人口減少や高齢化で国内市場が縮小するなか、和菓子業界でも「次の市場」を海外に求める動きが広がっています。
伝統文化の象徴でもある和菓子は、いまや寿司や抹茶と並んで“日本らしさを感じる食”として注目を集めています。
実際に、欧米では抹茶味のスイーツやモチを使ったデザートが定着し、日本の繊細な味や見た目の美しさに魅了されるファンも増加中。
地方の老舗和菓子店や中小メーカーが、海外展示会や越境ECをきっかけに販路を広げるケースも見られます。
とはいえ、「日本の味をそのまま持ち込めば売れる」というわけではありません。
国ごとに嗜好や食文化、物流条件がまったく違うからです。
和菓子の海外進出を成功させるには、「どの国で」「どんな商品が」「どんな消費者層に」響くのかを見極めた上で、戦略的に動くことが欠かせません。
この記事では、世界で注目される和菓子市場の現状から、現地ニーズに合わせた商品開発、販売チャネルやプロモーションの考え方までを、実践的な視点でまとめます。
これから海外販路を検討する中小企業の方に向けて、“最初の一歩”を後押しする内容です。
和菓子の海外進出が注目される理由と市場の現状
いま世界では「日本食ブーム」の流れが続いています。
農林水産省のデータによると、日本の農林水産物・食品の輸出額は2023年に過去最高の1兆4,719億円を記録し、菓子類の輸出も年々増加中。(出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出実績(2023年)」
中でも、シンガポール・台湾・アメリカなどでは「抹茶」や「モチ」を使った和菓子が人気。
見た目の美しさや上品な甘さが好まれ、ギフト需要も伸びています。
背景には、健康志向とグルテンフリー志向の高まりがあります。
欧米では小麦や乳製品を避ける人が増え、米粉や小豆といった植物由来の素材を使う和菓子が「ヘルシーなデザート」として受け入れられやすいのです。
またSNSも追い風です。
繊細な形や色彩の和菓子は“映える”食品として紹介され、InstagramやTikTokを中心に若い世代に浸透しています。
ただし、海外では「和菓子=モチ・大福」といった限定的なイメージも根強く残っています。
ここから先の成功には、味・食感・パッケージ・価格帯といった現地適応の工夫が不可欠です。
つまり、海外進出の鍵は「文化を伝える」と「市場に合わせる」、この両立にあります。
和菓子を海外で売るための実践ステップ
海外で和菓子を販売するには、
「市場を知る」
「商品を現地化する」
「届け方を工夫する」
の3ステップが欠かせません。
伝統や品質へのこだわりはそのままに、海外の消費者に届く形に変換していくことが成功のカギ。
まず大切なのが、進出国の市場調査です。
どの国でどのような味や形状が受け入れられているかを把握することから始めましょう。
例えば、アメリカやヨーロッパでは抹茶味・グルテンフリー・ビーガン対応の和菓子が人気で、健康意識の高い層が主なターゲット。
一方、アジアではもち・どら焼きなどの親しみやすい甘味が好まれ、ギフト需要が大。
これらの情報は、展示会やジェトロの市場レポート、現地SNSの投稿分析などを通じて得られます。
(出典:日本貿易振興機構JETRO「輸出(市場を知りたい/農林水産物・食品)」
次に、現地ニーズに合わせた商品開発が重要になります。
海外では「甘すぎる」と感じる人が多く、砂糖量を2〜3割抑えたレシピに改良する日本企業もあります。
また、保存期間を延ばすために冷凍対応に切り替える、常温流通でも風味を損なわない包装を採用するなど、輸送条件を踏まえた工夫は必須となります。
味の改良だけでなく、ヴィーガン・ハラール対応など宗教・文化的要件への配慮も今後の必須要素。
さらに、パッケージデザインとブランドストーリーも「買いたくなる要素」として重要でしょう。
また、あえて日本語表記を残すことで「日本製」であることを暗示できるため、完全に日本語ラベルを排除する必要はありません。
とはいえ、英語や現地語でのわかりやすい説明がなければ商品理解につながらないため、英語表記は必須です。
たとえば「手づくり」「四季の美しさ」「贈り物の心」といった和の価値観を、写真や短い英語メッセージで伝えることで、ブランドの信頼と共感を得やすくなります。
素材や地域性を打ち出すストーリーテリングは、特に欧米圏で効果的です。
この3つのステップを意識するだけで、「日本の味を届けたい」という想いが「海外で買ってもらえる仕組み」に変わっていきます。
和菓子を“文化として伝える”姿勢を大切にしながら、現地の生活者目線で商品づくりを進めることが、海外進出の第一歩になるのです。
販売チャネルとプロモーション戦略
海外市場で和菓子を広げるためには、
「どこで売るか」と
「どう伝えるか」を
同時に考える必要があります。
いまの時代、SNSでブランドを知ってもらい、展示会や商談会で信頼を築く
——この2段構えが最も効果的なルートです。
まず、オンラインでの発信は“認知の起点”として欠かせません。
InstagramやTikTokなどのSNSでは、繊細な造形や季節感のある色合いが強い印象を残しやすく、
海外では「Wagashi」や「Matcha dessert」といったハッシュタグが定着しており、視覚的に日本文化を感じさせる投稿は高いエンゲージメントを得ています。
特に英語と現地語を併用し、製造工程や職人の手仕事を短い動画で伝えると、フォロワーが購買にまでつながりやすいためかなりおススメです。
SNS発信は、和菓子を知らない層に“最初の一歩”を届ける重要な役割を果たします。
次に、リアルの場での出会いをつくることも欠かせません。
展示会やバイヤー商談会は、SNSで興味を持った現地関係者が「本物を確かめに来る」場です。
実物を見て味わい、担当者と直接話すことで、初めて“信頼”が生まれます。
この受け皿がないと、関心から受注につながっても、次の商談やリピートにつながりにくくなってしまいます。
例えばFOODEX JAPAN(東京ビッグサイト)やSIAL Paris(Paris Nord Villepinte)などの国際展示会では、来場者の多くがSNSで事前に情報収集を行い、気になる出展者を指名してブースを訪れています。
現地では、商品サンプルを実際に試食し、品質やストーリーを確認したうえで商談に発展するケースも多く、リアルの場が契約や取引開始の最終ステップになっています。
つまり、オンラインとオフラインは、いまや切り離せない流れなのです。
この流れにあわせて、販路づくりの選択肢も広がっています。
越境ECを活用して小ロット販売を始める方法や、現地の輸入代理店と組む方法など、自社のリソースや目的に応じて段階的に選べます。
とはいえ初期段階では、展示会で得た反応をもとに、どの国にどんな形で売れそうかを仮説検証するのが有効です。
オンラインで共感を得て、リアルの場で信頼を深める
——この連動を意識できる企業ほど、海外市場での定着率が高いのです。
海外進出の課題とその乗り越え方
和菓子を海外で販売するうえで、中小企業が直面しやすい課題は
「制度」
「物流」
「商習慣」
の3つに集約されます。
どれも一見ハードルが高く見えますが、準備と理解を積み重ねれば十分に乗り越えられるものです。
制度面の壁
輸出には各国の食品衛生基準や表示ルールが関係します。
原材料やアレルゲン、保存方法など、輸入国の規制に適合していないと通関できないケースもあります。
たとえばEUでは、食品の原産地表示やアレルゲン、添加物の使用制限が日本よりも厳格です。
こうしたルールはEUの食品表示に関する法令(Regulation (EU) No 1169/2011)で定められています。
(出典:European Union, Regulation (EU) No 1169/2011 )
この法令は、EU域内で販売する食品に必要なラベル・成分表示の基準を定めたもので、輸出企業はこれに基づいた表示が求められます。
具体的には、以下の点を確認しておくと安心です。
・成分やアレルゲンの英語・現地語表記
・原産国「Japan」の明記
・内容量・賞味期限フォーマットの適正化
・輸入業者や販売者の連絡先表示
不明点がある場合は、ジェトロの「菓子の輸入規制、輸入手続き」ページで最新情報を確認できます。
進出前に現地の制度を確認し、ラベルやパッケージデザインを段階的に修正しておくことが重要です。
物流面の壁
和菓子は繊細で日持ちしにくいため、輸送温度や保管環境に注意が必要となります。
最近は冷凍流通や急速冷却技術の進化により、品質を保ったまま輸出できるケースが増えています。
たとえば冷凍どら焼きや冷凍団子などを扱う企業は、海外現地での再加熱・解凍を想定した調理マニュアルを同封し、味の再現性を高めており、
「輸送後もおいしく食べてもらう工夫」が継続取引の鍵となっています。
商習慣の壁
日本では「品質第一」で信頼を積み上げるスタイルが主流ですが、海外では「スピードと対応力」がより重視されます。
商談後のサンプル送付や見積もり回答が遅れるだけで、チャンスを逃すこともあります。
言語や時差の壁を越えるには、現地パートナーや専門家の協力が欠かせません。
ジェトロなどの行政機関では、専門家派遣制度を通じて商談や契約のサポートを無料で受けられるため、公的支援を上手に活用することは、海外展開の第一歩としてとても有効です。
ただし、こうした制度はあくまで「一定期間・特定テーマ」での支援が中心です。
3年後、5年後に海外事業を自社の新しい柱として育てていくには、ゆくゆくは自社だけで新規開拓や直接輸出ができる体制づくりが欠かせません。
そのためには、代行してもらうのではなく、販路開拓プロセスのノウハウを蓄積する必要があります。
一時的な支援や代行だけでは、社内に経験や判断基準が残らず、次の商談や新規国展開に活かせなくなってしまいます。
海外事業を継続的に成長させるには、現場で得た知見を社内に共有し、次の挑戦につなげる“自走型チーム”を育てることが重要です。
つまり、海外進出の課題は「リスク」ではなく「知識と準備の差」です。
制度を理解し、物流を整え、現地との橋渡し役を確保すれば、和菓子の海外展開は中小企業でも十分に実現可能です。
大切なのは、目の前の課題を一つずつ“できること”に変えていく視点です。
まとめ:中小和菓子メーカーが今すぐできる一歩
和菓子の海外進出は、決して大企業だけの取り組みではありません。
いまはSNSや越境EC、海外展示会など、規模に合わせた多様な方法がそろっています。
大切なのは、「自社の強みをどの国の、どんな消費者に届けたいのか」を明確にすることです。
まずは小さく試して、反応を確かめるところから始めましょう。
たとえば、
英語ラベルをつけて越境ECで販売してみる
SNSで製造過程を発信して海外フォロワーの反応を見る
展示会で現地バイヤーと話してみる——どれも立派な“第一歩”です。
和菓子の海外進出で成功している企業の多くは、最初から完璧な体制を整えていたわけではありません。
試行錯誤を重ねながら、味の調整や物流方法を改良し、現地販売の仕組みを築いてきました。
失敗を恐れず、仮説と検証を繰り返す姿勢こそが、次の成果を生みます。
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