海外展開を目指す日本企業にとって、今や多言語サイトは単なる選択肢ではなく、24時間365日働き続ける「海外営業ツール」です。
ただ、サイト制作といっても一筋縄ではいきません。
英語ページを作ったけれど反応がない、アクセスはあるけど成果につながらない、WordPressが煩雑で運用が面倒…。そんな悩み、ありませんか?
この記事では、海外顧客にしっかり届き、成果につながる多言語サイトを作るための要点を「設計」「翻訳」「運用」の3つの視点から解説します。
自社にとって理想的なグローバルサイトとは?という問いに答えながら、具体的なステップを丁寧に紹介していきます。
多言語対応の前に整理すべきこと
海外進出の目的とユーザー像を言語化
多言語サイトはあくまで手段です。
自社の海外事業計画や市場ニーズを明確にしなければ、適切な構造やメッセージも決まりません。
まずはどの国を対象に何を達成したいのかを明文化しましょう。
社内でまずできる準備とは
「わからないから制作会社に丸投げ」はNG。
業界用語の整理やRFP(提案依頼書)の下書き程度は自社で準備するだけで、完成度は大きく変わります。
海外支援に強い制作会社の見極め
「多言語サイトが作れる=海外展開支援ができる」ではありません。
過去にインバウンド・越境EC・現地法人向けなどの実績があるか、確認が必要です。
多言語リサーチによる“失敗予防線”
丸投げが失敗を招く理由
限られた予算内で最大の効果を得るには、自社が主導で意思決定を行う必要があります。
例えば、RFP(Request for Proposal)くらいは自社でまとめる意識がなければ、平均的だけど成果の出ないサイトが完成するリスク大。
もし、予算が潤沢であれば(500万円くらい)、丸投げもアリです。
海外SEO対策にも明るいWebサイト制作会社さんが海外競合調査も含め異文化に適応されたサイトマップ提案、デザイン提案をしてくれるはずです。
もし、予算がその1/3や1/4くらい(一般的なWeb制作費用)で、且つ自社内で、成功する海外での魅せ方のアイデアが未だほとんどない場合は、数年後に『この成果の出ない多言語サイト、何とかしたい・』とまた同じ悩みを抱えることになりかねません。
丸投げしたい気持ちを一度グッと抑え、自社主導で納得しながら多言語サイトを作るぞ、といったん決めてみることが重要です。
海外のWebデザインを見まくる
実例を知るのが一番の学びです。
海外Webデザインを最低100サイト以上チェックし、UI/UXの傾向をつかみましょう。
気になったものはExcelで整理もしておきます。
多くの海外サイトを見ることで、これまで自社Webサイトは海外市場でどう見られていたのか、海外顧客獲得のためにこれからどうあるべきなのか?が、イメージしやすくなります。
優れたサイトをExcelで分析
デザインだけでなく、構造やコピー、誘導方法なども評価対象に。
海外ユーザーのニーズがどこにあるのか、見えてきます。
外国人や関係者との“評価の答え合わせ”
身近に外国人スタッフや海外支社があればベスト、いなければ翻訳会社に聞くのも手です。
自分では『良い』と思った点が海外からの視点では『?』だったり、その逆もあります。
自分だけの主観にしないことが重要です。
海外国内ともに、『新しい』企業サイトは下記のようなまとめサイトで見つけられます。
海外国内の最新ウェブサイトまとめサイト3つ
休憩用ウェブサイト3つ
海外ウェブサイトを見まくるのも、なかなか疲れるものです。
頭の中に、お腹いいっぱいもう入りません、のランプが点灯しはじめましたら、いったん休憩いたしましょう。
別世界に飛び、ボーと出来る、休憩用ウェブサイト(海外)を3つまとめました。
(休憩おわり)
情報設計で差がつく選ばれる多言語サイト
競合ベンチマークのすすめ
日本企業は国内競合の英語サイトしか見ない傾向がありますが、海外競合を見てこそ真のポジショニングができます。
業界No.1の座を奪うには、まずは調査です!
海外SEOは現地検索から
海外Googleで実際に検索し、上位表示されているサイトの構造やキーワードを参考にします。
日本語サイトを直訳するだけでは検索エンジンには通用しません。
構造・lang・URLなど基本構築を押さえる
URL構造(例:example.com/en/ など)やhtml内のlang属性、hreflangタグなど、SEOに必須な技術的要素も忘れずに設置しましょう。
比較しやすいコンテンツの入れ方
海外ユーザーが重視するのは「信頼性」と「他社比較のしやすさ」です。
価格表、導入事例、FAQなども積極的に掲載しましょう。
海外顧客に選ばれるために最低限必要な情報(例)
- 自社含む業界プレイヤーマップ・各々の客観的評価
- 競合ではなく自社が選ばれる理由(こういう顧客のこういうお困りごとならダントツでお役に立てますの理由)
- メンテナンスを含んだ次の買い替えまでの導入コスト
- 業界の今後の方向性予想とその中での自社の立ち位置・目指す方向
加えて、
- 日々営業先で、え!そうなの?と驚かれること(業界知識)
- 逆に担当者が営業先で、え!そう思っていたのですか?と驚くこと(隠れた強み)
- よくお客様から相談されるが、一般論として答えられない、方法論をまとめるのが大変なテーマ
等の貴重な経験情報の企業ブログ化もSEO対策、キーワード選定と共に忘れないように計画しておきます。
翻訳は「日本語のそのまま」では伝わらない
和訳ベースで失敗しがちな理由
英語にない文化や概念を日本語のまま訳してしまうと、意味が通じず成果につながりません。
「その情報、海外にも本当に必要?」の視点でチェックします。
英語構成→逆翻訳が理想的な流れ
英語で自然に伝わる構成にしてから日本語に戻す方が、結果としてよりスムーズ。
情報整理にもなります。
日本語の項目で不要なもの
日本特有の慣習的要素は、海外ではほぼ無視されがちです。
下記は、日本語のウェブサイトでよく見られる項目の一例ですが、英語圏のウェブサイトにはほぼ無い項目です。
- 笑顔ではない、もしくは、文字だけの社長挨拶
- 出口や結論が分かりづらいメッセージ(顧客価値ではなく自社価値の技術長文説明、商品説明)
そして下記などは、英語サイトには入れなくてもよい項目です。
望まぬM&Aや模倣被害につながる可能性があります。
- 資本金
- 従業員数
- 売上高
- 細かい顧客リスト
- 型番まで明記した設備一覧
- ノウハウが読める技術情報
- 公開しないほうが良い現場写真、等
英語サイトにあるべき要素とは?
英語のウェブサイトに通常ある項目は下記などです。
- ビジョン・ミッション・ヴァリュー
- 笑顔の経営陣・チーム紹介
- 過去の想いが伝わり未来が待ち遠しい社史
- 新規取引する顧客側のベネフィット
- 技術別ではなく用途別のケーススタディ
- カテゴリー別のみならずシーン別の商品ラインナップ
- 直感的、視覚的にも分かる他社との明確な違い
- ロゴマークのみの納入実績
- 最小限の会社概要
つまり、ユーザー中心のコンテンツを強く意識しています。
デザインだけでなく中身で差をつける、が海外でも必須なのです。
既存の日本語のウェブサイトはどうするか
もし、既存の日本語のウェブサイトが日本顧客向けに上手く機能していて成果を出している場合、そのまま残す選択はあります。
例えば『楽天.co.jp』サイトは日本顧客仕様で、海外顧客から見るといささか賑やかで特殊です。
しかし日本顧客向けには機能しており日本人には違和感はありません。
一方で楽天の米国サイト『楽天.com』は国内サイトとデザインが異なります。
当初は米国A社サイトを参考にしたそうで今はまたデザインが変わっています。
少なくともこれがあの楽天?と驚くほどに、国内サイトとは異なったデザインになっています。
翻訳者とのチーム戦が成果を左右する
ビジョンを共有するなら社長の声で
多言語サイトは会社の分身です。
社長の声で語ることで、サイトの軸がぶれません。翻訳者にもその熱を届けましょう。
翻訳者は試訳(トライアル)で、適切に選ぶ
翻訳者を選ぶ際は、まず短い原稿を使ってお試し翻訳(=試訳/トライアル)を依頼しましょう。
複数人に同じ原稿を訳してもらい、表現力や文化理解を比較するのがポイントです。
無償・有償の別はありますが、判断材料として有効です。
特に主語が省かれた文や機械翻訳が苦手な文章を使うと、翻訳者の実力が見えやすくなります。
パコロアでもこれまで100人以上の翻訳者、通訳者の方とのお仕事経験がありますが、海外ビジネスの明暗は、通訳・翻訳次第、というのは一部事実です。
相手に伝わらない原因は、原稿側(企業側)と訳す側の両方にあります。
原稿側が多少「不足」していても、優秀な翻訳者にかかると、伝わるよう創意工夫の限りを尽くし英語はガラリと変わります、見事に伝わります。
一方、そのようなプロにも限界があります。
またプロの中にも「そのようなプロ」ばかりとは限りません。
そのため、原稿側は少しでも英語に訳しやすい日本語原稿を提供し、誤訳のリスクを下げる努力が必要なのです。
会社の中は専門用語だらけです。
翻訳者が最初にボタンをかけ間違えますと、収拾がつかなくなります。
翻訳者が能力を最大限発揮できるよう、商品や業界の必要最低限の専門用語解説は必須です。
意味が分らなければ翻訳者だって質問してくるだろう、は危険です。
分らないことを質問できる翻訳者は分っていることと分っていないことが、分かっています。これは案外高度なことです。
社内用語集は必ず渡すこと
自社独自の単語は、「社外では誰も知らない」と思っておいた方がよいでしょう。
事前に共有すれば、翻訳者のミスを削減できます。
『超意訳』は別次元のクリエイティブ作業
スローガンやキャッチコピーの翻訳は、翻訳ではなくコピーライティングという分野になります。
これは別料金・別スキルと割り切って依頼が良いでしょう。
突然ですが、世界40カ国弱で翻訳されベストセラーになった“人生がときめく片づけの魔法”はご存知ですか。
著者のこんまりさんこと近藤麻理恵さんはその後米国拠点を設立、こんまりメソッドを全米中に展開されています。
さてこのタイトル『人生がときめく片づけの魔法』を英訳すると、こうなります。
―The Life-Changing Magic of Tidying Up: The Japanese Art of Decluttering and Organizing(2014 USA)
簡単そうですが難しく、またどこにも『ときめく』という単語が出てきていません。
ハタとしますが、それでは『ときめく』は英語で何というのでしょうか。調べると、
exciting feelings
heart skip a beat
get off on
cheerful
romantic
throbbing
・・・・等があります。ただし、本の中を読み進めると『ときめく』というのは、これらの内のどれでも無いことが分かります。
『ときめく』は、『Spark Joy』と、翻訳されています。
―喜びを誘発させる
ー喜びに火をつける
喜びにはじける感じ、躍動感、が丸ごとイメージ出来ますね、なんと素晴らしい翻訳。
米国での初版タイトルにSpark Joyが含まれていないこと(ある程度こんまりメソッドが市民権を得てからタイトルにも Spark Joyを入れた?)や、
『触ったときにときめくか?をDoes this spark joy?と翻訳する』との定義等は、翻訳者としての能力プラス、多言語サイト制作チームのコピーライター、ブランドクリエイター分野の知の結集あってこそです。
このレベルのアウトプットとなると、通常の翻訳業務以上のものです。
ですので、この高い能力を、標準料金内で翻訳者に普通に求めてしまうことは、ちょっとした無茶ぶりに相当します。
もしそれらを本格的に求める場合、例えば会社のスローガンや商品のキャッチコピーを英訳する際に「日本語をそのまま訳しても伝わらない!」と判った時は、英語でコピーライティングができるコピーライターを探したり、
海外市場向けの情報の出し加減、原稿全体のトーンとマナーの調整が必要な局面では、英語にも明るいブランドクリエイターを起用したり、
が必要となってくるでしょう。
ビジュアルとコンテンツこそ命
写真と映像はプロに頼んで刷新を
プロの素材は一目で違いが出ます。海外ユーザーの印象形成において、画像と動画はテキスト以上に影響力があります。
コンテンツは社長の分身である
海外進出で海外顧客に伝えるべきことは、社長が一番知っています。
コンテンツの骨格は社長が組み立ててこそ意味があるのです。
中小企業の海外進出は、始めたばかりの初期の頃から、やるべきことが山のようにあります。
多言語サイトは未来の全世界向け営業ツール
海外展示会や商談、オンラインからの問い合わせ——そのすべての出発点となるのが、多言語対応のウェブサイトです。
本当に成果を生み出すサイトにするには、ただ作るだけでなく、その後どのように活用するかまで見据えた設計が欠かせません。
海外では、魅力的なプレゼンテーションや戦略的なネゴシエーションが次々と求められます。
時には、自社の現状より少し上のレベルを求められることもありますが、それに応えてこそ次のステージに進めます。
そして実際に海外展開が始まると、ゼロから考える時間がなかなか取れなくなるのも現実です。
そんなときに最大限の力を発揮してくれるのが、「丸投げせず、自社でも考え抜いて作り上げた成果の出る多言語サイト」です。
英語脳の“手となり足となる”存在として、きっとみなさまを助けてくれるはずです。
海外進出が進めば進むほど、「作っておいてよかった!」「このサイトに助けられている!」と思える日が、必ず訪れます。
たかがウェブサイト、されどウェブサイト——。
本記事が、みなさまの“カッコいい多言語サイト”制作の一助となれば、
this IS our spark joy――望外の喜びです!
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