インバウンドという言葉を聞くと、多くの企業は外国人観光客向けのビジネスを思い浮かべるかもしれません。
ホテルや飲食店、観光施設が訪日客を呼び込み、売上を伸ばす。
そうしたイメージが一般的です。
しかし実際には、インバウンドは観光業だけの市場ではありません。
日本の食文化、専門商品、地域の体験、伝統産業など、海外の人々が興味を持つ分野は多岐にわたります。
つまりインバウンドは、単なる観光対策ではなく、海外顧客との接点を生み出すビジネスの入口でもあります。
本記事では、さまざまなインバウンド成功事例をもとに、海外顧客を惹きつけるビジネスの構造を整理します。
観光業だけでなく、小売や製造業にも広がるインバウンドの可能性を見ていきましょう。
「この記事でわかること」
・インバウンド成功事例の共通点
・中小企業でもできるインバウンドの考え方
・インバウンドを海外ビジネスにつなげる視点
インバウンド成功事例が増えている理由
訪日外国人の回復とインバウンド市場の拡大
日本を訪れる外国人旅行者は、近年再び大きく増加しています。
観光庁や日本政府観光局(JNTO)の統計によると、訪日外国人数はコロナ禍で大きく落ち込んだものの、その後急速に回復し、現在は多くの地域で外国人旅行者の姿が戻っています。
こうした市場の回復に伴い、各地でインバウンドを取り込む取り組みが広がっています。
宿泊施設や観光地だけでなく、飲食店、小売店、地域の文化体験など、さまざまな分野で訪日外国人を意識したサービスが増えているのが特徴です。
以前は一部の観光地や都市部に限られていたインバウンド需要も、現在では地方都市や地域産業にまで広がりつつあります。
インバウンドは観光業だけの市場ではない
インバウンドという言葉は「外国人観光客向けビジネス」として語られることが多いものです。
しかし実際には、訪日外国人が関心を持つのは観光だけではありません。
日本の食文化、専門的な道具、日本独自の製品、地域の伝統文化など、海外の人々が魅力を感じる対象は多岐にわたります。
例えば、日本製の包丁や料理道具を求めて専門店街を訪れる外国人や、地域の工芸体験を目的に地方を訪れる旅行者も増えています。
このように、インバウンドは観光業だけでなく、小売業や製造業、伝統産業にとっても海外顧客との接点を生み出す機会になっています。
海外顧客との接点としてのインバウンド
インバウンドのもう一つの特徴は、「訪問」で終わらない点にあります。
訪日体験をきっかけに、日本の商品やブランドを海外で購入するケースも増えています。
例えば、日本の食文化を体験した旅行者が帰国後に日本食材を購入したり、日本の製品をオンラインで注文したりするケースは珍しくありません。
また、企業の工場見学や体験施設を訪れた海外の顧客が、その後ビジネスパートナーや顧客になることもあります。
つまりインバウンドは、単なる観光需要ではなく、海外市場との接点を生み出す入口としても機能しています。
こうした視点で見ると、インバウンド成功事例は単なる集客事例ではありません。
そこには、海外顧客を惹きつける共通のビジネス構造が存在します。
次の章では、その構造を整理するために、インバウンドビジネスを大きく5つのタイプに分けて考えてみます。
インバウンドビジネス 5つのタイプ
インバウンド成功事例を見ていると、業種はさまざまでも、外国人との接点の作り方には一定のパターンがあることが分かります。
訪日外国人が日本で体験する価値は、「宿泊」「食」「商品」「体験」「文化」といった形で現れることが多く、それぞれの分野で異なるビジネスモデルが生まれています。
ここでは、インバウンドビジネスを大きく5つのタイプに分けて整理してみます。
自社の事業がどのタイプに近いのかを考えながら読むことで、後に紹介する成功事例もより理解しやすくなります。
宿泊サービス型(ホテル・宿泊施設)
最も分かりやすいインバウンドビジネスが宿泊施設です。
外国人旅行者が日本を訪れる際、必ず利用するのが宿泊サービスです。
そのためホテルや旅館では、多言語対応や海外予約サイトへの掲載、外国人旅行者のニーズに合わせたサービス設計など、インバウンドに特化した取り組みが進んでいます。
都市部だけでなく、地方の旅館や小規模宿泊施設でも、海外顧客を意識した運営が広がっています。
飲食サービス型(レストラン・食文化)
日本食は、訪日外国人が最も関心を持つ分野の一つです。
ラーメン、寿司、和牛など、日本独自の食文化を体験することを目的に来店する外国人客も多く見られます。
飲食店のインバウンド対応では、多言語メニューや注文方法の工夫、店舗の体験設計などが重要になります。
海外の人にとって分かりやすい店舗設計を行うことで、言語の壁があっても利用しやすい環境を作ることができます。
商品購入型(専門商品・小売)
訪日外国人の中には、日本の商品を購入することを目的に来日する人も少なくありません。
日本製の包丁や料理道具、化粧品、文具、伝統工芸品など、日本ならではの品質や文化的背景を持つ商品は海外でも人気があります。
こうした商品を扱う小売店や専門店街では、海外からの来訪者を意識した売り場づくりや情報発信が進んでいます。
観光地でなくても、専門性の高い商品がある場所には外国人が訪れる可能性があります。
体験観光型(地域体験・アクティビティ)
近年特に注目されているのが、体験型のインバウンドビジネスです。
観光地を巡るだけではなく、地域の自然や文化を体験することを目的とした旅行者が増えています。
サイクリング、工芸体験、農業体験など、日本の地域資源を活かしたアクティビティは海外旅行者にも人気があります。
こうした体験は、地域の魅力を深く知ってもらう機会になると同時に、新しい観光ビジネスとしても広がっています。
製造業体験型(工場見学・文化体験)
インバウンドは観光業だけのものではありません。
近年では、製造業や伝統産業が自社の技術や文化を体験として提供する取り組みも増えています。
工場見学や職人の技術体験などは、日本のものづくりに関心を持つ海外の人々にとって魅力的なコンテンツです。
製品そのものだけでなく、その背景にある文化や技術を伝えることで、新しい海外顧客との接点が生まれる可能性があります。
このように、インバウンドビジネスにはさまざまな形があります。
次の章では、こうした5つのタイプを踏まえながら、具体的なインバウンド成功事例を見ていきます。
インバウンド成功事例5選
インバウンドビジネスは、特定の業種だけのものではありません。
宿泊、飲食、小売、観光、製造など、さまざまな分野で訪日外国人との接点が生まれています。
ここでは、前章で紹介した5つのタイプに対応する形で、実際のインバウンド事例を見ていきます。
それぞれの事例で重要なのは「どのように外国人との接点を作っているか」という点です。
単なる観光地の紹介としてではなく、海外顧客を惹きつける仕組みに注目してみましょう。
アパホテル|訪日客対応を徹底した宿泊サービス
アパホテルは、日本国内に多数のホテルを展開する宿泊チェーンとして知られています。
都市部を中心にビジネスホテルを展開していますが、近年は訪日外国人の利用も増えています。
同社は早い段階から海外予約サイトへの掲載や多言語対応を進め、外国人旅行者でも利用しやすい環境を整えてきました。
チェックイン機の導入や館内案内の多言語化など、外国人利用を前提としたサービス設計が特徴です。
宿泊という基本サービスにおいても、外国人が迷わず利用できる仕組みを整えることが、インバウンド対応の重要なポイントであることが分かります。
出典 https://japan.wipgroup.com/media/inbound-success-stories
一蘭ラーメン|外国人でも利用しやすい店舗設計
一蘭は、とんこつラーメン専門店として国内外に店舗を展開しています。
訪日外国人にも人気の高いラーメン店として知られています。
同店の特徴は、独自の注文システムと店舗設計です。
味の濃さや麺の硬さを記入する注文用紙など、言葉が通じなくても注文できる仕組みが整えられています。
また「味集中カウンター」と呼ばれる個別席のスタイルも、外国人旅行者にとって利用しやすい設計です。
言語に頼らずサービスを利用できる店舗設計は、インバウンド対応の一つの参考例と言えるでしょう。
出典 https://honichi.com/news/2018/06/04/ichiran/
かっぱ橋道具街|専門商品が訪日客を呼び込む街
東京・台東区にあるかっぱ橋道具街は、飲食店向けの厨房用品を扱う専門店街です。
包丁や調理道具、食品サンプルなど、料理に関するさまざまな専門商品が集まっています。
近年では、日本の料理文化に関心を持つ外国人観光客も多く訪れる場所となっています。
特に日本製の包丁や調理道具は海外でも人気が高く、料理人や料理愛好家が訪れることもあります。
観光地ではなくても、専門性の高い商品や文化的背景を持つ商品は海外の顧客を惹きつける可能性があります。
出典 https://www.kappabashi.or.jp/
しまなみ海道|世界的に人気のサイクリングルート
広島県と愛媛県を結ぶしまなみ海道は、瀬戸内海の島々をつなぐサイクリングルートとして知られています。
美しい景観と走りやすい道路環境から、海外のサイクリストにも人気の高いルートとなっています。
しまなみ海道では、レンタサイクルやサイクリスト向けの施設整備などが進められ、海外からのサイクリング旅行者も多く訪れるようになりました。
自然環境や地域資源を活かした体験型観光は、海外旅行者にとって魅力的なコンテンツになり得ることを示しています。
光洋製瓦(薫銀別邸)|製造業がつくる文化体験型インバウンド
兵庫県姫路市でいぶし瓦製造(姫路城にも採用)を手がける光洋製瓦では、伝統的な日本家屋を改装した滞在型工場見学施設「薫銀別邸」を運営しています。
この施設では、いぶし瓦づくりの工場見学や日本の建築文化に触れる体験を通じて、地域のものづくり文化を紹介しています。
宿泊は1日1組限定で、訪問者がゆっくりと日本の伝統素材や職人技術を体験できる環境が整えられています。
こうした取り組みは、製品そのものだけでなく、その背景にある文化や技術を海外の人々に伝える新しいインバウンドの形と言えるでしょう。
出典 https://koyoseiga.co.jp/ https://www.kunginbettei.com/
インバウンド成功事例に共通する「日本の価値の見せ方」
ここまで紹介してきた事例は、ホテル、飲食、小売、観光、製造と、それぞれ業種が異なります。
しかし、外国人旅行者が魅力を感じるポイントには、共通する特徴があります。
それは、日本の企業や地域が特別な観光施設を作っているからではありません。
むしろ、日本人にとっては日常の中にある文化や価値を、海外の人にも分かる形で見せている点にあります。
インバウンド成功事例を分析すると、日本の価値の見せ方には大きく3つの特徴があることが分かります。
日常を「特別な体験」に変えている
海外旅行者にとって魅力になるのは、必ずしも豪華な施設や派手な観光地だけではありません。
むしろ、日本人にとって当たり前の文化や生活が、外国人にとっては特別な体験になることがあります。
例えば、日本のラーメン店の注文方法や店舗の仕組み、日本のビジネスホテルの効率的なサービス、日本の料理道具専門店に並ぶ職人向けの道具などは、日本人にとっては日常の風景です。
しかし海外の人にとっては、日本の食文化や職人文化を体験できる場所として興味深い存在になります。
成功しているインバウンド事例では、日本の「普通の文化」をそのまま提供するのではなく、外国人にも理解できる形で体験として提示しています。
つまり、日常の価値を見せ方によって特別な体験に変えているのです。
観光ではなく「文化への参加」をつくっている
もう一つの特徴は、訪問者を単なる観光客として扱っていない点です。
成功しているインバウンドでは、訪問者がその文化やコミュニティに一時的に参加しているような体験が生まれています。
例えば、サイクリングで人気のしまなみ海道では、単に景色を眺める観光ではなく、サイクリストの文化に参加する体験が生まれています。
また料理道具の専門店街では、観光客が料理人の世界を少しだけ体験することができます。
このように、成功事例では訪問者が外から眺める観光客ではなく、その文化に触れる参加者として位置づけられています。
こうした体験は、単なる観光よりも強い印象を残し、海外の人々に日本の文化や商品への興味を生み出すきっかけになります。
「不便さ」を特別な価値として設計している
一般的なサービスでは、効率の良さや利便性が重視されます。
しかしインバウンドの体験では、必ずしも便利であることが最も重要とは限りません。
例えば、1日1組限定の宿泊施設や、職人の工場見学などは、効率だけを考えれば非効率な運営です。
それでも海外旅行者にとっては、その限定性や特別感が魅力になります。
大量の観光客を受け入れることよりも、限られた人数に深い体験を提供することが価値になる場合もあります。
つまりインバウンドでは、効率や利便性だけではなく、その場所でしか体験できない特別な時間や文化が重要な価値になります。
このように、インバウンド成功事例の多くは、日本の文化や日常の価値をどのように見せるかという設計によって生まれています。
重要なのは、外国人向けに新しい観光施設を作ることではありません。
自社の持つ文化や商品、技術の要素を整理し、海外の人にも伝わる形で再価値化することです。
次の章では、中小企業がこうした考え方をどのように活用できるのか、インバウンドを海外ビジネスの入口として活かすための実践ステップを整理します。
中小企業がインバウンドの可能性を見つける3つのステップ
ここまで紹介してきた事例を見ると、インバウンドは特定地域や観光業周辺に限られるように感じるかもしれません。
しかし実際には、日本の中小企業が持つ商品や技術、文化の中にも、海外の人にとって魅力になる要素が数多く存在します。
問題は、その価値が日本では当たり前すぎて、自社では気づきにくいことです。
そこで重要になるのが、自社の文化資産を整理し、海外の人から見た価値として再構成することです。
そのためには、次の3つのステップで考えると整理しやすくなります。
STEP1 自社の「日本らしさ」を書き出す
最初のステップは、自社の中にある日本らしい要素を書き出すことです。
例えば次のような視点で整理すると見つけやすくなります。
・長く続いている技術や製法
・地域に根ざした素材や文化
・職人の手仕事や工程
・日本独特のサービスや接客
・日本人にとっては当たり前の生活文化
こうした要素は、日本では特別に見えなくても、海外の人にとっては興味深い文化として映ることがあります。
STEP2 海外の人から見た「体験」に変える
次に、その要素を単なる商品や技術としてではなく、体験として考え直します。
例えば
・製造工程の一部を見学できるようにする
・職人の作業を実演する
・商品が生まれる背景をストーリーとして伝える
・地域文化と結びつけた体験を作る
こうした形にすると、海外の人にとって理解しやすく、印象に残る体験になります。
STEP3 小さな接点をつくる
最後のステップは、大きな事業にしようとせず、小さな接点から始めることです。
例えば
・工場見学やワークショップを試験的に実施する
・海外観光客が多い地域で商品を紹介する
・英語で情報発信を始める
こうした取り組みは、大きな投資を必要とせずに始めることができます。
実際に多くのインバウンド事例も、最初はこうした小さな接点から始まり、徐々に広がっていきました。
インバウンドは海外ビジネスの入口になる
インバウンドという言葉は、訪日観光客向けのビジネスとして語られることが多くあります。
しかし実際には、インバウンドは観光だけにとどまらない可能性を持っています。
日本を訪れた海外の人が商品を購入し、その後もオンラインで購入を続ける。
訪日体験をきっかけに、日本の企業や技術に興味を持ち、海外で取引につながる。
あるいは、日本で出会った企業とビジネスを始める。
こうした流れは、実際に多くの企業で起きています。
つまりインバウンドは、日本に来る海外の人を対象としたビジネスであると同時に、海外市場との接点を生み出す入口にもなり得ます。
(海外市場の開拓方法については、海外販路開拓・新常識もぜひ参考にしてください。)
特に中小企業にとっては、最初から海外拠点を作ったり、大規模な輸出事業を始めたりすることは簡単ではありません。
その一方で、日本に来た海外の人との小さな接点から、海外市場への可能性が広がることもあります。
自社の文化や商品、技術の価値を海外の人に伝えること。
その接点を通じて海外との関係が生まれること。
インバウンドは、そうした海外ビジネスの最初の一歩になることがあります。
これからインバウンドを考える企業にとって重要なのは、観光客向けのサービスを作ることだけではありません。
自社の持つ価値をどのように海外の人に伝えるかを考えることです。
その視点を持つことで、インバウンドは単なる観光対策ではなく、海外市場へつながるビジネスの入口として活用できる可能性があります。
パコロアでは、中小企業の海外展開や海外販路開拓の支援を行っています。
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