輸出マーケティングを成功させるには、海外市場の実態を正しく捉えることが不可欠です。
新しい国や地域に進出する際、現地のニーズや競合環境を把握せずに動くと、無駄な出費や失敗につながる可能性が高くなります。
本記事では、自社で海外市場調査を行う方法と、事業を成功に導く実践的なアドバイスをお届けします。
外注ではなく「社内での調査」に挑戦したい方へ、具体的なステップと判断軸をご紹介します。
輸出マーケティングに必要な市場調査とは
なぜ「輸出前の調査」が必要か
海外市場調査とは、海外に進出する前に現地の顧客ニーズ、市場規模、競合環境、法規制、文化的要素などを総合的に把握するための調査活動を指します。
単に「市場があるか」だけでなく、「自社の商品・サービスが受け入れられるかどうか」を確認する視点が重要です。
特に輸出マーケティングでは、現地のビジネス慣習や購買行動、顧客価値観の違いが成否を左右するため、表面的なデータだけで判断するのは危険です。
BtoBビジネスにおける調査の違い
BtoB領域では、消費者調査に比べて対象者が限られているうえ、商流や意思決定プロセスが複雑です。
そのため、「どの業界プレイヤーに、どんな質問を、どの順番でぶつけるか」が極めて重要になります。
市場の全体像に加えて、「誰にヒアリングするか」「どの時点でアプローチするか」を計画段階から明確にすることで、調査の精度と成果が大きく変わってきます。
市場調査を行う目的と背景
失敗リスクを減らす情報収集
海外市場調査の第一の目的は、新しい市場の理解を深めることです。
進出先の顧客や取引先企業が「何を求めているのか」「どのような購買行動をとるのか」といったニーズの把握は、戦略仮説を立てるうえで欠かせません。
また、文化的背景やこれまでの進出事例を知ることで、現地でありがちな失敗パターンや、逆にうまくいった施策のヒントも得られます。
市場選定と事業計画づくりへの活用
海外市場調査は単なるマーケティング活動ではなく、戦略立案や事業計画づくりの土台にもなります。
たとえば、競合企業の価格設定や販売チャネル、シェア構造を把握することで、自社の立ち位置や参入の勝算を定量的に判断できます。
こうした情報は、差別化ポイントの明確化や価格戦略の設計にもつながります。
関係者の納得と社内合意形成にも貢献
調査を通じて得られたデータやヒアリング結果は、社内での意思決定を支える材料にもなります。
経営陣や関係部門と進出方針を共有する際、定性・定量の裏付けがあると合意形成がスムーズに進みます。
また、市場調査のプロセスそのものが、新しいアイデアのきっかけになることも少なくありません。
たとえば、現地の産業構造や人口動態、日本とは異なる商習慣などに触れることで、自社にとっての意外な事業機会や製品開発のヒントが見つかることもあります。
輸出前に確認すべき調査項目
海外市場調査は単なるデータ収集ではなく、「売れるかどうか」「どうやって売るか」を見極めるための実践的プロセスです。
ここでは、輸出を本格的に検討する前に必ず押さえるべき調査項目を紹介します。
市場規模と成長性を数値で把握する
まず確認すべきは、その市場にどれだけの需要があるのか。
政府統計・民間調査会社のレポート・業界団体データなどから、国別・業種別の市場規模や成長率を収集し、事業機会を定量的に評価します。
併せて、5年後・10年後の成長性も見据えることで、長期的な投資判断が可能になります。
ターゲット顧客の行動・思考を読み解く
顧客のニーズを把握せずに輸出すると「誰にも刺さらない商品」が出来上がります。
BtoCでは性別・年齢・ライフスタイルなどの属性情報をもとにニーズを可視化。
BtoBでは企業規模・業種・意思決定者の役職や検討プロセスなど、現場のヒアリングでしか得られない情報が勝負を分けます。
定量調査(アンケート・統計)と定性調査(インタビュー・ヒアリング)をうまく組み合わせましょう。
競合の動きから逆算して差別化を設計
競合調査は、マーケット内での自社の立ち位置を明確にするために欠かせません。
価格帯・商品構成・販路・広告表現などを調べることで、どこで勝てるか、あるいは無理な勝負を避けるかを判断できます。
レビューやSNSの声からは、ユーザー評価の傾向や不満点が見えてくるので、自社改善のヒントになります。
現地のルールと“暗黙の了解”を見逃さない
海外市場には、法律だけでなく商慣習という“見えない壁”があります。
輸入規制、関税、業界ルール、労働法、契約文化、価格交渉の作法など、知らずに始めると高確率でつまずく要素です。
規制の確認は弁護士や商工会、商慣習の把握はコンサルや経験者へのヒアリングが効果的。
ここをおろそかにすると、初期費用の倍以上の「やり直しコスト」が発生しかねません。
現地パートナー候補の有無と質を確認
最終的に「やれるかどうか」を左右するのが、信頼できる現地パートナーの存在です。
現地商社、販社、サプライヤー、販売協力会社、展示会出展者などから情報収集し、候補を洗い出します。
チェックポイントは「実績」「信頼性」「文化対応力」「戦略との整合性」。
現地訪問・面談・評判調査を通じて、候補の“人となり”まで確認しましょう。
市場調査を成功させるための自社分析
海外市場に挑む前に、まず確認すべきは「自社はその市場で戦える状態にあるか」という点です。
市場調査の前段階として、自社の強み・弱みを客観的に洗い出しておくことが、調査結果の解釈やその後の戦略立案を大きく左右します。
自社分析は“調査前”に終えておくべき理由
海外市場調査をスタートしてから初めて自社を見つめ直すと、どうしても競合に影響された偏った評価になってしまいがちです。
先に冷静な自社分析を済ませておけば、調査結果との比較・検証がスムーズに進み、「どこが足りないのか」「何を伸ばすべきか」が明確になります。
技術力・サービス力など、武器は明文化しておく
日本企業の多くが武器とするのは、製造品質の高さ・提案力・きめ細かなアフターサービスです。
これらの強みが、海外市場でも競争優位性として通用するかどうかを検証するためにも、事前に「自社が誇れる点」を言語化しておくことが重要です。
課題は“予測可能な壁”として先に洗い出す
逆に、輸出に不向きな弱点やリスクも見逃せません。
たとえば…
- 英語による営業対応が社内にない
- 現地価格と合わない高コスト体質
- 柔軟な商習慣対応ができない
などは、あらかじめ認識しておくことで、「乗り越えるべき壁」として対策を立てることが可能です。
自社分析 × 海外情報でポジショニングが決まる
海外市場調査で得た情報と、自社の強み・弱みを照らし合わせることで、
「どの市場で、どのターゲットに、どのポジションで勝負するか」
という戦略が具体化します。
このプロセスは、単なる分析にとどまらず、現地適応と差別化の戦略設計そのものです。
海外事業を“自社らしく成功させる”ために、自社分析は絶対に飛ばせないステップといえるでしょう。
海外市場調査の主な手法
海外市場の実態を正しく把握するには、目的と予算に合った調査手法の選定が欠かせません。
ここでは、実務で使える主要な5つの調査方法と、それぞれの活用ポイントを紹介します。
デスクリサーチ|既存データを活かす調査の第一歩
デスクリサーチは、公開されている統計資料やレポート、学術論文、業界ニュースなどを収集・分析する調査手法です。
「まずは大局を掴みたい」という場面で力を発揮します。
- コスト・時間を抑えてスピーディに調査可能
- 進出候補国の経済動向や人口構成、業界成長率などを網羅的に把握できる
- 商社、JETRO、大手調査会社などの情報をもとに仮説を立てやすい
現地に行く前の仮説構築フェーズに最適です。
インターネットリサーチ|グローバルでも即時性重視
インターネットリサーチは、オンラインを通じた調査全般を指します。
SNSの動向やキーワードボリューム、オンラインアンケートなどを活用し、“今”の声を拾うのに向いています。
- 海外の顧客レビューやSNSでの話題から、市場ニーズをタイムリーに察知
- Google TrendsやSimilarWebで競合サイトのトラフィック傾向も把握可能
- オンライン調査会社を活用すれば、短期間で複数国の比較調査も実現可能
低予算でトレンド把握したい中小企業におすすめ。
フィールドリサーチ|現地に行かないと見えない情報がある
フィールドリサーチは、実際に現地を訪問して観察・対話・体験を行う調査です。
感覚的な空気感・顧客のしぐさ・流通の肌感など、数値化できない情報が得られます。
BtoC向け:
- 小売店訪問、商品の棚割やプロモーションの確認
- 現地の消費者とカジュアルな会話をして“生の声”を収集
BtoB向け:
- 現地展示会・業界イベントでの情報収集や潜在パートナー探索
- 候補となる顧客企業を訪問し、直接ヒアリング
- 競合企業の事業所を観察し、サービスの違いを確認
営業現場での武器をつくるための、実地情報収集の王道です。
インタビューリサーチ|本音を引き出し、深堀る調査法
インタビューリサーチは、調査対象者に直接インタビューを行い、定性情報を掘り下げていく手法です。
“なぜその行動を取ったのか”という背景にある意識・価値観を明らかにします。
- BtoC:エンドユーザーの感想や不満点から、改善点や潜在ニーズを発見
- BtoB:現地企業の意思決定者と対話し、導入プロセスや障壁を把握
質問の設計・進行スキルが問われますが、適切に行えばパワフルな仮説構築が可能になります。
特に、製品・サービスを現地化したい段階で特に有効。
専門家ヒアリング|業界の目で市場を見る
現地の専門家や業界のキーパーソンにヒアリングを行うことで、実務者では得られない「業界構造の鳥瞰図」が得られます。
- 法制度の動向、流通構造、現地パートナーの紹介など、机上では探れない情報が満載
- 新規参入企業の事例を聞くことで、成功・失敗の型を学べる
- 公的機関や民間コンサルと連携すれば、効率よく面談先を確保できる
事業の成否を分ける“現地の勘所”を知るための調査。
市場調査とF/Sの違いとは?
「海外市場調査をやりたい」と調べていく中で、F/S(フィジビリティ・スタディ)という言葉に出会った方も多いはず。
両者は似て非なるものであり、それぞれの目的とタイミングを理解しておくことが重要です。
海外市場調査は“情報収集”、F/Sは“判断の土台づくり”
海外ビジネスを検討する際に出てくる2つのキーワード、「海外市場調査」と「F/S(フィジビリティ・スタディ)」。
名前は似ていますが、実務では以下のような違いがあります:
海外市場調査(マーケット理解のための初期調査)
- 海外市場の規模やニーズ、競合、規制、文化的要素などの把握が目的
- 主にデスクリサーチやフィールド調査(訪問・観察・ヒアリング)で実施
- 「どの国に、どの戦略で進出すべきか?」を判断するための材料づくり
- 戦略立案や仮説構築の前段階で実施されることが多い
F/S(フィジビリティ・スタディ:実現可能性調査)
- 市場調査の結果をもとに、「実際に進出できるかどうか」を多角的に検証
- 財務(利益見込み、初期投資回収)や法務(許認可の壁)なども調査範囲に含む
- 設備・人材・パートナーなど、事業運営の現実性を総合的に評価
- 経営判断の最終フェーズに実施されるケースが多い
つまり、市場調査は“やるかどうか”を考える材料、F/Sは“やって成功するか”を見極めるプロセスなのです。
海外市場調査の費用
海外市場調査にかかる費用は、調査手法や規模、対象国によって大きく異なります。
そのため、調査開始前に適切な予算設計を行うことが重要です。
外部の専門調査会社に依頼する場合、調査範囲や精度に応じて、数十万円〜数百万円の費用がかかるケースが一般的です。
たとえば以下のような条件では、費用はさらに高額になりやすくなります:
- 複数国・地域にわたる同時調査
- 多言語でのデータ収集や分析
- 現地フィールド調査を伴うインタビュー
一方、自社で調査を行う場合は、比較的安価に済ませることも可能です。
オンライン調査ツールやSNSを活用すれば、初期費用を抑えつつ、ある程度の仮説検証が行えます。
ただし、調査設計やインサイト抽出のノウハウが不足していると、せっかくの自社調査も精度が落ちるため注意が必要です。
費用の内訳
海外市場調査にかかる費用は、以下のような構成要素から成り立っています:
調査手法ごとの費用
例:
- 定量調査(アンケート、データ収集)=配信費用・集計費用
- 定性調査(インタビュー、FGI)=謝礼・会場手配・通訳
調査対象地域・市場の難易度
例:
- 英語圏は比較的低コスト、特殊言語圏はコスト高
- インフラの整っていない地域では調査難易度が高まる
調査会社の規模と信頼性
例:
- 日系大手=信頼性は高いが高価格帯
- 現地フリーランスやスタートアップ=低価格だがリスクもある
事前に、調査目的と必要なアウトプットを明確に定義しておくことで、不要なコストを削減することができます。
費用削減のポイント
調査費用を抑えるための工夫としては、以下のような方法が有効です:
- 既存の公的データや統計の活用
国際機関、政府機関、商工会議所が公開するレポートは信頼性が高く、無料で入手可能な情報も豊富です。 - オンラインツールの活用
調査設計、配信、回収、可視化まで一括でできるSaaSを活用することで、委託よりもコストダウンが可能です。 - 現地の個人リサーチャーへの直接依頼
海外のクラウドソーシングサイトを通じて、現地フリーランスと直接契約すればコストを抑えやすくなります。
ただし、契約・支払いリスクや連絡断絶リスクがあるため、事前の評価・バックアップ手段の準備は必須です。 - 渡航回数の最適化
「現地調査+F/S調査」を同時に行うことで、渡航回数とコストを大幅に削減できるケースもあります。
このように、海外市場調査は「費用をかければ必ず良い調査ができる」というものではありません。
限られた予算でも、目的を明確にして、適切な手段を選ぶことで、質の高いアウトプットを得ることは十分に可能です。
海外市場調査まとめと次の一手
海外市場調査は、海外ビジネスの成否を大きく左右する重要なプロセスです。
市場ニーズや競合状況を正しく把握することで、海外戦略の精度が格段に高まり、無駄なリスクやコストを抑えることが可能になります。
本記事では、海外市場調査の手法・費用・進め方に加え、F/S(実現可能性調査)との違いについても紹介してきました。
調査の成否は「正しい仮説設計」と「実務的な情報収集」にかかっており、これは単なる外注ではカバーしきれない部分です。
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