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くもんの海外進出は再現できるのか?無形サービスを世界に広げたKUMONの設計思想

更新 2025年12月24日 公開 2025年12月25日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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World map with red location pins and Japanese text reading 'Kumon's Overseas Expansion

日本発の教育サービスで、ここまで世界に広がった事例は多くありません。

公文式学習法を展開する 公文教育研究会 は、教育という無形サービスを軸に、長年にわたって海外展開を続けてきた数少ない企業です。

では、くもんの海外進出は「特別な成功例」だったのでしょうか。

それとも、一定の条件を満たせば、他の企業にも再現可能なモデルだったのでしょうか。

本記事では、くもんの海外進出を成功物語として語るのではなく、

どのような設計思想で世界に広げられたのか、
どの国で、何が機能し、どこで課題が生じたのかを、

公開されている事実情報をもとに整理していきます。

教育業界に限らず、

  • ノウハウ
  • 仕組み
  • サービス

といった「形のない価値」を海外に届けようとしている中小企業にとって、くもんの取り組みは、参考になる点と同時に、安易に真似すべきではない点の両方を含んでいます。

「くもんの海外進出は再現できるのか」。

この問いを軸に、無形サービスを世界に広げるための現実的な判断材料を、一つずつ見ていきましょう。

公文教育研究会は、どのように海外へ広がったのか

くもんの海外進出は、最初から大規模なグローバル戦略として設計されたものではありません。

起点となったのは、日本国内で確立されていた公文式学習法を、「必要としている人がいる場所へ届ける」という、比較的シンプルな発想でした。

公文式学習法は、1950年代に日本で生まれ、学年にとらわれず一人ひとりの理解度に合わせて進む「無学年式学習」を特徴としています。

この学習法が海外に広がる最初のきっかけは、1970年代以降、日本国外に住む家庭や現地教育関係者からの関心でした。

海外展開の出発点は「現地からの要請」

くもんの海外展開は、「海外市場を攻めにいく」というよりも、現地側からの要請や共感を起点に始まった点が大きな特徴です。

実際、初期の海外教室は、

  • 現地に住む日本人家庭向けの補習的な位置づけ
  • 公文式に共感した現地指導者による導入

といった、小さな単位からスタートしています。

この段階では、大規模投資や拠点設立を伴うものではなく、教材・学習方法・運営ノウハウをパッケージとして提供する形が取られていました。

フランチャイズ型モデルを採用した理由

くもんの海外進出を支えたのが、直営展開ではなく、フランチャイズ型に近い運営モデルです。

このモデルでは、

  • 教材・学習メソッド・進度管理は本部が設計
  • 教室運営や生徒対応は現地指導者が担う
  • 指導者の育成・研修を重視

という役割分担が明確にされています。

この形を選んだ背景には、

  • 教育サービスは現地文化・家庭環境の影響を強く受ける
  • 日本本社がすべてを直接管理することは現実的でない
  • 現地で信頼される「人」が不可欠

といった、無形サービス特有の制約条件がありました。

結果として、公文式は「日本の教育をそのまま輸出する」のではなく、仕組みは統一し、運営は現地に委ねるという構造で広がっていきます。

国と地域を広げても「中核」は変えなかった

現在、くもんはアジア、北米、欧州、中南米など、世界各地で教室を展開しています。

進出国数や地域の広がりだけを見ると、非常に順調なグローバル展開に見えますが、重要なのは、広がりの中でも変えなかった点が明確だったことです。

具体的には、

  • 無学年式という学習の考え方
  • 自学自習を前提とした教材構成
  • 学力到達度に基づく進度管理

といった中核部分は、国や地域が変わっても維持されています。

一方で、教室運営の細部や指導者との関係づくりについては、各国・地域の教育環境や文化に応じた調整が行われてきました。

この「変えない部分」と「委ねる部分」の切り分けが、くもんの海外展開を長期的に成立させた前提条件だったと言えます。

国別に見る、くもん海外展開の成功パターンと課題

くもんの海外進出は、国や地域によって受け止められ方が大きく異なります。

同じ学習メソッドであっても、教育制度、家庭の価値観、競合環境によって、成果の出方や運営上の課題は変わってきました。

ここでは、代表的な地域ごとに、成功の要因と、現地で直面した現実的な課題を整理します。

北米(アメリカ・カナダ)

【家庭学習文化との高い親和性】

北米では、公文式は比較的早い段階から広がりました。

その背景には、次のような環境要因があります。

  • 家庭での学習習慣が根付いている
  • 学校教育と補完関係にある学習サービスが受け入れられやすい
  • 保護者が学力進度や成果を重視する傾向

無学年式で「先取り」や「基礎の反復」を重視する公文式は、補習教育としての位置づけが明確で、保護者の理解を得やすかったと考えられます。

一方で課題もありました。

  • 教室数拡大に伴う指導者の質のばらつき
  • 競合となる学習塾・家庭教師サービスの多さ
  • 価格に対する厳しい比較

北米では「教育の価値」は認められやすいものの、サービス選択肢が多い市場でどう差別化するかが継続的なテーマになっています。

アジア(日本以外の東アジア・東南アジア)

【教育熱の高さが追い風になる一方での運営負荷】

アジア地域では、受験や学力向上への関心が高い国・地域が多く、公文式の「反復による基礎力強化」は強い支持を得てきました。

特に、

  • 学校教育の補完ニーズが高い
  • 子どもの学習成果が家庭内で重視される
  • 学習時間の確保に前向きな家庭が多い

といった環境では、教室展開が比較的スムーズに進んでいます。

一方で、アジア特有の課題もあります。

  • 指導者の育成が追いつかない
  • 教室運営が属人化しやすい
  • 成果を急ぐあまり、学習ペース管理が難しくなる

教育熱が高いからこそ、「早く進ませたい」という期待と、メソッド本来の考え方との調整が必要になる場面も少なくありません。

新興国・中南米など

【価格と継続性の壁】

新興国や中南米地域では、公文式に対する評価は高いものの、運営面では別の難しさがあります。

  • 家庭の可処分所得に対する月謝負担
  • 教育インフラや教材流通の問題
  • 長期継続が前提となる学習モデルへの理解

この地域では、「学習効果があるかどうか」以前に、継続して通えるかどうかが最大のハードルになるケースも見られます。

そのため、教室数が急拡大するというよりも、限られた地域で着実に根付かせる形が取られてきました。

国別に見えてくる共通点

地域ごとの違いは大きいものの、国別事例を横断して見ると、共通して見えてくるポイントがあります。

  • 学習メソッドそのものより、家庭・指導者との関係設計が重要
  • 教育ニーズが高い国ほど、運営品質の維持が課題になる
  • 価格・継続性・競合環境は国ごとに前提が異なる

つまり、「公文式だから成功した」のではなく、各国の教育環境に合わせて、同じ仕組みをどう運営したかが成果を分けていたと言えます。

現地文化とどう向き合ったか

くもんの海外展開を見ていくと、各国で柔軟に対応しているように見える一方で、実は一貫して変えていない考え方が存在します。

ここを切り分けて整理することが、「このモデルは再現できるのか」を考える上で欠かせません。

変えなかったこと|学習の中核となる設計思想

国や文化が違っても、公文式が維持してきた中核は明確です。

  • 学年にとらわれない無学年式学習
  • 自学自習を前提とした教材構成
  • 学力到達度に応じた進度管理
  • 小さな達成を積み重ねる学習プロセス

これらは、現地の教育制度に合わせて安易に書き換えられるものではなく、くもんの価値そのものとして位置づけられてきました。

つまり、海外展開においても「現地に合わせるために中身を薄める」という選択は取られていません。

この点は、無形サービスを海外に出す企業が最初に迷いやすいポイントでもあります。

変えたこと|運営・関係づくり・伝え方

一方で、公文式は運営のすべてを日本式に固定したわけではありません。

具体的には、

  • 教室運営の細かなルール
  • 指導者と保護者のコミュニケーション方法
  • 学習成果の伝え方
  • 教室の雰囲気づくり

といった点については、各国・地域の文化や教育観に応じた調整が行われてきました。

たとえば、

  • 保護者の関与度が高い国では説明や共有を重視
  • 自立性が重んじられる文化では過干渉を避ける
  • 学習成果の見せ方も数値重視・プロセス重視で使い分ける

といったように、「何を伝えるか」ではなく「どう伝えるか」を調整しています。

現地指導者との役割分担という前提

海外の教室運営において、公文式は現地指導者の存在を非常に重視しています。

  • 教材や進度設計は本部が担う
  • 教室運営と生徒対応は現地指導者が担う
  • 指導者育成・研修を継続的に行う

この構造は、日本側が現地を「管理」するというよりも、仕組みを共有し、運営は委ねる形に近いものです。

そのため、海外展開の成否は、

  • 現地で信頼される指導者を確保できるか
  • 教育観を共有できるか
  • 長期的に関係を築けるか

といった、人に関わる要素に大きく左右されます。

「現地化しすぎない」ことも選択だった

海外進出では、「現地に合わせること」が正解のように語られがちです。

しかし、くもんの事例を見ると、合わせすぎない判断も同じくらい重要だったことが分かります。

  • 教育の考え方そのものは譲らない
  • 成果が出るまでに時間がかかる点も正直に伝える
  • 短期的な流行に合わせてモデルを変えない

この姿勢が、国や地域が変わっても「公文式とは何か」を曖昧にしなかった要因と言えます。

海外教育市場における競合と、公文教育研究会の立ち位置

海外で教育サービスを展開する場合、公文式が向き合ってきた競合は、日本国内とはまったく異なる顔ぶれになります。

学習塾、家庭教師、学校補習プログラム、近年ではEdTechまで含め、「子どもの学習時間」をめぐる選択肢が非常に多い市場の中で、くもんはどのように位置づけられてきたのでしょうか。

現地学習塾・家庭教師との違い

多くの国で、公文式が比較対象となるのは、

  • 学校の成績向上を目的とした学習塾
  • マンツーマン型の家庭教師サービス

です。

これらのサービスは、

  • カリキュラムが学校教育に強く連動している
  • 試験対策・短期成果を重視する傾向がある
  • 指導者の力量による差が大きい

という特徴を持ちます。

一方、公文式は、

  • 学校の進度とは切り離した無学年式
  • 長期的な基礎学力の積み上げを重視
  • 教材と進度管理の標準化

という点で、競合とは異なる軸に立っていました。

その結果、「成績をすぐに上げたい層」ではなく、基礎力や学習習慣を重視する家庭が主な支持層となっていきます。

EdTechとの競争が激化する中での立ち位置

近年、多くの国でオンライン学習サービスやアプリ型教材が急増しています。

価格の安さや利便性という点では、公文式は決して有利とは言えません。

それでも一定の支持を維持してきた背景には、

  • 紙の教材を使った反復学習
  • 指導者による進度管理とフィードバック
  • 教室という「学習の場」の存在

があります。

つまり、公文式は完全なデジタル化競争には入らず、「人を介した学習体験」を価値として残す選択をしてきました。

これは、トレンドに合わせて形を変えるのではなく、自分たちの提供価値をどこに置くかを明確にした判断とも言えます。

価格競争に陥らなかった理由

海外市場では、教育サービスも価格比較の対象になります。

それでも公文式は、「最も安い選択肢」になることを目指していません。

その理由は、

  • 学習効果が短期間で測れない
  • 継続によって価値が生まれるモデル
  • 指導者育成・教材開発への継続投資が必要

といった構造にあります。

価格を下げることで利用者を増やすよりも、考え方に共感する家庭との継続関係を重視してきた点が、結果としてブランドの一貫性につながっています。

「教育ブランド」ではなく「運営モデル」で立った位置

くもんの海外展開を、単なる「日本の有名教育ブランドの進出」と捉えると、本質を見誤ります。

実際には、

  • 教材・進度・評価の仕組みを標準化
  • 教室運営を現地に委ねる
  • 長期継続を前提とした関係設計

という、運営モデルそのものが競争力の源泉でした。

そのため、派手な広告や短期的な拡大よりも、時間をかけて根付かせる戦略が取られています。

中小企業の海外進出に置き換えると、何が学べるか

ここまで見てきたくもんの海外進出は、「教育業界だからできた特例」ではありません。

一方で、「そのまま真似すれば成功するモデル」でもありません。

中小企業が自社の海外展開を考える際、参考にすべき点と慎重になるべき点を分けて整理します。

参考にできる点①

【無形サービスは「仕組み」で海外に出られる】

くもんの事例から明確なのは、海外に出たのは「人」や「拠点」よりも、学習の仕組みそのものだったという点です。

中小企業でも置き換えられるのは、

  • ノウハウを言語化・可視化できているか
  • 提供プロセスが属人化していないか
  • 成果が出るまでの流れを説明できるか

という部分です。

これは、コンサルティング、研修、サービス業、BtoB支援など、多くの無形サービスに共通します。

参考にできる点②

【「現地任せ」にする前提を最初から組み込む】

くもんは、海外展開において日本側がすべてを管理する形を取っていません。

  • 運営は現地
  • 仕組みは共通
  • 日本側は支援と設計に集中

という役割分担が前提でした。

中小企業が海外進出を検討する際も、

  • 現地で誰が動くのか
  • 自社が関与し続ける範囲はどこまでか
  • 手放してはいけない部分は何か

を、最初に決めておく必要があります。

ここが曖昧なまま進むと、海外拠点が増えるほど、日本側の負担が膨らみます。

注意すべき点①

【ブランドがあるから通用したわけではない】

くもんは知名度のある企業ですが、海外で最初からブランドが通用したわけではありません。

実際には、

  • 教材の分かりやすさ
  • 継続設計の納得感
  • 指導者との信頼関係

といった、地道な積み重ねが前提にあります。

中小企業の場合、「知名度がないから無理」と考える必要はありませんが、「ブランドがない分、説明責任はより重い」という現実はあります。

注意すべき点②

【短期回収モデルには向かない】

くもんの海外展開は、短期間で大きな利益を回収するモデルではありません。

  • 成果が出るまで時間がかかる
  • 継続前提で初めて価値が生まれる
  • 初期は育成と調整にコストがかかる

この構造は、多くの無形サービスに共通します。

海外進出を「新しい売上源をすぐにつくる手段」と捉えると、判断を誤りやすくなります。

「再現できるか?」の答えは一つではない

くもんの海外進出は、

  • 誰でも真似できるモデルではない
  • しかし、考え方や設計は応用できる

という位置づけが現実的です。

重要なのは、

  • 自社のサービスは仕組み化できているか
  • 海外で誰が担い、誰が支えるのか
  • 時間をかけて育てる覚悟があるか

という問いに、事前に答えを出せるかどうかになっています。

くもんの海外進出は「再現できる」のか、判断基準を整理する

【くもんの海外進出は「特別」ではないが、「簡単」でもない】

くもんの海外進出は、日本発の教育サービスが世界で受け入れられた好例です。

しかし、その成功は偶然でも、知名度だけによるものでもありません。

ここまで整理してきた通り、公文式が海外で成立した背景には、

  • 無形サービスを仕組みとして設計していたこと
  • 何を変えず、何を現地に委ねるかを明確にしていたこと
  • 短期成果ではなく、長期継続を前提にしていたこと
  • 現地の人と運営することを最初から織り込んでいたこと

があります。

一方で、これらの前提を飛ばして、

「フランチャイズだから」
「サービス業でも成功しているから」

と表面的に捉えると、再現は難しくなります。

「再現できるか?」は、やる前に決められる

くもんの事例が示しているのは、海外進出の成否は実行してみないと分からないのではなく、設計段階でかなりの部分が決まっているという事実です。

たとえば、

  • 自社のサービスは、海外で第三者が運営できる形になっているか
  • 日本側が抱え続けなければならない業務は何か
  • 収益が立ち上がるまで、どれくらいの時間を許容できるか

こうした問いに答えられないまま進むと、途中で立ち止まる可能性が高くなります。

事例は「真似る」ものではなく、「判断に使う」もの

大企業の海外進出事例は、成功談として読むと参考になりません。

しかし、自社の前提条件と照らし合わせる材料として読むと、進むべきか、今は進まないべきかを判断する助けになります。

くもんの海外進出は、海外展開を検討する中小企業にとって、「夢」ではなく「現実」を考えるための事例だと言えるでしょう。

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出典・参考情報:
公文教育研究会 公式サイト https://www.kumon.ne.jp/

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・B2B・B2C・D2Cなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

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PaccloaQ

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