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第一生命はなぜ海外進出を加速したのか リスク分散型成長戦略に学ぶ

公開 2026年3月2日
小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

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World map with red location pins and Japanese text reading 'Dai-ichi Life's Overseas Expansion

日本企業の海外進出というと、製造業や小売業の事例が注目されがちですが、近年は金融・保険業界でもグローバル展開が大きく進んでいます。

その代表的な企業の一つが第一生命(Dai-ichi Life)です。

国内市場の人口減少や低成長が続くなか、第一生命は早い段階から海外事業を経営の柱の一つとして位置づけ、アジア・北米・オセアニアを中心に事業を拡大してきました。

現在では、海外事業は同社の成長を支える重要な収益基盤となっています。

注目すべき点は、第一生命の海外進出が単なる市場拡大ではなく、「経営リスクを分散するための戦略」として設計されていることです。

新しい国に拠点を作ること自体が目的ではなく、長期的な経営安定を実現するために、現地パートナーとの提携やM&Aを段階的に進めてきました。

これは大企業だけの話ではありません。

むしろ、経営資源が限られる中小企業こそ、海外進出を売上拡大だけで判断するのではなく、事業リスクをどのように分散するかという視点が重要になります。

本記事では、第一生命の海外進出の背景と戦略を整理しながら、

各章ごとに中小企業が自社の海外展開を考える際に参考となる「リスク分散型成長戦略」のポイントを解説していきます。

なぜ第一生命は海外進出を進めたのか

国内保険市場の成熟と人口減少

第一生命が海外進出を本格化させた背景には、日本国内市場の構造変化があります。

日本は生命保険の普及率が非常に高く、新規契約による大きな成長が見込みにくい成熟市場となっています。

さらに人口減少の進行により、将来的な市場縮小は避けられないと考えられています。

生命保険事業は数十年単位で契約が続くビジネスです。そのため、一国の人口構造に依存し続けること自体が、将来の経営リスクになります。

第一生命はこのリスクを早期に認識し、「国内成長を待つ」のではなく、「成長環境を分散する」という判断を行いました。

成長戦略としての海外事業拡大

第一生命の海外進出は、売上拡大を目的とした短期施策ではありません。

アジア、北米、オセアニア地域において現地企業への出資や買収を段階的に進め、海外事業そのものを将来の収益基盤として育成してきました。

重要なのは、新しい市場に挑戦した点ではなく、「収益源を複数地域に持つ構造」を意図的に作った点です。

海外進出を経営安定化として捉える視点

第一生命の海外展開は、成長戦略であると同時にリスク管理でもあります。

異なる経済環境を持つ地域に事業を分散することで、特定市場の変動が企業全体へ与える影響を抑える構造を構築しています。

これは規模の問題ではなく、経営設計の問題です。

中小企業が学べるポイント

・海外進出は売上拡大ではなくリスク分散でもある
・国内市場依存そのものが経営リスクになり得る
・進出判断は「伸びる国」ではなく「依存度」で考える
・海外事業は第二の柱として設計するもの

第一生命の海外進出戦略 現地パートナーとM&Aの考え方

自社単独で進出しない戦略

第一生命の海外進出を見ていくと、自社単独でゼロから市場参入しているケースがほとんどないことに気づきます。

多くの日本企業は海外進出というと、現地法人設立や自社ブランドでの直接展開を想定します。

しかし保険事業は各国の規制や認可制度の影響が大きく、新規参入には長い時間と大きな投資が必要になります。

第一生命はこのリスクを避けるため、すでに現地で事業基盤を持つ企業への出資や買収を通じて市場に参入してきました。

現地企業の販売ネットワークや顧客基盤、制度対応力を活用することで、参入初期の不確実性を大きく下げています。

つまり第一生命は、「市場に入ること」よりも「失敗確率を下げる入り方」を優先しているのです。

現地保険会社への出資と買収の実例

第一生命は海外事業拡大の過程で、段階的なM&Aを進めてきました。

オーストラリアのTAL社への出資では、いきなり完全買収を行うのではなく、出資比率を段階的に引き上げながら経営理解を深めています。

また米国Protective Life社の買収では、既存の経営基盤を維持しながらグループとして統合する形を採用しました。

これらに共通しているのは、「新しく作る」よりも「すでに機能している仕組みに参加する」という考え方です。

海外市場では、ゼロから構築する時間そのものが最大のリスクになる場合があります。

第一生命が重視したパートナー選定基準

第一生命の進出判断を見ると、成長率の高い国を優先しているわけではありません。

重視されているのは、長期的に事業運営を任せられるパートナーの存在です。

保険事業は数十年単位で契約が継続するため、短期的な利益よりも経営の透明性やガバナンス体制が重要になります。

これは中小企業の海外進出でも同じです。

多くの失敗は「国選び」ではなく、「パートナー選び」で起きています。

市場規模や人口動態を分析しても、現地で実際に事業を動かす主体との関係構築が不十分であれば、計画は機能しません。

中小企業が学べるポイント

・海外進出は自社単独で始める必要はない
・現地企業の仕組みを活用する方が成功確率は高い
・進出国よりもパートナー選定が重要
・段階的な関与(小さく入り理解を深める)が有効
・ゼロから作ること自体がリスクになる場合がある

海外展開を支えるリスク管理とガバナンス体制

各国規制への対応とコンプライアンス

生命保険事業は、海外進出において最も規制の影響を受けやすい分野の一つです。

国ごとに保険販売の認可制度や資本規制、消費者保護ルールが存在し、制度への理解なしに事業を開始することはできません。

第一生命は海外進出に際し、自社で一から制度対応を構築するのではなく、すでに現地規制への対応実績を持つ企業への出資や買収を通じて市場に参入してきました。

つまり同社は、市場の成長性よりも先に「事業を継続できる環境かどうか」を確認しています。

海外ビジネスでは、需要があっても制度対応ができなければ事業は成立しません。規制理解の不足は、撤退や損失につながる典型的な要因です。

これは保険業界に限らず、製造業であれば認証制度、食品であれば輸入規制、IT分野であればデータ保護規制など、あらゆる業種に共通しています。

現地経営と本社統制のバランス

海外拠点を持つ企業が必ず直面する課題が、「どこまで現地に任せるか」という問題です。

第一生命は現地企業の経営判断を尊重しながらも、リスク管理や経営方針についてはグループとして統制を維持する体制を構築しています。

完全に本社主導にすると市場適応が遅れ、逆に現地任せにすると経営状況が見えなくなる。このバランス設計が海外事業の安定性を左右します。

中小企業でも同様の問題は頻繁に発生します。代理店や現地パートナーに任せた結果、販売状況や顧客情報が把握できなくなるケースは少なくありません。

重要なのは管理を強めることではなく、「何を任せ、何を共有するか」を事前に決めておくことです。

海外事業における長期リスク管理

第一生命の海外展開は、短期的な成果を前提としていません。

地域ごとの経済状況や金利環境、政治リスクを分散させることで、特定市場への依存度を下げる構造を構築しています。

ある地域の成長が鈍化しても、別地域の収益で全体を支えることが可能になります。

ここで重要なのは、海外進出を単独プロジェクトとして扱っていない点です。

海外事業は「成功か失敗か」で判断されるものではなく、企業全体のリスクバランスの中で評価されています。

中小企業が学べるポイント

・海外進出の最大リスクは市場ではなく制度理解不足
・規制対応は自社で抱え込まなくてもよい
・現地任せと本社管理の範囲を事前に決める
・海外事業は単独採算で判断しない
・長期視点でリスクを分散する発想が重要

デジタル戦略と海外市場への適応

InsurTech投資とDX推進

第一生命の海外展開を支えている重要な要素の一つが、デジタル技術への投資です。

近年、保険業界ではInsurTechと呼ばれるデジタル活用が急速に進んでいます。

オンライン契約、データ分析によるリスク評価、モバイルを活用した顧客接点の構築など、従来の対面営業中心のビジネスモデルは大きく変化しています。

第一生命は海外市場において、日本国内で確立した営業モデルをそのまま展開するのではなく、各国のデジタル環境に合わせたサービス開発を進めてきました。

特に新興国では、店舗網よりもスマートフォンを起点としたサービス提供が主流となるケースも多く、デジタル対応そのものが市場参入条件となります。

つまり同社は、「日本で成功した方法を広げる」のではなく、「市場に合わせて事業の形を変える」ことを前提に海外展開を行っています。

現地顧客ニーズに合わせた商品設計

海外進出において、多くの企業が直面する課題があります。

それは、日本で売れている商品や価格設定をどこまで変更すべきか分からないという問題です。

第一生命の海外事業では、国ごとの所得水準、社会保障制度、医療環境、金融習慣などを前提に、商品設計そのものを現地市場に合わせています。

同じ生命保険であっても、保障内容への期待、支払い方法、契約期間の考え方は国によって大きく異なります。

そのため、日本仕様を調整するのではなく、市場ごとに最適化する発想が採られています。

ここで重要なのは、「ローカライズ能力」ではなく、「最初から正解が存在しないことを前提にしている点」です。

日本モデルをそのまま持ち込んでしまう理由

海外進出では、日本モデルを持ち込んではいけないと言われます。
しかし多くの企業が、結果的に同じ失敗を繰り返します。

その理由は単純です。
何を基準に変えればよいのか分からないからです。

商品、価格、販売方法、ブランド表現。

すべてをゼロから考える必要がある状況では、企業は最も安全に感じる選択、つまり日本で成功したモデルを再現しようとします。

これは能力の問題ではなく、判断基準が存在しないことによって起きる現象です。

第一生命の海外展開が示しているのは、現地適応とは経験や感覚ではなく、意思決定の仕組みによって支えられているという点です。

中小企業が学べるポイント

・海外では日本の成功モデルが前提にならない
・商品や価格に唯一の正解は存在しない
・現地市場に合わせて事業構造を変える必要がある
・日本方式を選んでしまうのは判断基準不足が原因
・海外展開には意思決定の軸が必要になる

第一生命の事例から中小企業が学べる海外進出の進め方

ここまで第一生命の海外進出を見てきて、多くの企業が同じ感想を持つのではないでしょうか。

考え方は理解できる。
しかし、自社で同じことができるとは思えない。

実際、多くの中小企業が海外進出を検討しながら途中で止まります。
その理由は資金や人材の不足ではありません。

何を基準に判断すればよいのか分からないことです。これに尽きます。

第一生命の事例を整理すると、海外進出で多くの企業が立ち止まるポイントには共通したパターンがあります。

以下では、その代表的な課題と解決の考え方を整理します。

解決1 市場ではなく依存度から考える

多くの企業は「成長している国」から検討を始めます。

しかし第一生命が行ったのは、市場選定ではなくリスク分散でした。

海外進出を新しい売上機会としてではなく、国内市場への依存度を下げる経営判断として捉えることで、進出の必要性が明確になります。

解決2 自社単独で進出しようとしない

海外進出は自社だけで完結させる必要はありません。

第一生命が現地企業との提携や買収を通じて参入したように、中小企業においても代理店や販売パートナーとの協業から始めることが現実的な選択となります。

最初から現地法人設立を前提にすると、多くの企業が検討段階で止まってしまいます。

解決3 小さく関与しながら理解を深める

成功企業ほど、初期段階で大きな投資を行っていません。

展示会出展、テスト販売、代理店契約など、小さな取り組みを通じて市場理解を積み重ねています。

段階的に関与度を高めることで、不確実性を抑えながら海外事業を育てることが可能になります。

解決4 制度リスクを先に確認する

海外ビジネスでは、需要よりも制度が事業成立を左右します。

輸入規制、認証制度、契約条件などを初期段階で確認することで、後戻りできない投資判断を避けることができます。

解決5 任せる範囲を決める

海外事業が不安定になる要因の一つが、現地任せと本社管理の境界が曖昧になることです。

販売権限、価格決定、顧客情報共有など、どこまでを任せ、どこを管理するのかを事前に決めておくことで運営リスクは大きく下がります。

解決6 海外事業を単独採算で見ない

海外展開は初期段階で利益が出にくいものです。

第一生命が地域ポートフォリオとして事業を捉えているように、海外事業を将来投資として位置づけることで、短期成果に左右されない判断が可能になります。

解決7 日本モデルを前提にしない

海外では、日本国内で成功した商品や販売方法がそのまま機能するとは限りません。

多くの企業が日本モデルを持ち込んでしまうのは、何を基準に変えるべきか分からないためです。

市場検証を前提とした柔軟な設計が必要、と覚悟を決めることです。

解決8 デジタルを前提に考える

海外市場では情報取得や購買行動が日本と大きく異なる場合があります。

オンライン接点やデジタル情報発信を早期に整備することで、市場参入のハードルを下げることができます。

解決9 海外進出をプロジェクトにしない

海外進出を一度きりの挑戦として扱うと、成功か失敗かという二択になってしまいます。

継続的な事業開発として位置づけることで、方向修正や改善を前提とした運営が可能になります。

解決10 海外進出は経営戦略である

第一生命の海外進出が示している最も重要な点は、海外展開が営業活動ではなく経営戦略そのものであるということです。

規模の違いはあっても、海外進出を企業の将来構造を設計する意思決定として捉えることが、持続的な成長につながります。

海外進出を検討する企業へ パコロアからの提言

第一生命の海外進出事例から見えてくるのは、海外展開の成否が企業規模によって決まるわけではないという点です。

重要なのは、いつ海外に出るかではなく、どのような考え方で海外事業を設計するかです。

多くの中小企業が海外進出を検討する際、「自社にできるのか」「まだ早いのではないか」と悩みます。

しかし実際には、準備不足で失敗するケースよりも、判断基準が整理されないまま検討が止まり続けるケースの方が多く見られます。

海外進出とはもはや、特別な企業だけが行う挑戦ではありません。

国内市場への依存度、将来の成長機会、人材や事業承継の課題などを考えたとき、多くの企業にとって避けて通れない経営テーマになりつつあります。

だからこそ最初に必要なのは、「進出するかどうか」を決めることではなく、自社にとって海外事業がどのような意味を持つのかを整理することです。

パコロアでは、中小企業の海外進出支援において、いきなり国選定や販路開拓の話から始めることはありません。

まずは、

・海外進出の目的は何か
・国内事業との関係はどうなるか
・どの進出形態が現実的か
・どこまでを自社で行うべきか

といった経営判断の整理から支援を行っています。

海外進出は「やるか、やらないか」ではなく、「どの段階にいるか」を理解することから始まります。

もし現在、

海外展開を検討しているが何から始めればよいか分からない
展示会や輸出を行ったが次の展開が見えない
代理店任せの海外販売に限界を感じている

といった課題をお持ちの場合は、一度整理の機会を持つことをおすすめします。

パコロアでは、海外進出を本気で検討する企業様向けに無料相談を実施しています。

自社の状況を整理し、海外展開の可能性や進め方を客観的に確認する場としてご活用ください。

海外進出は、大きな一歩から始まるものではありません。

正しい順番を理解することが、最初の一歩になります。

大企業の海外進出事例シリーズ

本記事は、大企業の海外進出事例を分析するシリーズの一つです。



【出典・参考資料】参考資料(第一生命ホールディングス公開IR資料等)
https://www.dai-ichi-life-hd.com/investor/

※2026年4月より、第一生命はグローバルブランド名称を「Dai-ichi Life」へ統一。
本記事では一般的な認知および検索性を考慮し「第一生命」の表記を使用しています。

小川 陽子

著者紹介 :小川 陽子 (代表取締役)

英語英文学科を卒業後、中小メーカーの国際部で海外営業に従事後独立。27年以上にわたり、1,900社以上の中小企業の海外展開を支援。国際化支援アドバイザー、海外販路開拓アドバイザー、中小企業アドバイザー(経済産業省系組織)としても活動。

これまでに35カ国での商談・出展・調査を経験。支援対象は製造・小売・サービス・BtoB・BtoC・DtoCなど多岐にわたり、海外投資・輸出・輸入・展示会・海外SEOなど幅広く対応。

「海外進出は"急がば回れ"。場当たりではなく、"自走できるチカラ"を社内で育て、未来の世界市場で誇れる一社を目指して——今日も中小企業の現場で伴走支援を続けています。」

著者プロフィールを見る

PaccloaQ

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