くら寿司は、2009年に米国、2014年に台湾、2023年には中国大陸へ進出しました。
しかし、その結果は大きく異なります。
米国では当初5年間赤字が続いたものの、2026年7月末には94店舗まで拡大。
台湾でも63店舗を展開する一方、中国では「10年間で100店舗」を掲げながら、わずか2年で全3店舗の閉鎖を決めました。
同じくら寿司でも、なぜこれほど結果が分かれたのでしょうか。
本記事では、米国・台湾・中国での展開を比較しながら、海外市場で何を変え、何を変えないのかを考えます。
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くら寿司の海外進出は、最初から成功していたわけではない
くら寿司が最初に海外へ進出したのは2009年。米国カリフォルニア州アーバインに1号店を出店しました。
しかし、最初から順調だったわけではありません。
当初は日本と同じようなメニューを提供していましたが、アジア系以外の顧客にはなかなか受け入れられず、1号店の開店から5年間は赤字が続きました。
そこで、カリフォルニアロールなどの巻き寿司を増やし、現地の嗜好に合わせてメニューを変更していきます。
その後、2014年には台湾へ進出。さらに2023年には中国大陸へ進出し、「10年間で100店舗」という目標を掲げました。
米国、台湾、中国と市場を広げてきたくら寿司ですが、それぞれの市場で同じ方法を取ったわけではありません。
その違いが、各市場での結果にも表れています。
米国では「日本と同じ寿司」を変えて94店舗まで拡大
米国での苦戦を受け、くら寿司はメニューの現地化を進めました。
カリフォルニアロールなど巻き寿司の種類を増やし、現地の顧客が親しみやすい商品を取り入れていきます。
一方で、すべてを米国向けに変えたわけではありません。
寿司皿をカバーする「鮮度くん」やオーダーレーン、食べ終えた皿を使ってゲームを楽しめる「ビッくらポン!」など、くら寿司独自の仕組みは米国にも導入しました。
つまり、変えたのは現地の顧客に合わなかった部分であり、くら寿司ならではの体験まで手放したわけではありません。
その後は出店地域も広がり、2026年7月末には米国94店舗まで拡大しています。
海外進出における現地化とは、日本式をすべて捨てることではなく、「何を変え、何を残すのか」を見極めることだと分かります。
台湾では「ほぼ日本と同じ」で63店舗まで拡大
米国ではメニューの現地化が必要でしたが、台湾では異なる展開となりました。
くら寿司によると、台湾では「日本と同じシステム、ほぼ同じメニュー構成」で店舗を展開しています。
オーダーレーンや「ビッくらポン!」など、日本で提供してきた仕組みもそのまま導入。日本のアニメキャラクターとのコラボ企画なども支持され、店舗を増やしてきました。
2014年の1号店開店から約12年。2026年7月末には63店舗を展開しています。
米国では変える必要があったものが、台湾では大きく変えなくても受け入れられました。
「海外だから現地化する」のではなく、その市場の顧客にとって何を変える必要があるのかを見極めることが重要だと分かります。
「10年で100店舗」から2年で撤退|中国で何が起きたのか
くら寿司は2023年6月、中国大陸1号店を上海に出店しました。
中国の外食市場を約100兆円規模と見込み、「10年間で100店舗」という大きな目標を掲げ、その後上海に3店舗まで出店します。
しかし、2025年6月には全店舗の営業終了を決定。年末までに3店舗すべてを閉店し、上海法人も解散・清算することになりました。
台湾子会社の年次報告書では、中国大陸の消費市場の低迷を受けて撤退を決めたと説明されています。また、くら寿司の田中邦彦社長も、利益が出ていなかったことを撤退理由として挙げています。
わずか2年前には100店舗を目指していた市場から、なぜこれほど早く撤退することになったのでしょうか。
中国市場の低迷だけで説明できるのか、他の日本企業の動きと比較してみます。
中国市場の低迷だけでは説明できない|同じ時期の日本企業はどう動いたか
中国の消費低迷は、くら寿司だけが直面した問題ではありません。
同じ時期、中国で事業を展開する日本企業は、それぞれ異なる対応を取っています。
- MUJI:売上を二桁伸ばしながら、新規出店も継続
- ニトリ:不採算店舗を整理する一方、新規出店も継続
- ダイキン:需要減少の中でも高水準の利益を維持
- ヤクルト:工場を閉鎖して固定費を削減しながら、販売は回復
- くら寿司:上海3店舗をすべて閉鎖し、現地法人も清算
ただし、これらの企業を単純に比較することはできません。
くら寿司は寿司チェーンという業態です。
中国進出直後の2023年には、福島第一原発の処理水放出に伴う中国の日本産水産物の輸入停止や、中国国内世論の反発による売上への影響について、くら寿司自身が動向を注視すると説明していました。
さらに、くら寿司が中国からの撤退理由として公表しているのは、中国の消費市場の低迷と、利益が出ていなかったことです。
また、くら寿司は中国進出からわずか2年、店舗も3店舗でした。一方、MUJIやニトリ、ダイキン、ヤクルトは、すでに長年中国で事業を展開し、店舗網や生産・販売などの事業基盤を築いています。
輸入規制や消費低迷、事業基盤の違いのうち、何が撤退を決定づけたのかを外部から断定することはできません。
ただ、同じ中国市場でも、業種や進出時期、事業基盤によって受ける影響も、取り得る選択肢も異なることが分かります。
海外進出では「市場が成長しているか」だけでなく、市場環境が変化したときに、自社の事業がどのような影響を受け、どこまで対応できるのかをあらかじめ考えておくことも重要です。
ここまで読んで、
「海外進出では、最初に決めた戦略をどこまで続け、いつ見直せばよいのか」
と感じた方へ。
実際、海外市場では、進出前に想定した通りに事業が進むとは限りません。
重要なのは、市場や顧客の反応を見ながら、「何を変えるか」「何を残すか」「どこで見直すか」を判断することです。
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中国撤退でも海外進出は止めない|次は台湾からタイへ
中国大陸では全店舗を閉鎖したくら寿司ですが、海外展開そのものを縮小したわけではありません。
米国と台湾では引き続き店舗展開を進め、さらに2027年にはタイ・バンコクへの進出を予定しています。
タイ事業を担うのは、日本本社ではなく、台湾で事業を展開してきた子会社のKura Sushi Asiaです。
つまり、中国で利益が出ないと判断すれば撤退する一方、成長できると判断した市場では投資を続け、新しい市場にも進出するということです。
一つの国から撤退することと、海外展開そのものを諦めることは同じではありません。
海外事業では「進出するか」だけでなく、「続けるか、変えるか、撤退するか」を市場ごとに判断し続けることも必要です。
中小企業がくら寿司の海外進出から学べること
くら寿司の事例を見ると、海外進出に「この方法なら成功する」という一つの正解がないことが分かります。
米国では、日本と同じメニューでは受け入れられず、商品を現地向けに変えました。一方、台湾では、ほぼ日本と同じメニューやシステムで店舗を拡大しています。
重要なのは、「海外だから現地化する」ことではなく、現地の顧客にとって何を変える必要があり、何を変えなくてもよいのかを見極めることです。
また、中国では「10年間で100店舗」という計画を掲げながら、利益が出ない状況を受けて2年で撤退しました。それでも海外展開そのものは止めず、次はタイへ進出します。
中小企業にとっても、進出時に立てた計画を守り続けることが目的ではありません。
市場や顧客の反応を確認しながら、続ける、変える、撤退する。そして別の市場へ進む。
海外進出では、最初の計画を正解にすることよりも、現地で得た事実をもとに判断を更新していくことが重要です。
自社の場合、「何を変え、何を残すか」を整理する
実際の海外進出では、
「日本で売れている商品を、そのまま海外へ持っていってよいのか」
「現地向けに何を変える必要があるのか」
「どの市場から始めるべきか」
「今の販売方法や体制で海外事業を続けられるのか」
など、企業ごとに判断すべきことが異なります。
くら寿司も、米国では商品を現地向けに変え、台湾では日本に近い形で展開し、中国では撤退を選択しました。
大企業の事例を参考にすることはできますが、最終的には自社の商品、市場、予算、人材に合わせて、「何を変えるか」「何を残すか」「どこから始めるか」を決める必要があります。
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