ドン・キホーテは、アジアでは「DON DON DONKI」、北米では現地小売企業の買収など、地域によって異なる方法で海外事業を拡大してきました。
2026年9月時点で海外121店舗を展開し、2026年6月期にはアジア・北米ともに増収増益を達成しています。
しかし、その成長は、日本で成功したビジネスモデルを海外に持ち込むだけで実現したものではありません。
アジアでは不採算店舗を閉鎖する一方、商品構成や調達方法、店舗運営を見直し、収益性を改善してきました。
なぜドン・キホーテは、地域によって異なる海外展開を進め、事業の仕組みまで変えているのでしょうか。
本記事では、ドン・キホーテの海外進出と収益改善の取り組みを通じて、中小企業が参考にできる海外事業の考え方を解説します。
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ドン・キホーテの海外進出は、実は2つのモデルがある
ドン・キホーテの海外進出というと、日本の商品を豊富にそろえた「DON DON DONKI」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、PPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の海外事業は、アジアと北米で大きく異なります。
アジアでは、2017年にシンガポールでDON DON DONKIの1号店を開店。その後、タイ、香港、台湾などへ展開し、日本食品を中心とした店舗を広げてきました。
一方、北米では、現地小売企業の買収を通じて事業を拡大しています。日本食品を扱うTOKYO CENTRALだけでなく、米国の高級食品スーパーGelson’sなど、複数の業態を運営しています。
2026年9月時点の海外121店舗のうち、北米は78店舗、アジアは43店舗です。
つまり、ドン・キホーテの海外進出は、日本で成功した店舗をそのまま海外へ増やす戦略ではありません。
アジアでは日本の商品や買い物体験を生かした店舗展開、北米では既存企業の買収による事業基盤の獲得と、地域によって異なる方法を採用しています。
では、アジアで展開するDON DON DONKIは、日本らしさを打ち出すことで順調に成長してきたのでしょうか。
日本で利益を生むドンキの仕組みは、なぜアジアで苦戦したのか
日本のドン・キホーテは、単に商品を安く販売することで利益を出しているわけではありません。
集客力のある低価格商品と、利益を確保できる商品を組み合わせ、独自商品の開発や大量仕入れ、効率的な店舗運営によって収益を生み出しています。
では、日本で培ったこの仕組みを、海外へ持っていけば同じように利益が出るのでしょうか。
DON DON DONKIは、日本食品を中心とした品ぞろえや、日本らしい買い物体験を特徴として、アジア各国に店舗を拡大してきました。
しかし、日本で人気の商品が海外でも売れるとは限りません。輸入や物流にかかる費用、現地の購買力や競合商品の価格など、利益を確保するための条件も異なります。
実際、PPIHはアジア事業で不採算店舗の閉鎖や商品構成の見直しを進めてきました。
日本国内には、長年の店舗運営で蓄積した販売データや調達網があります。しかし、海外では現地の顧客に合った商品構成や価格設定、仕入れ方法を改めて検証する必要があります。
日本で利益を生み出している仕組みのうち、何が海外でも通用し、何を現地に合わせて変える必要があるのか。
PPIHがアジア事業で進めてきた取り組みを見ると、その答えが具体的に見えてきます。
ドンキはアジア事業をどう立て直したのか
PPIHのアジア事業で注目したいのは、日本国内のドン・キホーテに蓄積された訪日外国人の購買データを、海外の商品戦略にも活用していることです。
例えば、日本の店舗で訪日外国人に人気のある菓子や化粧品、キャラクター商品などの販売情報を参考に、アジア店舗の品ぞろえを拡充しています。
つまり、日本で外国人観光客に商品を販売することが、海外市場の需要を把握する手掛かりにもなっているのです。
さらに、海外市場で得た経験も、別の国へ展開しています。
香港やタイで改善した価格戦略を、シンガポールやマレーシアにも導入。国ごとに取り組みを完結させるのではなく、他の市場で得た知見も活用しています。
一方、商品が売れるようになれば、それで終わりではありません。
PPIHは現地の商流を活用した調達を強化し、在庫管理や食品廃棄の削減、不採算店舗の閉鎖などにも取り組みました。また、現地人材を管理職へ登用し、レジ業務をはじめとする店舗運営の効率化も進めています。
その結果、2026年6月期のアジア事業は売上高991億円、営業利益55億円となり、営業利益は前期比186%増と大きく改善しました。
ここで興味深いのは、日本で培った仕組みを海外へ一方的に移しているわけではないことです。
日本国内の購買データを海外で活用し、海外のある国で得た知見を別の国にも展開する。その一方で、現地の調達や店舗運営は、それぞれの市場に合わせて見直しています。
こうした取り組みから見えてくるのは、日本で成功した方法をそのまま再現するのではなく、既存の強みを生かしながら、海外で得た情報や経験を事業全体に還元するという考え方です。
北米ではなぜ、現地企業の買収という異なる方法を選んだのか
アジアではDON DON DONKIを展開してきたPPIHですが、北米では異なる方法で事業を拡大しています。
その特徴が、現地小売企業の買収です。
PPIHは、日本食品を扱うMARUKAIやTOKYO CENTRALに加え、ハワイの食品スーパー、米国の高級食品スーパーGelson’sなど、複数の業態を傘下に収めてきました。
2026年9月時点で、北米には78店舗を展開しています。
では、なぜ北米ではDON DON DONKIを増やすのではなく、既存の小売企業を買収しているのでしょうか。
ここで注目したいのは、買収によって獲得できるものが、店舗だけではないという点です。
既存企業には、すでに商品を購入している顧客がいます。地域の需要を理解する従業員、仕入れ先との取引関係、物流や店舗運営の仕組みもあります。
新しい国でゼロから事業を立ち上げる場合、こうした経営資源を一つずつ構築しなければなりません。買収は、その時間を短縮できる海外進出の選択肢です。
ただし、買収すれば利益が出るわけではありません。
PPIHは北米でも商品構成や店舗運営の改善を進めています。
2026年2月の決算説明では、北米事業の改善はアジアより遅れている一方、TOKYO CENTRALについては運営基盤が安定し、新規出店と検証を進める段階に入ったと説明しています。
2026年6月期の北米事業は、売上高2,779億円、営業利益35億円となりました。
アジアでは、日本で培った小売モデルを現地に合わせて調整する。
北米では、既存企業の経営資源を活用しながら、買収後も事業を改善する。
両者に共通するのは、海外進出の方法そのものよりも、進出後に利益を生み出せる仕組みを構築することです。
(なお、北米で買収方式を採用した理由について、ここで挙げた経営資源の獲得や時間短縮は、その戦略から読み取れる利点であり、PPIHが公表した唯一の選択理由という意味ではありません。)
ここまで見てきたように、同じ企業でも、進出する市場によって海外展開の方法は異なります。
では、中小企業の場合は、どの国を選び、どのような方法で海外進出を進めればよいのでしょうか。
大企業の事例をそのまま真似するのではなく、自社の商品、予算、人材などの条件から考える必要があります。
海外121店舗でも本格拡大を急がない|ドンキが次に探している答え
アジアでは商品構成や価格戦略、店舗運営を見直し、北米でも収益改善を進めてきたPPIH。2026年6月期には、両地域で増収増益を達成しました。
それでもPPIHは、海外事業について、確信を持って大規模に展開できる段階にはまだ到達していないと説明しています。
なぜ、これだけの実績がありながら、本格的な拡大には慎重なのでしょうか。
ここで重要になるのが、事業の「再現性」です。
既存店舗の売上や利益を改善できたとしても、同じ方法で新しい店舗を次々と出店し、安定して利益を生み出せるとは限りません。
実際、PPIHは2026年2月の決算説明で、好業績の店舗が複数ある一方、大規模な出店に向けては、安定した店舗運営の仕組みや、ターゲット顧客・商品・利用場面をさらに明確にする必要があると説明しています。
つまり、現在の店舗で利益を出すことと、利益を出せる店舗を継続的に増やすことは、別の経営課題なのです。
これは、PPIHが公表した課題から読み取れる一つの解釈ですが、同社が進めてきた商品・調達・人材・店舗運営の改善ともつながります。
個々の店舗で成果を上げるだけでなく、その成果をほかの店舗でも実現できる仕組みにする。そこまで整って初めて、本格的な事業拡大の判断が可能になります。
海外進出では、最初の成功を実現することだけでなく、その成功をどこまで再現できるかが、次の成長を左右するのではないでしょうか。
海外で一度売れた。その成功を再現できますか?
ドン・キホーテの海外進出で注目したいのは、海外121店舗という規模や、アジア事業の大幅な利益改善だけではありません。
それだけの実績を持ちながら、さらに大規模な出店を進めるためには、より安定して利益を生み出せる仕組みが必要だと考えている点です。
では、中小企業の場合はどうでしょうか。
海外展示会で大口注文を獲得した。現地代理店との契約が決まった。海外企業から継続取引の打診があった。
いずれも海外進出の大きな一歩ですが、それだけで海外事業が軌道に乗ったとは限りません。
例えば、次の注文も同じ方法で獲得できるでしょうか。
担当者が交代しても商談を進められるでしょうか。
受注が増えた場合、品質や納期を維持しながら利益を確保できるでしょうか。
最初の受注は、経営者自身の営業力や特定の担当者の努力によって実現することもあります。しかし、同じ成果を繰り返すためには、その個人の能力だけに依存しない仕組みが必要になります。
大企業のような資本力や店舗網がなくても、この問題は変わりません。
海外で一度成功することと、その成功を再現できることは別です。
ドン・キホーテの事例から中小企業が考えたいのは、成功事例を真似する方法ではなく、自社が海外で獲得した成果を、次の成果につなげられる事業体制をどう構築するか、という問題ではないでしょうか。
自社の海外事業は、次の成果を生み出せる仕組みになっていますか?
海外で最初の受注を獲得することと、継続的に売上や利益を生み出すことは別の問題です。
ドン・キホーテのような大企業でさえ、海外で得た成果を再現できる仕組みづくりに取り組んでいます。
では、自社の場合はどうでしょうか。
海外進出を検討している段階でも、すでに海外取引を始めている場合でも、重要なのは、自社の商品、市場、販売方法、人材、予算を踏まえ、継続できる海外事業を設計することです。
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