海外進出を成功させる鍵は、「現地に行く前」の準備にあります。
その中でも、金融機関・自治体・現地パートナーとの信頼関係を築く上で不可欠なのが、しっかりとした事業計画書の作成です。
しかし一口に「海外進出」と言っても、輸出型ビジネスと現地法人・拠点を設ける投資型とでは、計画書に求められる視点も構成も大きく異なります。
本記事では、中小企業向けに実際の行政支援でも使用されたテンプレートをもとに、各項目ごとの記入例と考え方を解説。
さらに、他では語られない「現地文化や制度の反映方法」や「進出後の活用法」までをカバーし、実務に役立つ“使える計画書”づくりをサポートします。
テンプレート(輸出型/投資型)は以下より無料でダウンロード可能です。
記事内の解説を参考にしながら、自社の戦略にあわせて書き進めてみてください。
海外進出で必要になる書類 海外展開事業計画書(輸出編)
なぜ「事業計画書」が海外進出に必要なのか?
日本国内でのビジネス経験があっても、海外進出となると全く違う環境や前提条件に立ち向かうことになります。
通貨、法律、文化、顧客層、競合環境、物流体制――これらの違いを踏まえた上で、どのように事業を進めていくのかを可視化し、言語化するのが「海外展開用の事業計画書」です。
事業計画書は、単なる社内用の整理資料ではありません。
金融機関や自治体の補助金申請、JETROなど支援機関との連携、現地パートナーや投資家への説明にも使われる、いわば「海外展開のパスポート」です。
また、作成するプロセス自体が重要です。
市場やターゲット、課題や制約を言語化していく過程で、事業戦略がより具体的に定まり、リスク対策や代替案の検討にもつながります。
つまり、海外進出のスタートラインに立つ前に、どこまで具体的に未来を描けるか――それを形にするのがこの計画書の役割です。
海外進出の2タイプ──輸出型と投資型
ひとくちに「海外進出」と言っても、その形態には大きく2つのタイプがあります。
それぞれのモデルによって、計画書に求められる情報や観点が異なるため、あらかじめ違いを理解しておくことが重要です。
輸出型:国内拠点を維持しながら海外に販売するモデル
輸出型は、日本国内で生産・提供する商品やサービスを、海外の顧客に向けて販売するスタイルです。
現地に拠点を持たないため、比較的コストやリスクが低く、海外展開の第一歩として選ばれることが多いモデルです。
このモデルでは、商品の輸送ルート、通関や現地の規制対応、販売代理店との契約内容などが計画書の要点になります。
また、為替リスクや文化的な受容性、価格設定なども重要な検討項目です。
投資型:現地に法人や拠点を設けて事業を展開するモデル
投資型は、進出先の国や地域に現地法人、営業所、工場などを設立し、拠点を持ってビジネスを行うスタイルです。
現地での雇用創出、地場企業との連携、インフラへの対応など、より広範かつ中長期的な視点が求められます。
当然ながら、初期投資やリスクも大きくなります。
現地法制度への適応、労務管理、税制、資金調達、撤退時のシナリオなども盛り込む必要があります。
このモデルでは、計画書の内容もより複雑になり、求められる情報量も多くなるのが一般的です。
テンプレートに沿って書く!具体記入例と解説(全22項)
ここからは、ダウンロードできるテンプレートに沿って、各項目をどのように記入すればよいかを一つずつ解説していきます。
ポイントは、「なぜその情報が必要なのか」と「どのように書くと伝わるか」。
実際の支援現場で中小企業に添削してきた経験から、ありがちなつまずきや記入のコツも交えてご紹介します。
輸出型と投資型のテンプレートには共通する構成が多いため、共通フォーマットとして解説しながら、必要に応じて両者の違いや補足ポイントも記載しています。
※一部、投資型にのみ含まれる項目については、個別にその意図と書き方を解説します。
まずは1項目めの「企業概要」から見ていきましょう。
1.企業概要
「企業概要」は、読み手があなたの会社を最初に知る入り口となる項目です。
相手はあなたのことをまったく知らない、という前提で情報を簡潔かつ正確に伝える必要があります。
【書くべき内容】
- 会社名(法人格含む)
- 所在地
- 設立年月
- 資本金
- 代表者氏名
- 従業員数
- 事業内容(主力商品・サービス)
- 主要取引先(あれば)
形式的な情報に見えるかもしれませんが、信頼性の判断材料になるため、特に融資・補助金の申請では省略せず記載するのが望ましいです。
【記入時のコツと注意点】
- 事業内容は「自社視点」ではなく「相手に伝わる」表現にすること
例:
NG:○○の製造・販売
OK:建築資材として使用される断熱パネルを、工務店や建材卸に提供 - 実績や得意分野があれば簡潔に加える
例:国内では○○件以上の納品実績がある、などは強みとして記載可 - まだ法人化前の段階でも、今後の設立予定や準備状況を記載
支援機関や金融機関が「今後の発展性」を見るうえで有効です - 海外から見て不明な略称や業界用語は避ける
読み手が日本の制度や業界に詳しいとは限らないため、わかりやすさを重視します
【投資型ならではの補足】
投資型の場合、企業概要に「海外拠点設立予定」「現地法人名(予定)」などの記載が加わるケースがあります。
現地法人の詳細は後の項目で説明しますが、ここでも一言ふれておくと、計画全体の流れが伝わりやすくなります。
2.経営理念(ビジョン・ミッション・バリュー)
この項目は、「あなたの会社は何を目指していて、どんな価値を社会に届けたいのか?」を伝えるセクションです。
海外展開という大きな意思決定の背景には、必ず企業としての信念や姿勢があるはず。
ここでそれを明確にしておくことで、事業計画全体に一貫性と説得力が生まれます。
【書くべき内容】
- ビジョン(Vision):将来どうなっていたいのか。企業が目指す姿。
- ミッション(Mission):自社が存在する理由、果たすべき社会的役割。
- バリュー(Value):日々の行動や判断を支える価値観。
【記入時のコツと注意点】
- 「カッコよく見せる」ではなく「自社らしさを言語化する」ことを意識
→ テンプレートを埋める作業にしない。
社員や顧客に語りかけるような言葉を使う。 - 海外展開との接点があるとさらに良い
→ 例:「世界の○○市場で、日本の○○技術を広める」など、海外と理念が自然につながると全体が締まる。 - バリューは実際の行動と一致しているかを確認
→ 理念と現実のギャップが大きいと、読み手(特に支援機関や金融機関)には見抜かれてしまう
【投資型ならではの補足】
投資型では、現地に人を送り込んだり、雇用を生み出したりするため、企業理念が現地文化とどう接点を持つかも重要です。
例:多様性や協働、地域共生を理念に含めている企業は、現地との関係構築にも強いと評価されることがあります。
3.知的財産・知的資産の把握(強みの構成要素)
この項目では、海外展開における自社の競争優位性=「強み」の源泉を可視化します。
単なる特許や商標だけでなく、経験・ノウハウ・人材・取引先との信頼関係など、目に見えない資産も含めて棚卸しすることで、どの資源をどう活かすべきかが見えてきます。
【書くべき内容】
テンプレートにあるとおり、以下の観点で整理しましょう:
国内:
- 知的財産権(特許・実用新案・意匠・商標など)
- 知的財産(製造技術、業務マニュアル、デザイン等)
- 知的資産(人的資源、顧客との関係、ブランド、ノウハウ、信用など)
海外:
【記入時のコツと注意点】
- 上記3点に該当するものを、展開先国ごとに記載
→ 海外での商標登録状況や、現地パートナーとの関係性なども含めてOK
- 形がある・ないに関わらず、強みを数値や事実で補足する
→ 例:「〇年連続で品質クレームゼロ」「全従業員が資格保有」など - 「それがなぜ強みになるのか?」を一言で補足すると説得力UP
→ 例:「○○業界では独自の調合技術が求められるため、当社の製法は差別化要因となる」など - 海外での活用可能性も一緒に書く
→ 現地での使用や展開の可否(言語や法制度的に問題ないか)に触れておくとよい
【投資型ならではの補足】
投資型では、「自社の強みを現地に移転して展開する」ことになるため、技術流出・知財管理のリスクにも触れておくと良いです。
たとえば、「製造技術のうち核心部分は国内に留める設計にしている」など、リスク回避策も書いておくと信頼されやすくなります。
4.国内事業
このセクションでは、海外進出を検討するにあたって「現在の国内事業の現状」を整理します。
海外展開は単なる新規市場開拓ではなく、国内で抱える課題の解決策であることが多いため、ここでの棚卸しが非常に重要です。
(1)国内事業のSWOT分析
【書く目的】
現状の強み・弱み、そして事業環境の機会・脅威を整理し、「なぜ海外進出が今、必要なのか」を客観的に把握します。
【記載ポイント】
- Strength(強み):
製品力、品質、人材、長年の顧客、ノウハウなど - Weakness(弱み):
営業力不足、原材料依存、設備老朽化、ブランド力の弱さなど - Opportunity(機会):
海外市場の需要拡大、国際的なサプライチェーン化、円安など - Threat(脅威):
国内市場縮小、競合の台頭、資材高騰、人材不足など
【記入時のコツ】
- 「強み×機会」を伸ばす方向で、海外展開とつなげるととても良い
- 「弱み×脅威」は、国内事業の限界や、進出の必然性に繋げられると良い
- SWOTは「良し悪し」ではなく「事実の棚卸し」なので、冷静に書くのがポイント
(2)国内事業の課題
【書く目的】
SWOT分析で見えた「弱み・脅威」をもとに、ビジョン・ミッションの実現を妨げている要因を具体的に記述します。
【記載例】
- 自社製品の国内市場が縮小し、価格競争が激化している
- OEM比率が高く、ブランド構築が進んでいない
- 地方立地により、専門人材の採用が難しい
【記入時のコツ】
- 「それを解決する手段が、海外進出である」ことが見えてくるように書く
- あえて課題を明確にすることで、支援機関も「納得感のある進出理由」として捉えてくれる
(3-1)【現在】主たる国内事業のビジネスモデル
【書く目的】
自社の国内での事業構造(商流・物流・顧客・パートナーなど)を図で示すことで、現在の体制や構造の全体像を示します。
【書き方のヒント】
- 【商流図】:自社⇔代理店⇔エンドユーザーのような流れ
- 【物流図】:製造〜倉庫〜配送などの物流動線
- できれば取引額や数量、リードタイムなども補足すると◎
(3-2)【将来】海外展開後の主たる国内事業のビジネスモデル
【書く目的】
海外展開後に国内事業がどう変わるかを、同じ形式で記述します。進出後の役割変化や期待効果を可視化します。
【書き方のヒント】
たとえば:
- 国内製造→海外で販売:販売チャネルが増える
- 国内→海外拠点で組立・出荷:物流再構成が必要
- 物流拠点がどこに置かれるか、受発注の流れはどう変わるか?など、海外展開による影響範囲を具体化することが重要
5.海外展開事業計画(準備編)
このパートでは、「なぜ今、海外進出なのか?」「どこまで成果を期待するのか?」といった進出の意義や戦略を具体化していきます。
テンプレ上も中核になるパートなので、読み手の納得を引き出すには、ここを丁寧に整理するのがカギです。
(1)海外展開の目的
【書く目的】
海外展開が「自社の経営課題の解決手段である」ことを明確に示すためのパートです。
単に「売上を伸ばしたい」ではなく、国内事業の課題を踏まえて、海外展開によってどのような本質的課題が解決できるのかを書きます。
【記載の視点】
- 「既存市場の縮小を打開するため」
- 「新規事業展開にあたり、海外市場にしか存在しないニーズがある」
- 「国内で解決できない人材・調達課題を補完するため」など
【記入時のコツ】
- 経営者視点で、将来の会社全体の方向性と結びつけて記述する
- 補助金申請や金融機関提出用であれば、「合理性」や「客観的な背景データ」が入っていると信頼度が上がる
(2)海外展開の目標
【書く目的】
展開の意義だけでなく「いつまでに・どこまで達成するのか?」を明確にするパートです。
定性的な目標だけでなく、定量目標も明記して「実現可能な戦略」であることを示します。
【記載の視点】
- 3年後・10年後の2軸で記載する(短期・中長期)
- 定性目標:ブランド確立、現地ニーズのフィット、信頼関係の構築など
- 定量目標:売上、利益、取引社数、導入件数、現地雇用人数など
【記入時のコツ】
- 支援機関など第三者が読んだときに、「進捗管理可能な数字」が含まれていると評価されやすい
- ただし、過剰な野心はリスクと見なされるため、実現可能性重視で構成する
(3)海外事業のSWOT分析
【書く目的】
国内SWOTと同様に、現地展開を視野に入れた「海外展開に関する強み・弱み、機会・脅威」を整理します。
現地環境や競合との関係性を見据え、海外展開のリスクと勝算を分析することが目的です。
【記載の視点】
- 強み:他社にない商品特性、価格競争力、技術力、現地パートナーなど
- 弱み:販路の未整備、語学や商習慣への対応、資金体力不足など
- 機会:現地市場の拡大、日系ブランド志向、現地優遇政策など
- 脅威:為替変動、政治・法制度リスク、模倣リスクなど
【記入時のコツ】
- 国内SWOTと重複する項目はあってもよいが、「海外独自の視点」を意識して補足する
- 展開先が複数ある場合、国別に分けるか、共通要素・違いを整理して書くと分かりやすい
(4-1)海外事業の課題
【書く目的】
海外展開にあたって直面するであろう「弱みや制約条件」を、あらかじめ明らかにし、無理のない計画設計につなげることが目的です。
日本での感覚では気づかない落とし穴を、客観的に洗い出しておくフェーズです。
【記載の視点】
- 現地の販路やマーケティング知識が乏しい
- 商習慣・宗教・言語などへの理解不足
- 外資規制や税制など、制度上のハードル
- 人材・パートナーの確保が不透明 など
【記入時のコツ】
- 「弱み=悪」ではなく、「現時点で足りていないものを冷静に可視化」する意識で
- あとで解決可能なことは正直に記述し、次の項目で検証する流れを意識
(4-2)海外事業の課題の検証
【書く目的】
前項で挙げた課題のうち、「進出前に解決すべきもの」「進出後に現地対応するもの」「外部支援に頼るべきもの」などを分類・評価することで、進出準備の優先順位を明確にします。
【記載の視点】
- 現地法制度やライセンス問題:進出前に確認が必要
- 営業・流通チャネル:現地パートナーの選定や、現地入り後の検証でも可能
- 社内の人材不足:社内教育・外部採用など、段階的に対応可能かを検討
【記入時のコツ】
- 対応の「難易度」や「スピード感」の違いで分類すると整理しやすい
- 各課題に対して、「対応方法」「時期」「誰がやるか」まで言及できると計画の完成度が高く見える
(5-1)海外事業のビジネスモデル【既存(もしあれば)】
【書く目的】
すでに海外で展開している事業がある場合、その商流・物流の流れや構造を明示することで、関係者(支援機関や金融機関など)に現状を正確に把握してもらうことが目的です。
【記載の視点】
- 海外で販売している製品・サービスと、その販売方法
- 顧客ターゲットと販売チャネル(BtoB、BtoC、代理店経由など)
- 製造拠点・物流フロー(日本→現地/現地内完結など)
- 現地パートナーの有無、役割、収益分配の仕組み など
【記入時のコツ】
- 商流図・物流図などは図解を入れるのがベスト(手書きでも可)
- 「誰に」「何を」「どうやって」届けているのかを簡潔に伝えること
- 既存ビジネスの強み・弱みがここでも補足できると後工程につながる
(5-2)海外事業のビジネスモデル【新規 今後の予定】
【書く目的】
これから開始する海外進出事業について、構想しているビジネスモデルを明文化し、具体性と実現可能性を示すパートです。
構想だけでなく、実行ステップも含めて描きます。
【記載の視点】
- 新規事業で提供する製品・サービス
- 販売ルートの想定(直販、現地代理店、オンライン販売など)
- 現地製造 or 国内製造のどちらか、または組み合わせ
- 顧客セグメント、提供価値、収益構造 など
【記入時のコツ】
- ビジネスモデルキャンバス(BMC)で整理するのもおすすめ
- 進出先の環境(競合、流通、文化)にマッチした設計になっているかを確認する
- 数字の裏付け(市場規模、価格、粗利など)が少しでもあると説得力UP
(5-3)全社事業のビジネスモデル【新規 今後の予定】
【書く目的】
海外進出を含めた「全社的な事業ポートフォリオの再設計図」を描きます。
単に海外に出るだけでなく、「全体のビジネスにどう貢献するか」を示すことで、戦略性を高める意図があります。
【記載の視点】
- 国内+海外事業の役割分担(収益源、技術拠点、販売拠点など)
- グループ全体としての商流・物流の流れ
- 海外展開によってシナジーが出る部分(在庫最適化、人材活用、技術連携など)
- 経営資源(ヒト・モノ・カネ)の再配置戦略
【記入時のコツ】
- 海外事業を「補助的」ではなく「全体戦略の一部」として扱う視点で書く
- 投資編では特にこの項目が重視されやすいので、実行可能な範囲でしっかり設計する
- 将来的な展望も含めた「全体最適」視点で描けると高評価につながりやすい
6. 海外展開事業計画 (実行編)
(6-1)進出国の検討
【書く目的】
自社にとって最も成果が見込める進出国を選定するにあたって、複数の観点から比較・検討を行い、その妥当性と根拠を明文化します。
【記載の視点】
- 想定している国(複数ある場合は候補国を列挙)
- 対象国のマーケット規模・成長性(ニッチ市場でもOK)
- 現地に競合がいるかどうか/日本製品・サービスの受容性
- 流通構造、販路構築のしやすさ(BtoB/BtoCの違い)
- 文化・宗教・慣習上の障壁
- 生産拠点としての条件(コスト・人材・物流インフラ)
- 進出形態(市場として見るか、生産拠点として見るか、両方か)
【記入時のコツ】
- 「マーケットポテンシャルだけ」で選ばないこと
→ 自社の強みやリソースとの相性を重視 - 検討対象国を1つに絞り込めなくても大丈夫。
複数候補があっても、選定理由を説明できればOK - 現地視察やパートナーとの協議予定がある場合は、それも加えてリアリティを出す
(6-2)対象国の政治・経済・社会
【書く目的】
進出先のマクロ環境(政治的安定性、経済状況、社会構造など)を理解し、自社にとってのリスクと機会を把握することが目的です。
とくに長期的な展開を考えるなら、制度や文化の背景は極めて重要です。
【記載の視点】
- 政治情勢
→ 政治体制、安定性、腐敗レベル、政権交代のリスクなど - 経済情勢
→ GDP成長率、物価水準、為替安定性、購買力、インフレ率など - 社会的要素
→ 宗教、人種構成、言語、教育水準、都市化率 - 日本との関係性
→ 貿易量、FTAの有無、文化的親近感など - 安全保障
→ 治安、テロ・犯罪の傾向、政情不安など
【記入時のコツ】
- 「リスクを避ける」というより「どんな特徴を踏まえるべきか」を冷静に書く
- 特に社会的背景(宗教・言語・教育)はビジネスモデルに大きく影響するため、軽視しない
- 信頼できる一次情報(JETRO、外務省、現地大使館レポートなど)を引用して根拠づけると信頼性UP
(6-3)対象国の政策・制度
【書く目的】
進出先の法制度や政策が自社の投資計画に与える影響を把握し、進出時のリスクやチャンスを明確にする。
これにより「無理のない計画」であることを支援機関に伝える目的があります。
【記載の視点】
- 外資規制の有無(参入制限、出資比率制限など)
- 外資優遇制度(税制優遇、補助金、経済特区など)
- 会社設立・進出手続き(手順、期間、費用など)
- 関連法令(労働法、知財法、環境法など)
- 政策トレンド(脱炭素、ハイテク誘致、国産化促進など)
- 投資先国の産業振興政策と自社の方向性が合致しているか
【記入時のコツ】
- 「○○という制度があるから安心」ではなく、制度がある/ない場合にどう対応するかを書けると良い
- 制度の概要だけでなく、「自社の事業にどんな影響があるか」を一言加えると説得力UP
- 補助金や特区を利用する予定がある場合は、その対象条件やスケジュールにも触れると良い
(6-4)事業形態最適化
【書く目的】
現地における最適な事業形態(独資・合弁・業務提携など)を選定し、その理由を説明することで、リスクと成果のバランスを取った現実的な戦略を示すことが目的です。
【記載の視点】
- 子会社設立(独資 or 合弁)か、委託・提携などの協業型か
- 現地パートナーの有無、相手の役割、提携内容
- 法人登記・契約関係の整理(資本関係・商流の明確化)
- 製造・販売・物流の担い手と責任分担
- ガバナンス(意思決定・現地責任者など)
- 将来的なスキーム変更の可能性(ステップ展開など)
【記入時のコツ】
- 単に「独資でいく」とだけ書くのではなく、その理由(例えば:意思決定の柔軟性、技術漏洩の懸念など)を添える
- 合弁や業務提携の場合は、パートナーとの関係構築状況も簡単に触れておく
- 組織図やフローチャート(簡単なものでOK)があると、支援機関側もイメージしやすくなる
(6-5) 各障壁の検証
【書く目的】
海外進出を実行する上で直面する「実務的な障壁」(資金調達、法務、人材、物流など)を事前に洗い出し、どのように対応を検討しているかを整理することで、計画の実現可能性やリスク認識の高さを伝える。
投資フェーズにおける想定障壁(製造・販売拠点共通):
- 資金調達:邦銀や現地金融機関からの借入可能性、金利差、担保要件など
- 拠点確保:工場・店舗・事務所の適地選定、賃貸・購入条件、インフラ状況
- 原材料・設備:必要な原材料や設備が現地調達できるか、輸入に頼るか
- 許認可・規制:製造・販売に必要な許可や登録の取得の難易度
- 税務・法務・労務:現地の制度に関する知識や専門家との連携体制の有無
- 人材雇用:必要なスキルを持つ現地人材の確保可否、出向者との役割分担
- 異文化対応:出向者やその家族の医療・教育・住環境の整備状況
現地内国販売フェーズにおける想定障壁:
- パートナー:代理店、販売店、ディストリビューターなどの有無と信頼性
- 流通・物流:流通規制、物流コスト、通関対応、在庫保管場所の確保
- 商品仕様:現地文化に合った荷姿・表示・安全基準への対応
- 価格戦略:為替の影響、現地価格帯との整合性、値付けの根拠
- 顧客対応:宗教・文化に配慮した広告やプロモーション、カスタマーサポート体制
【記入のコツ】
障壁があること自体はマイナスではありません。
重要なのは、「何を認識していて」「何を誰と相談しているか」「どこまで目処が立っているか」。
これを1〜2行で整理して書くことで、読み手(支援者側)に実現可能性の高さが伝わります。
(6-6) リスク分析
【書く目的】
海外展開で想定される様々なリスクをあらかじめ洗い出し、それぞれに対してどう備えるか、どこまで検討が進んでいるかを明確にすることが目的です。
これにより、実現性とリスク感度の高さが伝わります。
経営リスク(契約・知財・情報管理など):
- 現地との契約トラブル(ライセンス・販売代理など)の懸念
- 技術やノウハウの漏洩リスク
- 情報漏えい・サイバーセキュリティ対策の有無
調達リスク(原材料・仕入先など):
- 購入先の品質安定性・価格変動リスク
- 主要仕入先の地政学的リスク(例:戦争・通関遅延など)
- 代替サプライヤーの確保可否
生産リスク(製造系のみ該当):
- 生産設備の故障・稼働停止によるBCP
- 品質管理の不備によるクレームやリコール
- 現地環境規制への適合と対応コスト
販売リスク(文化・宗教・マーケティング面):
- 宗教や風俗習慣による表現規制・ブランド毀損
- 現地販売スタッフとの意思疎通ミス
- クレーム対応体制の未整備
バックオフィスリスク(税務・労務・社内管理):
- 現地税制への誤対応、罰金や追加徴税
- 社員の不正や、ローカルマネージャーによる逸脱行動
- 日本側本社との連携不足による意思決定の遅延
社会リスク・自然災害リスク:
- 政治不安、暴動、テロ、政権交代などのリスク
- 洪水・台風・地震・パンデミックなど、自然災害への備え
【記入のコツ】
全てをカバーする必要はありませんが、「うちはこの3点に重点を置いてリスク管理をしています」と絞って説明するのもアリ。
支援側としても、問題意識がどこにあるかが読み取りやすくなります。
(6-7) 撤退条件
【書く目的】
海外事業は進出すればゴールではなく、常に変化する環境の中で「継続か撤退か」を判断する柔軟性が求められます。
この項目では、撤退に至る基準や判断の軸、事前に検討すべきコストや障壁を明記し、リスク管理体制の一環としての位置づけを示すことが目的です。
定量的な撤退基準の例:
- 損益分岐点に達しない状態が〇か月以上継続
- 売上が計画の〇%を下回る状況が〇年間続く
- 為替差損が年間で〇%以上発生した場合
定性的な撤退基準の例:
- 現地パートナーとの信頼関係の継続が困難になった場合
- 政治的リスクや社会情勢が急激に悪化し、事業継続が現実的でなくなった場合
- 本社側の経営戦略が転換し、対象国の市場優先度が下がった場合
撤退にかかる主なコストや手続き:
- 現地法人の清算費用(解約金、違約金、残務処理)
- スタッフの退職金や雇用調整費用
- 在庫・設備の処分・返品・輸送費用など
撤退に伴う障壁や配慮事項:
- 現地取引先や関係機関との信頼関係への影響
- ブランド・評判へのダメージ
- 日本国内の関連部署への影響と代替施策の整備
【記入のコツ】
「撤退」と聞くとネガティブに捉えられがちですが、事業計画書ではむしろ「どこまで準備ができているか」が評価されます。
実際の撤退条件は、現地進出後に具体化することが多いですが、判断軸をあらかじめ持っている姿勢を示すだけでも、読み手に安心感を与えられます。
海外進出の成功率を高めるための+α視点
海外進出の事業計画書は、「作って終わり」ではなく、「実行して成果を出す」ことがゴールです。
そこで本章では、事業計画書を“作って終わり”にしないために、実行後のモニタリングの仕組みや、最新のデジタルツールを活用した作成ノウハウについて、2つの視点から解説します。
事業計画実行後のモニタリングと改善
事業計画の提出後、実際の海外進出が始まると、計画通りに進まないケースは想像以上に多いのが実情です。
だからこそ、進出後にモニタリング(経過観察)と改善(ピボット)の仕組みを設けておくことが重要です。
特に中小企業では、3か月・6か月ごとに下記を見直す運用が現実的です。
- 最初に立てたKPI(売上・シェア・商談件数など)
- マイルストーン(現地パートナー獲得、ライセンス取得など)
また、調査・仮説の修正・販路の再検討などを適宜行うために、F/S(フィージビリティスタディ)調査と連携した体制づくりが鍵となります。
詳細な評価方法や運用例については、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
参考リンク:海外進出前にF/S現地調査はしましたか?
デジタルツール活用のメリットと注意点
最近では、ChatGPTをはじめとする生成AIツールや、Notion、Googleスプレッドシート、Miroなどのクラウド型コラボレーションツールが、事業計画書の作成現場で活用されることが増えています。
たとえば下記などがあります:
- ChatGPT:セクションのたたき台や競合分析の視点出しに有効
- Notion:情報整理と社内共有に便利
- Miro:商流図や組織図の可視化に最適
ただし、注意点もあります。
これらのツールは補助的役割であり、最終的な構成判断や記述の説得力は、自社の方針・戦略に基づいて人が作るべき部分です。
特に海外の文化的背景や現地の規制など、「文脈」が必要な部分はAIに任せるとミスが出やすくなります。
「どこをツールに任せて、どこを自社でしっかり詰めるか」
この線引きを知っておくことが、効率化と信頼性の両立につながります。
【まとめ】この記事のポイントと事業計画書作成の次のステップ
本記事では、中小企業が海外進出で成功するための事業計画書の書き方を、輸出型と投資型に分けて具体的に解説しました。
テンプレートの各項目ごとの記入例と意図を押さえながら、自社の課題や強みを見える化し、進出戦略に落とし込む手法を学ぶことで、書類作成にとどまらない「実行に強い計画書」を目指すことができます。
さらに、現地文化や制度を反映した計画設計、進出後のモニタリングと改善体制の整備、デジタルツールを活用した効率的な作成といった、実務で差がつく+αの視点も紹介しました。
これから事業計画書を作成する方は、今回紹介したステップやポイントを参考に、ぜひ自社に合わせてカスタマイズしてみてください。
計画は、正しい情報で埋めることよりも、手を動かし、汗をかいて更新し続けることが何より大切です。
現場で磨き続ける計画こそ、実行に強く、成果に近づく一歩となります。
【よくある質問】テンプレの使い方・進め方が不安な方へ
Q:テンプレートは無料でダウンロードできますか?
A:はい、記事内で紹介している「輸出編」「投資編」テンプレートは無料でダウンロードできます。
Word形式なのでそのまま入力・編集が可能です。
Q:輸出型と投資型、どちらを使えば良いですか?
A:進出形態によって使い分けます。
現地に法人・拠点を設ける場合は「投資編」、日本から商品を輸出するだけなら「輸出編」をご利用ください。
両方を検討している場合は「投資編」から、どちらか迷った場合は「輸出編」でまずは記載してみてください。
Q:事業計画書を提出する相手によって、書き方を変えた方がいいですか?
A:はい、書き方は変えた方が良いです。
支援機関・補助金申請・金融機関など、提出先によって重視されるポイントが異なります。
テンプレートをベースに、相手が求める情報を補強すると効果的です。
Q:全22項目すべて記入しなければいけませんか?
A:基本的には自社の戦略を言語化する目的で、全項目記入をおすすめしています。
ただし、進出フェーズや提出目的によって省略や簡略化も可能です。
Q:海外進出の成功事例を参考にできますか?
A:はい、記事内や関連リンクに中小企業の成功パターン・事例を紹介しています。
特に「海外ビジネス成功例|中小企業の海外展開に共通する5つの法則」などが参考になります。
【次のアクション】今すぐ始める海外展開の第一歩
まずはテンプレートをダウンロードして、この記事を見ながら1項目ずつ書いてみましょう。
特に、最初の3項目(企業概要・理念・知財の棚卸)を埋めることで、自社の軸や強みが整理され、海外展開の方向性が見えてきます。
テンプレートはこちらからどうぞ:
もし、「書いてみたけど不安」「支援を受けながら進めたい」という方がいれば、お気軽にご相談ください。
このテンプレートが、あなたの海外進出の成功を支える第一歩になりますように!