ペットビジネスの海外展開を考えるとき、「海外のペット市場は成長しているから、自社にもチャンスがある」と考えるだけでは十分ではありません。
ひとくちにペットビジネスといっても、ペットフード、ケア用品、ウェア・玩具、IoT機器、トリミングやホテルなど、その種類によって海外展開の方法は大きく異なります。
商品であれば輸出規制や流通、価格設計を確認する必要があり、サービスであれば、現地パートナーとの提携やフランチャイズなど、そもそも「どう海外で提供するか」から考えなければなりません。
本記事では、海外市場の大きさだけを見るのではなく、ペットビジネスの種類ごとに、海外展開を検討する際の主な選択肢と判断ポイントを整理します。
世界のペット市場動向と成長の背景
世界のペット関連市場は、ここ10年で大きく姿を変えました。
Precedence Researchの調査によると、世界のペットケア市場は2025年の3,460億ドルから2034年には6,435億ドルに拡大すると予測されており、年平均成長率は約7.1%に達しています。
アメリカを中心に「ペットは家族」という価値観が定着し、2024年の世界市場規模は約3,600億ドル(約54兆円)に到達。
今後も年平均5〜6%で成長が続くと予測されています。
特に急成長しているのは、アジアと中南米です。
可処分所得の上昇に加え、共働き世帯や単身世帯の増加がペット需要を押し上げています。
欧米では高齢化した飼い主層が「健康」「持続可能性」を重視し、オーガニックフードや医療サービスの支出が増加。
一方、東南アジアや中国では「初めてペットを飼う層」が急拡大し、フード・トイレ用品・ウェア・ケア用品といった“生活必需型”アイテムの購入が進んでいます。
つまり、世界のペット市場は「成熟国=高品質志向」「新興国=新規参入層の開拓」という二極化構造が明確になってきたのです。
この変化を支えているのが、デジタル化と価値観の多様化です。
SNSを通じたペットとの日常発信が一般化し、飼い主の購買行動は「情報→共感→購入」へと移行しました。
その結果、ストーリー性のあるブランドや、健康・サステナビリティを訴求できる商品が支持を集めています。
日本企業にとって、この波は大きなチャンスです。
製品品質や衛生基準の高さは海外でも評価されやすく、特に“安全”“信頼”の領域では優位性があります。
しかし同時に、「どの国で」「どの層に」「どんな価値で」届けるかを明確にしなければ、価格競争に巻き込まれるリスクもあります。
世界のペット市場が成長していることは、日本企業にとっても海外展開を検討する理由の一つになります。
ただし、「ペット市場が伸びている」という情報だけでは、自社がどこへ、どのような方法で進出すべきかは決まりません。
その理由の一つが、「ペットビジネス」と呼ばれる事業の幅広さです。
ペットビジネスは「何を海外展開するか」で進め方が変わる
世界のペット市場が成長しているとしても、すべてのペット関連企業に同じ海外展開の方法が当てはまるわけではありません。
ひとくちにペットビジネスといっても、扱う商品・サービスによって、海外で販売・提供するための条件そのものが異なるからです。
たとえば、同じペット関連事業でも、最初に確認すべきことはこれだけ違います。
- ペットフード:原材料、輸入規制、表示、賞味期限、物流・流通など
- シャンプー・ケア用品:成分規制、商品分類、表示、販売方法など
- 首輪・ウェア・玩具:素材や安全性、価格、販売チャネルなど
- IoT機器:電気・通信関連の規制、アプリやデータの取り扱いなど
- トリミング・ホテル・しつけ:現地拠点、現地企業との提携、フランチャイズなど
特に大きな違いは、「日本から商品を輸出する」のか、「現地でサービスを提供する」のかです。
商品であれば、現地で販売できるかを確認したうえで、輸入会社や販売店などを通じた流通を考えることができます。
一方、トリミングやホテルなどのサービスは、日本からそのまま輸出することはできません。
現地に拠点を設けるのか、現地企業と提携するのか、自社の技術やブランド、運営ノウハウを別の形で展開するのかを考える必要があります。
さらに、同じ「商品」でも違います。
たとえばペットフードでは、動物由来原料の有無や輸出先によって必要な条件が変わることがあります。
実際、各国はペットフードや動物由来製品について個別の輸入・証明要件を設けています。
つまり、「ペット市場が伸びている国」を探すだけでは、進出先は決まりません。
まず整理したいのは、
「自社は海外で何を売るのか、何を提供するのか」
です。
その答えによって、調べるべき市場も、規制も、販売方法も、組むべき相手も変わってきます。
市場規模は、進出先を決める答えではなく、判断材料の一つです。
ペット市場の成長データだけでは、進出先は決められない
ペットビジネスは、扱う商品やサービスによって海外展開の条件が大きく異なります。
だからこそ、進出先を考えるときも、「ペット市場が伸びている国」を探すだけでは十分ではありません。
海外のペット市場を調べると、
「市場規模が拡大している」
「プレミアム化が進んでいる」
「ペットを家族として扱う人が増えている」
といった情報が数多く見つかります。
こうした情報は市場を理解するうえで重要ですが、それだけで「この国なら自社の商品が売れる」と判断することはできません。
たとえば、プレミアムペットフード市場が伸びている国でも、
実際に購入しているのはどの所得層なのか、
犬向けなのか猫向けなのか、
日常的に購入されているのか、
一部の高価格商品が市場規模を押し上げているのか
によって、意味は変わります。
さらにペット関連商品では、飼い主自身が使う一般消費財とは違い、「自分のペットに安心して与えられるか・使えるか」という判断が加わります。
価格やデザインだけでなく、
- 原材料や成分への安心感
- 商品の安全性
- どのようなペットを対象としているのか
- どのような悩みや用途に対応する商品なのか
- 誰が推奨・販売しているのか
といった要素も、購入判断に影響します。
また、
「日本製だから高品質」
「無添加だから評価される」
「日本で人気だから海外でも受け入れられる」
といった日本側の強みが、そのまま現地で購入理由になるとは限りません。
そしてペットフードなどでは、消費者ニーズ以前に、その国で商品を販売できるかという問題があります。
実際に輸入条件は国や製品、使用原料などによって異なり、施設登録や証明書などが必要になる場合もあります。
つまり、見るべきなのは「ペット市場が大きい国」だけではありません。
市場の成長性、自社の商品・サービスとの相性、規制、価格、流通、現地での購入理由まで重ねて、初めて「自社にとって参入する意味のある市場なのか」が見えてきます。
ペットビジネスの海外展開では「誰に売るか」も重要になる
自社が海外で提供する商品・サービスを整理したら、次に考えたいのが「誰に、どのように届けるのか」です。
同じペット用品でも、現地の輸入会社や販売代理店を通じて販売する場合と、現地小売店へ直接販売する場合、ECで消費者へ販売する場合では、自社が担う役割が変わります。
たとえば、輸入会社や販売代理店を通じて販売する場合は、現地の流通網を活用できる一方、自社の商品がどのように販売され、消費者からどのような反応を得ているのかが見えにくくなることがあります。
小売店へ直接販売する場合は、現地の売場や顧客に近づけますが、商談、輸出、物流、販促など、自社で考える範囲は広がります。
ECで消費者へ直接販売する場合も、販売ページを作れば終わりではありません。
商品によっては輸入規制や表示などを確認したうえで、物流、価格、返品・問い合わせ対応まで含めて成立するかを見る必要があります。
特にペットフードなどは、「海外で需要がありそうだから売ってみる」というだけでは進められません。
輸出先や原材料によって必要な手続きや書類が異なるため、販売方法を考える前提として、対象国で販売可能かを確認する必要があります。実際、ペットフードでは輸出先や製品によって求められる書類が異なります。
一方、トリミング、ホテル、しつけなどのサービスでは、考え方がさらに変わります。
商品を「誰に売るか」ではなく、現地で誰がサービスを提供するのか、自社で拠点を持つのか、現地企業と組むのか、ブランドやノウハウを提供するのか、といった事業の形そのものを決める必要があります。
つまり、ペット市場という大きな市場が一つあり、そこへ商品を持っていけばよいわけではありません。
「何を海外展開するのか」に加えて、
「誰に売るのか」
「誰が現地で販売・提供するのか」
「自社はどこまで担うのか」
によって、必要な準備も投資も、海外展開の難易度も変わります。
だからこそ、海外で人気のペット商品やサービスを探す前に、自社がどのような形なら海外で事業を成立させられるのかを考えることが重要です。
「売れそうか」より先に規制確認が必要な場合がある
ペットビジネスの海外展開では、市場性と同時に確認しておきたいのが、対象国でその商品を販売できるかという点です。
特にペットフードや動物由来原料を含む商品では、国によって輸入条件や必要書類、製品登録、表示などの要件が異なります。
実際、ペットフードについては輸出先によって制度が異なり、製品や原材料によって必要な対応も変わります。
ここで注意したいのは、規制対応を「売る国を決めた後の手続き」とだけ考えないことです。
たとえば、魅力的な市場が見つかっても、
- 現在の原材料や処方のまま輸出できるのか
- 現地で必要な登録や認証にどの程度の時間・費用がかかるのか
- 表示やパッケージの変更が必要なのか
- 現地輸入者などの協力が必要なのか
- 必要な対応をしても採算が合うのか
によって、その市場を最初に選ぶべきかどうかは変わります。
また、ペットビジネスすべてに同じ規制がかかるわけでもありません。
フード、ケア用品、電気・通信機能を持つ製品などでは確認すべき制度が異なり、サービス事業では商品輸出とは別の法規制や事業運営上の条件を確認することになります。
つまり規制は、「専門家に確認してクリアすれば終わり」という後工程ではありません。
どの商品で、どの国へ、どのような方法で進出するのかを決める段階から、事業性と一緒に確認すべき判断材料の一つです。
市場規模が大きくても、自社の商品では対応コストが高すぎることもあります。
反対に、市場規模だけを見れば第一候補ではなかった国が、自社にとっては参入しやすいこともあります。
ペットビジネスの海外展開では、「売れそうな市場」と「自社が事業として参入できる市場」が同じとは限りません。
ペットビジネスの海外展開は「何から確認するか」で結果が変わる
ここまで見てきたように、ペットビジネスの海外展開では、市場が成長している国を見つければ進出先が決まるわけではありません。
自社が扱うのがペットフードなのか、ケア用品なのか、IoT機器なのか、あるいはトリミングなどのサービスなのかによって、確認すべきことも海外展開の方法も変わります。
さらに、同じ商品であっても、進出する国、規制への対応、価格、販売方法、現地パートナーの有無などによって事業の成立条件は異なります。
そのため、すべての企業が同じ順番で海外展開を進めればよいわけではありません。
たとえば、
- ペットフードメーカーなら、候補国で現在の商品を販売できるかという規制確認が最初の重要課題になるかもしれません
- すでに輸出可能な商品を持つ企業なら、現地価格や販売方法の検討が先になるかもしれません
- トリミングなどのサービス企業なら、そもそも海外でどのような形でサービスを提供するのかという事業モデルの検討から始まります
- IoT機器などを扱う企業なら、市場性だけでなく、製品規制や通信、データの取り扱いなどをあわせて確認する必要があります
重要なのは、「海外ペット市場では何が売れているか」を調べ続けることではありません。
自社の場合、海外展開を進めるために最初に確認すべきことは何なのかを見極めることです。
市場性、商品・サービス、規制、価格、販路、現地での提供方法、自社の体制。
これらのどこに最初の課題があるのかは、企業によって異なります。
一般的な海外ペット市場の情報を集めても、自社についての答えがなかなか出ないのはそのためです。
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