貿易業務に興味を持ちはじめた方や、これから貿易実務を学ぼうとしている方にとって、
「そもそも貿易とは何か」
「どんな手続きがあるのか」
といった基本を押さえることはとても大切です。
本記事では、貿易実務の基本的な流れや必要な知識を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
貿易業務を行う上で押さえるべきポイントを理解すれば、よりスムーズな実務が可能になります。
貿易実務とは
貿易実務とは、国際的な市場で商品やサービスを取引する際に必要な、契約・決済・輸送・通関などの一連の手続きを指します。
たとえば、輸出業者と輸入業者が商品の売買契約を交わし、代金を決済し、適切な輸送手段を使って届け、税関を通して正式に受け渡しが行われます。
こうした手続きを理解することは、実際に貿易ビジネスに関わる際の土台となります。
初心者でもこの全体像を知っておくことで、貿易実務の「問題点」や重要なポイントにも気づきやすくなります。
貿易実務の流れを知ろう
貿易実務には、契約から輸送、通関、決済まで、いくつかの重要な手続きがあります。
このセクションでは、貿易の基本フローを初心者にもわかりやすく整理して紹介します。
まずは、輸出者と輸入者が取引条件を合意する「契約」からスタート。
その後、製品の準備と並行して「輸送手配」や「通関手続き」を進めます。
商品が輸入国に到着すると、再度の通関と最終的な「代金決済」が必要です。
一連の流れを理解しておくことで、貿易実務に関する問題を未然に防ぎ、スムーズな取引につながります。
ステップ① 契約を学ぼう
貿易における契約は、取引を安全・確実に進めるための要(かなめ)です。
契約では、商品名や数量、価格、納期、輸送方法、支払条件などを明記し、輸出者と輸入者の権利と義務を明確にします。
国によって貿易関連の法律も異なるため、契約を結ぶ際には法規制も考慮しましょう。
しっかりとした契約内容は、後のトラブルを防ぐ鍵となります。
ただし、すべての貿易取引で契約書を交わすとは限りません。
実務の現場では、見積書と発注書のみでやり取りが完了するケースも多く見られます。
たとえば、当事者間で「改めて契約書を作成する必要はない」と合意し、見積書に以下の内容が明記されていれば、契約として成立することがあります:
- 商品名(例:化学薬品、精密部品など)
- 数量(例:100台、1,000個など)
- 価格(例:1台あたり500USD、総額50,000USDなど)
- 納期(例:2026年1月末までに納品 など)
- 輸送方法(例:海上輸送、航空輸送、コンテナ便など)
- 支払い条件(例:前払い(T/T)、信用状決済(L/C)など)
- 通貨(例:USD、JPYなど)
- 建値(例:CIF、FOBなど)
- インコタームズ(輸送・保険・リスク負担の分担ルール)
- 保険条件(どこまで誰が保険をかけるか)
- 原産国(その商品がどの国で生産されたか)
また、見積書や発注書の裏面に印刷された約款(裏面約款)が、事実上の契約条件として機能することもあります。
これは、初期設定として組み込まれていることが多く、サインした当事者がその存在や内容に気づかないまま合意している場合もあるため、十分な注意が必要です。
特に英文契約書や英文約款は、面倒でも一度は日本語に翻訳して社内で内容を共有・確認することが重要です。
内容に不安がある場合や判断が難しい場合は、国際弁護士に相談するか、行政の無料窓口相談などを利用するなど、慎重に進めましょう。
海外取引において「慎重すぎて失敗する」ことはほとんどありません。
むしろ、急がば回れの姿勢こそが、安全な契約・取引の基軸になります。
ステップ② 輸送と物流を整えよう
貿易において、国際輸送と国際物流は商品を確実に届けるための心臓部です。
ここを理解しておくことで、取引全体のスムーズさと安全性が大きく変わります。
国際輸送にはさまざまな方法がありますが、主に使われるのは次の2つです。
商品の特性や納期、コストに応じて、最適な輸送手段を選びましょう:
- 海上輸送:低コスト・大量輸送に向いており、もっとも一般的
- 航空輸送:高価な商品や納期が厳しい場合に有効
それぞれの長所・短所を理解して、状況に応じた手段を選ぶことが大切です。
次に重要なのが国際物流の全体設計です。
国際物流とは、生産地から消費地までの在庫・輸送・納品の流れ全体のことを指します。
効率的な物流体制を構築するためには、以下のような視点が求められます:
- 倉庫や配送業者の選定
- 各国の通関条件や書類確認
- リードタイム(納期)の管理
- サプライチェーン全体の可視化と最適化
とくに、信頼できる国際運送会社との関係構築は、安定した物流のカギを握ります。
海外に拠点がある業者は、現地対応が早く、トラブル時の対応にも強いです。
また、リスク管理も忘れてはいけません。
輸送中に破損や遅延などの問題が起こる可能性もあるため、海上保険などへの加入も重要です。
保険に関する詳しい内容は、後ほどの「貿易実務で重要な保険の知識」でご紹介します。
輸送と物流の整備は、コスト削減・顧客満足・ビジネス全体の安定に直結する基本であり、競争優位につながる要素です。
ステップ③ 決済を安全に進めよう
ステップ③は、貿易実務の中でもとくに重要な「決済」です。
これは、輸出者と輸入者が合意した商品・サービスの代金を支払うプロセスであり、取引の信頼性と安全性が問われる場面でもあります。
決済方法にはいくつかの選択肢があり、代表的なものとして以下が挙げられます:
- 信用状決済(L/C):
銀行が支払いを保証するため、特に初取引や高額取引でリスクを抑えたい場合に適しています。 - 銀行送金(T/T):
とくに「前払い(Advance Payment)」として用いられ、輸出者側のリスクが少ない方法です。 - クレジットカード決済
- 電子決済サービス(例:PayPal、Wiseなど)
近年では、越境ECや中小規模のB2B取引の増加により、クレジットカードや送金サービスの利用が拡大しています。
決済方法の選択は、取引規模・関係性・商習慣に大きく左右されます。
安全でスムーズな決済が実現すれば、信頼関係の構築にもつながり、次回以降のビジネスを有利に進めるきっかけになります。
なお、決済方法それぞれの仕組みや詳細は、後述の「貿易決済の種類」で解説します。
貿易に必要な知識とは
貿易実務を行うためには、いくつかの基本的な知識が欠かせません。
ここでは、初心者がまず押さえておきたい重要なポイントを紹介します。
【基本用語を理解しよう】
まずは、貿易の基本用語を正しく理解することが出発点です。
たとえば:
- 輸出・輸入(商品の国外・国内移動)
- 通関(税関での審査と手続き)
- インコタームズ(輸送・費用負担などの国際ルール)
これらは、契約内容を理解するためにも非常に重要です。
【法律・ルールを知ろう】
次に重要なのは、国際法や貿易関連法規の知識です。
各国の輸出入規制や、EPA・FTAなどの貿易協定の内容を把握することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
【輸送と物流の知識も大切】
貨物をどのように運ぶかを決める「輸送手段の選定」や「物流管理」も、ビジネスの成功に直結します。
コスト・納期・保険リスクなどを総合的に判断する力が求められます。
【コミュニケーション力を鍛えよう】
国際ビジネスでは、文化や商習慣が異なる相手とやり取りすることになります。
そのため、ビジネス英語やマナー、交渉術などのスキルも実務の一部といえるでしょう。
これらの知識を体系的に身につけることで、実務への自信と実行力が大きく変わります。
「貿易実務検定」のような資格取得も、基礎知識の整理におすすめです。
輸出入業務の実務
輸出業務の進め方
輸出業務を円滑に進めるためには、いくつかのステップを順に理解することが大切です。
ここでは、基本的な流れを初心者向けに解説します。
【①市場調査と販売戦略の立案】
まずは、輸出先の市場について調べましょう。
国や地域ごとの需要、競合、文化的背景を把握することで、効果的な販売戦略を立てることができます。
【②商品選定と契約締結】
輸出する商品が決まったら、取引先との売買契約を結びます。
契約には、商品仕様・数量・価格・納期・支払条件・インコタームズなどを明記しましょう。
相手国の規制や慣習もあわせて確認する必要があります。
【③必要書類の準備】
契約が成立したら、輸出に必要な書類を準備します。
たとえば:
- インボイス(Invoice):請求書
- パッキングリスト(Packing List):梱包明細書
- ビーエル/エアウェイビル (B/L AWB)船荷証券/航空貨物運送状
これらは、通関時に不可欠な書類です。
【④梱包と輸送手配】
商品は丁寧に梱包し、破損防止に配慮しましょう。
輸送手段(海上輸送・航空輸送など)を選び、信頼できる運送業者に依頼します。
【⑤通関手続き】
輸出通関は、通関業者に依頼するのが一般的です。
準備した書類を元に輸出申告を行い、税関からの輸出許可通知を取得します。
これで商品は正式に国外へ出荷されます。
輸入業務の進め方
輸入業務のプロセスは、以下のように5つのステップに分かれます。
各段階をしっかり理解して、スムーズに業務を進めましょう。
【①】仕入先の選定と視察
まずは、海外の供給者から仕入れる商品や企業を選定します。
この際、品質・納期・価格の条件を確認すると同時に、信頼性の高い取引先かどうかを判断する必要があります。
多くの場合、現地工場の視察なども含まれます。
【②】契約の締結と仕様確定
取引条件、納期、価格などを確定し、契約書または見積書・発注書を用いた合意を行います。
通貨・建値・インコタームズ・保険条件など、貿易特有の取引情報も明記する必要があります。
【③】国際輸送の手配
契約が成立したら、現地から日本への国際輸送を手配します。
輸送手段(海上・航空など)や、工場から港や空港までの陸送も含めて総合的に検討し、商品の特性や納期に最適な方法を選びましょう。
【④】輸入通関と関税対応
日本に商品が到着したら、税関での輸入申告が必要です。
必要書類(インボイス、パッキングリストなど)を税関へ提出し、関税・消費税を納付します。
書類は仕入先が準備するもの、自社で作成するものの両方があり、事前確認が重要です。
【⑤】国内配送と受け取り
通関手続きが完了したら、国内輸送を経て商品を受け取ります。
ここまでが輸入業務の基本的な流れです。
各ステップでのミスや漏れを防ぐことが、安定した輸入取引につながります。
通関手続きと必要書類
貿易における通関手続きは、輸出入品が国境を越えるために必ず必要なプロセスです。
この手続きが適切に行われないと、輸送の遅延や思わぬコストの発生につながるため、基本を押さえておくことが大切です。
【通関で必要となる主な書類】
- インボイス(請求書)
商品の内容・数量・価格などが記載された書類。税関が課税の根拠とします。 - パッキングリスト
梱包内容や重量、体積などを記載した明細書。貨物の確認に使用されます。 - 原産地証明書(Certificate of Origin)
商品がどの国で生産されたかを証明する書類。
関税の優遇措置を受ける際などに使用されます。 - B/LまたはAWB(船荷証券/航空貨物運送状)
B/L(Bill of Lading):海上輸送用
AWB(Air Waybill):航空輸送用
輸送中の貨物に対して発行される重要な書類で、貨物の所有権や輸送契約の証拠となります。
基本的には、通関時にこれらの書類がなければ貨物を受け取ることができません。
事前に必要書類を揃え、内容の正確性を確認しておくことで、通関の遅延やトラブルを防ぐことができます。
また、通関業者(通関士)との連携も重要なポイント。
不明点があれば早めに相談し、最新の規制や書類要件を確認しておきましょう
貿易決済の種類
海外との取引では、「どう代金を支払うか」がとても重要なポイントです。
貿易決済にはさまざまな方法がありますが、安全性やコスト、取引相手との信頼関係に応じて最適な方法を選びましょう。
本記事では、代表的な4つの貿易決済方法を解説します。
特によく使われるのは、【①信用状決済】と【③銀行送金決済】の2つです。
1. 信用状決済(Letter of Credit: L/C)
- 概要:
輸入者の銀行が輸出者に支払いを保証する方法。
輸出者が指定された書類を揃えれば、銀行から確実に代金を受け取れます。 - 特徴:
輸出者にとって安全性が高く、初取引や信頼関係がまだ築けていない相手との取引に向いています。
書類不備があると支払いが拒否されるため、慎重な運用が必要です。 - 実例:
輸出者が船積書類(例:B/L)を銀行に提出 → 銀行が書類を確認 → 輸入者に代金請求 → 支払い実行。
2. 信用状なし荷為替手形決済(D/P決済、D/A決済)
- 概要:
信用状を使わず、荷為替手形によって代金を回収する方法。
D/P(Documents against Payment):代金支払いと引き換えに書類を渡す
D/A(Documents against Acceptance):手形承諾と引き換えに書類を渡す - 特徴:
信用状がないためリスクは高まりますが、手続きがシンプルでコストは低め。 - 実例:
輸出者が書類と手形を銀行へ → 輸入者が支払う(または承諾)→ 書類が引き渡され、貨物が受け取れる。
3. 銀行送金決済(T/T: Telegraphic Transfer / Wire Transfer)
- 概要:
輸入者が輸出者の銀行口座に直接送金する方法。
前払い、出荷後払い、到着後払いなど、柔軟な対応が可能です。 - 特徴:
信用状に比べコストが低くスピーディ。ただし、
前払い:輸入者がリスクを負う
後払い:輸出者がリスクを負う - 実例: 輸入者が商品到着後に送金、または信頼関係がある場合は前払いなど、取引条件に応じて対応。
4. 取引信用保険付きの掛売り(Open Account with Trade Credit Insurance)
- 概要:
輸出者が商品を出荷し、輸入者が後払いで代金を支払う方法。
信用リスクを減らすために、取引信用保険(貿易保険)を付けることがあります。 - 特徴:
信頼関係が築かれた相手との継続的な取引に向いています。
保険があることで、輸出者は「代金未回収」などのリスクを軽減できます。 - 実例:
支払い期日が90日後 → 万が一輸入者が支払わなかった場合、保険により損害の一部が補填されます。
「どの決済方法を選ぶか」は、金額、取引相手との関係、国の商習慣などにより異なります。
安全性を確保しつつ、コストやスピードも考慮するのがベストです。
インコタームズを理解しよう
インコタームズとは?
インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC)が定めた「貿易取引における責任分担と費用負担のルール」です。
これにより、売主と買主の「義務・費用・リスクの範囲」が世界共通で明確に定義され、トラブル回避や取引の効率化が実現できます。
たとえば、FOB(Free On Board)では、輸出港で商品が船に積み込まれるまでが売主の責任。
その後のリスクや費用は買主側に移るという仕組みです。
代表的なインコタームズ例
- FOB(Free On Board)
…港で船積み完了までが売主の責任。最も利用される条件のひとつ。 - CIF(Cost, Insurance and Freight)
…運賃と保険料を売主が負担する条件。買主は港で荷物を受け取るだけ。 - EXW(Ex Works / 工場渡し)
…売主の工場で商品を引き渡す最もシンプルな条件。輸送リスクは買主が全て負担。
インコタームズ2020の11規則一覧
インコタームズは約10年ごとに改定され、最新版は「インコタームズ2020」。
以下の11種類が定められています:
- EXW(工場渡し)
- FCA(運送人渡し)
- FAS(船側渡し)
- FOB(本船渡し)
- CFR(運賃込み)
- CIF(運賃保険料込み)
- CPT(運賃込み)
- CIP(運賃保険料込み)
- DAP(仕向地持ち込み)
- DPU(仕向地持ち出し)
- DDP(関税込持ち込み)
それぞれが「引き渡しのタイミング」や「誰が費用・リスクを負担するか」を定めており、取引内容に応じて適切な条件を選ぶことがカギになります。
貿易実務で重要な保険の知識
国際貿易では、商品の輸送中や取引先とのトラブルによる損失リスクが常につきまといます。
そのため、適切な保険に加入することは、安定した貿易実務を行ううえで欠かせないポイントです。
ここでは「海上保険」と「貿易保険」、そしてその違いについてわかりやすく解説します。
海上保険とは?
海上保険は、海上輸送中の事故・損害に備える保険です。
例えば、以下のようなリスクが対象になります:
- 船舶の沈没や火災
- 貨物の破損や紛失
- 海賊による盗難など
国際輸送では海上輸送が主流であるため、海上保険はもっとも基本的かつ重要な保険の一つです。
主な契約形態:
- 全損保険(Total Loss)… 貨物すべてが失われた場合に補償
- 分損保険/一般平均保険(Particular/General Average)… 一部損害や共同犠牲に対する補償
貿易保険とは?
貿易保険は、政府系金融機関 NEXI(日本貿易保険) によって提供されているもので、
輸出先の信用リスクや政治リスクをカバーする保険です。
カバーされる主なリスクは:
- 買主の倒産や支払遅延による債権回収不能
- 戦争・政変・外貨送金規制などの政治的リスク
- 輸出手形の不履行 など
企業が「後払い」や「掛売り」で取引を行う際、代金回収が不安な場合に強力な後ろ盾となります。
海上保険と貿易保険の違い
海上保険は 貿易保険の中の一種ともいえますが、貿易保険はより包括的にリスクをカバーするものです。
注意点:
貿易保険はすべての取引先に適用できるわけではなく、NEXIの審査や条件によっては適用外となるケースもあります。
海上保険と貿易保険の違い一覧です:

信頼できる保険を選び、適切に活用することで、国際取引における安心感と安定性が格段にアップします。
貿易実務において「保険の知識」はまさにリスク対策の中核を成すものです。
なぜ貨物保険はすべて海上保険と呼ぶのか?(番外コラム)
国際貿易においては、不思議なことに、航空輸送でも陸上輸送でも全ての貨物保険が「海上保険」と呼ばれています。以下にその理由を詳しく説明します。
海上保険の歴史的な背景
国際貿易は古くから海上輸送を中心に行われてきました。特に大航海時代(15世紀~17世紀)以降、世界各国との貿易は船を使って行われることが一般的でした。
この時代に、海上輸送に伴うリスク(沈没、海賊、天候など)に対応するため、海上貨物に保険をかける「海上保険」が発展しました。
この「海上保険」が現在の貨物保険の起源であり、保険業界における標準的な名称として定着しました。
貨物保険の伝統と慣習
海上保険は保険市場において、他の保険(陸上保険や航空保険)よりも早く確立されました。そのため、国際貨物保険全体を指す場合でも、歴史的な慣習として「海上保険」という用語が使われ続けています。
海上保険の包括的な意味合い
以上のように、「海上保険」という名称は、海上輸送が国際貿易の主流だった時代の歴史的背景と、長年の保険実務に根ざした伝統に基づくものです。
今日では、たとえ航空便や陸送が使われる場合であっても、「海上保険」という呼び名のもとに包括的な貨物保険が提供されるのが一般的です。
実務においても、この用語がそのまま使われている点を理解しておくとよいでしょう。
貿易取引の法規と規制
貿易活動には、各国の法律や規制が深く関係しています。
これらを正しく理解し、遵守することが、海外ビジネスを安全に進めるための基本です。
ここでは、日本での輸出入時に関係する主な法律を紹介します。
日本へ輸入する際の法律
日本に商品を輸入する際には、主に「健康・安全・環境・知的財産」に関わる法律に注意が必要です。
以下の法律は、その代表例です:
- 食品衛生法:
食品の安全性確保のための基準 - 植物防疫法・動物検疫法・家畜伝染病予防法:
農産物や動物の感染予防 - 薬機法(旧薬事法):
医薬品や化粧品などの輸入規制 - ワシントン条約(CITES)に基づく種の保存法:
絶滅危惧種などの国際保護 - 火薬類取締法:
危険物や爆発物に関する規制 - 著作権法:
知的財産の保護 - 化学物質審査規制法(化審法):
有害物質の輸入管理 - 電波法:
無線機器などの技術的基準の確認
日本から輸出する際の法律
輸出に関しては、「安全保障・文化財・技術流出・環境保護」などの観点から、次のような法律が関係します:
- 外国為替及び外国貿易法(外為法):
全ての貿易の基本法。規制対象品目の輸出には許可が必要 - 文化財保護法:
貴重な美術品や歴史資料の海外持ち出し制限 - 不正競争防止法:
特許・営業秘密などの不正利用を防止 - 毒物及び劇物取締法・麻薬及び向精神薬取締法:
人体に有害な物質の輸出規制 - 武器等製造法・サイバーセキュリティ基本法:
軍事・技術的機密の海外流出防止 - 大気汚染防止法・化学物質規制法:
環境配慮に関する物品の輸出管理 - 金輸出規制(外貨準備制度):
金や貴金属の大量輸出の監視
すべての輸出入にこれらの法律が関係するわけではありません。
実際の輸出入品目や取引先国に応じて、どの法律が該当するか事前に確認しておくことが大切です。
外国為替及び外国貿易法(外為法)、関税法、輸出管理法の違い
日本から輸出する際の法律には「外国為替及び外国貿易法」(外為法)が含まれておりますが、同時に「関税法」、「輸出管理法」という言葉も相対的によく使われます。
これらは別々の法律でありながら、貿易活動に添う規制や手続きに関わりあります。
以下にそれぞれの概要と違いを解説します。
外国為替及び外国貿易法(外為法)
外為法は、日本の国家安全保障や経済的安定を目的として、外国為替及び貿易の全般を管理する法律です。
- 外国為替反応、たとえば、海外送金や外国通貨の取引
- 輸入輸出の規制。輸出には特に軍事転用可能な技術や商品の管理
- 投資の規制、たとえば、海外企業による日本企業へのM&Aなど
この法律の中には輸出管理に関する規定も含まれており、軍事関連品やデュアルユース(軍事・民間両用)の製品・技術が不正に輸出されないように管理しています。
関税法
関税法は、貿易活動に付随する貨物の関税税金や税関手続きを管理するための法律です。
- 関税の徴収:輸入品に対して課される税金の規定
- 通関手続き:輸出入品が適切に税関を通過するための手続き
- 輸出入の制限:禁制品の規制や密輸対策
輸出管理法(Export Control Law)
日本には独立した「輸出管理法」は存在しません。
ただし、外為法の中に輸出管理に関する解説が含まれています。
「輸出貿易管理令」や「外国事務省令」などがこれに対応しており、特定技術や商向が不正に海外に流出しないように制限しています。
以上をまとめますと、
- 外為法:外国為替及び貿易範囲を管理し、特に輸出管理にも関係
- 関税法:貿易貨物に対する関税や手続きを管理
- 輸出管理法:独立法ではなく、外為法の中の一部として存在
ゆえに、外為法は関税法や輸出管理法とは異なる法律ですが、特に輸出管理の解説を含むことから、輸出管理法に近い内容を持つと言えます。
貿易協定 EPAとFTA
国際的な貿易協定も忘れてはなりません。
たとえば、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)は、特定の国々間で関税の引き下げや貿易障壁の撤廃を目的とする協定です。
これらの協定を適切に活用することで、コストの削減や輸出入の拡大が可能になり、ビジネスを有利に進めることができます。
EPAとFTAの基本
EPA(経済連携協定)とFTA(自由貿易協定)は、どちらも国際貿易を円滑に進めるための重要な枠組みです。
- FTA(自由貿易協定):
参加国間の関税や数量制限といった貿易障壁を取り除き、商品やサービスの自由な流通を促進します。
結果として、輸入品の価格が下がり、消費者にも恩恵があります。 - EPA(経済連携協定):
FTAの内容に加え、投資、サービス、知的財産、環境、労働移動など、経済全体に関する協力関係を強化する協定です。
より包括的かつ多角的な連携が目的です。
EPAとFTAの違い
EPA(Economic Partnership Agreement)とFTA(Free Trade Agreement)はいずれも国際貿易を促進する枠組みですが、以下のような違いがあります。

このように、FTAは主に「モノの自由な貿易」に焦点を当てた協定である一方、EPAはより包括的で「経済パートナーシップの強化」を目指したものです。
どちらの協定も、国際取引において戦略的に活用することが重要です。
貿易の基本を押さえて一歩前へ
貿易は、単なる商品やサービスのやり取りにとどまらず、国際的なネットワークを築き、経済を活性化させる重要な役割を担っています。
基本的な用語や流れを正しく理解することで、貿易実務におけるトラブルを未然に防ぎ、よりスムーズかつ効果的な業務運営が可能になります。
変化の激しい国際情勢の中でも、貿易の基礎知識を身につけておくことは、企業としての国際競争力を高める第一歩となるでしょう。
(株)パコロアでは、中小企業がはじめて貿易に取り組む際に必要な以下の支援を行っています:
- 社内体制の構築
- 各部門への貿易教育・研修
- ビジネス書類の英語フォーマット対応
- 貿易実務に必要な各種書類の整備
- 担当者の育成とOJT支援
さらに、実際の海外企業とのやり取りを伴走しながら、3年以内に“自走型の直接貿易体制”が確立できるよう、日々の実務を支援します。
「自社の商品を海外へ輸出してみたい」
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そんな思いをお持ちの中小企業さまは、まずはお気軽に(株)パコロアの無料相談をご活用ください。