作業服専門店として成長してきたワークマンは、機能性ウェアを一般消費者向けに展開することで、新たな顧客層を開拓し続けてきました。
国内でまだ成長の可能性があるにもかかわらず、ワークマンは2026年8月、台湾に約10億円を投じて現地法人を設立する方針を発表しました。
ここで一つの疑問が生まれます。
なぜ、国内でまだまだ新しい市場を開拓できる企業が、海外進出にも経営資源を投入するのでしょうか。
しかも、国内で成功してきた商品やフランチャイズの仕組みが、そのまま海外で通用するとは限りません。ワークマン自身も、海外事業の経験が不足していることを認識しています。
本記事では、ワークマンが国内で成長してきた理由を振り返りながら、台湾を最初の進出先に選んだ背景と、海外で新たに構築しなければならない事業の仕組みを分析します。
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国内でまだ売れるワークマンは、なぜ海外へ進出するのか
ワークマンは、国内に1,000店舗以上を展開するまでに成長しました。しかし、店舗網が全国に広がるにつれて、新しい店舗を出店できる余地は次第に限られてきています。
一方、国内での商品需要まで頭打ちになったわけではありません。
ワークマンは、作業服専門店として培った商品開発力を活かし、アウトドアや日常使いに適した機能性ウェアへと商品分野を広げてきました。
さらに、Workman Colorsやリカバリーウェアなど、新しい顧客層を開拓する取り組みも進めています。
つまり、国内では新規出店による成長余地が限られてきた一方で、新しい商品や顧客層による成長の可能性が残っているのです。
では、なぜ海外にも進出するのでしょうか。
ワークマンは、国内店舗網の飽和が視野に入るなかで、海外市場を新たな成長機会として検討してきました。そして2026年8月、台湾に現地法人を設立する方針を発表しました。
ただし、国内で成功した商品や店舗運営の仕組みを、そのまま海外へ持ち込めば成功するわけではありません。
同社も海外事業の経験が不足していることを認識しており、運営形態やパートナーの選定を課題として挙げています。
ワークマンの海外進出は、国内市場での成長を諦めるという選択ではありません。
国内では商品分野を広げながら、海外では新たな市場と事業基盤を構築しようとする取り組みです。
では、そもそもワークマンは、どのような強みによって国内市場で成長してきたのでしょうか。
そもそも、なぜワークマンは日本で成功したのか
ワークマンの成長を考えるうえで重要なのは、低価格の商品を販売していたことだけではありません。もともと作業現場で働く人たちのために開発してきた商品が、一般消費者にも支持されるようになったことです。
例えば、雨の中で働く人のための防水ウェアは、バイクや自転車に乗る人にも役立ちます。寒い屋外で働く人のための防寒着は、アウトドアや冬の日常着としても利用できます。
ワークマンは、こうした作業服の機能性を活かしながら、一般消費者向けの商品や店舗を展開してきました。
その代表例が、2018年に登場した「WORKMAN Plus」です。従来の作業服店とは異なる店舗づくりによって、アウトドア愛好者や一般消費者にも商品を届けるようになりました。
さらに、近年はWorkman Colorsなどを通じて、機能性だけでなくデザインや日常の着やすさを重視する顧客層にも対象を広げています。
こうした事業展開には、物価上昇や気候の変化も関係しています。
衣料品の購入価格を抑えたい消費者にとって、手頃な価格で機能性も備えた商品は魅力的です。また、猛暑や突然の雨などへの対策として、日常着にも機能性を求める場面が増えています。
ただし、ワークマンの成長を、物価高や気候変動だけで説明することはできません。一般消費者向けの展開は近年の物価上昇が顕著になる前から始まっており、その土台には長年培ってきた商品開発力があります。
ワークマンは、まったく新しい技術を開発して一般消費者市場に参入したわけではありません。既存の商品や技術が、これまでとは異なる顧客の生活でも役立つことに着目し、新しい市場を開拓してきたのです。
では、日本で支持された高機能・低価格の商品は、海外でも同じように受け入れられるのでしょうか。
日本で売れた理由は、海外でも通用するのか
ワークマンが日本で支持されてきた理由の一つは、作業服として培った機能性を、一般消費者が手に取りやすい価格で提供してきたことです。
では、この強みは海外でも通用するのでしょうか。
防水、防寒、暑熱対策などの機能は、日本だけで必要とされるものではありません。猛暑や豪雨への対策、衣料品の購入費用を抑えたいというニーズは、海外にも存在します。
その意味では、ワークマンの商品には、海外でも顧客を獲得できる可能性があります。
しかし、同じニーズが存在することと、日本で売れた商品が海外でも売れることは別問題です。
例えば、防水ウェアを必要とする人が多い市場でも、現地にはすでに競合ブランドが存在します。消費者が求めるデザインやサイズ、価格帯、購入する店舗も、日本とは異なるでしょう。
さらに、日本で手頃な価格と評価される商品でも、海外では輸送費や関税、現地での販売費用などが加わります。日本と同じ価格競争力を維持できるとは限りません。
また、気候への対応も一律ではありません。猛暑という共通の課題があっても、湿度や生活習慣、屋外で過ごす時間によって、求められる衣服の機能は異なります。
つまり、海外市場で確認すべきなのは、ワークマンの商品に備わっている機能が必要とされているかどうかだけではありません。
その市場の消費者が、既存の商品ではなくワークマンの商品を選ぶ理由があるのか。そして、現地で競争力のある価格で販売できるのかという点です。
国内で成功した商品を海外へ展開する際には、商品の強みそのものだけでなく、その強みが現地市場でも購買につながる条件を確認する必要があります。
では、ワークマンは最初の海外進出先として、なぜ台湾を選んだのでしょうか。
コラム|扇風機付きウェアはワークマンの発明? 商品開発と知的財産の関係
夏の作業現場などで見かける、背中に小型ファンが付いたウェア。ワークマンでも販売されていますが、この仕組みを最初に開発したのはワークマンではありません。
ファン付きウェアの開発・事業化で先行した企業の一つが、セフト研究所と株式会社空調服です。
一方、ワークマンも独自の商品開発を進めており、2019年には、襟の後ろから排出する空気を調整しやすくする構造などについて特許を出願しています。
ここで注目したいのは、既存の技術を利用することと、独自の改良技術を開発することは別だという点です。
実際、ファン付きウェアの業界では、企業間で特許紛争も発生しています。
海外展開を検討する企業にとっても、これは重要な問題です。
日本で販売できている商品であっても、海外で同じように販売できるとは限りません。
進出先で他社の特許権が成立していないか、自社の改良技術をどの国で保護する必要があるかを、事前に確認することが重要です。
なぜ最初の海外進出先に台湾を選んだのか
ワークマンが最初の海外進出先として選んだのは台湾です。
興味深いのは、台湾への出店を決める前から、日本国内で台湾人消費者の反応を確認していたことです。
ワークマンは2024年、沖縄県のイオンモール沖縄ライカムに大型店舗を出店しました。
沖縄は台湾からの旅行客が訪れる地域であり、台湾と気候条件が近いことから、海外展開に向けた市場検証にも活用できる場所でした。
実際、同社は2025年の決算説明会で、沖縄を訪れた台湾人客から、商品の機能性と価格について高い評価を得たと説明しています。
さらに2026年8月には、台湾に資本金2億台湾ドル(約10億円)の100%出資子会社を設立することを決議しました。
沖縄での顧客調査から、台湾で事業を運営するための基盤づくりへと進んでいるのです。
台湾・香港・シンガポールは、海外進出の入口として選ばれやすい市場
日本企業が海外進出を検討する際、台湾、香港、シンガポールは、比較的取り組みやすい市場として候補に挙がることがあります。
特に食品分野では、日本産食品の流通基盤や日本食への認知度があることから、香港やシンガポールが検討対象になりやすいという特徴があります。
実際、2025年の日本の農林水産物・食品の輸出額では、香港が米国に次ぐ第2位、台湾が第3位でした。
こうした市場では、日本の商品やブランドを一から説明する負担が比較的小さく、既存の流通網を活用できる可能性があります。
しかし、進出しやすい市場が、自社にとって最も成長できる市場とは限りません。
日本の商品をよく知っている消費者に受け入れられたとしても、その成功が、日本ブランドへの親しみが少ない国で再現できるとは限らないからです。
また、台湾、香港、シンガポールはそれぞれ市場規模、競争環境、流通構造、規制が異なります。
日本への親近感だけを理由に、同じ戦略で展開できるわけではありません。
最初の海外市場を選ぶ際には、進出のしやすさだけでなく、その市場で何を検証し、次の事業展開にどうつなげるのかまで考える必要があります。
台湾で商品が売れることと、海外事業を運営できることは別
この視点からワークマンの台湾進出を見ると、二つの異なる課題が見えてきます。
一つは、日本で支持されている機能性ウェアが、台湾でも継続的に購入されるかどうかです。
沖縄での好意的な評価は参考になりますが、日本への旅行中に商品を購入することと、台湾で日常的にワークマンの商品を選ぶことは同じではありません。
もう一つは、日本とは異なる環境で、店舗事業を運営できるかどうかです。
現地での人材採用や育成、在庫管理、店舗運営など、商品への需要だけでは解決できない課題があります。
仮に台湾で販売が好調だったとしても、商品の競争力による成果なのか、日本ブランドへの親近感による成果なのかを見極める必要があります。
一方、台湾で海外店舗の運営経験を蓄積できれば、将来ほかの国へ展開する際にも役立つ可能性があります。
重要なのは、台湾で売れることだけを成功とするのではなく、台湾で何を検証し、どのような海外事業の能力を身につけるのかという視点です。
なお、ワークマンは国内で個人加盟型のフランチャイズを中心に成長してきましたが、海外での店舗運営には新たな体制が必要になります。
台湾への進出は、商品の需要だけでなく、海外で店舗事業を運営するための経験を蓄積する機会にもなります。
国内市場の深掘りか、海外市場の開拓か
ワークマンが海外進出を進める一方で、日本国内には、まだ開拓できる市場が残されています。
例えば、近年力を入れているリカバリーウェアです。作業服で培った機能性衣料の開発力を活かし、仕事着やアウトドアウェアとは異なる需要を開拓しています。
さらに、同社の技術や商品開発力を応用できる分野として、高齢者向け衣料や介護現場で使用する機能性ウェアなども考えられます。
ただし、これらは既存の商品を別の顧客に販売するだけで成立する市場ではありません。
高齢者向けであれば着脱のしやすさや安全性、介護現場向けであれば作業性や衛生面など、それぞれ異なるニーズへの対応が必要です。
ここで考えたいのは、国内に成長機会が残っている企業が、なぜ海外市場にも経営資源を投入するのかという問題です。
国内で新たな商品分野を開拓する場合、既存のブランド認知や販売網、顧客情報を活用できます。
一方、海外では商品への需要が見込めたとしても、現地での販売体制や物流、価格設定などを新たに構築する必要があります。
つまり、国内市場の深掘りと海外市場の開拓では、必要となる投資も、直面する課題も異なります。
ワークマンは、国内では商品分野と顧客層を広げながら、海外では台湾を起点に新たな事業基盤を構築しようとしています。
ただし、台湾での事業がどの程度の収益を生むのか、国内の新規事業と比べてどちらが高い成長性を持つのかは、現時点では判断できません。
海外進出は、国内市場が飽和した企業にとっての唯一の選択肢ではありません。
既存の技術や商品を国内の別市場へ展開する方法もあれば、海外に新しい顧客を求める方法もあります。
両方を同時に進めるのであれば、それぞれに必要な人材や資金を確保しなければなりません。
ワークマンの事例は、海外進出のタイミングだけでなく、国内外に存在する複数の成長機会に対して、経営資源をどう配分するのかという問題を考える材料になります。
ここまで読んで、
「自社の場合、国内市場の開拓と海外進出のどちらを優先すべきなのだろうか」
と感じた方へ。
海外進出を検討する際には、いきなり進出国や販路を決めるのではなく、まず国内事業の成長余地と、海外で自社の強みが通用する条件を整理することが重要です。
こうした経営判断を行う前に整理しておきたいポイントを、下記の記事で解説しています。
→海外進出を検討するとき、中小企業は何から整理すべきか?【判断整理ガイド①】
中小企業は、国内と海外の両方を同時に成長させられるのか
ワークマンは、国内で新しい商品市場を開拓しながら、台湾への進出も進めています。
しかし、中小企業がこの経営戦略をそのまま真似することはおすすめしません。
中小企業には、国内事業と海外事業の両方を同時に成長させるだけの人材、資金、時間が十分にあるとは限らないからです。
特に見落とされがちなのが、経営者自身の時間です。
海外進出では、市場や販路を決めるだけでなく、海外顧客との取引条件、価格設定、契約、社内体制など、国内事業とは異なる判断が次々に発生します。
担当者を一人任命したからといって、経営者が海外事業の意思決定から離れられるわけではありません。
その一方で、国内の既存事業は止まりません。既存顧客への対応、従業員の管理、資金繰りなど、経営者が判断しなければならない仕事は続きます。
そこへ国内の新市場開拓まで同時に進めようとすれば、どの事業にも十分な時間を割けなくなる可能性があります。
だからこそ、中小企業が新たな成長戦略を立てる際には、国内の新市場開拓と海外の新規事業展開のどちらを優先するのか、経営者自身が決める必要があります。
なお、パコロアの支援企業の中には、海外で新規事業を展開しながら、そこで獲得した新技術や開発した新商品を国内事業にも横展開し、新たな顧客の開拓につなげている中小企業があります。
これは、海外展開で得られた成果を国内事業にも還元し、会社と社員の成長、さらには経営基盤の強化につなげている事例です。
中小企業の経営資源は限られています。しかし、その経営資源をどのように活用し、拡張していくかは、経営者の判断次第ともいえるでしょう。
海外進出を決める前に、自社の成長戦略を整理する
ワークマンの事例から見えてくるのは、国内で成功した企業であっても、海外で同じように成長できるとは限らないということです。
海外市場に需要があるかどうかだけでなく、その市場で事業を成立させるために、どのような準備や経営資源が必要になるのかを見極めなければなりません。
特に中小企業の場合、海外進出を決めることは、限られた人材、資金、そして経営者自身の時間を、海外事業に優先的に投入するという経営判断でもあります。
パコロアでは、海外進出を本格的に進める前に、自社の強み、対象市場、販売方法、社内体制などを整理する「海外進出チェック」を提供しています。
海外進出を検討しているものの、自社が今取り組むべきなのか、何から準備すべきなのか判断できない場合は、まず現状を整理するところから始めてみてください。
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大企業の海外進出事例シリーズ
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