる」
「現地流通に乗せられる」
「適正な価格で販売できる」
「店頭やWebで価値が伝わる」
「継続して購入される」

ところまでつながって、初めて海外事業として成立します。

商品の魅力だけでなく、規制、物流、期限、価格、販売方法までを一つの流れとして設計することが、食品の海外展開では重要です。

食品メーカーの海外展開について、商社の活用だけでなく、直販、越境EC、現地小売との取引など、海外で売れる仕組みの作り方を詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

食品メーカーの海外展開、まだ商社頼み?“売れる仕組み”完全マップ

また、和菓子のように「日本では評価されている商品を、海外市場にどう合わせるか」を具体的に見たい方はこちらで詳しく解説しています。

和菓子の海外進出で成功するには?売れる国・商品・戦略を徹底解説

3 IT|技術だけでなく、海外で販売・提供し続けられる体制をつくる

IT企業の海外展開では、物理的な商品を輸送する必要がないため、製造業や食品と比べて海外進出のハードルが低いように見えることがあります。

しかし、サービスをオンラインで提供できることと、海外で事業として成立することは別です。

BtoB SaaS、システム開発、アプリ、クラウドサービスなどでは、営業、契約、導入支援、問い合わせ対応、個人情報・データ管理、セキュリティなど、サービス提供の前後にさまざまな業務が発生します。

そのため、IT企業の海外展開では、まず「海外から利用できるか」ではなく、「海外顧客に販売し、契約し、継続してサービスを提供できるか」という視点で事業全体を確認する必要があります。

たとえば、次のような準備が重要です。

  • 海外顧客に対して、サービスの機能だけでなく導入効果や他社との違いを説明できるようにする
  • Webサイト、営業資料、料金、導入事例、FAQなど、顧客が検討するために必要な情報を英語等で整備する
  • 営業担当だけでなく、技術的な質問や導入支援にも外国語で対応できる体制を整える
  • 契約書、利用規約、プライバシーポリシーなどを対象国やサービス内容に合わせて確認する
  • 個人情報や顧客データをどこで取得・保存・処理するのかを把握し、必要な法規制や契約に対応する
  • セキュリティ、障害対応、問い合わせ対応など、契約後の運用体制まで決めておく

特にBtoBのITサービスでは、商談の途中から技術的な確認が増えていきます。

営業担当者が英語でサービス概要を説明できても、顧客企業からAPI、システム連携、データ管理、セキュリティ、導入方法などについて質問された際に、技術部門との間で情報が止まってしまえば商談を進められません。

そこで重要になるのが、技術とビジネスの両方を理解し、顧客と社内の技術者をつなぐ「ブリッジ人材」です。

必ずしも一人が営業、技術、英語のすべてに精通している必要はありません。営業担当者と技術担当者が連携し、海外顧客からの質問に必要な回答を速やかに返せる体制を作ることが重要です。

また、「社内公用語を英語にすれば海外展開できる」というものでもありません。

海外顧客と接する営業、カスタマーサポート、技術担当者など、実際に英語が必要となる業務を特定し、その業務が止まらない体制を優先して整える方が現実的です。

もう一つ、IT企業で早い段階から確認しておきたいのが、契約、個人情報、データ管理、セキュリティです。

たとえば日本で運営しているクラウドサービスを海外へ提供する場合、顧客の所在国、取得する個人情報、データの保存場所、利用する海外クラウドなどによって、確認すべき法規制や契約内容が変わることがあります。

大企業とのBtoB取引では、商談が進んだ段階でセキュリティチェックシートへの回答や、データの取扱い、委託先、インシデント発生時の対応などについて説明を求められることもあります。

その段階になって初めて社内確認を始めると、回答に時間がかかり、商談を止めてしまう可能性があります。

そのためIT企業では、海外営業を始める前からすべてを完璧に整備するというよりも、自社のサービスでは海外顧客との契約から導入・運用までに何を求められる可能性があるのかを洗い出し、商談の進行に合わせて必要な準備を進めておくことが重要です。

IT企業の海外展開では、「サービスがインターネット経由で世界中から使える」ことが海外ビジネスの完成ではありません。

海外顧客がサービスを知り、比較し、契約し、導入し、安心して使い続けられるところまでを一つの事業として設計することが、継続的な海外売上につながります。

SaaSの海外展開について、市場選定、ローカライズ、販売方法、法務・技術面まで具体的な進め方を知りたい方は、こちらの記事で詳しく解説しています。

SaaSの海外展開はどこから始める?失敗しないための実践ロードマップ

4 サービス業|「日本で成功したサービス」をそのまま輸出しない

サービス業の海外進出では、日本で成功しているサービスの仕組みをどこまで海外でも共通化し、どこから現地に合わせて変えるのかが重要になります。

製品であれば、同じ商品を輸出して販売することもできます。

しかし、教育、美容、飲食、フィットネス、介護、コンサルティングなどのサービス業では、顧客との接点そのものが商品です。

利用する人の生活習慣、価値観、所得水準、商習慣、言語などが変われば、日本で評価されているサービスでも、そのままでは受け入れられないことがあります。

先ほど紹介したC社も、当初は日本で培った小学校受験・幼児教育のノウハウを生かし、駐在員家庭を主な対象として事業を計画していました。

しかし、実際にテキサス州で事業を始めると、パンデミックという想定外の環境変化に加え、現地で初めて分かる顧客ニーズも出てきました。

そこでC社は、幼児教育という自社の強みそのものを捨てるのではなく、授業の提供方法、カリキュラム、講師体制、対象となる顧客層などを見直しています。

サービス業の海外展開でも重要なのは、「現地化=すべてを現地に合わせること」ではありません。

まず、自社のサービスを次のように分けて考える必要があります。

  • 自社が評価されてきたサービスの核は何か
  • 海外でも変えてはいけない品質やブランド価値は何か
  • 現地の顧客に合わせて変更できる部分は何か
  • 現地スタッフに任せられる業務は何か
  • 日本本社が管理し続ける必要がある業務は何か

たとえば、日本で成功したフィットネス事業を海外へ展開する場合でも、「日本と同じ店舗を作る」だけでは十分ではありません。

利用者が通いやすい時間帯、料金体系、契約期間、人気のプログラム、トレーナーに求められる資格、接客方法などが違えば、サービスの運営方法も変える必要があります。

飲食店であれば、味だけでなく、量、価格、営業時間、注文方法、デリバリーへの対応なども検討対象になります。

教育サービスであれば、現地の学校制度、進学時期、保護者の教育ニーズ、休暇の時期などによって、提供するカリキュラムや年間スケジュールまで変わる可能性があります。

もう一つ、サービス業で特に重要になるのが人材です。

サービスの品質がスタッフの能力や接客に大きく左右される業種では、日本本社が考えたサービスを現地スタッフへ説明するだけでは、同じ品質を再現できないことがあります。

そのため、

  • 採用する人材の条件
  • 採用後の教育方法
  • 業務マニュアル
  • サービス品質の評価基準
  • 店長や現地責任者へ任せる権限
  • 問題が発生した場合の本社への報告・判断ルール

などを、事業拡大に合わせて仕組みにしていく必要があります。

また、海外では雇用契約、労働時間、解雇、給与・福利厚生などに関する制度や慣行も日本とは異なります。

日本本社の感覚だけで人材管理を行わず、必要に応じて現地の法律・労務の専門家へ確認しながら、採用前から雇用条件や管理方法を整えておくことも重要です。

サービス業の海外展開では、最初に考えた事業モデルを現地で忠実に再現することが成功ではありません。

実際の顧客の反応を見ながらサービスを修正し、それでも「この会社だから選ばれる」という核は残す。

そして、一店舗、一拠点、一人の優秀な担当者だけで成立する状態から、現地スタッフでも一定の品質を再現できる仕組みへ変えていくことが、継続的な海外展開につながります。

サービス業の海外進出について、現地化、人材育成、品質管理、事業の立ち上げ方まで詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

サービス業の海外進出はなぜ難しい?中小企業が押さえるべき戦略と実務ポイント

成功事例をそのまま真似する前に、撤退基準も決めておく

海外ビジネスの成功事例を見ると、「この方法なら自社でもできるかもしれない」と感じることがあります。

しかし、同じ業種、同じ国、同じ販売方法を選んでも、商品力、人員、資金、取引先、市場環境などが違えば、同じ結果になるとは限りません。

だからこそ、成功事例から学ぶときには「何をすれば成功するか」だけでなく、「どこまで試し、どの状態になったら見直すか」もあらかじめ決めておくことが重要です。

たとえば、

  • 一定期間営業しても商談や受注につながらない
  • 想定していた市場ニーズと実際の反応が大きく異なる
  • 規制や物流への対応によって採算が成立しなくなった
  • 当初予定していた投資額を大幅に超える
  • 海外事業を継続するための人員を確保できない

といった状況になった場合に、追加投資をするのか、販売方法や対象市場を変更するのか、一度撤退するのかを判断します。

撤退は、海外ビジネスの失敗を意味するものではありません。

市場や方法を変えて再挑戦するためにも、本社の資金や人材を失いすぎない段階で判断することが重要です。

成功事例から「何を取り入れるか」を考えるのと同時に、「自社ならどこまでリスクを取れるのか」まで決めておくことが、海外事業を長く続けるための経営判断になります。

成功事例から学べることは多いですが、実際に進出する前には、その市場で自社の事業が成立する可能性を確認することも重要です。

海外進出前にF/S現地調査はしましたか

海外ビジネスの成功事例から、自社の成功条件を考える

海外ビジネスの成功事例を見ると、海外展示会への出展、現地法人の設立、販売代理店の開拓、商品のローカライズなど、成功した企業が「何をしたのか」に目が向きがちです。

しかし、本当に参考にしたいのは、その方法そのものではありません。

今回紹介した3社も、同じ方法で成功したわけではありません。

A社は、複数国でF/Sや営業を重ねながら市場と意思決定者を見極め、海外22か国へ販路を広げました。

B社は、日本で成功していたOEMモデルをそのまま持ち込まず、米国では自社ブランド、現地製造、現地採用という事業モデルを選びました。

C社は、テキサス州でF/Sを行って事業を立ち上げた後、パンデミックや現地で見えてきた顧客ニーズに合わせてサービスを作り直しました。

3社に共通しているのは、最初に決めた方法をそのまま実行したから成功したのではなく、実際の市場や顧客から情報を得ながら、自社の強みを生かせる方法へ事業を修正していったことです。

だからこそ、海外ビジネスの成功事例を自社に生かすときには、

  • 自社の何が海外でも強みになるのか
  • どの市場・顧客にその強みが必要とされるのか
  • 自社で何を担い、誰の力を借りるのか
  • どこまでの資金と人員を投入できるのか
  • 現地で想定と違う結果が出たとき、何を変えられるのか

を、自社の条件に置き換えて考えることが重要です。

成功事例は、真似するための「正解」ではありません。

自社なら何を備え、何を確かめ、どこで判断する必要があるのかを考えるための材料です。

成功事例を、自社の成功につなげませんか?

他社の成功条件を理解した次に必要になるのは、それを自社の商品、市場、販売方法、人員、予算に置き換えて整理することです。

パコロアでは、自社の強み、ターゲット市場、進出形態、販売方法、社内体制などを整理し、貴社に合った海外展開の進め方を30ページ超の個別判定レポート『海外進出チェック』としてご提供しています。

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小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・BtoB・BtoC・DtoCなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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